マーカス・キングが語る、先達からの影響とプレイ哲学 マーカス・キングが語る、先達からの影響とプレイ哲学

マーカス・キングが語る、先達からの影響とプレイ哲学

若くして注目の的となったマーカス・キングは、様々なビッグ・ネームとともに音を鳴らしてきた。今回は彼がこれまでに共演したアーティストからの影響、そして彼のプレイ哲学について話を聞いた。

インタビュー=福崎敬太 翻訳=トミー・モリー 写真=Masanori Naruse 協力=ビルボードライブ東京

デレク・トラックスとは波長が合うような気がしていたんだ

2023年4月17日の1stセットで初めてあなたのライブを見ましましたが、エネルギー溢れる素晴らしいパフォーマンスでした。手応えはどうでしたか?

マーカス・キング。ビルボードライブ東京での公演の模様。
マーカス・キング。ビルボードライブ東京での公演の模様。

 みんなのエネルギーも本当に素晴らしかったし、グレイトな時間を過ごしたよ。演奏もうまくいったし、オーディエンスにも受け入れてもらえた気がしたね。

あなたは音楽の伝統や家族の歴史など、様々なものを引き継いで、今の音楽を奏でているアーティストだと思います。今日は、どのようにしてあなたのようなギタリストができあがったのかを教えて下さい。まず、あなたの中で最も大きな存在は、ミュージシャンであったおじいさんとお父さんだと思います。ギタリストとしてどのような影響が自分の中にあると思いますか?

 彼らはグレイトな人たちで、家族の存在の大切さを常に感じているよ。音楽的な家庭の中で育てられたことを幸運に思っているし、音楽と俺の家族の間には切っても切れない関係がある。ギタリストとしての特定の影響というより、俺はあらゆる面で生まれ育った環境に大きく影響を受けてきたんだ。

アルバム『Marcus King Band』(2016年)で共演したデレク・トラックスは、ペダル・スティールやサックスなどから学んだり、インスピレーションの源泉もあなたと近い部分があるプレイヤーですよね。

 デレクはファミリーみたいな暖かさで俺やバンドの仲間を受け入れてくれた。スーザンも彼と同じく美しさを持った人だったね。

 で、俺はデレクからたくさんの影響を受けてきたけど、彼がペダル・スティールやサックスだけじゃなくてボーカリストからも影響を受けてきたことをあとから知って驚いたよ。デレクとはどことなく波長が合うような気がしていたんだけど、それは俺がほかのギタリストのようなサウンドにはなりたくないと思ってやってきたことなんだ。

 あと、彼と一緒にプレイした時、ジミー・ヘリングとプレイした際に感じたものと似たような感覚になった。音楽的な考え方や他者への溢れる愛やリスペクトが彼らにはある。彼らのようなミュージシャンたちとプレイする機会を得れば必ず影響を受けてきたよ。

ソロ・アルバムの『El Dorado』(2020年)、最新作『Young Blood』(2022年)は、ともにザ・ブラック・キーズのダン・オーバックがプロデューサーを務めています。

 この2枚のアルバムは互いに少し異なっているけど、これらのプロダクションには自然と彼固有の雰囲気が滲み出ているよね。ダン自身もギターとボーカルをやっているし、ソングライターとしても優れているから、意見が食い違うことなんて一度もなくて、作業は本当に簡単に進んでいったんだ。彼からのアドバイスには本当に感謝しているよ。

 あと実は、『Young Blood』はダンが所有する1959年製のレス・ポールを借りて、俺のギブソンのアンプにつないでレコーディングしているんだ。

じいさんの背中を見て、“しっかりと聴くこと”を練習してきたんだ

あなたはファイン・アーツ・センター(サウス・カロライナ州の芸術高校)で音楽理論なども学んでいますが、ギター・ソロやフレーズ・メイクの際に、どの程度スケールやコードなどを意識しているのでしょうか?

 そういうのって言葉の習得に近いところがあると思うんだ。最初はアルファベットから学び、それをもとに単語を理解する。次は様々な単語を組み合わせて文章や段落に導き、文法やボキャブラリーとして体得していく。

 いつしか単語の綴りを気にすることもなければどういう言葉遣いで話すかも考えなくなるわけで、俺の訛りだってほかの誰かと違うところもある。

 言葉の喋り方は俺のギターのアプローチに近いと思うし、できることなら何かを伝える際にほとんど考えることなく、ハートから直接伝えたいと考えるところも同じだよ。

そのためには指板上を深く理解している必要があると思うのですが、そのために練習したことなどはありますか?

 俺のじいさんは優れた耳を持っていて、曲が進もうとしている場所をしっかりと感じ取っていた。今思うと、そんなじいさんの背中を見て、“しっかりと聴くこと”を練習してきたんだと思うね。可能な限り多くのプレイヤー、幅広い音楽を聴いてみるんだ。

 俺は曲に対して常にリスペクトを持っていて、曲がどこに向かうかはライブでプレイしてみないとわからないこともある。

わかりやすいところで言うと、「Whisper」のソロでC♯からD♯に移調する際も、エモーショナルさを失わずにつなぐ音運びが見事です。

 この曲は1音上げることでドラマチックなインパクトを作っている。ギターっていうのは幸運なことに、プレイしているボックスを丸ごと移動させるだけで、こういう場面もプレイできてしまう。だから自分が曲のどんな部分を弾いているかに耳を傾ければ良いんだ。

また、あなたの楽曲でのギター・ソロの尺は、現代にしてはかなり長い印象です。長いギター・ソロでも飽きさせずにリスナーを魅了するために気をつけていることはありますか?

 ハートから直接語りかけることだね。言葉の使い方の話に戻るけど、俺の英語に南部の訛りが入っているように、魂から直接語りかけようとすると、自分らしい何かが加わってくるものだ。

 不必要なストッパーをかけずに、自分の中から生まれてくる音楽を淀みなく流すことに集中するんだよ。そうすると結局は“楽器を操作する”っていう感覚とは違うレベルでプレイできるようになると思うんだよね。

「It’s Too Late」や「Aim High」など、印象的なリフ・メイクもあなたの得意とするところだと思います。リフはどのように考えていますか?

 これらはダンと一緒に作曲したけど、実はリフってけっこう最後に思い浮かぶものなんだ。それでいてお楽しみのようなところでもある。

 俺は作曲を通じて自分を表現することが好きで、そこには曲だけじゃなくて歌詞を書くという作業も入ってくる。リフは最後になってやってくるもので、俺にとってはケーキのアイシングのような感じだね。

 それに俺はジミ・ヘンドリックスを聴いて育ったし、今日もバンドのみんなでアイアン・バタフライの「In-A-Gadda-Da-Vida」のリフについて話をしていた。それくらい俺はリフが好きだし、ペンタトニックが好きということもあって、自ずとそういうプレイになってしまうんだよ。

マーカス・キング@ビルボードライブ東京
マーカス・キング@ビルボードライブ東京

俺は常に特別な楽器をプレイしてきた

最新作『Young Blood』ではダン所有の59年製レス・ポールの他だとどんなギターが活躍しましたか?

 俺は58年製のレス・ポール・カスタム=ブラック・ビューティー、そしてES-345も使ったね。フェンダー・ストラトキャスターでスライドを弾いたのも数曲あるかな。

 リズム・ギターをプレイしてくれたアンディ・ガバードは俺のバンカー(Banker)のエクスプローラーを使っている。

あなたのアイコンであるギブソンの1962年製ES-345には、おじいさんの代から受け継いだストーリーがあります。ほかのビンテージ・ギターとは違う特別なフィーリングはありますか?

 もちろんさ! あのギターにはセンチメンタルなつながりを感じているし、俺は常に特別な楽器をプレイしてきたと思っている。

 あまりにも大切なギターだから一緒に飛行機に乗るようなことはなくて、それでも特別な何かを常に感じている。それはほかの楽器にはないスペシャルなものだよ。

『Young Blood』ではどんな歪みペダルを使いましたか?

 トーンベンダーとトゥルーファイ(Tru-fi)のColor Driver(ファズ)を使ったね。後者はデヴィッド・ギルモアっぽいサウンドを狙って選んだんだ。

 あと、VOXのアンプも内蔵のリバーブを効かせたサウンドで使ったけど、そのパートは実際にはアルバムに入らなかったと思う。

では最後に、日本のギタリストにメッセージをお願いします!

 ハートからプレイするんだ。あまり深く考えるんじゃなくて、とにかくプレイしてみるんだよ。そうすればギターがどこかに連れて行ってくれるはずさ。

マーカス・キング@ビルボードライブ東京
マーカス・キング@ビルボードライブ東京

作品データ

マーカス・キング『Young Blood』ジャケ写

『Young Blood』
マーカス・キング

Easy Eye Sound/輸入盤/2022年8月26日リリース

―Track List―

  1. It’s Too Late
  2. Lie Lie Lie
  3. Rescue Me
  4. Pain
  5. Good and Gone
  6. Blood on the Tracks 7
  7. Hard Working Man
  8. Aim High
  9. Dark Cloud
  10. Whisper
  11. Blues Worse Than I Ever Had

―Guitarists―

マーカス・キング、アンドリュー・ガバード、ダン・オーバック