コブクロの小渕健太郎が、9年ぶり2作目のギター・インスト・アルバム『ツマビクウタゴエ2』を完成させた。過去に発表されたコブクロの楽曲を、アコースティック・ギターのみでカバーした今作は、ギターを使って巧みに表現する小渕のこだわりやアイデンティティが垣間見える1枚に仕上げられている。小渕に制作に使用した機材について振り返ってもらった。
インタビュー=尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング)
“やっぱり冬のMARTINは音が良かった”
今回のレコーディングで使用したギターについて教えて下さい。
3~4年ほど前に手に入れた1938年製のD-28、いわゆる“Pre-War”ですね。これまでもレコーディングで使ったことがあったんですけども、今作ではもう大活躍でした。1月に録音したこともあって、木が乾燥した良い状態で弾けたんです。古いMARTINは、冬の音が良いんですよね。その後も色々と試したんですけど、やっぱり“今日もPre-War、お前か”みたいな感じで、落ち着くという(笑)。
あとは、今から10年くらい前に作っていただいたWilliam Laskin(以下、ラスキン)。これまでのレコーディングでは、なかなか上手く弾きこなせなかったけれど、“さて、今年はどうかな?”と思ったら、4~5曲録ったあたりからもうバンバン鳴り出しちゃって。時々、D-42やTaylorのアーティスト・シリーズやガット、「STAY」ではMATONのギターも使いましたけど、主役はD-28とラスキンでしたね。
お気に入りのギターの形やサイズなどは?
上も下もバランスが良く鳴るということでドレッド・ノート・タイプが一番好きですね。
最新のアーティスト写真でも手にしているMATON Messiah EM100Cについてはいかがでしょう?
MATONに付いている純正のピックアップ(AP5Proシステム)が、もう素晴らし過ぎて。今、色んなところを探しているんですけど単品で売ってないんですよね。色んなモデルに載せてみたいなって思うくらい魅力的なんですよ。
ピックアップで言えば、僕がデビューした頃に買って5~6年くらいずっと弾いていたTaylorの810もすごかった。Fishman製のPrefix Stereo Blenderというピックアップ・システムなんですけど、先日メンテのためにひさびさに取り出して弾いてみたら、もう“強烈に良いな”と思って。これも今となっては手に入らないらしく、手元にたった1つしかない20年前のピックアップを今でも大事にしています。
なるほど。ちなみに今、気になっている機材はありますか?
日本で作られているKeystone Stringed Instruments(以下、キーストーン)のアコギですかね。この間弾いた時に、ちょっとやられちゃって。“いつか1本作ってほしいな”と思っています。新しく作られたギターなのに、すでに弾き込まれてきたような“熟れている感じ”があるんです。サステインも豊かだし、ローの深みもある。形によってサウンドの違いはありますが、全体がバランス良くまとまっていて、ラインでもマイクで録ったような音が出るんですよね。とにかく驚かされました。YouTubeを観ると、凄いこだわりのある方でしたし、いつかお会いしてみたいですね。
小渕さんがアコギに求めるものはどんなところですか?
街中で歌っていた頃から変わらないのは、音量があるかどうかです。黒田の声がむっちゃくちゃ大きいので、音が小さいギターだと聴こえない。なので音が大きくてサステインがあるギターを昔からずっと探しています。理想を言えば、グランド・ピアノのように指を乗せたらバーン!と鳴るようなギターが最高かな。
コブクロを始めた頃、高価なギターは買えなかったのでSeagull Guitarsを弾いていました。今も6万円代くらいで売られていると思うんですけど、すごく音量が大きくて。マイクを付けていないのに、どこでもギターの音が聴こえる。僕らのストリートからメジャー・デビューの時期を支えてくれた思い出のギターですね。
“リズムにはとことんこだわる”
小渕さんのギタリストとしてのアイデンティティは、どういった部分に宿っていると思いますか?
布袋寅泰さんに憧れてギターを弾き始めたので、布袋さんの代名詞でもある、“GUITARHYTHM”と言われているくらいのリズムの良さ。これは僕にとっての長年の憧れでもあり“なんとか僕も追いつきたい”という部分なんです。なので、アコギでも最後までリズムにこだわります。
アルペジオの1つの単音が「そこ」っていうところに来ないと、何回もやり直したりとかしますね。リズムに気持ち悪さがあると、僕にとっての“聴いていて邪魔にならない音”にはならない。 リズムの土台さえしっかりしていれば、わざとズラしたり、あえてゆったり弾いたりもできますから。
より右手のタッチが重要になりますね。
はい。ギターは“左手の運指が難しい”と言われることも多いんですけど、実際は右手が難しいんです。例えば、Emを押さえたまま、同じリズムのアルペジオを弾くとします。単調な動きですけど、本当に神経を張り巡らせていないと“ただの演奏”になってしまう感覚がある。やっぱり、様々な意味があって弦を引っかけるわけですからね。プリングやハンマリングをするのも、リズムに様々な意味が込められている。
アコギはすごく繊細な楽器なので、さまざまな感情を出しやすいんですよ。マイクに音を入れないようにしたくて、息もできない時がありますから。
右手の爪はマニキュアでコーティングされているのですか?
はい。必ずこの厚さのネイルで弾かないとダメなんで……もう右手は楽器であり、完全なる4本のピックですよね。だから爪を綺麗に削ったりして、常にきちんと手入れをしないといけないんですよね。だからボーリングなんて行くことができない(笑)。以前、ボーリングに行ったら爪の表面に付けていたネイルがふっ飛んじゃったんですよ。
今作の収録曲は、ライブで披露される予定もあるのでしょうか?
今はまったく考えてなくて……まずはスタジオワークとして完結させようと思っていました。10人のギタリストに来ていただければ、僕が真ん中でメロディを弾けるんですけどね……ライブでは表現できないかな(笑)。
でも、どこかのギター教室の生徒さんたちが5人くらいで、YouTubeの“弾いてみました”とかで披露している様子を観れたりしたら、感動しちゃうと思います。“僕はあれ弾くから、君はあれを弾いて”とか言いながら、アコギだけでバンドを組んでみたりするのもちょっと面白いんじゃないかな。僕みたいに、“ギターを弾いて人生が変わった”とか、“ギターのおかげで、次の人生が始まった”っていう人が、これからも絶対に出てくるわけですし、もし誰かがアコギを弾くきっかけを作れたら、この作品をリリースした意味があるなと思いますね。
先ほど布袋さんの名前も出ましたが、小渕さんの好きなギタリストは?
若い頃にやっていたバンドで色んなギタリストをコピーしたんですけど、洋楽ではロベン・フォードが好きでした。頑張ってフレーズを完コピしましたね。当時はパンクが流行っていたので、まわりの音楽仲間がそっちに傾倒する中、僕は1人ロベン・フォードをやっていて(笑)。
彼はサックス奏者からギタリストになっているので、メロディ・ラインがとても不思議で独特なんですよ。そういうところに魅力を感じたのかもしれないです。実際にブルーノートで来日公演を観た時はめちゃくちゃ感動しましたね。今でもよく聴きます。
最後にアルバム制作を振り返って一言お願いします。
アコギって、どうしても歌の横でコードやアルペジオを弾くようなものになりがちですけど、もの凄く可能性があるように感じていて。とはいえ、超絶なクラシック・ギターのスタイルを取り入れながら、ギター1本だけで曲を演奏することにも、限界はあると思うんです。
今作は多重録音をしているけれど、“まだまだアコギでこんなこともできるんだよ”、“音をかぶせたら、こんなに気持ちいいんだ”っていうのを、発見してもらえたら嬉しいですよね。“アコギを弾いているのにシンセサイザーみたいな音になった”とか“自宅でマイクを立てて弾いていたら、こんな音で録れた”とか。自分なりの “自由でルールのないエフェクト”を見つけるのも楽しいんじゃないかなと思います。僕自身はこれからもそれらを追求していこうと思っていますね。
まだまだストックは百何十曲もあるので“お爺ちゃんになるまでに、あと何枚出せるかな?”みたいな(笑)。『ツマビクウタゴエ』シリーズは、ギタリストとしての自分のライフワークにしてもいいくらい、楽しい作業なんですよね。
作品データ
『ツマビクウタゴエ2』
小渕健太郎
ワーナー/WPCL-13380/2022年4月27日リリース
―Track List―
01. 陽だまりの道
02. Blue Bird
03. 風をみつめて
04. 流星
05. Star Song
06. STAY
07. 未来
08. 光
09. To calling of love
10. Twilight
11. 手紙
―Guitarist―
小渕健太郎