卓越した演奏能力と作曲スキル、そしてミキシングやマスタリングまで含めた音源プロデュース力の高さを誇るギタリスト集団、G.O.D.(GUITARIST ON DEMAND)。現在のメンバーは国内外合わせ計17名に及び、その1人1人がいずれもソロ・アーティストとして各方面で活躍する気鋭の若手プレイヤーだ。同プロジェクトの主催者を務める作編曲家・ギタリスト・エンジニアの青木征洋はG.O.D.の活動を通して何を目指すのか、じっくりと話を聞いた。
取材・文=田中雄大 撮影=星野俊
最初は単発企画のつもりだったんですが、
でき上がった作品が想像以上に良くて。
まず、G.O.D.がどういった集団なのかを改めて教えていただけますか?
ほかに例を出して説明することは難しいんですが、“曲を作るギタリストたちが、クオリティの高いギター・ミュージックの音源を作って世の中に出すことをメインとしたプロジェクト”という感じです。普段はそれぞれ個々の活動しているんですが、2~3年に一度集まって、その間に得てきた経験値を持ち寄るんです。メンバーはライバル同士なんですが、互いに尊敬し合ってもいるんですよね。その中で、自分がどういうスタイルで攻めれば埋もれずに力を発揮できるか、毎回真剣に考えて曲を作るんです。だから、おそらくそれぞれがソロで楽曲を出すのとは、まったく熱量が違う作品ができ上がるんですよ。
G.O.D.を始めたきっかけについても教えて下さい。
G.O.D.として初めて音源をリリースしたのが2013年なんですけど(『G.O.D. GUITARISTS ON DEMAND』)、その時僕はまだ大阪に住んでいたんです。それで、たまに東京に出てきた時にギタリスト仲間で集まって飲む会があって、そのメンバーで”飲んでばかりじゃなくて、音源でも作ったら面白いんじゃない?”ってノリで言っていたのを形にしたのが始まりでした(笑)。僕の場合はその前にも“G5 Project”というほぼ同じコンセプトのグループがあったんですが、それをもっと若い世代のギタリストたちとやれたら面白いな、という考えもありましたね。最初は一発の企画モノのつもりだったのが、けっこう反響があったんですよ。
そうだったんですね! パーマネントなプロジェクトとしては考えていなかったと?
そうです。当初はみんな2回、3回と続くなんて考えていなかったと思います。でも実際に作品ができた時、意外と良いものができたよねという感じになって。それで、何かもっと面白いことをやろうかと考えて、音源のカバー・コンテストを開催したんです。その時コンテストに参加してくれたSekuさんやAZさん(編注:2人とも現G.O.D.メンバー)のエントリーがあまりにも素晴らしかったので、彼らが新メンバーとしてG.O.D.に加わったのもある種自然な流れでした。
コンテストで優れたギタリストが見つかって、それが新しいメンバーになるのは面白いですよね。実際にTwitterなどでかなり盛り上がっていて、一部のシーンでは“俺が次のG.O.D.になるぞ!”みたいな空気があったと思うんですよ。
毎回思うのが、アルバムを作った時点ではメンバーみんなが“ギタリストとして最高の表現を形にしたぞ、だれもマネできるはずがねえ!”って思って出すんですよ。でも必ずカバーされる(笑)。そこは本当に驚きですし、僕らも新しいギタリストとの出会いがあってすごく楽しいです。僕らが問いを投げかけたのに対して、若いギタリストたちがカバーで応える。それもコピーじゃなく、それぞれがそれぞれのアイディアを上乗せして打ち返してくれるので、互いに盛り上げて広がっていく雰囲気があって。
一方通行ではなく、互いに盛り上げていく雰囲気はすごく感じます。
ギターのシーンって、勝手には生まれないなと思うんですよ。だから意図的に、ギターを頑張るきっかけだったり、頑張った人のプレイを聴くきっかけを発信し続ける存在でありたいです。始まった当初の飲み会のノリとはだいぶ離れていますけど(笑)、今現在はそう思っていますね。
“ネット上のギタリスト”ではなく
“作曲家ギタリスト界隈”という感じ。
G.O.D.の活動の特徴として、インターネット上を主戦場にしているという点もあると思います。
そうですね。歴史を振り返ってみると、僕個人はそうしたネット上での活動を2002~2003年頃からやっていて。
ネット上の音楽活動シーンとしてはかなりの初期ですよね。
めちゃくちゃ初期ですね。MTRがデジタルになったくらいの時期で。そして、G5 Projectが2005年に始まり、YouTubeのアカウントを作ったのは2006年くらいでした。その当時に動画投稿サイトで演奏する人って、ニコニコ動画とかもそうですけど、”弾いてみた”って言われ方をしたんですよ。
まさに“弾いてみた”の黎明期の頃ですね。当時は本当に勢いがありました。
でも、その中でも僕らはオリジナルの作品を作っているという意識が強かったので、自分たちでは別の流れだと思っていたんです。ただ世間的に、“ネットで活動してるよくわからない人たち”みたいな見られ方はすごくありました(笑)。今はそこからいろんな人が各方面でプロとして活躍していますけど、その中で作曲や音源制作の方面に流れていった人って僕の周りの人間だと思っていて。“どんなオーダーにも応える”という、いわゆるプレイヤー的な立ち位置の人ってそもそもスタート地点で僕らと向いてる方向が違ったと思うんですよ。僕は“音源を作る”ことが先にゴールとしてあって、それを広めていく手段として動画やSNSがあるという考え方だったんです。そういう意味では、“インターネットのギタリスト”と呼ばれるより、“作曲家ギタリスト界隈”って言われるほうがしっくりきます。
たしかに、そう聞くと青木さんを始めとするG.O.D.メンバーの活動スタイルにすごく納得できますね。
僕らは自分のギターを“録音物”という形で表現をするために頑張っているから、結果としてDTMはもちろん、レコーディングもミキシングも絶対に避けては通れなかった。だからギターの音にも、ミックスやアレンジにもうるさいんです。ギターを弾くことに特化したプレイヤー気質の人が作った曲だと、G.O.D.みたいな曲にはならないかなと思います。
現代はアマチュアでも自分でミックスや宅録まで行なうのが主流になっていますが、ようやく青木さんやG.O.D.のやっていたことに時代が追いついたのかなと感じますね。
そうですね。若干時代に追い越された気もしますけどね(笑)。というのも、世間がエンターテインメントに求めるものって、より短い尺だったり、より最初の5秒においしい部分が詰まっているものに変わってきたじゃないですか。まだTwitterのない時代って、例えば自分のウェブサイトで何か告知をしたら、2週間くらいは賞味期限があったんですよ。でも今はTwitter上の賞味期限って20分くらいしかないと思うんです。G.O.D.の作るコンテンツは重厚長大なので、このままだと入ってきてくれる人が減ってしまうなという危機感はあります。音楽の聴き方がサブスク中心になった影響もありますけどね。
その変化は大きいですよね。
サブスクでいろんな音楽に出会えるようにはなったと思うんですけど、その一方でアーティストとの結びつきを弱めた部分があると思っていて。例えば、アルバムを1枚通して聴くことって減ったじゃないですか。だから、どうやったら僕らが届けたいと思っているコンテンツをじっくりと聴いてもらえるのか、ということはすごく悩みますね。ほかにいくらでも味わうコンテンツがある中、時間を割いてもらうのはなかなか難しい。でも一度好きになってもらえれば、くり返し聴いてくれると思うんです。そのためにG.O.D.ではカバー・コンテストやTAB譜の販売、ステム・データの販売を行なったりもしていて、興味を持ってくれた人がどこまでも味わえるようにコンテンツを発信していくのが大事だなと思っています。