Interview|スタンリー・ジョーダン“タッチ・テクニック”の継承。 Interview|スタンリー・ジョーダン“タッチ・テクニック”の継承。

Interview|スタンリー・ジョーダン
“タッチ・テクニック”の継承。

両手を使ったタッピングを用い、ギター1本でピアノさながらの独奏を聴かせるスタンリー・ジョーダン。今でこそ一般的な奏法のひとつになりつつあるが、彼が彗星のごとく現われた80年代は、まさに“唯一無二”であった。そして今、彼が“タッチ・テクニック”と呼ぶ両手タッピングの技術を後世に伝えるべく、スタンリーはオンライン・スクール=インテグラル・アーツ・アカデミーを設立した。今回は、彼が力を入れているギターでの“教育”について話を聞いてきた。

取材=近藤正義 通訳=エンジェル恵津子

この“タッチ・テクニック”は、ピアノの質感とギターの表現力を融合させる試みなんだ。

80年代に初めてあなたの演奏をCDで聴いたりビデオで観た時、それまでになかった音に衝撃を受けました。ギターを始めた頃からあの弾き方だったのでしょうか?

 10歳の時にB.B.キングの「The Thrill is Gone」を聴いてギターが大好きになったんだ。でも当時私はピアニストで、ギターを始めたのは翌年になってからなんだけど、最初はピックを持って弾いていたよ。

ギターを始めたばかりの、一般的なピッキングをするスタンリー・ジョーダン(写真右/本人提供)。

当時はどのようなギタリストの音楽を聴いていましたか?

 ギターを始めた頃はジミ・ヘンドリックス、アルバート・キング、カルロス・サンタナ、そしてもちろんB.B.キングを聴いていたね。

そこから両手タッピングという奏法はどのように体得していったんですか?

 私はこれを“タッチ・テクニック”と名付けていて、1976年からずっとそう呼んでいる。最初にこのアイディアを思いついたのは1973年、13歳の時なんだ。両手がギターの指板を縦横無尽に飛び回り、複雑な音楽を奏でるイメージを持っていたんだけど、どうやってそれを実現するのかはわからなかった。それから2~3年後にピアノに戻った時、ピアノのテクスチャーの可能性を見逃していることに気づいたんだ。そこからギターでそれを実現する方法を探すために実験を始めたんだよ。それで、いくつかのアプローチを試して、ハマリング・オンとプリング・オフを使った今の方法に落ち着いたんだ。あれは1976年だったかな。

この難易度の高いテクニックは、あくまでも音楽的な目的のための手段だと言っていますが、あなたが目指すギターによる音の世界とはどんなサウンドなのですか?

 私の最初の楽器がピアノだったから、“オーケストラ”的な要素のある音が刷り込まれていてね。でも、11歳でギターを始めた私は、それが持つ表現力に惚れ込んでしまったんだ。実際に弦を触ることで、よりパーソナルな音が得られると感じた。その後、このタッチ奏法は、ピアノの質感とギターの表現力を融合させる試みで始めたってわけなんだ。

タッチ・テクニックは、音楽性の幅を広げることになる。

あなた自身がギターを教えているオンライン・スクール=“インテグラル・アーツ・アカデミー(以下IAA)”について、設立の経緯を教えて下さい。

 私はずっと“教える”ということが好きで、長年にわたって個人的にたくさんの指導をしてきた。WEBサイトは適切なプラットフォームだと思っていて、20年ほど前からずっとやりたいと考えていたんだ。で、2020年にカリフォルニアのリークス・センターで1ヵ月間にわたって滞在指導を行なったんだけど、生徒たちの質問が似ていることに気がついてね。そこで、資料を送るのではなく、ネットに投稿してURLを教えるようにしたんだよ。

このスクールには、音楽療法を始めとした様々なカリキュラムが用意されています。

 現在、ほとんどの生徒はミュージシャンなんだけど、僕は常に人生訓や一般原則を論じているから、学校の構造は音楽を超えて発展してきたんだ。私の最終的な目標は、“総合理念”を中心に、芸術を中心としたカリキュラムで全教科を網羅することなんだよ。すでに現在、その方向に向かってるよ。例えば今日、私は数学の哲学に関する資料を投稿したんだ。“算術=arithmetic”という言葉に“リズム=rhythm”という言葉が含まれているのが面白いと思っていたんだ。

a-rithm-eticということですね。

 これは今日知ったんだけど、フレーゲ(ゴットロープ・フレーゲ/19世紀の哲学者・数学者)は算術を時間的世界の研究と考えていたんだ。僕はまさにその関連性を探していたから投稿したんだよ。あと、僕は将来的に、IAAをESL(第二言語としての英語)の質の高い学校に成長させたいんだ。当校には世界中から人が集まっていて、彼らは英語を学んで上達させたいと思っている。ただ彼らは、従来の学校のように標準化されたつまらない英語ではなく、音楽用語やスラングを学びたいんだよ。つまり、芸術の世界で実際に使われている生の英語を学びたいと思っているわけだね。そのための設備はすでに整っているから、内容を現在開発中だよ。

ジョーダンさんは主にタッチ・テクニックを含むギターを教えているということですが、ご自分のテクニックを公開して教えようと思ったのはなぜですか?

 タッチ・テクニックは、音楽性の幅を広げることになるので、非常に喜びと満足感のあるものだから、それを分かち合いたいと思っているんだよ。

スタンリーから送られてきたワークショップの様子。

図解を用いながらハーモニーについての考え方をレクチャー。

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