Interview|ビートルズ楽曲をルーツ・スタイルでアレンジする名手=ジョエル・パターソン Interview|ビートルズ楽曲をルーツ・スタイルでアレンジする名手=ジョエル・パターソン

Interview|ビートルズ楽曲をルーツ・スタイルでアレンジする名手=ジョエル・パターソン

シカゴで活躍するギタリスト、ジョエル・パターソンをご存知だろうか? ブルース、カントリー、ジャズのあらゆる奏法を自在にこなす職人で、自身のソロ活動のほかにもさまざまなアーティストのバックを務めるセッション・ギタリストだ。今回は2020年末に最新作『Let It Be Acoustic Guitar!』がリリースされたと知り、インタビューをオファー。ビートルズ楽曲をソロ・ギター・スタイルで仕上げた本作は、過度な装飾はない噛み締めるほどに味が出てくるタイプのアレンジが優しく響いてくる。気になるキャリアと作品でのギター・プレイ、愛用機材についてたっぷりと語ってもらおう。

取材=トミー・モリー 協力=福崎敬太


ジャズ、カントリー、ブルースのいずれも
ブラインド・ブレイクから教えてもらった

まずはあなたの音楽的経歴から聞かせて下さい。

 まだ10代だった80年代はパンクロックに夢中だったんだけど、母が持っていたライトニン・ホプキンスのレコードを聴いてから180度方向転換してしまってね。母からライトニンのギター・プレイの基礎を教えてもらって、Eのカントリー・ブルースばかりプレイしていたよ。ヤズーっていうレーベルを知っているかな(註:戦前ブルースの復刻などを数多く手がけているアメリカのYazoo Records)? そこから出されたブルースのLPなら何でも聴いて、特にブラインド・ブレイクは僕の最初のヒーローになった。フィンガーピッキングを、彼やロバート・ジョンソンから学んだよ。

カントリーやジャズについてはどう学んでいったんですか?

 20年前にシカゴのスウィング・バンドでプレイした時に“グレイトなロカビリーだ!”なんて言われたけど、僕としてはブラインド・ブレイクをプレイしただけだったんだ。いろんなバンドで演奏することでさまざまなスタイルを身につけたけど、ジャズ、カントリー、ブルースのいずれもブラインド・ブレイクから教えてもらったと思っている。チェット・アトキンスを知った時も、ブラインド・ブレイクに近いくらいに思っていたしね。

YouTubeにあがっている「Rollin’ And Tumblin’」ではシカゴ・スタイルのトラッドなスライド・ギターも聴けますし、ギャロッピングも巧みですが、ほかにはどういったギタリストがあなたのスタイルに影響を与えましたか?

 エレクトリック・ブルースは3大キングを始め、本当にいろいろな人たちに影響を受けたよ。スライドはマディ・ウォーターズから入って、ロバート・ナイト・ホークにも影響を受けている。ロバートの、溜めてからゆっくりとビブラートを利かせて歌うように弾くスウィートなサウンドも好きだし、マディやミシシッピ・フレッド・マクダウェルの速いビブラートもクールだよね。

プロ・ギタリストとしての仕事についても教えて下さい。

 18歳の頃、ブルース・バンドのメンバーとして週末のバーでプレイし始めたのが最初だね。それ以来さまざまなスタイルのライブを行なってきたよ。キャリアの早い段階から誰かしらのレコーディングに毎年参加してきたし、自分のアルバムとしては、もう廃盤になっているけど『Down at the Depot』を2001年にリリースした。2008年からは僕のバンドのザ・モダン・サウンズで何枚か出したし、2013年にソロで『Handful of Strings』を作っている。これは僕の最初のギター・アルバムで、レス・ポールやマール・トラヴィスのスタイルの録音にトライしたんだ。そして『Hi-Fi Christmas Guitar』(2017年)を作ったら、その印象が強くなったから、次はビートルズのアルバム『Let It Be Guitar!』をやってみたんだよ。それで、2020年はロックダウンになったのもあって、新たにアコースティックでビートルズ・アルバムを作ったんだ。

実際に作ってみたら
シンプルにはいかなかった(笑)

その最新作『Let It Be Acoustic Guitar!』は、バンド・セットの前作と異なりソロ・ギターでのアレンジです。ベース、リズム、和音、メロディをどのような順番で組み立てていくのでしょうか?

 まずはコードと構造を確認するけど、彼らの曲はA→A→B→Aみたいに構造が明快で助かったよ。メロディは歌を忠実に単音で拾っていくところから始まるね。例えば「All My Loving」はトラヴィス・ピッキングでまずコードのみをプレイして覚え、そこにメロディをいろいろ試しながら乗せていった。2回目の歌メロではオクターブ上でメロディをプレイして、ハーモニーも重ねているんだ。これはロックダウンで覚えるための時間も取れたから実現できたようなところもあるね。

「I Saw Her Standing There」では、中盤にバンジョーのロール奏法が出てきます。これは実際にバンジョーも弾くあなたらしい、素晴らしいフックとなるプレイだと感じました。

 “チェット・アトキンス・ロール”って呼んでいて、彼は3フィンガーで3音をバンジョーっぽくロールでプレイしている。マール・トラヴィスはもっとクレイジーで、サムピックでダウン→ダウンと弾いたあとに人差指をアップでプレイしていて、「Walkin’ the Strings」なんか良い例だね。僕の「I Saw Her Standing There」ではロカビリーのクリシェっぽい感じでEを弾いていて、隣接する短3度と長3度をプレイしている。これをA7でもやっているんだ。

「I’ve Just Seen a Face」のイントロから始まりのアレンジも素晴らしいです。楽曲の特徴を損なわずに、各楽器のパートを1本にまとめていく作業としては、どういったことに気をつけていきますか?

 ポールのアコースティックなスタイルはすでに完成しているから、かなり原曲に近い形でやっているよ。そこに親指によるオルタイトのパターンを混ぜているんだけど、ジョンの曲なら「Julia」みたいによくやられているけど、ポールの曲だと珍しいアレンジなんだ。ただ、AやCのキーでオルタネイトのバッキングをしながらメロディをプレイするのって難しくて、トリッキーでもある。イントロはリードとバッキングの異なる2本のギターを同時にプレイするから、細かく聴くと違うところがあるよ。歌のメロディもバッキングをしながらだから、オリジナルどおりとはいかなかったんだ。Dのコードをプレイするところなんかは、ミシシッピ・ジョン・ハートの「Stagger Lee」みたいな鳴らし方を意識したね。

ソロ・ギターだとどうしてもプレイ・キーは開放弦が使いやすいE、G、C、Dなどが多くなってきますが、キー選びはどのように考えていますか?

 ビートルズの曲ってキーを変えるのが罪深いことのような気がしていて、今回は原曲のままやっている。だってみんな馴染みのあるメロディを歌いたいだろう? 開放弦が使えなくなってもセーハさせることで解消できるけど、実は開放ってやり方によっては使えるものなんだ。「Canonball Rag」や「Rockabye Rag」はGのキーだけど、6度にあたる開放のEを常に鳴らしてプレイしている。D7の時はEを鳴らすと9thになってこれもクールだね。

「Can You Take Me Back?」はレギュラー・チューニングではないですよね? それぞれの楽曲のチューニングやカポの位置を教えて下さい。

 この曲は「Cry Baby Cry」のエンディングの20秒くらいの部分で、ジャムる感じでプレイしていたら良かったから、アルバムに入れることにしたんだ。ポールはドロップDにしてカポを使っているはずだけど、僕も同じようにしてFのマイナー・キーでプレイしている。オルタネイトのベースラインでブルースをプレイしているんだ。ほかの曲だと「I’m Looking Through You」と「When I’m Sixty-Four」は1カポ、「Here Comes the Sun」が7カポ、「Across the Universe」はドロップDだね。

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Joel Paterson
The Beatles