初の来日公演を6月10日にビルボードライブ東京で行なったマンスール・ブラウン。ヒップホップやトラップから民族音楽までを内包した、新時代のジャズを奏でる天才肌のギタリストだが、実際に会ってみると日本のアニメ好きのチャーミングな好青年だった。今回はそんな彼に、最新アルバムとなるゲームのサウンドトラック『Desta – The Memories Between』について話を聞いた。また当日の機材撮影でペダルボードの取材が叶わなかったため、せめて好きなエフェクターなどについては語ってもらおう。
インタビュー=福崎敬太 通訳=前むつみ Photo by Masanori Naruse 協力=ビルボードライブ東京
『グラップラー刃牙』も好きだよ!
昨日(2023年6月9日)に日本に到着したようですね。
楽器店に入って新しい機材を見たり、やろうと思っていたことをどんどんやっているよ。地下鉄にも乗って、Hで始まる紫の路線(おそらく東京メトロ半蔵門線)で凄く綺麗なところに行ったり、渋谷に行ったり。僕は面白いものを探すのが好きなんだ。
ぜひ日本を楽しんで下さい! さて、今回はニュー・アルバムである、ゲーム『Desta – The Memories Between(邦題/デスタ:狭間の記憶)』のサウンドトラックについて聞かせて下さい。ゲームの世界観をどのように音楽で表現していきましたか?
今回はゲームということで、普段の曲作りとはちょっと違って興味深かったよ。音楽としてクリエイティヴであることのほかに、ゲームをプレイしている時にどのような音楽が流れていてほしいか、プレイヤーたちがどのようなことを望んでいるのか考えていた。
先日のメール・インタビューでは日本のアニメからインスピレーションを得ていると言っていましたが、今作はどうでしたか?
今回も間違いなく、日本のアニメからインスピレーションをもらったよ! 『攻殻機動隊』や『AKIRA』とか……日本のアニメからは常にインスピレーションを受けていて、作る音楽や状況は違っていても僕の頭のどこかには無意識にアニメのシーンが浮かんでいるんだ。影響というか、アニメへの愛だね(笑)。
ところで、『ファイナルファンタジー』はご存じですか?
もちろんだよ!
『ファイナルファンタジーXIV』のサウンド・ディレクターである祖堅正慶さんにインタビューをした際に、“ゲーム音楽はプレイヤーをゲームの世界に引き込むためのものでありながら、プレイの邪魔にならない背景になる必要がある”といったことを言っていたのですが、同じような意識はありましたか?
本当に彼に会ったのかい? 凄いね! その考え方は間違いないよ。祖堅さんが言うように、あくまでも音楽はゲームのサポート的なものでなくてはならない。
普通の曲のように強いメロディがあるのではなく、同じようなくり返しのベースラインとか、そういうものをキーにして、ゲームのバックで鳴っているような感じにしようと思ったね。
ちなみに好きな日本のアニメは何ですか?
山ほどあるけど……『攻殻機動隊』、『呪術廻戦』、『鬼滅の刃』かな。『グラップラー刃牙』も好きだよ!
僕はプリンスから凄く影響を受けているんだ
アルバムでのプレイやサウンドについても聞かせて下さい。「Floating」のバックで鳴っている音は琴のようなサウンドだと感じたのですが。
本当に? それは面白いねー!
あのサウンドはどのように作りましたか?
あれはたしかEQペダルを使って細いサウンドにして、ローランドのソフトウェアでブレンドしたんだ。そうやって作った音が琴に聴こえるなんて凄くクールだね!
「Mode」はスピーディなグルーヴ感がありながら、ゆっくりと情景が変わっていくように展開していきます。ソロや単音のリフやアルペジオなどが複雑に絡み合いますが、こういったレイヤーはどのように生まれるのでしょうか?
面白い質問だね。僕はギターが土台となる音楽が大好きだし、影響も受けているけど、ダンス・ミュージックも大好きなんだ。それで自分の音楽を作り始めた頃、エレクトロニックなものもブレンドさせてみたりして──つまりレイヤーさせながら曲を作っていったんだ。そこで、様々な要素を重ねていくことには、感情を呼び起こすような効果があることに気がついた。
だから、音楽を作る時に音を重ねていくというのが僕にとって自然なやり方で、考えて作るものではないんだ。うん、“最初から自然とそこにある”って感じだよ。
「Edge」の後半のギター・ソロはメロディや展開も幻想的で惹き込まれます。このソロはどんなことをイメージしながらプレイしましたか?
このソロのイメージは「Purple Rain」かな。僕はプリンスから凄く影響を受けているんだ。
メール・インタビューで、ギターを弾く時は楽器奏者ではなくボーカリストからの影響が出ていると言っていましたが、あなたのプレイに影響を与えている歌手を教えてもらえますか?
僕のギターに大きな影響を与えたのはブライソン・テイラーというシンガーなんだ。彼は『Trapsoul』というアルバムを出していて、ジャンル的にはR&Bで、一時は常に彼の歌を聴いていたよ。
僕は自分がシンガーだと想像しながら音楽を作っていることが多いんだけど、彼の歌い方やメロディは本当に素晴らしいんだ。彼を始めとするR&Bのソロ・シンガーたちからはメロディという点でとても大きな影響を受けたよ。
あなたは様々な種類の楽器を使いますし、プロデューサー的な視点も持ち合わせていますが、音楽の軸はギターにあると思います。あなたにとってギターという楽器はどのようなものなのでしょうか?
今の僕にとってギターは“自分を表現する道具”みたいなものかな。以前はギターを練習して、素晴らしいプレイヤーになることが目標だった。
影響を受けたギタリストはたくさんいて……ジェフ・バックリーが奏でるコードが大好きだったし、エディ・ヴァン・ヘイレン、ジミ・ヘンドリックスなどのレジェンドはもちろん、ジョージ・ベンソンも凄いプレイヤーだと思っていた。
スーパーなギタリストは本当にたくさんいて、そういう卓越したプレイヤーを目指していた。でも今は、テクニックやプレイというより、クリエイティヴになるための道具って感じかな。
ペダルを3台だけ選べって、意地悪な質問だよなー(笑)
今回のステージで使うエフェクターについては秘密(編注:取材当日の機材撮影でペダルボードの写真はなしにしてほしいとお願いされた)ということですが、お気に入りのペダルだったら教えてくれますか?
いいよ(笑)。チェイス・ブリスのDark World(リバーブ)が僕のフェイバリットだ。あれは最高だよ。チェイス・ブリスではMood(グラニュラー/ルーパー/ディレイ)も欲しいんだけどね。ペダル・ショップで見かけたんだけど、あの時買うべきだった。
あとはストライモンのblueSky(リバーブ)、MXRのコーラス(編注:マンスールはStereo Chorusを使用)、フェイザー(編注:EVH90 Phase 90を使用)も好きだ。
エフェクターのサウンドからインスピレーションを受けて曲が生まれるということはありますか?
もちろんあるよ。新しいサウンドは常にインスピレーションの源となっている。新しいサウンドを聴くと、それだけでアルバム1枚作ってしまおうと思ったりもするんだ(笑)。
ギター・マガジンの人気企画で“もしもペダル3台だけでボードを組むなら?”というものがあるのですが、あなたが3台選ぶとしたら?
わぁ、凄い企画だね(笑)。まず、ワウはダイムバック・ダレル(ジム・ダンロップのDime Crybaby From Hell)だ。あのワウは最高だからね。
それから……どうしようかな。ローランドのSpace Echoか、ジム・ダンロップのEchoplex(エコー)かな。
あと1つだね。あー、これって意地悪な質問だよなー(笑)。そうだ! メリスだ! メリスのリバーブ(Mercury7)だよ。
凄くあなたらしいチョイスだと思います! ちなみに新しいエフェクターはどうやって探しているんですか?
若い頃はよく午後になると街に出てペダルを探していたよ。今はネットを見たりするね。でも大人になるにつれ、興味の対象はペダルというよりも、“音”そのものに変わっていったんだ。
ギターは常に僕の音楽の重要な要素だけど、どんな楽器にも素晴らしい音がある。そしてその音から僕はインスパイアされるんだ。だからペダルを使った音だけにこだわっているわけじゃない。
ギターだけでもナイロン弦とスチール弦では音が違うだろう? これまで僕はエレクトリック・ギターを弾いてきたけど、最近はアコースティック・ギターも弾いているんだよ。新しくテイラーのギターも手に入れたんだけど、凄く暖かい素晴らしいサウンドなんだ。
では最後に日本のギタリストたちへのメッセージをお願いします!
頑張ってプレイし続けて下さい! 進歩すると信じてあきらめないで。音楽を愛して、上達することを目指していれば絶対にうまくいきます。僕に影響を与えてくれた日本の文化に感謝しています。日本はとても平和で、素晴らしい文化があり、人々はとても優しいです。どうもありがとう!
作品データ
『Desta – The Memories Between』
マンスール・ブラウン
配信/2023年5月10日リリース
『Heiwa』
マンスール・ブラウン
輸入盤/2021年9月3日リリース
―Guitarist―
マンスール・ブラウン