“ロンバケ”を語り尽くす!鈴木茂 × 村松邦男(後編) “ロンバケ”を語り尽くす!鈴木茂 × 村松邦男(後編)

“ロンバケ”を語り尽くす!
鈴木茂 × 村松邦男(後編)

特集最後の記事として、大滝詠一のギター・サウンドを支えた鈴木茂と村松邦男による対談(後編)をお届け! こちらでは、ちょうど40年前に生まれた名作『A LONG VACATION』の話題を中心にお送りします。いやはや、これで4ヶ月にわたって展開してきたギタマガ流ナイアガラ特集もおしまいです。また会える日まで!

取材=山本諒 撮影=山川哲矢

茂さんがことあるごとに
タマ(真空管)を交換してた(笑)。(村松邦男)

『A LONG VACATION』は2人ともレコーディングに参加していますね。オファーはインペグ(註:ミュージシャンを斡旋する業者のこと)を通して?

 うん。僕はインペグ屋さんからだね。それで六本木ソニーに行ったら、人数が多くてびっくりした。

村松 僕も同じような感じです。スタジオに行ったら“これか〜、ウォール・オブ・サウンドだ”みたいに圧倒されましたよ。ただ、あんな大人数でやると、ヘッドフォンでモニターを聴いても自分の音が全然わかんないんだよね。“まあいいや”と思って、想像で弾いた記憶がある(笑)。

 一度さ、その大人数のバンド・メンバーでオケを録って、まったく同じことをさらにもう1回やったよね?

村松 ダビングね、やったね。

 “オケのダブレコ”をやったことがあった。あれも面白かったね。何の曲だったかは、残念ながらよく覚えてないんだけど。

『A LONG VACATION』の一発録りの仕方についてですが、広い1つの部屋に10数名集まるわけですよね。パーテーションはどうなっていましたか?

村松 各楽器ごとのパーテーションを付けてたと思う。アコギのグループ4〜5人でひと区切りって感じ。

 だから、同じ楽器では敷居はなかったってことだよね。エレキ・ギターに関してはね、アンプだけブースに入れてたような気がする。

村松 茂さんはたしか、アンプはフェンダーかなんかのヘッドに、マーシャルのどでかいキャビを使ってなかったかな?  とにかく、ことあるごとにタマ(真空管)を交換してたのを覚えてますね。“これはソビエトのタマだよ”とか言ってさ(笑)。

 へぇ〜(笑)。

村松 “この人はこういうことが好きなんだな”って(笑)。1回録り終わるとまた換えてさ。

 (笑)。まあ、そういうのは好きですね。どの現場でもやってるわけじゃないけど。

久々の大滝さんのレコーディングで、気合いが入っていた部分も?

 どうかな。ただ、僕は曲に反応するからね。曲が引っ張ってくれるから、そうやってこだわり始めたのかもしれない。

村松 ああ、そういうのありますよね。

 曲そのものの完成度が高いと、曲の世界に入り込めるから迷わずに進めるんだよね。ユーミンなんかもそうだった。『A LONG VACATION』も、“これ以外のフレーズはないだろう”って曲ばかりだったと思う。

「君は天然色」には短い名ギター・ソロがありますが、ああいうフレーズも迷いなく浮かぶものですか?

 そうですね。「君は天然色」とか、「スピーチ・バルーン」のギター・ソロもそうだけど、だいたいあの頃の大滝さんとやる時はザ・シャドウズを念頭に置いたね。クリーン・トーンで、アームでフワフワさせるような感じというか。

“ロンバケ”の2人の役割分担を改めて整理してもいいですか?

村松 僕は完全にリズム隊の一部。いかにスネアのタイミングと合わせるかとか、そこだけですよ。茂さんは、ギター・ソロのメロディを作っていく感じでしたよね? つまりリード担当。

 そうだね。メロディは必ず口ずさんでから考えてましたね。そういえばさ、村松くんのリズム・ギターという話だと、NHKの収録(『我が心の大滝詠一』)で村松くんと一緒になって、隣同士で演奏したじゃない?

村松 ああ、やりましたね。

 あの時に村松くんが使ってたダンエレクトロのカッティングと僕の音が、妙にうまくマッチしたんだよね。リズムがとてもいい意味で、フワッと浮き上がってくる感じで。“うわ〜、いいな”と思いながら弾いてたんだけど。

村松 カッティングは昔から好きですからね。『ロンバケ』の頃はモータウン的なカッティングにハマってた。最近はね、バート・バカラックの音楽に出てくるようなカッティングが好きですね。

 バカラックは大滝さんも、けっこう聴いてたと思うね。

村松 うん。あの「雨のウェンズデイ」なんか、“バカラックの要素、デカいな”と思いますもん。

 そういえばバカラックで思い出したけど、僕、大滝さんに“バカラックをパクってる”と言われたことがあったな(笑)。

村松 パクリ疑惑(笑)?

 うん。はっぴいえんどの3枚目(『HAPPY END』/1973年)に「明日あたりはきっと春」っていう僕の曲があってさ。その歌い出しが“バカラックの「Alfie」と同じだ”と言って、レコーディングの最中に大滝さんが怒り始めたの(笑)。“そんなの知らないよ!”って言って、結局無罪放免になったんだけど(笑)。

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