Interview | ビートりょう(THE BOHEMIANS)【後編】魂の『essential fanfare』全曲解説 Part.2 Interview | ビートりょう(THE BOHEMIANS)【後編】魂の『essential fanfare』全曲解説 Part.2

Interview | ビートりょう(THE BOHEMIANS)【後編】
魂の『essential fanfare』全曲解説 Part.2

THE BOHEMIANSの10thフル・アルバム『essential fanfare』について、ギタリストのビートりょうにアルバムの全曲解説を依頼してみた。本記事ではインタビュー前編に続き、アルバム後半の解説と、レコーディングでの使用機材をご紹介しよう。

取材・文=小林弘昂 人物・機材写真=星野俊


簡単に言うと、
僕は浮気ギタリストなんです。

全曲解説、後半です! 6曲目は本間(ドミノ/k)さん作曲の「VINYL PRESS STONE」。鍵盤がメインのポップな楽曲で、本間さんらしさが出ていますね。

 本間的には、ビリー・プレストンとかの世界観だったんじゃないですかね。あの男、また注文がうるさくてねぇ。

(笑)。本間さんは完成形のビジョンが見えた曲作りをしているんですね。

 僕と本間は宅録で音源を作ってくる人なんですよ。なので実はTHE BOHEMIANSは宅録バンドという。で、本間のデモを再現した形に近いんですけど、ギター・ソロはプリプロの音なんですよ。一応本チャンのレコーディングでもソロを弾いたんですけど、超えられなくて、“だったらこっちでいいんじゃない?”ってことで(笑)。プリプロをそのまま採用したってパターンはけっこうあって、『憧れられたい』に入っている「THE ROBELETS」は、実はバンドの音が丸ごとそうなんです。プリプロの時はアンプを通さないでシミュレーターでやるんですけど、今はラインの音でもすごく良く録れますからね。

そうだったんですね。そのギター・ソロですが、フロント・ピックアップのサウンドも相まって、かなりメロウに仕上がりました。

 メンバーが作った曲の時にはプロに徹するんですよ(笑)。要は言われたようにちゃんとやる。自分で作った曲は“自分の曲だからいいだろう!”みたいな感じですけど。

本間さんから“こういうソロで!”みたいなオーダーがあったんですか?

 リフはありましたけど、ソロの細かい指示はなくて。このソロは1回セッションでまるっと弾いて、“良いじゃん!”みたいな感じになったのかな。それでレコーディングをしたら、“プリプロのほうが良かったかな……”と。

7曲目の「カンケイシャになりたくないっ!?」は、パワー・ポップがひねくれた感じになりましたね。

 ひねくれすぎましたね。イントロから。

これはもう完全にりょうさんが作った曲ですよね?

 いや、それはわからない! メンバーの誰とは言わないですけど、間違いなくハロプロにハマったからできた曲ですね。

この曲はストレンジなシンセと骨太なギターが混ざっていて、不思議な印象です。

 この曲、基本はルーズなロックンロールなんですよ。ほっしー(星川ドントレットミーダウン/b)は“ギターのリフがPUFFYっぽい”って言ってましたけど。そこにシンセが入って、すごくメリハリが付いたと思いますね。本間ってシャイなので、わかりやすいリフをあんまり弾きたがらないんです。でも、さわおさんのアイディアであのシンセを入れることになって。

あのシンセを軸にするのは、思い切ったアレンジだなと思いました。

 うん。正解に近づいたなと思いますね。この曲、僕の中ではエアロスミスなんですよ。「F.I.N.E.」っていう曲があるんですけど、まさにそれ。パワー・コードに小指で6度を足すブギー・スタイルがあるじゃないですか? 僕ね、各アルバムに必ず1曲はそういうギターの曲を入れるんです。それがないと仕事をしてない気持ちになるんですよね。最近気づいたんですけど、チープ・トリックに「Come On, Come On」っていう曲があって、その曲もポップなコードの上でブギーのギターをやってるんですよ。リック・ニールセンは60年代から活動しているから、やっぱりロックンロールの人なんだなと思いましたね。ちゃんとブギーを入れてるのが偉い。ロックンロールはブギーですよ!

話は変わりますが、りょうさんはキース・リチャーズのようにsus4コードをよく使いますよね。

 まぁ、浮気なんですよね。この薬指、小指の動きは。

(笑)。sus4の4度は3度に戻ってくるという習性があります。

 そう。だから結局、元の奥さんに戻ってくるという(笑)。簡単に言うと、僕は浮気ギタリストなんです。ここが大きい見出しになったりして。

見出しにしておきます。では、8曲目「いとしの真理」にいきましょう。

 これはマージービート的な世界観というかね。もうネタバレしますけど、杉真理さんへの完全なオマージュ、リスペクト曲です。実は5年くらい前から作ってたんですよ。でもコードだけがあって、収まりの良い歌詞がない状態で。僕、弾き語りもたまにやるんですけど、去年の弾き語りライブで歌詞を完成させて自分のオリジナル曲として演奏したんですよ。それが良かったからTHE BOHEMIANSでやってもいいんじゃないかとなり、今回レコーディングしたんです。僕の中では、杉真理さんが作る初期ビートルズっぽいマージー・スタイルの曲ですね。ギター・ソロのスライドは70年代のジョージ・ハリスンっぽいですけど。

このウェットな感じのスライドはソロになってからのジョージですね。

 そういうことです。あと、このスライド・ソロはMr.Childrenの田原(健一)さんのイメージもあって。田原さんは僕の中で日本のジョージなんですよ。派手なプレイじゃないけど、シンプルに良いギターを弾くのが好きなんです。

なるほど。ソロでスライドを使った曲はTHE BOHEMIANSでは初めてじゃないですか?

 スライド自体はインディーズの1st『I WAS JAPANESE KINKS』に入っている「She Said Yeah!Yeah!Yeah!」のリフでムダに使ったことはあります(笑)。そういう謎の使い方はしてますけど、ギター・ソロでは初ですね。難しかったです。

9曲目の「図鑑」は、12弦ギターを使った80年代UKのネオアコっぽい雰囲気です。

 そのとおりですね。この曲は去年買ったリッケンの12弦です。イメージとして“プライマル・スクリームの『Sonic Flower Groove』みたいな感じにしたい”と言ったら、千葉(オライリー)君のドラムも80’sじゃないけど、あの年代っぽいリバーブの効いたものになったという。僕、基本的に12弦の曲って好きなんですよ。それだけでアルバムを作りたいくらい。

おお〜。ということは、今後も12弦ギターを使った曲は増えていくんですね。

 やりたいですね。元を取るためには(笑)。この曲ではクリーンに近い音作りですけど、12弦って倍音が気持ち良いので、歪ませても意外とカッコ良いんですよね。僕の12弦はMC5のフレッド・ソニック・スミスも使っていたモデルで、あの人はもうコードをガンガン弾くから、そういう使い方もありなんだなと思いました。それとザ・フーの初期でピート・タウンゼントが12弦を弾いてたじゃないですか。ああいう使い方もすごく好きですね。

ロックンロールっていうのは、
リフとリフの間のタメなんですよ!

いよいよラストスパートです。10曲目「the fanfare」は、コード・ストロークで押し進めるストレートなロックンロールに仕上がりました。

 ギター的にはモッズ・バンドというか、ザ・クリエイションみたいな感じですね。クリエイションのエディ・フィリップスっていうギタリストもES-335を使っていて、その人の“ジャカジャーン!”っていうイメージなんです。もっと繊細に弾くのもありだなと思ったんですけど、このくらいで良いのかなと……。これは作曲者の意向ですね。この曲が今回のアルバムのベスト曲ということにしておこう(笑)。

今は大きくストロークするギタリストが少なくなってきましたね……。

 みんな上手いですからね(笑)。さっきから名前が出るキース・リチャーズとかピート・タウンゼントっていうのは、余白というか、休符の重要性をちゃんとわかってる人なんですよ。というか、イギリスのロックンロールって基本的にそうで。例えばローリング・ストーンズだったら「Brown Sugar」のリフの緩急。フーだったら「I Can’t Explain」のリフ。キンクスだったら「All Day And All Of The Night」や「You Really Got Me」。ロックンロールっていうのは、このリフとリフの間のタメなんですよ!

では最後、「何の変哲もないロッケンロール」ですが……。

 これが個人的には一番良い! 僕のベスト・プレイですね!

(笑)。エディ・コクランなど、輝かしい50年代ロックンロール愛に溢れたナンバーで。

 ロックンロールって、辞書的に言えば50年代アメリカの音楽のことじゃないですか。なんだかんだいって、それを超えられないんですよ。だからこれが正解だと思います。“これをやれ!”と、みんなに言いたいな。このギター・ソロでは、なんとなく50’sっぽくディレイを使っていて(笑)。

ソロの頭は指弾きですよね?

 そうですね。1弦と6弦のオクターブを同時に弾くジョニー・バーネット・スタイルで。このソロは50年代ロックンロール・ヒーローのオマージュが続いているんです。答え合わせをすると寒い感じもありますけど、これを見ている人はそんなにいないと思うので言います(笑)! まず最初がジョニー・バーネット。その次がダニー・セドロンで、ビル・ヘイリー・アンド・ヒズ・コメッツの「Rock Around The Clock」っていう曲のソロ。世界初の速弾きと言われてる曲ですね。その次がジーン・ヴィンセントの「Bluejean Bop」っていう曲のソロで、ギタリストはクリフ・ギャラップかな。で、最後はチャック・ベリーという感じです。“これに気づくヤツがいるかな?”って言いたいところですけど、どうせ誰も気づかないし、興味もないだろうから言う! 言っていこう! クリス・スペディングの「Guitar Jamboree」っていう曲があるんですけど、クラプトンだ、キースだ、タウンゼントだ、色んな人のフレーズをメドレー的に弾いていて、そういう風に曲で遊んでる人が僕は好きなんですよ。全曲解説はそんなところでしょうかね。

ありがとうございました! アルバムを全曲解説してみて、いかがでしたか?

 こうやって思い出してみると、意外とバリエーションがありますね。

今作のりょうさん的な一番の聴きどころは?

 聴きどころとは違いますけど、曲順が良いなと。今の時代、アルバムを出す意味って……みたいなところがあるじゃないですか? でも、やっぱり僕はアルバムで育った世代ですし、1つにパッケージされていることが重要というか、こういう30〜40分のCDを自分の部屋で聴いて生まれる世界があると思うので、ちゃんと通して聴いてほしいですね。特に選曲に関しては平田ぱんだが毎回考えてるし、間違いないと思いますよ。

最後に、THE BOHEMIANSは今後どういうバンドになっていきたいですか?

 うーん……この調子なんじゃないですか(笑)? 変わらず、この調子がいいですね。やっぱり今、わかってるロックンロール・バンドがいないから、THE BOHEMIANSは良くも悪くも今の時代の1つの基準にならなきゃダメだと思うんですよ。今回のアルバム・ジャケットとか、最近のライブ衣装で僕はピンクのジャケットを着てるんですけど、あれは着せられてるんですよ、ある意味。ほかに着るヤツがいないから!

オレが着るしかねぇと(笑)。

 そうそう! 若干それもあるんですよ。好きで着てるのもありますけど。だからこの調子でロックンロール・バンドを続けるしかないですね。

ビートりょう曰く“桃鉄の人”のピンク・ジャケット。過去にはジョニー・サンダースやキース・リチャーズ、日本では古市コータローや真島昌利もピンク色の衣装を身にまとっていた。

Guitars

2019 Gibson Custom Historic Collection
1959 ES-335 Dot Inlay Cherry Light Aged

揺るぎないメイン器

ビートりょうのメイン・ギターは、2019年の秋に御茶ノ水の楽器店で購入したギブソン・カスタム製のES-335。59年製の個体を再現しており、ドット・インレイ、ミッキー・マウス・カッタウェイ、ロング・ピックガード、太めのネックなどが特徴だ。基本的にはリア・ピックアップを使用するが、フレーズによってはフロントも選択する。ライブではトラブルがない限り本器のみで行ない、今作のレコーディングでもほとんどの楽曲で使用された、ビートりょうにとって欠かせない1本。

1976
Rickenbacker 450/12

念願の12弦ギター

こちらは昨年の夏頃に購入したリッケンバッカーの12弦ギター、450/12。76年製だ。ピックガードが交換されていたほか、指板の剥がれが修理されていたため、比較的安価で購入できたそう。THE BOHEMIANSでは2017年の「ポーラ」という楽曲で12弦を使用しているのだが、その時はTENDOUJIのモリタナオヒコからDanelectro製の12弦を借り、ライブでもしばしば使わせてもらっていたため、本器は念願のマイ12弦ギターとなった。今作では「図鑑」で使用。

Amplifier

VOX AC30 6TB

Made in Englandの名機

ビートりょうのメイン・アンプは、the pillowsの真鍋吉明から借りている90年代のAC30 6TB。2017年頃から使用しており、ライブもレコーディングも本機だけで行なっている。BRILLANTのLOWにインプットし、VOLUMEは11時程度で軽いクランチに。ここにBOSS BD-2で歪みを加えた状態がビートりょうの基本のサウンドだ。TREBLEは11時、BASSは12時周辺にセッティングすることが多いとのこと。

VOX AC30 6TB(Back)

スピーカーはCelesion製VOX G12Mが2発搭載されている。裏には古市コータローのサインが入れられていた。

Pedalboard

歪みペダル3台を使い分け

①BOSS / TU-3(チューナー)
②BOSS / BD-2(オーバードライブ)
③FREE THE TONE / FIRE MIST(オーバードライブ)
④Xotic / EP Booster(ブースター)
⑤Roger Mayer / Mongoose(ファズ)
⑥Maxon / AD9Pro(アナログ・ディレイ)
⑦BOSS / TR-2(トレモロ)
⑧Noah’sark / AC/DC-1(パワーサプライ)

 シンプルなペダルボード。ギターからの接続順は①〜⑦の番号通りとなっている。

 ②BD-2はアンプのクランチに歪みを足す役割で、常時かけっぱなしにしていることが多い。そのためGAINツマミをほとんど上げていないのがわかる。オン/オフの音量差をなくすため、LEVELツマミは原音と同じ位置に設定。

 ③FIRE MISTは「太陽ロールバンド」や「シーナ・イズ・ア・シーナ」、「the ultra golden brave busters」など、激しい歪みが必要な楽曲でオンにする。その場合②BD-2はオフにするが、ギター・ソロの際に②BD-2を本機のゲイン・ブースターとして使うこともあるという。

 ④EP Boosterはギター・ソロやリフで持ち上げたい時に使用。

 ⑤Mongooseはもともとレコーディングで活躍していたが、最近ボードに組み込まれた1台。「the ultra golden brave busters」のソロや「male bee, on a sunny day」のリフなど、ファジーなフレーズでオンにするほか、「SUPER THUNDER ELEGANT SECRET BIG MACHINE」では踏みっぱなしにすることもあるそうだ。“フェイセズのロン・ウッドっぽいイメージで使います”とのこと。

 ⑥AD9Proはショート・ディレイとしてセッティング。「the erina」や「That Is Rock And Roll」、「何の変哲もないロッケンロール」などで使用。

 ⑦TR-2は「THE ALWAYS」、「B.O.H.E.M.I.A.N.S.」、「バビロニアの世界地図」などでオンに。ライブ中は気分で踏むことも多いそうだ。

Other

Madcap England
McGuinn Glasses

これがなきゃ12弦は弾けない

カニ目スタイルのサングラス、通称マッギン・サングラス。ザ・バーズのロジャー・マッギンが愛用していたことでも知られる。ビートりょう曰く“これがないと12弦ギターは弾けない。「Mr. 12弦マン」のレコーディングでも実際にこれをかけて弾きました”とのこと。

作品データ

『essential fanfare』
THE BOHEMIANS

DELICIOUS LABEL/QECD-10013(BUMP-118)/2021年9月8日リリース

―Track List―

01.the legacy
02.the reasons
03.the ultra golden brave busters
04.the erina
05.バビロニアの世界地図
06.VINYL PRESS STONE
07.カンケイシャになりたくないっ!?
08.いとしの真理
09.図鑑
10.the fanfare
11.何の変哲もないロッケンロール

―Guitarist―

ビートりょう