Interview|和嶋慎治(人間椅子)『苦楽』に込めた夜明けの光 Interview|和嶋慎治(人間椅子)『苦楽』に込めた夜明けの光

Interview|和嶋慎治(人間椅子)
『苦楽』に込めた夜明けの光

バンド生活32年目にして、
初めてコーラスを使いまして。

改めてアルバムについてですが、「杜子春」(読み:とししゅん)は1曲目から8分近くの大作です。楽曲のメインの部分はヘヴィで人間椅子の王道スタイルですが、イントロはクリーンなストロークから始まって意外性がありました。アウトロも明るい感じですよね。

 曲を作り出して、最初に完成形に近づいたのはヘヴィな部分なんですけど、作っていく過程で“この曲は「杜子春」にしたい”と思ったんですよね(杜子春:芥川龍之介が1920年に発表した短編小説)。そうすると、作品と同じように“人間にとって大事なのは仙人になることや理想を追い求めることではなく、お母さんと心の底から出る声、そういう愛情なんじゃないか”ということを、曲を通して言いたかったんですよ。“杜子春”はあの世にいる親御さんと会話をするから、舞台をこの世とは違うところから始めないといけないと思って、天国の感じを出したかったのでクリーンで浮遊感のあるイントロにしたんです。

曲本編への導入ということですね。

 そうです。そしてアウトロでは“人間には愛情が必要だ”ということを言いたかった。この曲の中の杜子春は現実を憂いている状態にあるわけだけど、それでも希望を持って生きたいという気持ちを表わすために、明るく終わりたかったんですよね。それでメジャーな感じにしてみたんです。

今回はある意味コミカルな曲も多いのかなと思いまして、「人間ロボット」や「宇宙海賊」、「疾れGT」はそういう楽曲の印象です。

 たしかにキャッチーでポップな感じですね。そういう流れを作ってみました。

「人間ロボット」はイントロから非常にロボット的な音が聴こえますが、あれはギターの音ですよね?

 アッパーオクターブ・ファズで、MXRのSub Machine(M225)というオクターブ上下が両方出るものを使ってます。普通のアッパーオクターブ・ファズよりも無機質な音がするんですよ。だから曲によってはただ味気ない音になっちゃうんだけど、ロボット感を出すのに非常に良い感じで。

まさに金属音という感じですね。今作ではほかにもアッパーオクターブ・ファズが登場していますよね?

 「肉体の亡霊」のギター・ソロもそうですね。こっちはfoxxのtone machineの回路で自作したものです。録音する時にちゃんとギターを弾けるか一抹の不安があったとお話ししましたけど、いざレコーディングに入ったら弾けるもので、“弾ける!”って嬉しくなってエフェクターもたくさん使ったんですよね(笑)。

(笑)。「宇宙海賊」も変わった音が盛り沢山です。

 これも「人間ロボット」から続き、音でも楽しめる曲ですね。作曲者の鈴木(研一/b,vo)君に“イントロは宇宙をギターで表わしてくれ”って言われたんですよ。どうやろうかと思ったんだけど、アナログ・ディレイの発振が僕は好きで、あれを入れるとさ、とりあえず古くさい音楽に聴こえるんだよね(笑)。だからBOSSの技シリーズのDM-2Wを発振させて、そこにフェイザーも入れたかな。

たしかに、“特撮”みたいな古さを感じる音です。

 そして間奏では海賊たちが楽器を弾いて、ソロのかけ合いをしてる感じにしてみようと。だから前半のギター・ソロはちょっとヘタな感じで弾いてます(笑)。あと、ギター同士のかけ合いだと違和感というか、僕1人なのにかけ合いって変だから、もう片方はテルミンなんです。

なるほど! テルミンだったんですね。

 今までテルミンってジミー・ペイジみたいに効果音として使うだけだったんですけど、一昨年くらいかな、リットーミュージックさんの企画で“テルミン奏者にテルミンを教えてもらう”っていうのがあって、プロの方に習ったんですよ(人間椅子・和嶋慎治が学ぶ大人のテルミン講座~摩訶不思議な世界へようこそ~)。そうしたらなんとか音程が出せるようになって、今回初めて楽器としてテルミンを使いました。新しい試みですね。

「疾れGT」も、ハーモニクスだけの間奏があったりしてユニークです。

 あれも斬新なことをやってみようかなと思って。この曲はおもにバイクの歌詞なんですけど、しかもいわゆる“旧車”の歌にしたくて。で、イントロの“ダンダンダダダン……”ってリズムがあるでしょ。あれはバイクで言うコールってわかります? 無駄に“ふかす”やつ。あれを楽器でやってみたんですよ。

そういうことだったんですか(笑)。

 そうです。あ、別に僕は暴走族を肯定してないですよ(笑)! そんな乗り方はあまりオススメはしないし自分もしないんですけど、まあロマンとして。よく暴走族って“パラパパパパ~~”って「ゴッドファーザーのテーマ」とか鳴らすじゃないですか。あれは6連ホーンと言って、音が6個しか鳴らないんですよ。6音しか出せないっていうことで「ゴッドファーザーのテーマ」があの頃選ばれたらしいんだけど、そんな感じのフレーズを入れたいということで「ゴッド~~」に似たフレーズを自分で考えまして。で、普通に弾くとただのギター・ソロになるのでハーモニクスでやってみたという、非常に手間のかかる間奏です(笑)。

なるほど! 

 あとイントロではコーラスを使いました。実はバンド生活32年目にして、初めてコーラスというエフェクターを使いまして(笑)。

えっ、初めてというのは意外ですね。

 卓でのあとがけは今までもあると思うんですけど、かけて録ったのは初めてなんです。なんでかと言うと、あんまり僕はコーラスの音って好きではなくて。こういうエフェクトはコーラス、フェイザー、フランジャーなどありますけど、フェイザーは好きなんですよ。でもコーラスとフランジャーは人工甘味料というか、作り物みたいな音に聴こえちゃって。揺れる感じがフェイザーとは違うんだよね。

イメージとしてはわかります。

 ただ、この曲ではあえて80年代感を出すのが合ってると思ったので使ってみました。曲が必要としたのでということですね。機種はBOSSの技シリーズのコーラス(CE-2W)です。

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