Interview | サーストン・ムーア【前編】90年代の回想、そして新作『screen time』の誕生について Interview | サーストン・ムーア【前編】90年代の回想、そして新作『screen time』の誕生について

Interview | サーストン・ムーア【前編】
90年代の回想、そして新作『screen time』の誕生について

今年2月、Bandcampで新作ソロ・アルバム『screen time』をリリースしたサーストン・ムーア。コロナ・パンデミックの昨年、1人でギター・トラックをいくつも録りため、共通点のあるものをつなぎ合わせたアンビエント作品である。今回、ギター・マガジンは4年ぶりにサーストンへインタビューを敢行。アルバム制作の話を聞く前に、サーストンが表紙の2021年4月号『90年代USオルタナティブ』を見せたところ、なんと大喜び。その流れで90年代の話を聞いてみた。前編ではそれに加え、ステイホーム期間中の話もご紹介。また、ギター・マガジン2021年6月号『ケヴィン・シールズ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)特集』でも、サーストンがケヴィンの魅力について語っているほか、6月13日発売のギター・マガジン2021年7月号にも『screen time』のアルバム・インタビューを掲載予定なので、そちらも併せてチェック!!

取材・文=小林弘昂 翻訳=トミー・モーリー


僕らよりも少し若い人たちが
“コイツらはオレたちのためのバンドだ!”と認めてくれたんだ。

今日はインタビューのお時間をありがとうございます。ご存知かもしれませんが、ギター・マガジン4月号では、あなたを29年ぶりに表紙にさせていただきました(ギタマガを見せる)。

『ギター・マガジン2021年4月号』
特集:90年代オルタナ革命

 冗談だろう? 僕は一切知らなかったよ。もっと見せてくれ!……オー・マイ・ゴッド! ぜひ欲しいね、ちょうだいよ!

もちろんです! 日本に来たら、我々から何10冊と奪っていって下さい。

 望むところだよ! 日々ライブ会場が再開されることを待ち望んでいるんだ。その号はなかなかクールな仕上がりだね!

90年代のUSグランジ/オルタナティブ・バンドを特集したので、ソニック・ユースだけでなく、あなたの友人たちもたくさん載っています。ダイナソーJr.、ニルヴァーナ、フレーミング・リップス、ペイヴメント……。

 クールだね!

(ページをめくりながら)ピクシーズのブラック・フランシス、パール・ジャムのマイク・マクレディ、あなたの盟友リー・ラナルド。そして、このグレイトなノイズ・ギタリストですね(サーストンのページを見せる)。

 ワーオ、ファンタスティック!!! 来週ニューヨーク市に行くから、日本の書籍店でぜひチェックしてみるよ!

そして5月号では、フェンダーのムスタングを特集しています。あなたも一時期ムスタングを使っていましたよね? ストラトキャスター用のピックアップを3基搭載したもので……(誌面を見せる)。

 そう、そのギターだよ! かなりのお気に入りだったんだけど、99年のソニック・ユースのライブの直前に、機材が丸ごと全部盗まれてしまったんだ。そのムスタングもね。

Photo by Mick Hutson/Redferns

おぉ……。このムスタングはスライド式のピックアップ・スイッチが取りはずされ、ストラトキャスター用の5wayスイッチが搭載されています。

 もともとそういう状態で売られていたんだ。前の所有者が改造したってことだね。僕らはギターを買ったらボリューム・ノブとピックアップ・セレクター以外の回路を取り払っていたんだけど、あのムスタングはそういう改造をしなかった数少ないクールなギターだったな。今も持っていたら……と願うことさえあるよ。

写真を見る限りはトレモロ・アームをはずして使っていたようですね?

 あのムスタングには最初からアームが付いてなかったのかもしれない……。うん、多分そうだった気がするよ。必ずしもすべてのギターにアームを付けていたわけじゃなかったんだ。でも、アームがないギターをプレイするっていうのは、何か重要な部分が欠けているように感じるね。最近フェンダーからジャズマスター・シェイプのAcoustasonicをもらったんだけど、それにもアームがなくてね。まぁ、さすがにその必要はないギターなんだけどさ。

そうですね(笑)。90年代のグランジ/オルタナ・シーンについて、もう少しお話しを聞かせて下さい。今から30年前の91年は、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『loveless』、ニルヴァーナ『Nevermind』、ダイナソーJr.『Green Mind』などがリリースされた、すごい年でした。ソニック・ユースもメジャー・デビューを果たし、ヨーロッパ・フェス・ツアーを行なっていましたよね。その模様が『1991:The Year Punk Broke』というドキュメンタリー映画にもなりました。改めて、91年はどのような年でしたか?

 僕らみたいなバンドが受け入れられようとしていた、まさに変革の時代だったと思う。特にヨーロッパではね。映画監督のデヴィッド・マーキーに『1991:The Year Punk Broke』の話を持っていった時、いくつかのライブを撮影して、それをプロモーション目的にVHSでリリースするのはどうかということになったんだ。当時は僕らがメジャー・レーベルに所属していたから、お金をかけてそういったことをやってもいいというOKが出たんだよね。で、それをソニック・ユース名義のライブ映像として売れば良いと考えたんだろう。

ニルヴァーナとの思い出も教えていただけますか?

 ニルヴァーナが僕らのサポートをしてくれて、何度か一緒にライブをやったよ。チケットはどこも売り切れで、オーディエンスのレスポンスも良く、大きな波がやってきていたんだ。ダイナソーJr.がサポートしてくれたライブもいくつかあった。“クレイジーなことになってるね。僕らみたいな音楽を選ぶ人が確実に増えてきている”と、みんなが肌で感じていたよ。僕らよりも少し若い人たちが、“コイツらはオレたちのためのバンドだ!”と認めてくれたんだ。とても気分が良く、ファンの人たちからエネルギーをもらっていたよ。ニルヴァーナは僕たちよりも少し若くて、オーディエンスとほぼ同じような年齢でね。当時はまだ彼らのことなんて誰も知らなかったけど、ライブを観た人たちは、“これこそが欲していた、僕らのアイデンティティを持ったサウンドだ!”となっていたのさ。僕も生でその現場を目撃していたけど、まさかニルヴァーナが世界最大のバンドになるなんて思ってもいなかったな。

そうだったんですね。

 今でも『1991:The Year Punk Broke』を見返すけど、貴重なニルヴァーナの記録にもなっているよね。僕らがこの映像を編集している間に『Nevermind』がリリースされ、発売から2ヵ月の間で歴史的名盤となっていった。ニルヴァーナは超新星のようなバンドとなり、まるで隣人が世界的スターになったような感覚だったよ。当時のフェスなんて、みんなラモーンズやストーン・ローゼズを観に来ていたもので、ニルヴァーナなんて出演順がかなり早いほうだったんだ。彼らは正午にプレイし、それから2バンドくらい挟んでソニック・ユース、そしてストーン・ローゼズという順番でね。ニルヴァーナが若手で、僕らは中堅という位置付けだったのが、翌年にはニルヴァーナはビートルズになっていた。

すごい飛躍の仕方ですよね。

 僕らは変わらなかったけど、ソニック・ユースは世界的にそこまで受け入れられる音楽でないということはわかっていたから、別に不思議ではなかったな。これはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインにも同じようなことが言える。とても美しい音楽だけど、ラジオから頻繁に流れる音楽ではないだろう?

そうですね。いわゆる“わかりやすいヒット曲”がないというか。

 まだダイナソーJr.のほうが流れてくるよね。当時のラジオはニルヴァーナの成功にあやかって真似をしたようなバンドの音楽ばかりが流れていたけど、僕らはそういったことは一切しなかった。ダイナソーJr.も、ソニック・ユースも、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインも、ニルヴァーナが大成功を掴むよりも前から存在していたからね。あと当時の面白いバンドといえば、ペイヴメントだったな。ちょっと遅れて出てきたけど、ニルヴァーナくらいの大きな成功を掴んでもよかったと思う。けど、やっぱりニルヴァーナを超える存在はいなかった。彼らは従来の物差しでは計り知れないバンドだったんだよ。それは今でも変わらないと思っている。

いつもニール・ヤングの
アルバムの作り方に興味を持ってきた。

コロナ・パンデミックの1年間、どのように過ごしていましたか?

 たくさん作曲をしたし、ソニック・ユースの初期の音源を振り返ったりもした。僕がミュージシャンとして成長する過程で触れてきた音楽もけっこう聴き返したよ。当時の僕が聴いていた音楽や影響を受けたミュージシャンたちって、あまり世の中に知られていないものが多くて、興味深く思う人がいるかもしれないね。

あなたはかなりの音楽マニアですからね。

 あとはヴェルヴェット・アンダーグラウンドのドキュメンタリー映画(『The Velvet Underground』)のための曲を書いて、それをレコーディングしたな。これは今年中にリリースされるだろう。トッド・ヘインズという監督によるもので、彼はデヴィッド・ボウイやイギー・ポップみたいなキャラクターが出てくる、『Velvet Goldmine』というファンタジー映画を製作したことでも知られている。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「Heroin」(『The Velvet Underground & Nico』収録)っていう曲を知っているかな? それも弾いたし、プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーがボーカルで参加してくれたよ。

おお〜、それはめちゃくちゃ楽しみです!

 それと、自宅で過ごしている期間にはギャラリーで活動するアーティストのための映画音楽も作ったね。その時に初めてZOOM製の小さなデジタル・レコーダーを使ってみたんだ。レコーディングをする時、僕は今まで近所のスタジオで録音するというやり方だったから、自宅スタジオがあったことはないんだよね。家っていうのは、瞑想というか、リラックスする場所として分けておきたいと思ってきたからさ。やっぱりレコーディングっていうのは、それ専用のスペースでやるべきだと長らく思っていたんだ。小さくてもいいから、スタジオという場所を最大限に使って音楽を作るほうが好きなんだよ。色んなスタジオを使ってみて、そのスタジオ独自のサウンドや個性を発見することが楽しいんだ。

なるほど。

 ただ、この1年間はそれがまったくできなかったから、デジタル・レコーダーに手を出したということだね。それで録ったインストゥルメンタルの楽曲をいくつか集めて、『screen time』というアルバムにしてパッケージし、Bandcampでリリースしたんだ。今の時代って、たくさんの人がスマホやPCといった画面の前で過ごしているから、『screen time』というタイトルがピッタリだと思ったのさ。

どのタイミングでアルバムにしようと思ったんですか?

 去年自分が録音したものを、今年の頭に聴いてみたんだ。で、たくさんあるネタの中から一連のつながりがあるトラックをピックアップして、ストーリーを組み立てていったという感じだね。このアルバムは、ある意味仮想のストーリーのサウンドトラックでもあるんだよ。それぞれの曲名はすべて特定の場所を指していて、キャラクターがそれらの間を移動していくというストーリーだね。例えば、ベンチから部屋へ。そこで窓を見つめたり、外に出て公園に行ってみたり……といった具合でね。必ずしもリスナーがその光景を想像する必要はないけど、この楽曲たちが映画みたいに何かを伝えられるといいな。音楽をやっている人のみならず、映像作家やディレクターたちにもアピールできたらいいなと思っているよ。

だから曲名が「the station」や「the parkbench」といったものなんですね。

 どこにも出かけず、ずっと家にいると、スクリーンが窓の代わりになってくると思うんだ。だから音楽によって、色んな場所に向かって感情が旅をするって言うのかな? で、『screen time』は今年の夏頃にレコード盤としてもリリースする予定で、Sunn O)))も所属しているサザン・ロード(Southern Lord Records)というレーベルから出すんだ。サザン・ロードはヘヴィな音楽を扱っているレーベルだから、“『screen time』のレコードをリリースしたい”と話をもらった時は驚いたよ。“ギターは全然ヘヴィじゃないし、むしろライトなアルバムなんだけど!?”ってね(笑)。

そもそも今作はなぜBandcampだけでのリリースにしたのでしょう?

 実はこのアルバムに興味を持つ人がいると思えなかったから、Bandcampでのリリースにしたんだよ。それにもかかわらず、けっこう良い反応がきて驚いたな。“すごくクールじゃないか、あなたがこういったアルバムを作るなんて思ってもみなかったよ!”とか、“メロウなインストゥルメンタル、そしてアンビエントなサウンドで素晴らしい!”といった言葉をもらったよ。僕としてはいつもとあまり違わないことをしたつもりだったから、ちょっと不思議なところもあったね。みんな1年近くもステイホームさせられて、そういった状況だとポジティブなエネルギーを保つのが難しかったりするものだけど、ポジティブな反応がもらえたってことは、それだけ良かったととらえておこう(笑)。

アルバム制作において、目標にしているアーティストはいますか?

 僕はいつもニール・ヤングのアルバムの作り方に興味を持ってきた。彼はアコースティックを主体とした作品をリリースしたかと思ったら、その次はハードなロック・アルバムを作ったり、またその次はスウィートなものだったりして、音楽性の変化がかなり激しいんだ。それが僕の目からは本物らしく見えて、クールだなと思っていたよ。イギー・ポップも似たようなことをやっているよね。ヘヴィ・ロック・アルバムの次には、フランスのシャンソンみたいなアルバムを作るみたいなさ。そういうのって、歳を重ねたミュージシャンによく見られる傾向だと思う。まぁ、僕も歳を取ってきたということかな(笑)。

いやいや、まだ十分若々しいですよ!

 僕は“まだ”63歳だからね。

最近はどのような音楽を聴いていますか?

 基本的に何でも聴いているよ。そもそも僕は自分でも止められないくらいのレコード愛好家で、常に収集し続けてきた。僕が今までに抱えてきた唯一の不満といえば、コレクションの大きなライブラリーを作れるくらいの広い部屋に住んでこなかったことかな。今は入手したレコードのほとんどが箱に詰められたまま、どこかに保管してあるんだ。ある時点からレコードをこれ以上買わないように止めてきたこともあってね。単にお金がかかるし(笑)。でも、インディペンデントで音楽をやっている人たちをサポートするというアイディアには強く賛同していて、実験的な音楽を作っている人たちがいれば、ためらわずに買うようにしているよ。

素晴らしいです。

 カセットテープだって大好きだ。僕が日本に行きたい理由の1つに、まだレコード店が残っているからという点がある。さすがに80年代ほどの店舗数はないけど、まだそこそこの数は残っていて、主要な街にはディスクユニオンがあるよね。Banana Recordもなかなか素晴らしい。もちろん1つの音楽だけにフォーカスしたインディペンデントなレコード店もあって、そういうところに足を運ぶと必ず何かを学んで帰ってくるんだ。

学びですか(笑)。

 “バイヤーたちの輪”っていうのがあるんだろうね。いくつかのレアなレコードが世界中を周って、そういう店に集まって来るんだ。この大きな世界、色んな音楽があるのに、どうしてその多くが日本という小さな島国に集まってくるのか……。僕はいつも日本に向かう飛行機の中で、そういうことを考えながら胸をときめかせている。レコード・コレクターにとって、日本は地球上で最高な場所だと思うね(笑)。

本当に日本は恵まれていますよね(笑)。

 もちろんオンラインで買うという方法も残っていて、Discogsはとても大きなサービスだ。でも、やっぱり中古レコード店に足を運び、何かしらの価値を持ったレコードを見つけるというのは、僕にとってすごく贅沢な時間なんだよ。レコードは物理的に触って重さを感じるだけじゃなく、バイブレーションや匂いだって感じることができる。僕の友人で、大阪のTIME BOMB RECORDSの店主のケンジ・コダマは、スリーブから出したレコードの匂いを嗅ぎ、“これはドイツ盤だ!”みたいな感じで、どこの国でプレスされたかを言い当てることができるんだ。彼はレジェンドだよ(笑)。やっぱり、今はああいうグレイトな店に足を運ぶ機会を失って、とても悲しいな。映画館やライブ会場で何かを生で体験することも懐かしい。でも、もう少し我慢したら何かしらの形で戻ってくると信じている。だって戻ってきてくれなかったら、僕たちはただ単に家にいるオタクになってしまうわけだろ? それこそ『screen time』が永遠に続いてしまうよ(笑)。

作品データ

『screen time』
サーストン・ムーア

Bandcamp限定/2021年2月5日リリース

―Track List―

01.the station
02.the town
03.the home
04.the view
05.the neighbor
06.the upstairs
07.the dream
08.the walk
09.the parkbench
10.the realization

―Guitarist―

サーストン・ムーア