喜多建介(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が語る、“今のアジカン”を詰めた『サーフ ブンガク カマクラ (完全版)』のギター・サウンド 喜多建介(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が語る、“今のアジカン”を詰めた『サーフ ブンガク カマクラ (完全版)』のギター・サウンド

喜多建介(ASIAN KUNG-FU GENERATION)が語る、“今のアジカン”を詰めた『サーフ ブンガク カマクラ (完全版)』のギター・サウンド

ASIAN KUNG-FU GENERATIONの『サーフ ブンガク カマクラ (完全版)』をテーマに、喜多建介にインタビュー。そのルーツとなった2008年版に比べてウェッティな音色が印象に残るサウンド・メイクのこだわりや、4ヵ月にわたるリリース・ツアーを経たことによるギター・フレーズの進化などについて、たっぷりと語ってもらった。

取材/文=伊藤雅景 写真=山川哲也

2008年版のライブ感とどう対比をつけるかが一番のポイントでした

喜多建介

『サーフ ブンガク カマクラ』(2008年)は、ミドルがカラッとした特徴的なギター・サウンドでしたが、新たな“完全版”は、対照的にウェットで瑞々しい音が印象的でした。

 2008年版を改めて聴くと、荒々しさもありますけど、良いライブ感で録れているなと感じますね。当時、ギターに関しては、ゴッチ(後藤正文/vo,g)から“ギター・フレーズはパッと出たものが良かったりするから、あまり考え込まないで来て”っていうリクエストがあったんです。あと、レコーディングは一発録りで、ギター・アンプの部屋のドアを開けっぱなしにしたりもしていて。

 それに対して今作は、一発録りではなく、現在のアジカンのレコーディングのプロセスで作ったんです。リズム隊とバッキング・ギターから録っていって、僕が最後にリード・ギターをダビングするっていう。なので、良い意味でスタジオ・アルバムとして聴きやすい作品になったと感じますね。

今作のギターはどのようなものを目指していましたか?

 前作(2008年版)のライブ感とどう対比をつけるかが一番のポイントでしたね。あと、前作に収録されているフレーズは俺の手癖が満載なので、そこを今作でどれくらい生かそうか迷ったりもしました。でも、最終的にはあまり変えなかったんです。愛すべき手癖なのかなと思いますね。ただそこも、弾きすぎないように、右手が丁寧になりすぎないように意識した部分はありました。

制作の中で苦労したことはありますか?

 当時は本当に何も考えないで録った曲も多かったので“どういう運指で弾いたんだろう?”っていう瞬間はけっこうありましたね(笑)。

 あと全体的に、プレイというよりは、音作りに時間がかかりました。「江ノ島エスカー」で言うと、2008年版ではメイン・リフやAメロでグヤトーンのwah rocker(オート・ワウ)っていう紫色のペダルを使ったんですけど、今使ったらエフェクトの具合がエグく感じちゃって。結局「江ノ島エスカー(2023 ver.)」は、テックの人と相談してソースオーディオのGuitar Envelope Filter(エンベロープ・フィルター)で弾きました。

サウンド・メイクで苦労したのは「江ノ島エスカー(2023 ver.)」だけでなく、全体的に?

 シンプルなアンプの歪みがほとんどなので、基本的な音色作りはそこまで時間はかかっていないんですけど、「江ノ島エスカー」のようにエフェクティブな音色を使う部分で、今作での“落とし所”を見つけるのに時間がかかりましたね。

そのサウンド・メイクの進め方はどのような流れでしたか?

 ゴッチやテックの方と相談しながら決めていきましたね。自分だけじゃなくて3人でアンプのツマミをいじる、みたいな。俺は“自分が絶対決めるんだ”って感じでもないので(笑)、みんなの意見も取り入れながらやりたくて。そういう作業の進め方でした。

『プラネットフォークス』(2022年)のレコーディングでは、サウンド・アドバイザーとしてギタリストの西田修大さんが参加していましたが、その経験が活かされたポイントはありましたか?

 レコーディングの時は毎回、ゴッチが新しいペダルを色々持ってきてくれて、フレーズごとに大量のペダルを試すんですよ。西田君もそうで、“これ良いっすよ! これも良いっすよ!”みたいな。最終的に“どうつながってるんだ?”ってくらいの数になったりするんですが、西田君と作業してから、その時間をもっと楽しめるようになりましたね。昔より“自分が良いと思った音が絶対だ”っていう意識はなくなったというか、柔軟になりました。

エフェクティブなサウンドで言うと、「七里ヶ浜スカイウォーク(2023 ver.)」ではわかりやすくリバーブがかかっています。これはボグナーかSHINOSのアンプで作った音色ですか?

 あれはたぶんディバイデッド・バイ・サーティーンで録ったかな? この曲はギターが歪まず、凄くシンプルなフレーズなので、このクリーン・トーンの音作りは気を使いましたね。

 まだライブではお披露目してないですが、レコーディングでは大体ボグナーとディバイデッドの2台がメインなんですよ。SHINOSはレコーディングでは意外と使っていなくて。 

なるほど。では、使用ギターも教えて下さい。

 メインは、ギブソンのヒスコレで、1959年リイシューのほうですね。サブの1958年リイシューも使っていて、7:3くらいの割合だったと思います。ES-335も持っていますけど、今回は弾かなかったかな。

ちなみに、2023年7月に公開された「江ノ島エスカー」のMVで登場するギターは黒のレス・ポールですが、あれは?

 あのMVは海辺での撮影だったので、さすがにメインの楽器は潮風にさらさないようにしようという話になって、レス・ポールをレンタルしました。深い意味はないんです(笑)。

新しいギターなのかなと思いました(笑)。

 俺も好きなアーティストのMVはそういう目線で見ていましたから、気持ちはわかります(笑)。でもいざ自分がアーティスト側になってみると、MVの使用機材とかは、意外といい加減だぞと(笑)。

確かにライブでは音源よりピッキング・ハーモニクスが多い気がします(笑)

喜多建介

リリース・ツアー“Tour 2023「サーフ ブンガク カマクラ」”を経て、ギター・フレーズのアレンジが変わった曲などはありましたか?

 「和田塚ワンダーズ」とかは、音源ではリフでギターがハモっているんですが、ライブでは一本で弾いているんです。ハモリを再現するためにエフェクターを使おうかとも思ったんですが、そうしなかったのが逆に良くて。より説得力がある音が鳴らせたなと思います。

そのほかにアルバムとライブのアレンジで変化を感じる部分は?

 ツアー中に毎公演の録音を聴き直していたんですが、この間久しぶりにアルバム音源のほうを聴いたら、ライブと比べてけっこうおとなしい印象があって。特に「由比ヶ浜カイト」は、レコーディング時にももっと伸び伸び弾けばよかったなと思ったりもしましたね(笑)。録っていた時は満足していたんですけど、縮こまってるところもあったなと。

個人的には、おとなしいと言うより、前作と比べてタイトなプレイが多いと感じました。特に、高速なギター・ソロを弾く「稲村ヶ崎ジェーン」では、一つ一つの音がより聴き取りやすくなっていました。

 そこの部分に関しては、逆に前作だと、弾けてるのか弾けてないのかよくわからないまま採用されていたんですよ(笑)。確か、自分が良いと思ったテイクと、ゴッチとディレクターが良いって言うフレーズが違ったんですよね。自分では弾けていないと思うんだけどな……って思うテイクでも、みんながOKならOKですって感じで採用したソロなんです。

「鎌倉グッドバイ(2023 ver.)」のギター・ソロでは、前作にはなかったピッキング・ハーモニクスを入れていたのが印象的でした。「柳小路パラレルユニバース」などでも頻繁に鳴らしていますが、意図的に入れていたんですか?

 『サーフ ブンガク カマクラ』を再録しようっていう話が出た時に、まずは新しい5曲からレコーディングしたんですが(「石上ヒルズ」、「柳小路パラレルユニバース」、「西方コーストストーリー」、「日坂ダウンヒル」、「和田塚ワンダーズ」)、そのちょっと前にウィーザーの『ヴァン・ウィーザー』(2021年)っていう、少しメタルっぽいアルバムがリリースされたんですよ。

 それで、その作品のギラギラした雰囲気やピッキング・ハーモニクスの感じも取り入れたいなと思ったんです。「石上ヒルズ」のレコーディングあたりからその要素を入れ始めて……という流れでした。

2023年11月3日の日本青年館ホールでの公演を観ましたが、ライブでは喜多さんがピッキング・ハーモニクスを鳴らす箇所がさらに増えたなと感じました。

 確かにライブでは音源よりピッキング・ハーモニクスが多い気がします(笑)。ただ、ライブ録音を聴き返して“ここは要らないな……”って思うとこともあるので、その匙加減は毎度考えてますね。もちろん、楽しくてつい鳴らしちゃう時もありますけど。

ライブではそこにめちゃくちゃ痺れました。

 本当ですか。ちなみに「鎌倉グッドバイ(2023 ver.)」のソロは、ゴッチと“前作よりいなたい感じにしよう”と話していたんです。ピッキング・ハーモニクスの部分はたまたま鳴っていたんですけど、良かったので採用しました。

後藤さんのギターに関して何かエピソードはありますか?

 ゴッチはどうだったかな……。例えば「極楽寺ハートブレイク」のバッキング・ギターは、ゴッチは前作でカポをつけて弾いていたんですけど、それをどうやって弾いていたか思い出せないと。映像を探してみたりもしたんですけど、いまいちよくわからなくて。結局、今の弾き方でいいよっていう話になりました。“思い出せないものはそれくらいのレベルのもんだ”っていう(笑)。

左から喜多建介(g)、後藤正文(vo,g)。
左から喜多建介(g)、後藤正文(vo,g)。

ありがとうございます! 最後に次回作への展望を聞かせて下さい。

 今回はシンプルで抜けの良いパワー・ポップ的なサウンドが作れたので、次回作ではウェッティな方向というか、エフェクティブなサウンド・メイクも色々試してみたいですね。シンプルな音色はこの数年で堪能したので(笑)。

作品データ

『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』
ASIAN KUNG-FU GENERATION

『サーフ ブンガク カマクラ (完全版)』
ASIAN KUNG-FU GENERATION

Ki/oon Music/KSCL-3452/2023年7月5日リリース

―Track List―

  1. 藤沢ルーザー
  2. 石上ヒルズ
  3. 柳小路パラレルユニバース
  4. 鵠沼サーフ
  5. 西方コーストストーリー
  6. 江ノ島エスカー
  7. 腰越クライベイビー
  8. 日坂ダウンヒル
  9. 七里ヶ浜スカイウォーク
  10. 稲村ヶ崎ジェーン
  11. 極楽寺ハートブレイク
  12. 長谷サンズ
  13. 由比ヶ浜カイト
  14. 和田塚ワンダーズ
  15. 鎌倉グッドバイ

―Guitarists―

喜多建介、後藤正文