THE COLLECTORSが、24枚目のフル・アルバム『別世界旅行〜A Trip in Any Other World〜』をリリースした。新型コロナ・ウイルスや香港民主化デモに始まり、急速に変化する現代社会、失われつつある昭和の風景、2020年以降の新たな人生観/価値観を歌詞に込めている。それをネオアコやネオGSのバンド・サウンドに乗せ、THE COLLECTORS流にパッケージ。今回はコロナ禍の自粛期間を経て、“改めて音楽と向き合った”という古市コータロー(g)に、制作の話を聞いた。
取材・文=小林弘昂 人物撮影=星野俊
相談があったんですよ。
“マーシー、ベンジーとか候補があるんだけど”って。
『別世界旅行〜A Trip in Any Other World〜』は、急速に変わりゆく現在の世の中を描いたアルバムですね。制作はいつから始まり、どのようなコンセプトで進めていましたか?
4月か5月くらいに制作に入ったかな。曲を作るのは加藤(ひさし)君なんで、彼がどういうコンセプトで始めたか知らないけど。……あの人は今年で還暦だから、最初は自分を振り返るとか、そういうことを思っていたんじゃないかな? これは推測だよ! でも、こんな世の中になってしまって気持ちが変わったんじゃない?
歌詞の内容も最近のことばかりですもんね。
本当だよ。サンケイスポーツって感じだもんね。普通、アルバムって発売日の何ヵ月も前に完成するものじゃん? ウチは数週間前に完成するスタイルなんだけど(笑)。今にピッタリ合う。
このコロナ禍、コータローさんはどのように過ごしていましたか?
自粛期間中はずっと家にいたね。オレね、今までボトル・ネックをやったことがなくて、自粛中におそるおそるチャレンジしてみたんだよ。“どうやったらいいんだろうな?”と思って、藤井一彦(THE GROOVERS)に電話して。“一彦さ、暇でボトル・ネックやろうと思うんだけど、どうしたらいいの?”って聞いたら、“初めて? だったら小指が良いよ!”って言うから、小指で始めたの。たまたま以前、リットーミュージックさんからいただいた教則DVDがあったから、それを観ながらオープンDチューニングにして指弾きで(笑)。楽しかったな。
そうだったんですね(笑)。「全部やれ!」のイントロにもスライドが入ってますよね。
あれは加藤君がいたずらしたんじゃない?
(笑)。自粛期間中にギターと向き合う時間が増えて、“今が一番うまい”と言うギタリストの方もいらっしゃいますが、コータローさんはどうですか?
いや、それはない。別に向き合ってないもん(笑)。こういう機会だからボトル・ネックをやってみようとしただけで。でも、イチからやるってのは楽しかったよ。一応ギタリスト生活も長いから、わりとすぐうまくなったね(笑)。まだステージでやる度胸はないけど、なかなか良いんじゃないかな。
コータローさんのInstagramを見ていると、フュージョンやUSインディやハードロックなどなど、さまざまなジャンルのレコードを聴いていますが、今回の制作にあたり特定のアーティストからのフィードバックはありましたか?
どうなんだろうなぁ。無意識のうちにはあるのかもしれないけど、意識的にはないね。さっき“ギターと向き合う”という話をしたけど、オレは音楽とはすごく向き合ったよ。普段あまり聴かないようなレコードを聴いたり、普段ではしないような聴き方もいっぱいしたし。そういった意味では、ギターの立ち位置っていうものを自分の中で考えていたのかもしれない。意識はしてないけど。
今作は「おねがいマーシー」でザ・クロマニヨンズの真島昌利さんが参加したことが大きな話題になりました。ひさしさんがマーシーさんに“曲名にマーシーって使っていい?”と連絡したのが始まりだそうですね。
まずオレに加藤君から相談があったんですよ。“マーシー、ベンジーとかいろいろ候補があるんだけど、どうしよう?”って。で、オレは“やっぱマーちゃんが良いんじゃないの? 歌った感じもマーシーがすごく合うし良いと思うよ”ってアドバイスして。それで加藤君がマーちゃんに電話したという。そしたら“ぜひ!”って感じだったんで、“だったらついでに弾いてよ!”って(笑)。
それでOKをもらったと。
そう。もともとはオレが弾いたギター・ソロが入ってたんだけど、“オレの消していいから、そこ弾いてもらおう!”って。
え〜(笑)! MVを観ると、ソロの最後のチョーキングだけふたりで一緒に弾いていますよね。
あれがオレが弾いたソロのキメだったの! あそこだけ残した(笑)。
ひさしさんがベーシストとしてTHE BLUE HEARTSへの加入を打診されたというのは有名な話ですが、コータローさんとマーシーさんとの初めての出会いはいつだったんですか?
80年代だね。マーちゃんはたまにTHE COLLECTORSのライブを観に来てくれてたから、顔見知りになって。あとね、昔、下北沢に蜂屋っていう中華料理屋さんがあったんだよ。ある時、そこでオレと、加藤君と、マーちゃんと、(甲本)ヒロト君でカツ丼を食べた記憶があって。何でカツ丼を食べたのかわかんないんだけど(笑)。まぁ、そういう感じで昔から同じシーンにいたような……何て言うんだろうな。同じ中学出身じゃないけど、そういう気持ちはある。
藤井一彦さんやフジイケンジさん(The Birthday)を始め、コータローさんのまわりには何十年も一緒に過ごしているミュージシャンが多いですよね。
うん。最近は一彦と一緒にバイクで走ってるから。
あ、バイクの免許を取られたんですよね!
オレが取って、そのあと一彦も取って。もう2回一緒にツーリングに行ったよ。
今作には「オートバイ」という曲もありますが、これはコータローさんが免許を取ったからできたんですか?
もともとオレも加藤君もバイク好きだから、久しぶりにスタジオでずっとバイクの話ばっかりしてたのよ。そんな感じで書いたんじゃないかな? そういう意味じゃ“オートバイ”も2020年のキーワードだね、オレにとって。
この曲はネオアコっぽいですよね。
そうそう。それはちょっと意識したね。90年代あたりのラーズとかを。自分たちの青春ではないけど、ロックばっかり聴いてた頃を思い出して。この曲は多分、ディレイをかけ録りして、ES-335でアルペジオを弾いてるだけですよ。
“えぐりこむようにして打つべし”ってあるでしょ?
そういう感じでグッと弾くの。
今作はフランジャーやコーラスやディレイなど、けっこうエフェクティブなサウンドを使っています。
そういうやつは全部かけ録りした。例えば「人間は想い出で出来ている」の途中でコーラスがかかってるんだけど、あれもオレがLine 6のPODでエグく作ったもので。そこはオレらは“ポリス”って呼んでたんだけど(笑)。
アンディ・サマーズですね(笑)。それとギター・ソロの音色もファジーというか、60〜70年代っぽいサウンドで。
ソロは全部PODとES-335だね。ダビングするスタジオは小さいんですよ。もちろんアンプを鳴らすこともできたんだけど、PODで調整していくほうがハマりが良い音ができた。実際に何の過不足もないわけ。“オレは今アンプを鳴らしてるんだ!”っていう満足感はいらないし、仕上がりが良いのが一番だからね。アンプで良い音を作ったほうが仕事した気になるじゃん? でも、そんなことでもないなと思う。特に今回はコロナでレコーディングの時間も限られてたし。
ベーシックで使用したギターは?
ほとんどES-335で、1曲だけリッケンバッカー。ダビングに関しては、ソロ以外はXoticのTLタイプが多かったかな。あ、マーシャルのLead & Bass Combo 50で録ったバッキングにも少しラインの音が入ってるかも。吉田仁さんは必ずラインも録ってるから、曲によっては足してるかもしれないな。
レコーディングで使用したアンプはマーシャルのLead & Bass Combo 50とのことですが、個人的にはコータローさんのVOX AC30の音も大好きで。数年前まではAC30/6TBをメインで使っていましたよね。
そうそう。オレのVOXは96年に新品で買って、2015年まではそれ1台だけだったね。インプットはBRILLIANTに挿して、VOLUMEツマミは9〜10時くらい。それとTREBLEツマミが2時半だとしたら、BASSツマミは1時半にするっていう決まりがあるの(笑)。
Lead & BassのVOLUMEツマミもほんの少ししか上げていませんし、どちらのアンプもそこまで歪ませてないんですね。
クランチまでだね。『あしたのジョー』の名言で、“えぐりこむようにして打つべし”ってあるでしょ? そういう感じでグッと弾くの。
やっぱり右手が大事だと!
そう。これがもう自分のスタイルというか音だと思ってるから。だから生意気言わしてもらえば、どんなアンプでも“えぐりこむ”ように弾くと、似たようなところまではいけるよ。やっぱり右手だよね。
ピッキングは強いほうですか?
うん。でも、激弱もするよ。1曲の中で“いつギターのボリューム下げたの?”っていうところまで平気でやるし。あとはピッキングする場所を指板の5フレットくらいの上とかにしたりね。もちろんギターのコントロールも使う。それがギターの一番楽しいところだよね。何でもかんでも足(エフェクター)でやっちゃったらおもしろくないよ。電池がなくなったら演奏できないわけじゃん。
そのとおりだと思います。それとレコーディングの時も、ソロはいつもアドリブなんですよね?
今回もアドリブではあるんだけど、「夢見る回転木馬」だけは自分なりのイメージがあったんだよね。THE COLLECTORSを30年以上やってて、初めてiPhoneのボイスメモを置いて、Macからリズムを流して、何テイクかフレーズを弾いて構築したんだよ。いつも頭で“こんな入り口があればあとはアドリブのほうが良い”って思うタイプだから、こういうのは初めてだった。
どうしたらコータローさんのように、アドリブで歌うようなソロを弾けるようになるのでしょう?
どうなんだろうね? それはオレにもわからないよ。でも、ギターって歌う楽器だと思ってるから。特にソロはね。そういうことを常に意識していれば、自然とそうなっていくんじゃない? いろんな曲のソロをコピーしまくればいいってことでもないと思うよ。極端な話、フレーズなんて5個か6個あればいいと思うんだよね。そのフレーズのポジションを変えたり、間合いを変えたりして、組み合わせていく。オレだって5〜6個しか持ってないよ!
では、今作の聴きどころを教えて下さい。
自分もギタリストだから、気がつくとギターばっかり聴いちゃってるんだけど、まずは歌を聴いて下さい。そして、その時に鳴っているギターに注意して聴いていただいて、それに痺れてくれたら一番うれしい。オレはあくまでも“歌もののバンドのギタリスト”っていう立ち位置なんで。
最後に、来年はTHE COLLECTORSが結成35周年を迎えますが、どのような年になりそうですか?
コロナ次第なところがあるけど、来年のツアーが予定通りできたとしたら、新しいアルバム制作に入って、それをリリースするつもりです。35周年なんでね。あと最初の話に戻るけど、今回コロナで音楽と向き合えたのは、やっぱり良かったんだろうな。音楽がもっと好きになりました。
作品データ
『別世界旅行〜A Trip in Any Other World〜』THE COLLECTORS
コロムビア/COCP-41339/2020年11月18日リリース
―Track List―
01.お願いマーシー
02.全部やれ!
03.ダ・ヴィンチ オペラ
04.人間は想い出で出来ている
05.さよならソーロング
06.夢見る回転木馬
07.オートバイ
08.香港の雨傘
09.旅立ちの讃歌
10.チェンジ
―Guitarists―
加藤ひさし、古市コータロー、真島昌利