2006年の結成以来、国内外で精力的にライブを行ない、世界各地で熱狂を巻き起こしている6人組パンク・バンド、HEY-SMITH。彼らが5年ぶりとなる6thアルバム『Rest In Punk』を完成させた。
人気TVアニメ『東京リベンジャーズ』天竺編のエンディング主題歌である「Say My Name」や、サビがホーン・セクションで構成された踊れるスカ・ナンバーの「Inside Of Me」を始めとする表情豊かな11曲を収録。
メタリックなヘヴィ・リフから軽快な裏打ちのカッティング、骨太なパワー・コードまでを駆使した猪狩の質実剛健なギター・ワークは、パンク、メタル、スカを始めとする様々な要素を呑み込んだ独自のアンサンブルの中においても、大きな存在感を放っている。
メイン・コンポーザーでありバンドのフロントマンであるギタリストの猪狩秀平に、アルバム制作を振り返ってもらった。
取材/文:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング) 写真=HayachiN
名曲と呼ばれるような質のいい楽曲を一生やり続けたい
5年ぶりとなる新作アルバムですが、制作にあたりイメージしていたものは?
実は前作『Life In The Sun』(2018年)をリリースした5年前から新曲の制作は始まっていて。ライブ活動を続けながら、それと並行して曲を作り続けていました。なので最初から“こんなアルバムにしよう”って決めて制作に取り掛かるのではなく、良い曲ができたらその都度レコーディングして、ある程度の曲数がまとまったらアルバムとしてリリースする感じでしたね。
作品の方向性については全然決めていませんでしたけど……Hi-STANDARD(以下、ハイスタ)のツネさん(恒岡章/d)が亡くなったあとは、自分の中から生まれてくる曲の質が一気に変わった気がします。
どんな風に変わったのでしょうか?
やっぱり……超ハッピーな感じにはならないというか。僕の中にあるツネさんへの思いが一番前面にきてしまうので……。もちろん楽しかった思い出はたくさんあるけど“聴いて楽しい!”って感じの音楽に仕上げるのはなかなか難しくて。収録曲の中で言えば、「Rest In Punk」は思いっきりその影響を受けていますね。
長い間失意のどん底にいましたけど、(横山)健さんと難波(章浩)さんが“これからもハイスタを続けていく”って発表してくれて。想像を絶する状況だったと思いますけど……一番辛いはずの2人が一番強い言葉を言ってくれたので、その宣言を聞いてからは少しずつやる気が出てきました。
なるほど。では、猪狩さんがコンポーザーとして自身の成長を感じたポイントはありますか?
以前に比べて自分が成長したと感じるところは、“1人で曲を完成形まで作り込めるようになった”ところですね。これまでは自分の中にあるイメージをスタジオでバンド・メンバーと共有して、それぞれに“これやって”、“あれやって”と指示して作り上げていくことが多かったんですけど、コロナ禍になりメンバーと会えない時間が増えた時に“DTMを勉強してみよう”と思い立ったんです。
で、パソコンにベースやドラムのリズム・パターンや管楽器のフレーズを打ち込みながらデモを作っていったんですけど、今では自分の頭の中で鳴っているアンサンブルを1人で構築することができるようになりました。そうやって曲の設計図を自分だけでも形にできるようになったのは大きいと思います。
完成形が見えるデモを作れるようになったメリットは?
メンバーに曲のイメージをめっちゃ伝えやすくなりました。みんなで作っていた時は、曲を完成させるためにスタジオで何度も音を合わせるんですけど、演奏をくり返していると大したことのない曲でも“良い曲”に聴こえてきちゃうことがあって……。演奏すること自体が楽しいので体に馴染んできてしまうんですよね。でもDTMだと、自分が思いっきり“冷めた目”で客観的にジャッジできる。そこは良いところだと思います。
あと、自宅でも曲を作り込めるようにはなりましたけど、ぶっちゃけ量は求めてないですよね。やっぱり大切なのは質。1年に1枚のペースでアルバムを出すアーティストもいますけど、曲の消化が激しいじゃないですか。毎年のように新しい曲をどんどん出していくのは、個人的には凄く嫌で……。
どちらかと言うと俺はこの先の未来も名曲と呼ばれるような質のいい楽曲を一生やり続けたいんですよね。なので曲をたくさん作るよりも、ずっと演奏し続けられる曲をしっかりと作り込んでいきたい。
そういう意味でも、作曲に対する責任感は増してるかもしれないです。コロナ禍でみんなお金がなくなって、レーベルも借金だらけになっちゃったりして。その時に“俺がめっちゃ良い曲を書いて、バンドを動かしていかないと全員が路頭に迷う”って事実を痛感したんですよ。家族がいるメンバーもいるので……バンドに関わってるみんなの生活のことも考えて、今はとにかく良い曲を作ろうって考えてますね。
HEY-SMITHの曲は、管楽器を含む様々な楽器の音で構成されていますが、そのようなアンサンブルの中におけるギターの使い方に関してどのように考えていましたか?
説明するのがめっちゃムズいんですけど……ここ最近になって“こうやって弾いたらカッコよく聴こえるやろうな”ってコツを掴んだように感じていて。例えば、“歌メロがこうやったら、こういうギターを弾けばカッコよくなるだろう”みたいなイメージが、アレンジの段階で鮮明に見えるようになりました。なので、レコーディングで悩むような場面はほとんどなくて、もう“これでしょ!”って正解がパッと出てくる感じでしたね。
以前だと、頭の中でイメージできたのがメロディとコードだったんですよ。それがメロディや楽器のフレーズ、理想とするサウンドまで全部一緒にイメージできるようになったんです。そのおかげで、バンド・アンサンブルの中で鳴っている様々な楽器の“噛み合わせ”が、以前に比べてよくなったように感じていますね。
今回の作品を聴いて、ギターの存在感がより一層増している印象を受けました。特にクリアな爆音で鳴り響く歪んだギター・サウンドがとてもカッコよかったです。
音色にはけっこうこだわったので嬉しいですね。クソ歪んだギターが爆音で鳴っているんだけど、セブンスやマイナーのコード感がちゃんとクリアに聴こえるようにしたいと考えていて。それをシングルコイルではなくハムバッカーが載ったギターで表現したかったので、イメージした音を出すために右手のダイナミクスの付け方やタッチ・スピードといった細かい部分にはかなりこだわりました。
特に「Yor Are The Best」で鳴り響くギター・サウンドは、聴いた人の背中を押してくれる歌詞と一緒にエモーショナルな世界観を作り上げているように感じました。
今までのHEY-SMITHにはあまりないタイプの曲なんですけど、個人的に物凄く好きな1曲ですね。コロナ禍に入ってすぐの頃にできた曲で、タイトルのように“お前は最高やからそのまま行け!”っていう応援歌なんですけど、自分の歌いたいことをちゃんと歌えている楽曲に仕上がったと思います。
HEY-SMITHのギターは常に、“誰でも弾ける”ってところを目指して作っている
収録曲には短い曲も多いですが、その理由は?
最近の曲ってけっこう短いじゃないですか。俺、BLACKPINKが好きなんすけど、ホンマに曲が短い。もともと早く終わる曲が好きなので、今回はわりとそっちにふり切っていると思います。
TVアニメ『東京リベンジャーズ』天竺編のエンディング主題歌である「Say My Name」も短いですよね。
そうそう。2分切ってますからね。でも、ちゃんとサビは2回来てるし、最後にソロも入ってますから。パンクな曲って、自分の中では2分くらいが最高なんですよ。
ハイスタの「Stay Gold」も2分くらいですけど、印象的なリフがあって、カッコいいギター・ソロも入っていて、最後に転調もしてる。なんだかんだ、そういう曲が好きなんですよね。
その「Say My Name」は、HEY-SMITHを象徴する新たなアンセムに仕上がりましたが、どのように作り込んでいったんですか?
まず『東京リベンジャーズ』の主題歌という話をいただいて……。そもそもタイアップをやらせてもらうのが初めてだったので、“これまでで一番いい曲を作りたい”と思っていました。
で、“どんな曲にしよう?”って考えている時に“HEY-SMITHの全部盛りみたいな曲はどう?”っていう提案があって。そんな視点で曲を作ったことがなかったこともあって、面白そうだからやってみようとなったんです。
HEY-SMITHらしさを全部入れてみて、もしもお腹いっぱいになり過ぎたら作り直そうって感じに考えていたんですけど、いざ全部盛ってみたら……“意外と全部食えたな”って感じでハマったんですよね(笑)。
自分の中では、色んな要素がたくさん詰め込まれているのに2分以内で終わってるのがミソだと感じていて。おそらく3分くらいの長さにしていたら“もうええわ”ってなると思うんですよ。この曲に関しても、すべてのアレンジが一気に頭の中に降りてきたのですぐに完成しました。ここ最近の中では、ホンマに一番いい曲が作れたと思います。
「Inside Of Me」はミディアム・テンポで聴かせるスカ・ナンバーです。サビをホーン・セクションのみで聴かせるアレンジにした理由は?
サビは“踊りたかった”んですよね。みんなで合唱したり、ダイブして暴れたりするのもいいんですけど、“なんかようわからんけど、踊って楽しい!”みたいな曲を作りたくて。しかも、日本以外のどんな国で演奏しても、その場にいる全員が踊りたくなるような曲にしたかったんです。
海外の話が出ましたが、「Fellowship Anthem」には「エリーゼのために」のフレーズや、わかりやすく“オチ”となるキメ・パートを盛り込んでいますね。言語を超越して共有できる音楽的な要素を取り入れることで、世界各地でライブをやることを見据えて作った楽曲のように感じました。
まさにそのとおりです。海外でのライブをもっと増やしたくて。あとは“英語圏じゃなくても楽しめるような曲を作ろう”ってことは意識して作りました。
メキシコやブラジル、スペインといった情熱的な国で、めちゃくちゃ受け入れられている光景が想像できます(笑)。
でしょ? もう行く気満々(笑)。今まさに作っている曲があるんですが、もう“絶対に南米やな”って感じに仕上がってるんですよ。
ライブで盛り上がるダンス・ナンバーも多く収録されていますが、BPMはどのように決めるのですか?
テンポに関しては、バンドで合わせながら微調整していくんですけど、例えばBPMをほんの少しテンポを上げるだけで“踊れる曲”から“踊り狂える曲”にすることができるんですよ。そこは大きな違いなので、僕らが“どうやって楽しんでもらいたいか?”ってところをちゃんと伝えるために、意図的に狙いを定めてBPMを決めるようにしています。
ギター・ソロに関して言えば、「Money Money」のメロディアスに歌い上げたフレーズには“横山健節”を感じました。
たしかにそうですね。健さんの弾くソロって、ギターで歌メロをなぞるのではなくギター用のメロディがちゃんとあって、しかも“え? そこで半音だけ上がるの?”みたい音使いをよく使ってくるんですよ。俺、あれが大好きなんですよね。なのでこの曲のソロは、シンプルに俺の中の“横山健イズム”が出てしまったポイントだと思います(笑)。
レコーディングで使った機材を教えて下さい。ギターは何を使いましたか?
ESPの自分のオリジナル・モデル(EP)と、ちょっと前に買ったギブソン・カスタムのレス・ポール・カスタムの2本をメインで使いました。
レス・ポール・カスタムは、YouTube(猪狩秀平の大阪のバンドマンチャンネル)の企画「予算100万円でギター買いに行ってみた(ガチ)」で何本かを弾き比べて購入したモデルですね。
そうそう。100万円を持って楽器屋さんに行って、高価なレス・ポールを何本も弾き比べた中で、一番鳴りの良かった1本を買ったんですけど、今回のレコーディングでめちゃくちゃ活躍してくれましたね。
これまで高価なギターに対してあまり興味がなかったんですけど、こんなにも良い音で録れるとなると気になり始めちゃいました。なので今はこのアルバムを売って、もう1本新しいギターを買いたいなって思っています(笑)。
アンプは?
ソルダーノのSLO-100とディーゼルのHERBERTという2台がメインです。ほかにも、マーシャルのJCM2000やソルダーノのHot Rodも使いました。
キャビは、VHTとゲンツ・ベンツ。ゲンツ・ベンツには小さいバスレフが付いてて、ウネっとしたローが録れるんですよ。“なんかおるな”って妙な気配を感じるようなローなので、コントロールするのはちょっと難しいんですけど、今回、自分のギターの音を作る上で大切な要素でしたね。
最後に改めて、今回の作品制作をふり返って一言お願いします。
世界中のどんな国でも誰でも聴けるアルバムになっています。あと、“HEY-SMITHのギターは誰でも弾けるよ”ってところを常に目指して作っているので、実際に演奏してみると“このストロークと歌の譜割がめっちゃ気持ちいい!”って感じてもらえると思います。ぜひギターを弾きながら歌ってみてほしいですね。
作品データ
『Rest In Punk』
HEY-SMITH
ポニーキャニオン/PCCA.06231/2023年11月1日リリース
―Track List―
- Money Money
- Still Ska Punk
- Say My Name
- Fellowship Anthem
- Be The One
- Into The Soul
- Inside Of Me
- Be My Reason
- You Are The Best
- Don’t Wanna Lose You Again
- Rest In Punk
―Guitarist―
猪狩秀平