Neural DSP/Quad Cortex特別鼎談!ダグラス・カストロ×ラベア・マッサード×青木征洋 Neural DSP/Quad Cortex特別鼎談!ダグラス・カストロ×ラベア・マッサード×青木征洋

Neural DSP/Quad Cortex特別鼎談!
ダグラス・カストロ×ラベア・マッサード×青木征洋

IT先進国フィンランドで生まれたプラグイン・ブランド、ニューラルDSP(Neural DSP)。そんな先鋭ブランドが生み出した正真正銘の“オール・イン・ワン”ギター・プロセッサー=Quad Cortexは、プロ・ギタリストも絶大な信頼を置く高い性能を持つ。

今回は、ニューラルDSPの代表であり、ベース・エフェクター/アンプ・ブランドのダークグラスの創設者でもあるダグラス・カストロと、Quad Cortexのエンドーサーであるプロ・ギタリストのラベア・マッサードに、この最新鋭の製品についてインタビュー。

インタビュアーを務めるのは、自身もQuad Cortexを愛用する、ギタリストの青木征洋。

翻訳=川原真理子 写真=八島崇
Presented by Kyoritsu Corporation

Quad Cortexは最初の3年間は秘密裏に開発していたんだ──ダグラス・カストロ

ダグラス・カストロ
ダグラス・カストロ

青木 まずはニューラルDSP(Neural DSP)のブランドの歴史やストーリーから聞かせて下さい。

ダグラス・カストロ ニューラルを始める前のダークグラス・エレクトロニクス(Darkglass Electronics)時代、2015年頃にインダストリアル・デザイナーのフランコ(Franco Azocar Dellepiane)に“ユーザーが20〜30年後に欲しいと思うものを2〜3年後に作りたい”と相談したんだ。そこで考えたものが、のちのQuad Cortexにつながる最初のアイディアだったね。

 そして次に、ニューラルの共同創立者であるフランシスコ(Francisco Cresp)がダークグラスでプラグインを作りたがったんだ。でも、Quad Cortexはギタリストに使ってもらいたいと思っていたし、ダークグラスはベース・メーカーだったから、ベースとギターのどちらのプラグインも作れるように、ニューラルが始まったんだ。

 最初のプラグインであるDarkglass UltraとFortin Namelessは、自分の貯金を切り崩してエンジニアに給料を払いながら、なんとか半年ほどで完成することができた。そしてFortin Namelessを出してから10ヵ月ほど経つと、これが大人気になったんだ。

 このプラグインの人気は爆発的で、手に負えないほどだったよ。トントン拍子に進みすぎたから、嬉しいと同時に怖かったね(笑)。でも、これのおかげで投資家から資金を募ることができて、エンジニアももっと雇えて会社を急成長させることができた。

青木 最初からハードウェアとプラグインを同時に作ろうと思っていたのですか? それとも、プラグインを作ってからハードウェアを作ろうと思ったのですか?

ダグラス どちらにも取り組んでいたけど、Quad Cortexは10のプロジェクトを1つにしたような複雑なものだったから、最初の3年間は秘密裏に開発していたんだ。だから、まずはプラグインでブランドとしての名を上げようとしたのさ。そうすればQuad Cortexを出す頃にはしかるべきプラットフォームができて、成功が見えてくると思ったんだ。

青木 ニューラルDSPというブランド名が、Neural Network(編注:プロファイリング機能“Neural Caputure”に関係するディープ・ラーニングAIのデータ・ネットワーク)を使う製品の開発をすでに示唆していたわけですね?

ダグラス そうだね。従来のDSP方式よりもそっちのほうがうまくいくと直感的に思っていたんだ。今では当たり前だけど、5〜6年前はそうではなくて僕たちぐらいしかいなかったから、あれは大きな賭けだった。報われたけどね。

青木 “プラグインではなく、実機のアンプのほうが音が良い”と言うギタリストも多いです。プラグインと実機の差についてはどう考えていますか?

ダグラス たしかに15年前は実機のほうが音が良かっただろうね。最先端のアンプ・モデリングでもほとんどのギタリストによっては良くなかった。でも、それは何年も前に変わったんだ。

 ユニバーサル・オーディオやフラクタル・オーディオの素晴らしいモデリングは、ほとんどの人は実機との違いがわからないし、わかったとしてもほんの少しの差だから気にならない。今では様々なメーカーが新たなモデリング・アプローチをしているし、ブラインド・テストをしてもほぼわからないんじゃないかな?

 そこで、今後もっと多くの人に使ってもらうためには、本物のアンプに慣れている人たちが簡単に使えるユーザー・インターフェースを作ることが大事なんだ。今後は、音を向上させることはもちろん、より使いやすいものにしていくことが重要になってくると思うね。

ライブでも自分のアンプと同じ音がしたから満足したよ──ラベア・マッサード

ラベア・マッサード
ラベア・マッサード

青木 ラベア氏がニューラルDSPの製品を使うようになったきっかけは?

ラベア・マッサード 僕はニューラル以前からダグ(編注:ダグラス)とダークグラスを知っていたし、僕の友達も彼らと親しかったから、初期から使っていたよ。最初のベース・プラグインが送られてきて、まずその感触に感動して、Namelessで決定的になった。弦に触れた時のダイナミック・レスポンスがとても自然だったし、音が凄く良かったんだよ。

青木 お気に入りのニューラルDSPのプラグインは何ですか?

ラベア やっぱり、僕の(Rabea)だね。それ以外だと、NollyPetrucciかな。Nollyは高いクオリティのギター・サウンドが出せるし、現代の幅広いシーンで使いやすい。アンプの形が見えるから、期待どおりの反応が得られるんだ。

青木 Quad Cortexの開発はいつ頃から始まりましたか? また開発において一番重視したポイントはなんでしょうか?

ダグラス 2018年に本格的な開発を始めたね。目標はいくつかあったけど、まずは最高の品質かつ最高に使いやすいモデラーを作りたかった。“すべてにおいて最高のもの”を人は好むと知っていから、最高のサウンドで、最高にパワフルで、最高に使いやすくて、最高にコンパクトなものを目指したんだよ。

青木 Neural Capture(編注:独自のモデリング・テクノロジー)の機能、優れている点について教えて下さい。

ダグラス Neural Captureは、ターゲット・デバイスの周波数レスポンス、ダイナミック・レスポンスを正確に学習することで、実機のアンプやペダルが持つ複雑な音響特性を再現することができる。さらには、伝達関数(注:ギターのダイレクト信号といった入力信号を、アンプ/キャビネット/マイクなどを経由した音=出力信号に変換する数式)そのものやあらゆる音響特性を、仮定なしにゼロから学習するところが優れているね。

青木 マルチ・エフェクターの問題点として、使えるエフェクトの数に限りがあることが挙げられがちです。しかしQuad Cortexは処理能力が高く、多数のエフェクトが同時に使えるのもギタリストにとっては嬉しいポイントだと思います。優れたDSPを搭載することは、開発段階で重要視されていたのでしょうか?

ダグラス そうだね。理由は2つあって、1つはさっきも言ったように、“最もパワフルな製品にする”というのが物語の要素として重要だったということだ。もう1つは、例えばコンピューターがメインストリームで使われるようになると、コンピューターを発明した人たちが思いもつかなかったようなアプリケーション・ソフトを人々が作り出しただろう? 僕も同じことをやりたくて、そのためには数年後を見越した、とてもパワフルなハードウェアを作らないといけなかったんだ。

青木 フット・スイッチを回してパラメーターを調整できる操作性にも驚きました。直感的な操作性や製品のデザインを考慮して、この操作方法を考えたのですか?

ダグラス 3点あって、まずとても信頼性のあるものにすること。フット・スイッチを踏んでツマミを壊してしまう心配をなくしたんだ。次にクールで創意工夫に富んでいるものにすること。新しいものとは何か、モデラーとはどうあるべきかを考えたんだ。最後は“手触り”を再現すること。とても新しくて違っていて、クレイジーで未来的なものではあるけど、馴染みのある要素もたくさん含まれていることが重要なんだ。そうすれば、慣れ親しんだものを使っている気分にさせてくれるからね。

青木 インプット1と2の入力インピーダンスが調整できる点を、特に気に入っています。この調整メニューを実装してくれてありがとうございます!

ダグラス どういたしまして(笑)。30年後を考えた時に、タッチ・ディスプレイやワイアレスへの対応、かつコンパクト、といったことは明白なことだった。そして、その他の機能については、ライバルたちを研究して“理にかなっているのかどうか?”を考えたんだ。

 すると、インピーダンス・スイッチングはとても理にかなっていたんだよ。例えばビンテージ・エフェクトを使う場合、ギターに対して60年も経っているペダルがうまく反応するように調整できる。これは大きなことなんだ。

青木 ラベアさんは、Quad Cortexを初めて使った時にどんな印象を抱きましたか?

ラベア 初めて使ったのはNAMMショウでだったから、最高の環境とは言いがたいけど、その後うちに送られてきたものを使った時に最初に感じたのは、“シンプルでストレートで使いやすい!”ということだね。すぐにプリセットをもとに音作りをすることができたから、自宅で音楽を作っている僕にとっては大きなプラスだった。

青木 搭載されているアンプやキャビネット、エフェクトのサウンドについても感想を教えて下さい。

ラベア プラグインと同じテクノロジーを使っていることがわかったから、とても快適な体験だったね。感触が良かったし、トーンも良かったよ。操作性も素晴らしくて、プラグインと比べると、より好きな方向へ調整ができる。全体的なトーンの幅が広がったのが良かったね。

青木 ライブやレコーディングで使っているうちに気づいたQuad Cortexの良さはありますか?

ラベア 初めてライブで使ったのは、11万人くらいいたレディング・フェスティバル(編注:イギリスの野外音楽フェス)で、僕のキャリア中最も規模の大きなステージだった。それくらい、これに全幅の信頼を置いていたんだ。

 ああいったところでは大きなアンプを使えなくて、小さくてすぐに簡単に使えるものが必要だったから、Quad Cortexを使ったんだ。ステージ上には、Quad Cortex以外にエクスプレッション・ペダルすら持ち込まなかった。ビデオを見返した時に、自分のアンプと同じ音がしたから大満足だったよ。

 この時は僕が直接操作するのではなく、ステージ裏に置いて、コンピューターによってプリセットが自動で変わっていくようにしていた。とても怖かったけど、セッティングしたエンジニアからはセッティングがとても簡単だと言っていたね。

ギターやベース以外のどんな楽器でも使えるようにしたいんだ──ダグラス・カストロ

ダグラス・カストロ(左)、ラベア・マッサード(右)
ダグラス・カストロ(左)、ラベア・マッサード(右)

青木 気に入っているプリセット、もしくはアンプやエフェクト、IRの組み合わせを、それぞれ教えて下さい。

ダグラス 僕はベーシストだから、ストラトヴァリウスのギタリストであるマティアス・クピアイネンが作ったベース・プリセットが好きなんだ。Quad Cortexのプリセットはほとんど彼が作ったんだよ。

 メサ・ブギーのJP-2Cを取り込んでデュアルになっていて、練習でよく使っている。僕は最初のブロックをピッチシフターに置き換えてチューニングを変えられるようにしているから、ドロップAの曲でも問題ない。ギブソンのレスポールでメシュガーの曲を弾けるんだよ(笑)!

ラベア 僕は、自分が作ったIciclesが好きだね。ストライモンのペダルを使った僕のサウンドを再現したかったんだよ。聴いてとても満足のいくものができたよ(笑)。

青木 開発者として、どういったギタリストにQuad Cortexを使ってほしいですか?

ダグラス プラグインはメタル向けが多かったから、その方向に拡大していこうと思っていたのに、実際に使っているのはメタルでないプレイヤーが多いということに驚いたんだ。

 例えば、アメリカでは教会でプレイしているワーシップ・ミュージシャンが大勢使っている。ブルース、ジャズ、ワーシップ、ポップと、その他多くのスタイルで使われているんだ。あともちろん、メタルでもね。

 Quad Cortexの良いところは、ユーザーが求めるものに何でもなれるということ。僕は、レッチリの音もメシュガーの音も簡単に出せる。もしQuad Cortexにないアンプやペダルがあったら、Cortex Cloud(編注:Quad Cortex専用のデータ・クラウド・アプリ)にいけば、誰かがキャプチャーしてアップしているかもしれない。そうして新しいサウンドが簡単に手に入れられるんだ。

 僕が次にやりたいのは、それを拡大していくこと。ギターやベース以外のどんな楽器でも使えるようにしたいんだ。2つのメイン・インプットはとても高品質なマイクプリとファントム・パワー・サプライを備えているから、キャプチャリングにマイクも使える。だからボーカル・セクションにも拡大していって、歌いながらプレイができるようにしたいね。

青木 プレイヤーとして、Quad Cortexはどんなギタリストに向いていると思いますか?

ラベア 僕は、どんなギタリストもQuad Cortexを楽しめると確信しているよ。この10年間、僕は様々な製品を試してきたけど、これは本当に感触もサウンドもとても良くて、本物とほぼ変わらない。

 だから、より伝統的なギター機材のほうが好きで懐疑的になっている人がいたら、とりあえず試してみてほしいね。どれほど便利で効率が良くて満足感が得られるかわかるはずだ。

 アコースティック・ギターによる弾き語りの人にとっても、自分の好きな音が出るミキシング・デスクのマイクプリをキャプチャーできる。もちろん、元々こういった機材を使っているメタル・マーケットに最初にウケたのは当然だけど、誰もが使って楽しめるものだと思うよ。

青木征洋
インタビュアーを務めた、青木征洋

Nural DSP
Quad Cortex

【スペック】
◎入出力:TS/TRS/XLRコンボ・インプット×2、1/4″アウト×2、XLRアウト×2、センド×2、リターン×2、キャプチャー・アウト、ヘッドフォン・アウト×1、MIDIイン×1、MIDIアウト×1、EXPイン×2、USB(Type-B)
◎コントロール:7インチ・マルチタッチ・ディスプレイ、ボリューム×1、ロータリー・フット・スイッチ×11
◎サイズ:W29×D19×H4.9cm
◎重量:1.95kg

※その他詳細は製品ページへ
https://kcmusic.jp/neuraldsp/series/quad-cortex/

【価格】
308,000円(税込)

【問い合わせ】
キョーリツコーポレーション TEL:052-847-5300 https://kyoritsu-group.com