OKAMOTO’Sが新作アルバム『Flowers』を完成させた。“メンバー同士のコラボレーション”をコンセプトに、それぞれが楽曲制作をリードすることで、各メンバーの個性がより鮮やかに発色した意欲作に仕上がっている。新たな化学反応によって生まれた楽曲について、ギタリストのオカモトコウキに話を聞いた。
取材・文:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング) Photo by: @victornomoto
メンバーがこだわりたいポイントをもっと押し出した曲を作りたかった
今回のアルバムは“メンバー同士のコラボレーション”というコンセプトで作られたそうですが、このアイディアで制作することになった経緯は?
そもそも“バンドで曲を作った時点でメンバー同士のコラボレーションじゃないの?”って話ではあるんですけど(苦笑)、実は数年前から考えていたアイディアだったんです。それこそ『NO MORE MUSIC』(2017年)や『BOY』(2019年)の頃から“やりたいね”って話はしていて。
というのも、いつもアルバムは全員でアイディアを出し合いながら、4人で頑張って1つの作品を作り上げていくんですけど、それによって個人がとことんこだわりたいエッジィな部分がマスキングされてしまっているような気もしていたんです。
各メンバーのソロ活動も活発になってきて、それぞれ音楽の趣味趣向も変化していく中で、“個人のこだわりたいポイントをもっと押し出した曲を作りたいね”ってところから、今回のような作り方に挑戦してみようとなりました。
それを一番わかりやすく説明するために“メンバー・コラボレーション”という言い方をしてみた感じですね。
楽曲ごとに制作をリードしていく人がいるような感じでしょうか?
そうですね。“この曲は、あなたがプロデューサーです”っていう感じでした。で、やってみたら……予想どおりというか、予想以上というか、めちゃくちゃメンバーの個性が前面に出た楽曲ばかりになりましたね。
メンバー同士、お互いに信頼関係があるからこそ、完成させることができた作品だと感じています。もしもお互いに若くて、もっとエゴが強かったら、できなかったと思いますから。
そういう時も、過去には……?
全然ありましたね。おそらく今回のアイディアが最初に出てきた5年前とかだったら、できなかったと思います。全員がそれぞれ色んな経験を積んできた今だからこそ作ることができたアルバムなんじゃないかな。
各楽曲のクレジットには、コウキさんか(オカモト)ショウ(vo)さんの名前が入っていますが、曲はどのように作っていったんですか?
普段、曲を作っているのが僕とショウさんなので、どちらかがハマくん(b)やレイジさん(d)と組んで作っていく感じでした。ただ、僕らも忘れていたというか、考えたこともなかったんですけど、ハマ&レイジ・ペアの楽曲がないんですよね(笑)。別の取材で指摘されたりもしたんですけど、普段、彼らは曲を書いていないので、その組み合わせは、メンバー全員が意識していませんでした(笑)。
ハマさんやレイジさんと一緒に曲を制作していく中で、印象に残っている場面は?
曲に対する考え方や大事にしたいポイントが、自分と違っていたのが凄く面白かったです。例えば、僕が曲を作る時は曲の中でフックになるリフやサビのメロディから世界観を広げて作っていくんですけど、ハマくんは、まず“イントロを作ろう”って言うんです。“イントロがカッコよければ、もう全部成功したも同然だから、まずはイントロをカッコよくしよう”って考え方だったんですよ。そうやって作り込んだイントロに導かれて曲を仕上げていくのは凄く面白かったですね。
一方、レイジさんの曲の作り方は本当にDJ的な考え方でした。まずはカッコいいループを1つ作って、それをくり返しながら“このセクションはバスドラを抜こう”、“ここで上モノのフレーズを入れよう”みたいな。ヒップホップのビート・メイクのような考え方で曲を作り込んでいく感じでしたね。
「Flowers」や「Last Number」のクレジットを見ると、レイジさんはギターも演奏されていますね。
そうなんです。レイジさんは、凄くギター好きで。今回のアルバムでは、ショウさんもレイジさんもギターを弾いていますね。ハマくんは、レコーディングでは弾いていないんですけど、曲作りのアイディア出しの時にギターを弾いていたりしていました。けっこううまいんですよ。
レイジさんの弾くギターの印象は?
レイジさんがデモに入れてきたギターって本当にパーツっぽい感じで、いくつかのフレーズが組み合わさって成立するような印象があります。
例えば「Flowers」は、レイジさんが作ってきたデモに対して僕が歌を乗せて作っていったんですけど、音源で聞けるギターのほとんどはレイジさんが自宅で録音してきたテイクをそのまま採用しています。この曲には5~6本くらいのギターが入っているんですけど、僕はそれを整理しながらまとめ上げていく感じでした。
ぜひ今のOKAMOTO’Sを楽しんでほしい
コウキさんが作曲した「Gimme Some Truth」は、徐々に熱を高めながら展開していくロック・ナンバーです。どのように作り込んでいったのですか?
この曲は、最初に作ったワン・コーラスに対して“もっとめちゃくちゃな展開を付け足してみよう”って感じで作りました。久しぶりに“OKAMOTO’Sのロック・オペラがきたね”って曲になったと思います。
ハマさんが作曲した「いつも、エンドレス」は、歌謡曲な雰囲気を持ったファンク・ナンバーです。
おっしゃるとおり、まさにファンクな歌謡曲です(笑)。僕とハマくんの中で架空の設定があって……“80年代にリリースされた7インチのシングル盤で、今では価格が超高騰している幻の歌謡曲”みたいなことを意識していました(笑)。寺尾聰さんのように“歌謡曲なんだけど、バックの演奏ヤバくね?”って感じを目指した曲ですね。
なのでギター・ソロも今剛さんが弾いたような感じにしたくて、僕にしては珍しくアクティブ・ピックアップのギターを使い、それにボスのDS-1やコーラスやリバーブをかけて音を作っていきました。
そうだったんですね。使ったギターは?
スクワイア製のストラト(Contemporary Active Stratocaster HH)です。リバース・ヘッドで、EMGピックアップが載ったフロイドローズ仕様のモデルなんですけど、このギターじゃないと出せない独特な音があるので、けっこう重宝しました。
同じくファンキーな「オドロボ」は、どのように作り込んでいったのですか?
この曲は、ショウさんとハマくんがトーキング・ヘッズ的なニューウェイブのイメージで作ったと思うんですけど、それに対して僕は布袋寅泰さんのようなカッティングと、イマサ(いまみちともたか)さんが弾くようなフレーズを意識しながらギターを弾きました。どちらも自分の中の2大巨頭ギタリストです。
音階を無視した激しいアプローチのソロも耳に残りました。
この曲のソロは、実はショウさんなんです。デモに入っていたショウさんのギター・ソロが凄く良かったので、レコーディング本番でもライブでも絶対にショウさんが弾いたほうがいいよって言って、やってもらいました。
僕は、ボスのDD-7に入っているホールド・モードを使って、ショウさんの弾くフレーズに合わせてグリッチ・エフェクトをかける感じで、“ここだ!”と思ったタイミングでペダルを踏んでいるだけなんですが、まさにショウさんにしか表現できないソロになったと思います。
ショウさんがプロデュースした「Sugar」は、アコースティック・ギターを軸とした壮大なロック・バラードですね。
これまでだったらちょっと恥ずかしくなってしまうくらいストレートなロック・ナンバーなんですけど、シンプルに“バンドで音楽を表現できる喜び”を表現しているような曲に仕上がりましたね。
ここまで壮大なロック・バラードを堂々と鳴らすってことは、20代ではできなかったように思います。キャリアや年齢を重ねた今の僕らだからこそ、説得力のある表現になったんじゃないかなと。
裏話としては、「Sugar」を録る前にオアシスの「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」をバンドでコピーして、王道のロック・バラードを自分たちの中に入れてから「Sugar」をレコーディングしたんですよ。というのも、ディアンジェロが『ヴードゥー』(2000年)を作った時に、ジミ・ヘンドリックスをひらすらバンドでコピーして、自分たちの中に取り込んでからレコーディングに臨んだってエピソードを聞いて、僕らもやってみたんです。
実は僕以外の3人はオアシスの曲を全然知らなかったので、その場でパッとコピーして演奏したんですけど、ちゃんとウェンブリー・スタジアムで鳴らしてる感じが出たんですよ。その気分を楽曲に注入するために、「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」と「Sugar」の2曲を連続でレコーディングしてみました。
レコーディングに使用した機材について教えて下さい。ギターは?
さっき話したアクティブのストラト以外だと、「Gimme Some Truth」はフェンダー・シンラインで、「オドロボ」ではテレキャスターを使いました。「Sugar」は1966年製のギブソンSGですね。最近は、テレキャス、シンライン、SG、ストラトがあったら、もう全部完結するような感じになってきました。
ではアンプは?
TAIKING(Suchmos)から譲り受けたBadCatと、ずっとメインで使っているフェンダー・スーパーソニックです。
制作で一番活躍した機材を挙げるなら?
「Sugar」で使ったギルドのD-25ですね。以前、リペアに出したらパチモンのネックが付いていたことが発覚したアコギなんですけど(笑)、今回、ネックをボディと同じ70年代の正規品に付け替えてレコーディングに臨んだんです。そしたらもの凄く良くて……その音はぜひ聴いてほしいです。
改めて、作品制作を振り返って一言お願いします。
最初にも言いましたが、メンバーの個性が色濃く出た作品になったと思います。今回、ハマくんの歌も聴けますからね。“ハマ歌”は珍しいので、聴きどころの1つだと思います。
ギタリスト的な観点で言えば、今回、色んな人の色んな注文を受けながら弾いたので、音色も多彩だし、それぞれの曲に合わせたフレーズをしっかりと考えて弾きました。
今までOKAMOTO’Sを聴いていた人も、初めて聴く人にとっても楽しいアルバムになったんじゃないかなって気がしています。ぜひ今のOKAMOTO’Sを楽しんでほしいですね。
OKAMOTO’S LIVE TOUR2023 Flowers
- 2023年3月04日(土)/米子laughs
- 2023年3月05日(日)/岡山CRAZYMAMA KINGDOM
- 2023年3月09日(木)/鹿児島CAPARVO HALL
- 2023年3月11日(土)/熊本 B.9V1
- 2023年3月12日(日)/福岡DRUM LOGOS
- 2023年3月17日(金)/仙台Rensa
- 2023年3月18日(土)/山形ミュージック昭和Session
- 2023年3月19日(日)/秋田Club SWINDLE
- 2023年3月21日(火)/青森Quarter
- 2023年4月01日(土)/長野CLUB JUNK BOX
- 2023年4月02日(日)/新潟LOTS
- 2023年4月13日(木)/Zepp Nagoya
- 2023年4月15日(土)/なんばHatch
- 2023年4月21日(金)/Zepp Sapporo
- 2023年4月28日(金)/Zepp Haneda
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はOKAMOTO’S公式HPをチェック!
作品データ
『Flowers』
OKAMOTO’S
アリオラ/BVCL-1237/8(完全生産限定盤)/2023年1月25日リリース
―Track List―
- Gimme Some Truth
- Flowers
- いつも、エンドレス
- オドロボ
- Intro
- Sugar
- Last Number
※完全生産限定盤にはBlu-ray「90’S TOKYO BOYS IN HALL SPECIAL 〜アフタースクール〜」が付属する。
―Guitarists―
オカモトコウキ、オカモトショウ、オカモトレイジ