妖怪や日本の伝承をテーマにした独自の世界観をヘヴィメタルに乗せ、唯一無二のサウンドで存在感を示してきた陰陽座が、およそ4年ぶりの新作『龍凰童子』を発表した。コロナ禍や、黒猫(vo)の突発性難聴や発声障害など、様々な危機を乗り越えて制作された新作のレコーディングを、瞬火(b、vo、g)、招鬼(g)、狩姦(g)の3人に振り返ってもらった。
取材・文:白鳥純一(ソウ・スウィート・パブリッシング)
龍凰童子は、陰陽座の存在そのもの
──瞬火
まずは、新作『龍凰童子』のコンセプトについて聞かせて下さい。
瞬火 “陰陽座の存在そのものを作品にする”というコンセプトで作りました。実は『迦陵頻伽』(2016年)や、前作の『覇道明王』(2018年)を作っていた頃には、すでに着想があったことなんです。その時にイメージしたものを、そのまま作った感じです。
黒猫(vo)さんの喉の不調により活動を休止していたことが、制作に及ぼした影響はありましたか?
瞬火 黒猫が歌を取り戻す経緯は、今作に不可欠な要素でした。なので、歌詞や音にも、それは盛り込まれていると思います。
『龍凰童子』というタイトルには、どのような意味が込められているのですか?
瞬火 陰陽座の家紋のうしろに描かれている“龍”と“鳳凰”に、強力な鬼を示す“童子”を加えて、“龍凰童子”とつけました。伝承で例えるなら、人間に屈することなく、己の生きる道を生きた鬼ということになりますが、これは、“龍と鳳凰の力を身に纏い、音楽シーンを歩んできた陰陽座の存在そのものである”と僕は思っていて。そういう意味では、“バンド名と同じアルバム・タイトルをつけた”と言っても過言はないです。
およそ3年に及ぶ活動休止期間を、どのように過ごしてきたのですか?
瞬火 黒猫の歌なくしては陰陽座が再び歩き出せないことはわかっていましたので、再び動き出す時に向けて準備をする日々でした。なので、活動休止によるネガティブな要素は、自分の精神的な部分には、あまり影響していないと思います。
狩姦 “しばらくは活動ができないだろうな”と思っていたので、自分のギター・プレイと向き合う時間を多めに作りました。速いフレーズなどでエッジの効いた音を出すために、改めて使うピックを選び直したり、自分のピッキング・フォームを確認しながら練習していました。
どんなピックに変えたのですか?
狩姦 今まではティアドロップ型を使っていたんですけど、ジャズ型の少し小さめのピックになりました。
招鬼さんはいかがでしょうか?
招鬼 静かに待つのみの日々でしたね。ゆっくりと自分のプレイに向き合う時間があった分、“いかにギターを気持ち良く弾くか”という、心情的なところを意識する癖が身についたように思います。
今作で、“気持ち良いプレイ”ができた曲は?
招鬼 「白峯」のギター・ソロですね。音数が少ないフレーズだからこそ、間を大切にしながら、いかに気持ちよく聴いてもらうかを意識して弾きしました。
自分たちが“良い”と思っている音楽を、受け入れてくれた人がいる。それがまさに“陰陽座”なのかなと思う
──狩姦
バンド結成から24年が経ちました。皆さんが感じる“陰陽座らしさ”とは?
狩姦 自分たちが“良い”と思っている音楽を、周りの人も受け入れて下さり、20年以上も同じ魂を持ち続けられた。そのことが、まさに“陰陽座”なのかなと思います。
招鬼 和をコンセプトにした世界観や男女のツイン・ボーカル、ツイン・ギター、そして音楽性といったバンドの芯は、活動を始めた頃からまったくブレていないと思いますし、そういうところが、“自分たちの一番の強みであり、らしさでもある”と、新作ができあがった時に、改めて思いましたね。
瞬火 名前、コンセプト、編成、音楽、アティテュード……どこを取っても、“らしさしかないバンドだな”と思っています。一番個性が表われているのは、上を目指していくのではなく、前を向いて歩んでいく姿勢で活動しているところです。それは、おそらくほかのバンドと著しく違うところであり、最も“陰陽座らしい要素だと思います。
ギター・パートの割り振りはどのように決めている?
瞬火 基本的にギター・ソロに関しては、招鬼と狩姦の自主性やイマジネーションに任せたほうが、結果的に良いものが仕上がるのではないかと思っていて。例えば“忍法帖シリーズ”の曲は、狩姦がソロを弾く“というルールはありますけど、それ以外の曲は、 “どっちがソロを弾いてくるのか?”を、僕自身も楽しみに待っている感じです。
難解な歌詞と、キャッチーに聴こえるサウンドとの不思議なギャップが、今作でも印象的でした。
瞬火 日本人が使う“キャッチー”という表現は、“心を掴まれる”ということだと思うのですが、その要素は“音楽表現における絶対条件”だと考えています。実際に、古文の教科書みたいな歌詞でもメロディに乗せるとキャッチーに響くような音作りは、世界中のどのバンドよりも意識していると断言してもいい。
なぜなら僕は、想いの込められた詞がメロディに乗った時に、どれだけ音楽として機能するか?というところに、歌詞の持つ本当の意義や、価値があると考えていて。聴き手の心にスッと入っていくようなメロディと歌詞に関しては、絶対的なこだわりを持っています。
ツイン・ギターが絡み合うようなフレーズを、また弾きたいと思った
──招鬼
アルバムの楽曲についても聞かせて下さい。先ほど“自主性”というキーワードもありましたが、「龍葬」のギター・フレーズはどのように作り込んでいきましたか?
招鬼 前回のツアーの時に、昔の曲でやっていたような“ツイン・ギターが絡み合うソロ”がだんだん減ってきているなと感じていて。個人的には、“機会があったら、また弾きたいな”と思っていたんです。そんなことを考えていたタイミングで、「龍葬」のデモが送られてきて、聴いた瞬間に“僕らの得意技をやるしかない”と閃いたんです。
狩姦 曲の中で最初に出てくるギター・ソロなので、“少し凝ったことをしたいな”と思っていた時に、招鬼から提案があって。まずは、それぞれが作ったソロ・フレーズを持ち寄って同時に流してみたんです。
すると不思議なことに上手いことフレーズがシンクロしたんですよ。これまでとは違ったカッコ良さがあるこのソロが完成しました。自分たちでも、こんなにしっくりくるとは思っていなかったので、本当に驚きましたね。
「大いなる闊歩」は、陰陽座のツイン・ギター&ツイン・ボーカルという編成ならではの魅力が表われた曲だと思いました。
瞬火 “陰陽座として再び歩みを進めることができる”という喜びを噛み締める意味合いがあった曲なので、すべての意識がそこに向かっているかなと。2人のギター・ソロも、“同じ気持ちで弾いてくれた”と思える仕上がりになっていると思います。
「猪笹王」のギター・ソロは、どのように作っていったのですか?
招鬼 デモを受け取った時に、笑っちゃうくらいに“猪の雰囲気”が出ていて(笑)。求められていることが、シンプルでわかりやすかったので、ギターで“猪”を表現することだけを考えながら作りました。
先ほど、瞬火さんから“忍法帖シリーズのギター・ソロは、狩姦さんの担当だ”というお話がありましたが、「月華忍法帖」のソロ・パートは、どのように作っていきましたか?
瞬火 いくつかの“忍法帖シリーズ”で描いている、“無敵の強さを誇る女忍者のストーリー”の後半部分にあたるのが、この「月華忍法帖」という曲なんですが、この曲のギター・ソロも、狩姦が考えて構築しました。
狩姦 様々な感情が加わった激しい曲の雰囲気を、ソロにも反映させたいと思っていました。ただ勢いに任せるではなく、ドラマティックな展開になるようにギター・パートを作りました。
「月華忍法帖」の最後は、「孔雀忍法帖」(2009年リリースの9thアルバム『金剛九尾』に収録)と同じフレーズを使っているように感じました。この2曲の関係性は?
瞬火 2つの曲で描いた話がつながっていくことを示唆しています。「月華忍法帖」の音に導かれるままに「孔雀忍法帖」の世界に突入していただければなと。
「孔雀忍法帖」を作った時には、すでにこの展開が決まっていた?
瞬火 「孔雀忍法帖」を作った時は、のちにこういう仕掛けになるということはまったく意識していませんでした。ただ「月華忍法帖」を無意識に作り上げていくうちに、“実は異なる2曲の場面がつながっている”ことに僕自身も気づかされて。自分でも予想しなかった完成形になりとても驚きましたし、不思議な感覚を味わいました。
ちなみに今作に収録されている「静心なく花の散るらむ」が、「孔雀忍法帖」の後の場面を描いた楽曲なんです。“やれる時にきちんと完結させたい”という思いもあったので、今回は2曲入れました。
3人のギター・プレイが、隅々まで存分に楽しめる作品
──招鬼
今回の制作で使用した機材について教えて下さい。
招鬼 全弦全音下げと全弦1音半下げの曲でギブソンのレス・ポール・カスタムを使いました。「大いなる闊歩」、「覚悟」、「静心なく花の散るらむ」の3曲が全弦1音半下げで、残りは全弦全音下げチューニングです。「茨木童子」、「猪笹王」、「滑瓢」、「白峯」、「両面宿儺」は7弦ギターで弾いていて、TUNE GUITAR MANIAC(以下、TUNE)の“烏天狗”というオリジナル・モデルを使いました。
狩姦 僕は、ポール・リード・スミス(以下、PRS)と、TUNEさんに作ってもらった“紫影”というオリジナルの7弦ギターを使いました。“紫影”は、シンプルに弾きやすさを追求しているところが特徴です。
瞬火 僕は、PRSのCustom 22と、“TWG”というTUNEのシグネチャー・モデルの7弦ギターをメインで使いました。“TWG”は、ネックが666㎜のエクストラ・ロング・スケール・モデルで、弦のテンションを保ちつつも、締まった低音を出すことを重視しています。「猪笹王」では、PRSのCustom 24の7弦ギターも使っています。
アンプやエフェクターは何を使いましたか?
瞬火 今回のアルバムは、すべてケンパーで録っていて、バッキング・パートはディーゼル、2人のギター・ソロはEVHのモデリングを使いました。リバーブやディレイといった空間系エフェクトは、基本的にあとでかけています。
招鬼 エフェクターは、「滑瓢」のギター・ソロでワーミー・ペダルを使ったくらいですね。
今作のレコーディングで活躍した機材を挙げるなら?
瞬火 ケンパーですね。今回、初めて導入したんですが、まだまだ掘り下げる余地があると感じているので、今後の音作りが楽しみです。
最後に、アルバムを手にしたファンの皆さんへのメッセージや、4月に行なわれるライブに向けた抱負を聞かせて下さい。
狩姦 長い間待っていて下さったファンの皆さんへの感謝の思いも込めつつ、とにかく楽しいライブにしたいと思っています。
招鬼 アルバムでは、陰陽座のツイン・リード・ギターの魅力や、瞬火を含めた3人のギター・プレイを、存分に楽しんでもらえたら嬉しいです。
瞬火 曲を聴いた人が思わずギターを手に取ってしまうようなリフやソロが満載の作品に仕上がったと自負しているので、ぜひギターを弾きながら楽しんでいただけたらなと思います。僕を含めた3人のギタリストが鳴らす音を1人でも多くの方に聴いていただけると嬉しいです。
4月に開催されるライブは、厳密に言うと『龍凰童子』のアルバムを引っさげた公演ではありませんが、長きに渡って活動できなかった陰陽座が、再びライブをする。自分たちにとってはそこに言いようのない喜びがありますので、ぜひ観に来ていただけたら嬉しいです。
陰陽座特別公演2023『捲土重来』
- 4月14日(金)/東京TOKYO DOME CITY HALL
- 4月20日(木)/大阪Zepp Namba
- 4月26日(水)/名古屋Zepp Nagoya
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細は陰陽座の公式HPをチェック!
作品データ
『龍凰童子』
陰陽座
キングレコード/KICS-4092/2023年1月18日リリース
―Track List―
- 霓
- 龍葬
- 鳳凰の柩
- 大いなる闊歩
- 茨木童子
- 猪笹王
- 滑瓢
- 赤舌
- 月華忍法帖
- 白峯
- 迦楼羅
- 覚悟
- 両面宿儺
- 静心なく花の散るらむ
- 心悸
―Guitarists―
招鬼、狩姦、瞬火