上原子友康が語る、怒髪天の新作に詰め込んだ様々なアレンジのアイディア 上原子友康が語る、怒髪天の新作に詰め込んだ様々なアレンジのアイディア

上原子友康が語る、怒髪天の新作に詰め込んだ様々なアレンジのアイディア

“JAPANESE R&E(リズム&演歌)”を標榜し、精力的に活躍中の怒髪天。彼らが最新アルバム『more-AA-janaica』(読み方:モウ エエジャナイカ)を完成させた。作品には、哀歌やメタル、歌謡曲、パンクといった様々な要素を怒髪天の色に染め上げた表情豊かな全6曲を収録。

メイン・コンポーザーでギタリストである上原子友康は、哀愁漂う泣きのフレーズからメタルなリフ・ワーク、耳を掴んで離さないキャッチーなツイン・リードまで、多彩なプレイでアンサンブルに華を添えている。

バンドの魅力が濃厚に注ぎ込まれた作品制作について、上原子に話を聞いた。

取材:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング)

上原子友康
上原子友康

右手のアタックのダイナミクスで歪ませることを意識していました

新作『more-AA-janaica』は、メタルや歌謡曲、パンクといった様々な要素を内包した1枚に仕上がりましたね。制作はどのように進められたんですか?

 今回は、まず最初に増子(直純/vo)ちゃんから4曲分の歌詞がドカッと届いて。そこから歌詞先行で曲を作り始めました。アルバムの頭4曲がそうですね。

 特に1曲目の「令和(狂)哀歌~れいわくれいじぃ~」は、歌詞を読むと……凄く怒っていて。僕としては、この歌詞を最初に聞かせたいと思いました。

 この曲は、最初の仮タイトルに“音頭”ってついていたので、ライブで盛り上がるようなイメージで作り始めたんですけど……なかなか歌詞にピッタリとハマるいい音頭が作れなくて(苦笑)。でも自分の中で想像を広げていくうちに、“しんみりと始まるんだけどサビでやってやろうって気持ちにさせたいな”というイメージがだんだんと固まっていったんです。

 そこで、“この曲で表現したいのはクレージーキャッツのような世界観だな”ってピンときて、そこからはトントン拍子で制作が進んでいきました。“サビとAメロが対比する感じがいいな”ってところから、BPMを変えてみたりもして。完成した時には、“アルバムの核になる曲だな”と感じましたね。

Aメロとサビの対比という点でいえば、マイナー調の平歌からサビでメジャー・キーに移行する箇所では、雰囲気が一気に明るくなりますね。

 すでにライブでやっているんですけど、平歌からサビに切り替わった時のお客さんの盛り上がりがハンパなくて。作っている時からライブで演奏している画が自分の頭の中に見えていたから、実際にその光景を目の当たりにした時は凄く嬉しかったですね。

 おそらく全員が心の中で思っていることをメロディに乗せて歌っているので、より聴いた人の心に刺さるような曲になったんじゃないかと思います。

続く「OUT老GUYS」は、メタルとサンバが融合した独特なナンバーです。

 この曲は、最初に歌詞を見た時から“もうメタルをやる以外に選択肢はないな”って感じでした。ただ、怒髪天がシンプルにメタルをやってもつまらないので、途中でサンタナみたいな展開を入れて、そこでみんなで踊り狂うような場面があってもいいかなって。

 メタルとサンバが融合している曲って聴いたことないから、“あ、いいアイディアだな”と思ってやってみた曲ですね。

イントロでは、速いフレーズの中にハンマリングとプリングをサラリと入れたプレイも耳に残りました。

 ギターのフレーズを作る時、“ちょっと難しいかな?”って感じるようなポイントを常に作っちゃうんです。そうすることで自分がギターを弾いている時に手応えを感じられるし、何度演奏していても飽きない。あまりにも難しいとライブで演奏する時に困ってしまうので、その線引きはいつも難しいんですけどね。なので、いつも少しだけフレーズを難しくするようにアレンジしています。

 あと個人的には、フレーズのどこかに和的な音運びを入れたがる癖があって。例えば「GREAT NUMBER」(2009年『プロレタリアン・ラリアット』収録)のメイン・リフは三味線みたいな雰囲気があるんですけど、こういうフレーズができると満足感がめちゃくちゃありますね。そういうところは“やっぱ日本人だからなのかな”って思います。

この「OUT老GUYS」は怒髪天流のメタル・ナンバーですが、ギターの歪みは少し抑えめですよね。

 そうですね。今回のアルバムでは、この曲に限らず全体的に歪みを抑えているかも。プレイに関しても、右手のアタックのダイナミクスで歪ませることを意識していましたね。

使用したのは、いつものストラトですか?

 そうですね。99%、30年以上ずっと使い続けているフェンダーのストラト1本です。これまでのレコーディングでは、張り切って色んな種類のギターを用意したりしていたんですよ。でもある時、エンジニアさんから“レス・ポールを弾いても、ストラトの音になってますね”って言われちゃって(笑)。そこで、どのギターを使っても同じような音を作っているなってことに気づいたんですよ。だったら、いつも使っているストラトの魅力を最大限に活かし切ろうと思ったんです。

 なので、使ったのは1本のギターだけなんですけど、パートによってピックアップ・ポジションを変えたり、トーンやボリュームをいじったり、色々と細い部分を調整しながら音を作り込んでいきました。

上原子友康
上原子友康

このメンバーが鳴らす音が怒髪天なんだなってことを強く感じました

カッティングを軸とした「ジャナイWORLD」には、70~80年代のグルーヴィな歌謡曲の雰囲気を感じました。

 まさにそのとおりです。70年代くらいのファンキーな歌謡曲だったり、ちょっとハネた感じの“オトナのロック”を目指して作りました。最初は、歌詞の世界観に合わせてハードコアみたいな激しい曲にしようと考えていたんですけど、それとは違う“ちょっとアーバンな世界観”の曲調に乗せたほうが歌の世界観が伝わるように感じたんです。

 あと、この曲ではオブリをバリバリ入れているんですけど、それが自分の中で新たな挑戦でしたね。というのも、これまで歌メロに呼応するようなギターをあまり弾いてこなかったんですよ。でも、この曲にはオブリを入れたくなるスポットが何ヵ所もあったので、自分としては新たな挑戦としてやってみました。

中盤では、突然ハードロックな曲調に展開するのも印象的でした。

 ファンクな感じのまま曲が進むよりも、曲名の「ジャナイWORLD」的な“混沌とした感じ”を入れたいなと思って作ったパートです。

 ここに関しては、ちょっと曲には合わないかもしれないけど、ドラムにはツーバスを踏んでもらおうと思ったので、坂さん(坂詰克彦/d)に提案したら初挑戦でやってくれたんです。結果として、イメージしていた“混沌とした感じ”が出て、バッチリでしたね。

オクターバーを使った友康さん印のフレーズを聴くことができる「一択逆転ホームラン」は、どのように作っていったのですか?

 ライブで“ドカーン!”と盛り上がる曲になればいいなって気持ちで作りました。聴いた人を勇気づけて、背中を押してくれるような歌詞だったので、“ここは怒髪天の得意技でいこう”と思って。

 ただ、この曲のソロが一番悩みましたね。時間をかけてフレーズを練ろうと思っていたので、自宅に持ち帰ってレコーディングしたんですよ。部屋で宅録しながら色んなアプローチを考えに考え抜いて完成させたので思い出深い1曲ですね。熱いギター・ソロが弾けたという手応えを感じています。

ソロは、どのように作り込んでいったんですか?

 メロディアスなフレーズの場合は口ずさんで作ることが多いですけど、この曲は勢いのあるリフに乗っかった“ギターをギターらしく歌わせたソロ”にしたいと考えていました。

 そういうフレーズって、自分的には難しくて……自宅で“ああでもない、こうでもない”って悩みながら何度も録り直したので、本当に何十回、何百回とバッキング・トラックをリピートして、納得するいいフレーズが出てくるまでやっていましたね。もう修行のような感じで……夜中の3時にパソコンに向かってひたすらアームダウンしてました(苦笑)。その甲斐もあって、結果としてうまくまとめられたと思います。

 この「一択逆転ホームラン」や「たからもの」のソロのように、ハモリをしっかりと考えて弾くフレーズは、家に持ち帰ってじっくりと仕上げることが多いですね。

話に出た「たからもの」には、印象的なツイン・リードが鳴っていて、アリスのようなニューミュージックなムードを感じました。

 たしかにアリスの雰囲気があるかも(笑)。この曲のAメロではちょっと下で支えるくらいのハモリのコーラスを乗せているんだけど、完全にベーヤン(堀内孝雄)気分でやってるかもしれない。大体ハモリをやる時はベーヤンか、CHAGEの気分でやってる(笑)。

そうなると増子さんがチンペイ(谷村新司)になると(笑)。

 そうそう。チンペイになっちゃうし、ASKAにもなっちゃう(笑)。アルバム全体を考えた時にフォーキーな感じの曲が欲しくなって、これは曲先行で作ったんです。そしたら、凄く優しい内容の素晴らしい歌詞が乗ってきて、さらに曲の世界観が広がりましたね。

ラストを飾る「Go自愛」は、2ビートで疾走するパンク・ナンバーですね。1分48秒という、かなり短い楽曲です。

 1分台の曲は初めてかもしれないです。最後の1曲ということで、ちょっとパンキッシュな曲を作ってみたんですけど、そこに増子ちゃんから“ずっと歌ってみたかった”という歌詞が乗って……それが凄く良かったです。制作の中で、Aメロを増やしたり、サビをくり返してみようというアイディアも出てきたんだけど、短くサラッと終わるのがカッコいいかなって。

レコーディングで使用した機材について教えて下さい。

 エレキ・ギターは、いつものストラトだけですね。アコギはギブソンのJ-45。「令和(狂)哀歌」では、バンジョーも弾きました。アンプは、ライブでも使っているフェンダーのスーパーソニックです。

 エフェクターも、基本的にはライブで使っているものと一緒ですね。歪みはエキゾチックのBB Preamp(オーバードライブ)で、オクターバーはBOSSのOC-2。「OUT老GUYS」のアウトロでは、エレハモ(Electro-Harmonix)のDeluxe Memory Man(ディレイ)を久々に使いました。

 あとは、「ジャナイWORLD」のカッティングでMXRのDyna Comp(コンプレッサー)をかけて弾いています。自宅でソロをダビングする時に使ったのは、BOSSのGT-1000ですね。

改めて作品制作を振り返って、一言お願いします。

 今回、改めて“このメンバーが鳴らす音が怒髪天なんだな”ってことを強く感じました。バンドなので当然のことなんですけど……僕が打ち込みで作ったデモ・テープがリハやレコーディングを経て怒髪天になっていく様を見るのは凄く面白かったです。

 演奏者の顔が見えるような音だし、それぞれの人間味が出ていて、“4人でバンドをやってる意味があるな”ってしみじみ思いながら作っていました。坂さんとシミ(清水泰次/b)のリズム隊だけを聴いていても凄く気持ちいいんですよね。

 ギター的なところでは、「令和(狂)哀歌」のイントロの最後に一発“チュイーン!”ってチョーキングが入るんですけど……あそこがギタリストとしての自分をすべて表わしているような気がします。ライブで弾いていても凄く気持ちいいポイントだし、どんな速弾きよりも難しいなって感じますね。

 1音に想いを込めなきゃいけないので……思わずゲイリー・ムーア並みにエモーショナルな表情になっちゃう。やっぱり僕としては、シャツに脇汗のあとが付いちゃうような熱苦しいギタリストが好きなんですよ(笑)。自分もそういうギタリストになりたいな、と改めて思いました。

ちなみに今回の最新アーティスト写真からは……また違った“熱さ”というか、圧力が凄く出ています(笑)。

怒髪天の最新アーティスト写真
怒髪天の最新アーティスト写真。左から上原子友康(g)、清水泰次(b)、坂詰克彦(d)、増子直純(vo)。

 そうですね(笑)。自分としては、このメイクで1回ライブやってもいいかなって思っていて。30分くらいのインストア・イベントでもいいからやりたいですね。なんか……もったいない気がする(笑)。もし実現したら、80年代に流行った変形ギターを持って演奏したいですね。

 初回生産盤には、これ以外にも色んな写真が入った写真集が付属するんですよ。みんなに喜んでもらいたいという思いでめっちゃお金をかけて作ったので、ぜひ見てもらえたら嬉しいです。

「more-AA-janaica TOUR 〜もうええじゃないか、もう〜」公演情報

日程

  • 2023年05月19日(金)/金沢 AZ
  • 2023年05月20日(土)/岐阜 Yanagase ants
  • 2023年05月27日(土)/広島 セカンド・クラッチ
  • 2023年05月28日(日)/高松 DIME
  • 2023年05月30日(火)/奈良 EVANS CASTLE HALL
  • 2023年06月01日(木)/岡山 YEBISU YA PRO
  • 2023年06月03日(土)/小倉 FUSE
  • 2023年06月04日(日)/福岡 LIVE HOUSE CB
  • 2023年06月06日(火)/滋賀 U☆STONE
  • 2023年06月10日(土)/松本 ALECX
  • 2023年06月11日(日)/新潟 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
  • 2023年06月17日(土)/仙台 Rensa
  • 2023年06月18日(日)/郡山 HIPSHOT JAPAN
  • 2023年06月24日(土)/名古屋 CLUB QUATTRO
  • 2023年07月01日(土)/大阪 umeda TRAD
  • 2023年07月07日(金)/札幌 ペニーレーン24
  • 2023年07月14日(金)/新宿 BLAZE

※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細は怒髪天公式HPをチェック!

怒髪天公式HP
http://dohatsuten.jp/index2.html

作品データ

『more-AA-janaica』
怒髪天

テイチク/TECI-1806/2023年3月22日リリース

―Track List―

  1. 令和(狂)哀歌~れいわくれいじぃ~
  2. OUT老GUYS
  3. ジャナイWORLD
  4. 一択逆転ホームラン
  5. たからもの
  6. Go自愛

―Guitarist―

上原子友康

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