幸せな気分にしてくれる。
大滝さんはいつもそこがあった。(鈴木茂)
お2人のキャリアにとって、大滝さんと一緒に作った音楽というのはどんな存在でしょうか?
茂 どうなんだろうね。音楽を作るのって、基本は共同作業じゃないですか。歌手、ギタリスト、ドラマー、ベーシストがいて……。そうなると、色んな人の良いところを引き出さないと、自分の理想とする音楽も作れないっていうところがあるんです。そういった意味で、大滝さんはそのコミュニケーションの取り方がすごく上手かったと思うの。
村松 興味深い。プロデューサー的な発言だね。
茂 そこを学ばせてもらったというか、何より僕自身がギターを弾いていて楽しいんだよね。例えば、“ジェリー・リードの「Amos Moses」のギターのフレーズをヒントにしてちょっとリフを考えてくれ”って言われたから、「びんぼう」(『大瀧詠一』/1973年)が生まれた。「論寒牛男」(『NIAGARA MOON』/1975年)みたいな、もう二度とできないような速弾きが弾けちゃったりとかね(笑)。そういう、普通ではありえないことが起こったりするんです。これは細野さんとやる時も同じなのがまた面白いんだけど……。とにかく、幸せな気分にしてくれるというか。やっぱりあの人の曲で、自分がうまいことギターを弾けたら、すごくいい気持ちになれるんです。そこがいつもあって、だからずっと続けてきたっていう感じがあるんだけどね。
村松 凄い。やっぱり、はっぴいえんどでバンドとして一緒にやっていた原点があるからじゃないですか?
茂 そうかもね。バンドとして濃密なやり取りをした時間も大きいかもしれない。ソロになって、『A LONG VACATION』あたりになってくると、完全にでき上がっていくじゃないですか。大滝さんの世界が。僕は正直言うと、“もっとバンド然とした「福生ストラット(パートII)」みたいな方向の曲を持ってきてくれよ”っていうのは、実は思っていたんだけど。そういうのももう一度、ぜひやりたかったですけどね。ベースとドラム、ギターとでヘッド・アレンジしながら作り上げていくような。
なるほど。では村松さんにとって、大滝さんとの音楽活動はどんな存在ですか?
村松 SUGAR BABEでまず、大滝さんがエンジニアとしてがっつり関わってくれたことから始まってますからね。SUGAR BABEでは山下達郎くんからもいろんなことを教わりましたけど、大滝さんからはもう、とことん学びましたよ。2人でフェンダーのTwin Reverbの前に行って、“違うな”とか調整しながら音色を決めていったり、ピッキングの細かいアタック感を細かく指定されたりとかさ。だから本当に基礎を叩き込んでもらいました。『ロンバケ』以降は、アレンジとか作曲で“へ〜、そういうやり方あるんだ”って学びもあったかな。“それ、前もやってるよ……”っていう、批評的な気持ちも持ちつつ(笑)。でも、こんだけね、親しまれてる人ってそう何人もいないよね。NHKで特番作るぐらいのね。
付き合いの深かった2人から見ても稀有な方だったんですね。
村松 うん。大らかな部分はあるけど、自分の趣味とか仕事は、本当にとことん追求するでしょ? あの人、“好きなことをどこまで好きでいられるか、自分で試してたんじゃないかな?”と思うけど(笑)。
茂 この間、ユカリ君(上原裕/d)が言ってたんだけど、草野球をする時もきちんとスコアをつけさせるんだって(笑)。そういうデータへの執着は凄まじいものがありましたよね。音楽を作る時って、もちろん瞬間的なアイディアとかインスピレーションが大事だけど、それ以前に、そういった蓄積が尋常じゃないんだよ。僕も嫌になるくらい(笑)。
村松 記録魔。
茂 記録魔だよね(笑)。
村松 それは、山下も一緒。あいつも記録魔だね。俺、ずっと記録魔と付き合ってきたんだ(笑)。
作品データ
『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』
ソニー/SRCL-12010~12011/2021年3月21日リリース
―Track List―
【CD1】
01.君は天然色
02.Velvet Motel
03.カナリア諸島にて
04.Pap-pi-doo-bi-doo-ba物語
05.我が心のピンボール
06.雨のウェンズデイ
07.スピーチ・バルーン
08.恋するカレン
09.FUN×4
10.さらばシベリア鉄道
【CD2】
『Road to A LONG VACATION』
―Guitarists―
安田“同年代”裕美、三畑卓次、笛吹利明、福山享夫、川村栄二、松下誠、松宮幹彦、吉川“二日酔ドンマイ”忠英、徳武弘文、村松“カワイ・ギター教師”邦男、鈴木“Hoseam-O”茂