The Birthdayの新作『サンバースト』は、シンプルな構成のパンク・ロックが鳴り響く1枚。鉄壁のバンド・アンサンブルの中で骨太のギターをかき鳴らすフジイケンジに、アルバム制作についてインタビューを敢行した。コロナ禍でバンドの活動が思うように進まなかった昨年、フジイにどのような変化があったのだろうか。
取材・文=小林弘昂 人物写真=星野俊
ギターを練習しましたね。
今が一番上手いっていうくらいの域に達したかな。
『サンバースト』は昨年の頭から制作を始めていたとのことですが、どのようなアルバムにしようとしていましたか?
もう、いつもの感じで(笑)。4人集まって、モチーフをスタジオに持ち寄ってガヤガヤやりました。長い準備期間があったから、今の自分たちのドキュメンタリー映画というか、その時の等身大の感じを録音していけたらいいなっていう。
日常を切り取ったような?
うん。完成形みたいなものが見えていたわけじゃないですし、行き当たりばったりでやってましたね。
今作には昨年リリースしたシングル「ヒマワリ/オルゴール」が収録されていませんよね。一説によると、曲がたくさんできたからアルバムにはほかの曲を収録しようという話になったとか。
それもありますね。あとは去年やろうとしていた全国ツアーが東名阪の3本だけになったんですよ。そのタイミングであのシングルを出したから、“お披露目ツアー”みたいな意味もあって。だから、僕の中ではもうあれで完結した感じもあったんです。“もう次に出すものは全部新曲でいいんじゃないか?”って。色々と予定していたことがズレズレになって、たまたまこういう形になったんですけど、結果的に良かったんじゃないかな。
この1年間は自宅にいることが多く、ギターと接する機会も増えて“今が一番上手い”というギタリストも多いですが、フジケンさんはどうですか?
僕もそうかな。やっぱりライブが延期になったのはしょうがないし、申し訳ないなと思ってたんです。でもそこで時間が生まれて、それはそれですごくありがたかった。僕はもう、そういう時間があったら研究にあてたいからギターを練習しましたね。今が一番上手いっていうくらいの域に達したかな。
おぉ〜! 具体的にどんな練習を?
僕は教則DVDを観るのがすごく好きで、色々取り寄せては練習して。でも、そういうのってツアー中とかレコーディング期間中とかだったら、あんまり身が入らないんです。
日々のやることに追われて、そうなりますよね。
毎日ずっとやっていけば習得できる技術もあるけど、どうしても三日坊主になりがちで。でも、今回くらい期間が空くとそれができたから、“これはチャンスだ!”と(笑)。
練習内容はジャズですか?
そうそう。ジャズですね。
『サンバースト』の制作に生かされた部分もあったり?
うーん、どうなんですかね? 上手くなってる部分はあるんだけど、何か下手になってる部分もあって(笑)。“ここ、こんなに時間かかるかな?”って手こずったところもあったんですよ。だからトータル的には変わってないけど、楽しめた時間でした。
古市コータローさんはコロナ禍で音楽をたくさん聴くようになったと話していたのですが、フジケンさんは何かインプットはありました?
実はCDを聴くよりも、教則DVDを観てるほうが良くて(笑)。解説しながらやってくれるから、もう最高のサンプルなんですよ。
なるほど(笑)。どんなギタリストの教則DVDを?
ジョー・パス、ジム・ホール、タル・ファーロウとか。
おお、めちゃくちゃ難しいですよね。
難しい。でも、観るのはすごく楽しいです。
歌が呼ぶんですよ。
そうとしか言いようがないです。
楽曲の話も聞かせて下さい。「息もできない」のAメロのアルペジオがすごくキレイです。そのあとのサビのコード・ストロークまで一筆書きのようなフレーズで、静から動にかけての音色のコントロールが素晴らしいなと思いました。これはもう右手の力加減だけで?
うん。あとはフェーダーかな。Aメロとかをサビと同じ音量でやると、うるさいんですよ。だからAメロでは力を抜いて弾きつつも、ミックスの時にフェーダーでだいぶレベルを突いたりしましたね。バンド・サウンドだから、あんまりAメロ、Bメロ、サビでチャンネルが違わないほうがいいじゃないですか。一筆で弾いている感じを出したかったから、その起承転結をフェーダーも含めて工夫しました。
Aメロでは、チバさんはパワー・コードのミュートに徹しています。
アレンジの段階で、僕はもうちょっとチバ君に弾いてもらって、2本のギターの掛け合いをどこかに入れたかったっていうのが、すごくあったんですね。それがあると僕も休めるというか、コード・トーンだけのところを作れるようになったし。
やはり2本のギターのバランスを一番に考えていると。
そうしないと、ミックスの時に右側だけの情報量がやたら多くなるんですよ。そういうところは“ああしない? こうしない?”と打ち合わせをしました。
ギター2本の振り方だと、THE STREET SLIDERSが独特ですよね。
スライダーズ最高ですよね。見事ですよ。去年の1月にHARRYさんのサポートをやって、スライダーズの曲をけっこう演奏することになったので、それをコピーするために聴いてたんですけど、やっぱりすごかったなぁ。で、打ち上げの時に僕はインタビュアーになりました(笑)。“あれ、どうやったんですか?”とか、“あれは海外レコーディングですよね?”とか。
キッズに戻ったと(笑)。フジケンさんはギター・マガジン2020年7月号の日本の名盤アンケートでスライダーズの1st『SLIDER JOINT』を始め、『がんじがらめ』、『JAG OUT』、『夢遊病』を挙げていましたし、かなり影響を受けていますよね。
そうですね。あんなの、ほかに聴いたことないですもん。ストーンズ・テイストのバンドはほかにもたくさんいましたけど、一番カッコ良いなと思います。
「月光」はトレモロ・ピッキングが疾走感につながっています。
僕、あれ下手なんです(笑)。この曲は最初3ピースじゃなくて、チバ君もギターを弾いていたんですよ。で、チバ君がああいう感じのフレーズを弾いていて、“これ弾いてほしいんだよ”って言われたんですけど、“いや、チバ君が弾きなよ。こっちは別のことやるから”と。
(笑)。
そのあと、“この曲は手ぶらで歌いたい”となったんですね。でも、チバ君が弾いていたフレーズが素敵だったので、僕が引き継ぐことになったという。それを自分なりに変えたりしたんですけど、高いポジションをグワーって弾くのはあんまりやらないので。
そうですよね。だから何があったんだろうなと思って。
ははは(笑)。いや、でもやってみるものですよ。気に入ってます。
たしかにチバさんが作ったフレーズだと言われて納得がいきました。チバさんって「木枯らし6号」など、ああいった雰囲気のフレーズをよく弾いている印象です。
そうそう。今作ってる曲もチバ君がトレモロ・ピッキングをやってます。
こういう“チバさん手ぶら曲“は、フジケンさんの十八番だと思うんですよ。
本当ですか(笑)?
はい。「Red Eye」から始まり、「LOVE SHOT」、「24時」、「DIABLO〜HASHIKA〜」はテンションを織り交ぜたバッキングがジャジィだしブルージィだし、もう凄くて。
こういう曲は3つしかチャンネルを使ってないので、“本当にこれで成立してんのかな?”ってずっと思ってるんですよ(笑)。
いやいや、成立してますよ(笑)!
“ダビングしようかな?”って、ずーっと考えながらやっています。そういえば「月光」はアルバムのリード曲としてMVを撮ることになったんですよ。野村徹さんっていう映像作家の方がいるんですけど、僕が“野村さんがいいです”とリクエストして、それで撮ってもらったら、すごく良くて。その映像込みで完成形みたいなね。そう感じるほど、僕は監督の撮ったものがすごく気に入っています。
「ギムレット」は久しぶりに7分近い大作になりましたね。この曲はチバさんの歌詞が1つの物語のように進んでいきますが、どのように作っていったのでしょうか?
「月光」もそうで、ポエトリー・リーディングみたいなものが最近多いんですよ。チバ君がバーっと詞を書いて、ザックリとコードはこういう感じで、みたいなものがあって。それでセッションで作るんですけど、1stテイクでイントロとか、間に出てくるリフとかフレーズっていうのができて、それをどこにはめていくかみたいな感じでした。
2:30くらいからのピッキング・ハーモニクスに耳が引きつけられます。
おしゃれにしようかなと思って(笑)。あそこは3回目のAメロなんですけど、1番と2番と同じことはやらないのが3回目のAメロの宿命なんです。となると、ちょっとおしゃれにしようかなと。無骨なおしゃれですね。
フレーズはバンドでセッションしている間に作り上げちゃうんですよね?
大枠は、最初の1テイク目で出てきたフレーズで。1テイク目にセッションする時って、曲の長さが3分でも7〜8分くらいダラダラ長くやるんですよ。その中で曲に似合うフレーズをバーっと弾くんですけど、それをどこで使うかみたいな感じなんですよね。どの曲もだいたいそうやって作っています。
素材を選択すると。
セッションは何度かやるんですけど、それを元にしながらですね。それで“思っていたのと違うな”とチバ君が言ったら、また考え直したりもします。
フジケンさんみたいな、メロディアスで自由なギターを弾くにはどういった練習をすればいいんですかね?
……本当にそう思ってますか(笑)?
思ってますよ(笑)!
もうね、歌が呼ぶんですよ。そうとしか言いようがないです。それは音楽をいっぱい知ることが大事なんじゃないですかね?
フジケンさんのプレイに一番影響を与えた音楽は?
それはいっぱいあるな〜……。たくさんのバンドに“こういうのを作りたいな”という曲がいくつかあって。“このバンド!”っていうわけではなく、まんべんなくですね。例えばクラッシュだったら「Lost In The Supermarket」。あのギターの雰囲気、どうやって作るんだろうなって思います。チューニングがすごく悪いんですよ。“今だったら絶対ないな”っていうくらい(笑)。でも、“何かカッコ良いなぁ”っていうのがあって。1個1個のプレイはすごく理にかなって美しいんだけど、あまり上手じゃない感じに弾いているのとか、すべてが合わさってカッコ良いなと思います。あとは曲自体がポップでメロディアスなんだけど、アルバム全体で聴くと大パンクな感じもありますし。
最後に、今年でThe Birthdayは結成15周年、フジケンさん加入10周年になりますが、今後の抱負を聞かせて下さい。
……深いね、それ(笑)。まず普通にライブができるような世の中になってくれたらいいなぁ。ライブでもみんなマスクをしてもらってるから、表情が見えなくなっていて、そういうのがなくなるといいなと思っています。まぁ、The Birthdayは変わらずやっていきますよ。
作品データ
『サンバースト』
The Birthday
ユニバーサル/UMCK-1690/2021年7月28日リリース
―Track List―
01.12月2日
02.息もできない
03.月光
04.ラドロックのキャデラックさ
05.レボルバー
06.アンチェイン
07.晴れた午後
08.スイセンカ
09.ショートカットのあの娘
10.ギムレット
11.バタフライ
―Guitarists―
チバユウスケ、フジイケンジ