Interview|和嶋慎治(人間椅子)『苦楽』に込めた夜明けの光 Interview|和嶋慎治(人間椅子)『苦楽』に込めた夜明けの光

Interview|和嶋慎治(人間椅子)
『苦楽』に込めた夜明けの光

2020年2月の海外ツアーを経てさらなるパワーアップを果たした人間椅子による、実に22枚目のオリジナル・アルバム『苦楽』。悲しみや苦しみを乗り越えた先にある夜明けの光をハードなディストーションと力強い言葉で描き出した、彼らならではの持ち味が炸裂する作品だ。世界的な混乱が生じる中、どのようなことを感じ取りながら制作を進めていったのか、和嶋慎治(g,vo)に語ってもらった。

取材=田中雄大 ライブ写真=塩見 徹


2020年の海外ツアーは
予想以上の盛り上がりを見せまして。

ギター・マガジンでは約2年ぶりのインタビューとなります。その間色々なことがあったと思いますが、いかがお過ごしでしたか?

 バンド的にも世の中的にも色々ありましたね。人間椅子としては海外ツアーに行ったのは大きかったです。ドイツではベルリンとボーフムの2ヵ所、あとはイギリスのロンドンです。2020年の2月に行ったので、ギリギリだったんですよ。

初めてというのは意外ですね!

 人間椅子でもYouTubeにMVを載せているんですけど、それに対して海外の方の反応がいいんですよ。特に『新青年』収録の「無情のスキャット」という曲へすごく反応があって。このタイミングで行ければいいなと、ようやく機が熟した感じです。

手応えはいかがでしたか?

 それがね、予想をはるかに上回る盛り上がりを見せまして。行く前はどこまで受け入れてもらえるか不安だったんですけど、行ったらみんなにこやかに盛り上がってくれました。あと、一緒に歌ってくれるんだよね。今まで国内のライブでそんなに大合唱が起こるっていうことはなかったんだけど、海外で初めて大合唱が起こって。しかも、声が大きいし、体の動きも大きいし。つまり日本とは人種が違うんだなと思った。こっちが出した倍くらいのパワーで返ってくるというか。だからそれに乗せられて我々も通常以上のパフォーマンスが出せるっていう感じで、そういう経験は初めてでした。

そうした経験がまた制作や活動に活かされたのでは?

 それはありましたね。海外で大いに盛り上がってくれたところにはポイントがあって、フレーズやメロディのフックが効いてたり、パンチがあったり、いわゆるキャッチーさがある部分なんですよ。なおかつシンプルなワードが乗った部分とか、簡単なくり返しとか。だから曲の伝えたいことをそこに持ってくるのがいいんだ、とかね。そういうキャッチーさはハードロックやヘヴィメタルにおいても非常に重要なんだなというのを痛感しました。

ロンドン公演にて。

宇宙のどこかや地獄、オバケのいる世界、
そういう虚構よりも現実が圧倒的だった。

その海外ツアーの直後にコロナ禍に入ってしまったことで、『苦楽』の制作には大きな影響があったことと思います。

 僕は歌詞を書くので、どうやってアルバムを表現しようかと思った時に、今までは宇宙のどこかとか、地獄とか、オバケのいる世界とか、そういう虚構の怖い世界を置いて、そこからの視点で現実を眺めるスタンスの曲が多かったんですよ。文学作品を借りてくるにしてもそういう感じでやっていたんだけど、去年からこの世の中になって、僕にとっては虚構よりも現実のほうが圧倒的にパワーがあると感じたんです。その圧倒的な現実を前にして虚構側から書こうと思っても、書けなかったんですよね。だから逆に現実の側から虚構を見るというか、そうすればアルバムを作れるなと思って。だから『苦楽』はやっぱり今の時代ならではの内容になっているはずです。

現実が虚構を超えたと。でもたしかにそういう世の中になっていますね。

 “今の世界が暗い”というのは誰しも考えると思うんです。でも、いずれなんらかの形で朝が来るから、それが良い朝であるように、良い夜明けをみんなで迎えたいなと。そういう光があるということを色んな曲で言いたかったというのはあります。

ちなみに、ステイホーム期間に新たな練習をしたり、新しい機材を買ったりはしましたか?

 いや僕はね、特に昨年は趣味の世界に没頭してしまいまして(笑)。バイクなんですけど。

(笑)。和嶋さんのYouTubeチャンネル、“哀愁のワジマシーン”で拝見しています。

 三密が避けられるっていうのもあってね。だからこのコロナ禍にあって、新しい奏法とか楽器を練習している人、僕はリスペクトします(笑)。だからレコーディングの時も、もちろん一生懸命録音しましたけど、ちょっと個人的に不安があって。ギター練習してなかったから(笑)。あと、一番の練習ってやっぱりツアーやライブなんですよ。それがすべてなくなったので良いギターが弾けるのかってちょっと不安だったけど、特段なにか衰えた感じはなかったので、ああよかったなというのが正直な気持ちです。

個人的にですが、ギターとバイクって趣味性の面で似たところがあると思うんですよね。

 たしかに似てる感じはしますよ。楽器弾いてる時とバイク乗ってる時ってけっこう近い感覚。非日常というかね。ギターってものすごい値段のものがあったりしますけど、バイクもそうなんですよ。自分でカスタムできるのも同じだし。あと、好きな人は何本もギターを買ったりするでしょ? バイクも好きになっちゃうと何台も持っちゃうんですよ(笑)。

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