Interview|スタンリー・ジョーダン“タッチ・テクニック”の継承。 Interview|スタンリー・ジョーダン“タッチ・テクニック”の継承。

Interview|スタンリー・ジョーダン
“タッチ・テクニック”の継承。

このアプローチを学びたい人にはピアノを練習することをオススメしたい。

日本だとichikaやJYOCHOのだいじろーといった両手タッピングを自身のスタイルに組み込んだ新世代のギタリストも出てきました。自分以外のプレイヤーで、両手タッピングの優れた奏者として注目しているギタリストはいますか?

 そうだね、ichikaさんはオーバーザネックの左手叩きを始め、様々なテクニックをシームレスに組み合わせている。とても流動的で効率的なテクニックを持っているのがいいね。だいじろーさんもまた、才能のある奏者だ。彼のスタイルはフィンガーピッキングに根ざしていて、タッチ・テクニックも取り入れているね。アメリカでは、マイケル・ヘッジスやエディ・ヴァン・ヘイレンを聴いて育ったカーキ・キングのように、タッチ・テクニックを取り入れているプレイヤーはたくさんいるよ。今の熱烈なタッピング・プレイヤーの多くは、ロバート・フリップの音楽的遺産に由来するモーダルなハーモニーを持つ“マスロック”スタイルを利用しているんだ。私はこのスタイルを楽しんでいるけど、彼らにはハーモニックなボキャブラリーをもっと増やしてほしいと思っている。

そういったこともIAAで教えてもらえる?

 もちろん。プリンストン大学で教えていたミルトン・バビット教授の影響を受けた、ジョーダン・クロマティック・システム(JCS)と呼ばれるハーモニック理論への新しいアプローチ手法を開発したんだ。JCSは“統一調和理論”が含まれた和声の数学的構造なんだ。これを使って私は、1000以上のコードと音階のカタログと、57万ページのギター・コード・ダイアグラムのデータ・ベースを作ることができた。これらはすべてIAAに掲載されているよ。マスロックのプレイヤーたちに、ぜひこの構造を使ってもらいたいと思っている。

普通にギターを練習してきた人にとって、両手タッピングという技はとてもハードルの高い難しいテクニックだと思います。

 タッチ・テクニックには、おもに3つの派があると考えるね。ポリフォニックのジミー・ウェブスター/スタンリー・ジョーダン派、リズミカルなマイケル・ヘッジス派、そしてメロディックなエディ・ヴァン・ヘレン派だ。マスロックのタッピング・プレイヤーのほとんどがマイケル・ヘッジスのバリエーションを使っているけど、エレキに対応するためにほかの2つの要素も取り入れるべきだよね。私は3つとも使っているけど、メインはより鍵盤楽器的なジミー・ウェブスター/スタンリー・ジョーダンのアプローチだ。この方法は自分で開発したんだけど、あとになって最初にこの方法で弾いたウェブスターのことを学んだんだよ。そして、このアプローチを学びたい人にはピアノを練習することをオススメしたい。それはなぜかと言うと、この方法には2つの難しい部分があるんだ。まず、どの指でも良い音色を出すことの難しさ。そして、両手のコーディネートの難しさだね。ピアノは音が出しやすいから、両手のコーディネートを発達させることに集中できるんだ。そしてそれをギターに引き継ぐことができる。IAAではピアノのエクササイズをギター用に応用したレッスンもあるよ。

人生と芸術はお互いに助け合い、最終的には1つになるんだよ。

ギターのチューニングはどうしていますか?

 私は、普段は完全4度チューニングを使っているね。チューニングは6弦からE-A-D-G-C-F。これによって、フィンガーボード上ですべての弦が同じパターンで弾けるようになるから弾きやすくなるんだ。そしてより学習過程が効率的になる。私のサイトには57万ページのギター・コードのダイアグラムがあり、およそ2500万の個別のコード図があるけど、すべて完全4度チューニングなんだ。でも、もし標準のチューニングでそれをしようとしたら、同じ音の図だけで5000~7500万にもなってしまうんだ!

タッピングに適したギターのセッティングはありますか?

 これは素晴らしい質問だけど、簡単な答えはないんだ。さっきも述べたように、タッチ・テクニックの3つの流派でも、それぞれ異なるセットアップが必要となってくる。タッチ・テクニックはセットアップのあらゆる面での小さな変化に非常に敏感なんだよ。

このスタイルに適したギターというのは?

 まず、ハードウッドやグラファイトのネックは、より強い音と響きが得られるから非常に役立つね。あと、チャップマン・スティックを発明したエメット・チャップマンから1つ学んだことは、ポールピースをピックアップにねじ込んで、ピックアップ全体を弦に近づけるようにすることなんだ。ギターはすべて違いがあるから、それぞれ独自の難しさがある。だから、IAAでワークショップを行なうときには、それぞれのギターを完璧にセットアップするために個人個人に指導をしているよ。

あなたが今使っている機材についても教えて下さい。

 普段はヴィジェのArpageを使っているよ。ほかにはしっかりとしたボディで効果的な演奏ができるトラヴィス・ビーンとレス・ポールも持っている。あとはゼータ(Zeta)のMirror 6 MIDIギターはとても表現力豊かだね。で、フルレンジの音を出すにはダイレクトなほうが好きだから、普段はギターアンプは使っていないよ。

スタンリーが愛用するヴィジェのArpageモデルを使った演奏。

アンプを使う場合もあるのですか?

 普段は使わないけど、状況によってはアンプが一番良い時もあるんだ。例えば、ジャズのビッグバンドやアコースティック・バンドと演奏する場合、アンプは自分の音の位置を決めてくれるから、ほかのミュージシャンとの相性が良くなるんだよ。その場合、VOXのAC30とローランドJC120を使うことが多いね。また、DVマークのMicro 50やLittle 250などのアンプヘッドをFender Twinのスピーカーに直接接続する時もある。

両手でタッピングをすると、どうしても右手と左手、それに加えてどの指でタップするかによって音量差が出てしまいます。どう対処すべきですか?

 タッチ・テクニックで澄んだ音色を出すためには音量に重点を置いて練習するべきだ。タッピングとピッキングを組み合わせて弾く場合の音量差については、もし頻繁に切り替える必要がないのだったら、必要に応じて音量を変えればいい。ただ、タッピングとピッキングの切り替えが多い場合は、コンプレッサーを使用するのがオススメだね。そうすることで、私のタッチ演奏は音量を調節せずに済むんだ。

あなたの言う“タッチ・テクニック”はようやくポピュラーなものになり始めました。そのオリジネイターでもあるあなたから直接テクニックを教われるIAAは、ギタリストにとってとても魅力的だと思います。最後にIAAに興味を持った日本のギタリストたちへメッセージをお願いします。

 タッチ・テクニックはギターの新しい可能性を開くんだ。芸術の進歩は人間の文化の進化に貢献しているからね。このような大きな文脈で見ると、私が教育を通じて伝えようとしている最も重要な知恵に直面することになるんだよね。芸術は私たちの生活状態や人生の在り方を改善するように促してくれる。このようにして、人生と芸術はお互いに助け合い、最終的には1つになるんだよ。私の指導についてもっと知りたい人は、IAAのサイトをぜひ見てよ。日本のギタリストのためのワークショップなど、今後もたくさんのエキサイティングなことを計画しているから、みんなの参加を心から待っている! 乞うご期待!