マハラージャンが語る『ミーンミーンミーン☆ゾーンゾーンゾーン』 緻密なギター・アレンジのこだわり マハラージャンが語る『ミーンミーンミーン☆ゾーンゾーンゾーン』 緻密なギター・アレンジのこだわり

マハラージャンが語る『ミーンミーンミーン☆ゾーンゾーンゾーン』 緻密なギター・アレンジのこだわり

“THE FIRST TAKE”への出演を機に注目を集め始めたマハラージャンは、その特徴的な衣装や楽曲のユニークさに目が行きがちだが、ギタリストとしてもかなりの腕前を持つ。2024年2月に発売となった新作『ミーンミーンミーン☆ゾーンゾーンゾーン』には、小川翔、西田修大、菰口雄矢と名手が参加しているが、大部分では自身がギターをプレイ。そんな彼に、ギターを始めたきっかけから、新作でのファンキーなカッティングやメロウなソロのアプローチについてまで、幅広く話を聞いた。

インタビュー=福崎敬太 写真=Taichi Nishimaki

先生から“カッティングができないと生き残れない”と言われて

まずは初登場ですので、ギターを始めた経緯から聞かせて下さい。

 小さい頃から、親が教育のためにクラシックを聴かせていたみたいで、音楽に対しては親しみがあったと思うんです。押入れの奥にあった父親のトランペットが気になるような子供で、小学校4年生で吹奏楽部に入ってトランペットを始めたんですよ。

 そのあと、小学校6年の時に僕が歯科矯正を始めてトランペットが吹けなくなり、その代わりにギターをやりたいって言って。そこからアコギを習いにいって始めました。

最初はアコギだったんですね。エレキを手に入れたのは?

 中学校1年生の時に黒のLPタイプを買ってもらったんです。中学に入ってからL’Arc〜en〜Cielにハマって、めっちゃコピーをしていて。特にバンドを組んでいたわけじゃないんですけど、僕とベース担当の友達と2人で、ひたすら家で練習をしていましたね。

 で、中学2年生で吹奏楽部に復帰して、またメインがトランペットになるんですが、“3年生を送る会”っていう行事の時に、全校生徒の前で演奏をしたんです。ラテンのジャズ・ナンバー「テキーラ」をやらせて下さいって先生にお願いして、16小節のアドリブのソロを吹いたんですよ。そこで全校生徒がワーって盛り上がって。そこで音楽の道に進みたいかも、って思い始めたんです。

その快感は大きいですね。そこから現在の音楽性はどのように作られていったのでしょうか?

 高校で音大に行く先輩に“どうやったら音大に行けますか?”って聞いた時に、“なんでもいいからとにかくたくさん音楽を聴け”って言われたんです。それで図書館やTSUTAYAとかで、ジャズから民族音楽まで色々聴いたんですよ。あとは音楽好きの友達から、ジャミロクワイやレディオヘッド、ザ・ホワイト・ストライプスとか色々な洋楽を教えてもらったり。それでどんどん音楽にハマっていくんですよね。

 そのあと、大学ではトランペットでジャズ研に入りたかったんですけど、ジャズ研がなかったので軽音部に入ったんです。そこで流行ってたリバティーンズやコールドプレイ、アークティックモンキーズを聴いたり。

 あと、日本の音楽からの影響がないミュージシャンになろうと思って、国内の音楽を全然聴いていなかったんですが、先輩がゆらゆら帝国をコピーしていて、“何これ!”と思って。それでゆら帝の音源を聴いてみたら凄くカッコよくて。“日本の音楽もこんなにカッコ良いのがあるんだ!”って、ちょっと今のスタイルに通ずる発想になっていったんです。

ギター的にはロック寄りな経歴という印象ですが、現在のファンキーなカッティングなどはどう身につけたんですか?

 大学の頃にギターを習いに行っていたんですよ。その先生から“ソロをいい感じに弾くのは、けっこうみんなできる。それよりもカッティングができないと生き残れない”と言われて。その人はタワー・オブ・パワーやナイル・ロジャースみたいなカッティングが上手な人で、アドリブやカッティングはその先生に教えてもらいました。

 あとは、大学の時にダンス・サークルにも入っていて。ジェームス・ブラウンとかで踊ったり。それからクラブにも行くようになったんですよね。そういう経験も今につながっています。

マハラージャン
マハラージャン

基準はシンプルで“踊れるかどうか”

では、新作『ミーンミーンミーン☆ゾーンゾーンゾーン』について聞かせて下さい。小川翔さんや菰口雄矢さん、西田修大さんなど名手揃いですが、マハラージャンさん自身も弾いています。この棲み分けはどのように考えているのですか?

 自分が弾ける、思いつくフレーズって限られているというか、自分好みの感じになりがちなんですね。だから、そこからはみ出すために、ほかのミュージシャンに弾いてもらっていて。

 でも「ゾーンに入ってます」だったら“これは自分以外には弾けない”って思っちゃうんですよ。フレーズは弾けると思うんですけど、“めちゃくちゃうまいと、むしろこの曲に合わない”っていう自分独特のニュアンスのイメージがあって。“その辺のニュアンスが一番分かってる人って誰だろう? 自分だ!”みたいな(笑)。

 逆に「I’m just loooking」だと“この感じならもっとうまい人いるよな”っていうところで、小川翔さんにやってもらおうと。

まずはマハラージャンさんがギターを弾いた曲から聞かせてもらいたいのですが、「蝉ダンスフロア」は、タッピングが入るハードロックなアプローチがありますね。あそこはどんなイメージのパートですか?

 「蝉ダンスフロア」はめちゃくちゃ気に入っている曲で、色々オマージュして面白くしたかったんですよ。昔の速弾き系のギタリストとかも一応知っていて、イングウェイやナイトレンジャーとか、そういうニュアンスを混ぜたかったんですよね。

「ラジオネーム オフトゥン大好き(feat.ケンモチヒデフミ)」の、コードが変わっても同じモチーフが続くカッティングは、ファンクの醍醐味だと思います。こういうグルーヴを生むフレーズの作り方で考えていることはありますか?

 正直なところ、あんまりギターやコードのこと詳しくないから、あれしかできないっていうことなんですが、ああいうフレーズが良いなとは思っていました。

 この曲はケンモチさんが基本的なトラックを作ってくれていて、僕は打ち込みよりも生の音のほうが良い派なんですけど、ケンモチさんのトラックは“僕の思っている打ち込み”を超えてカッコ良いんです。

 でも、そこにロックやファンクっぽい人間らしさを入れたいって思ったんです。だけどあまり主張したくないというところで、ちょうど良いフレーズに落ち着いたとは思います。

 あと、ミックスしてくれた板井(直樹)さんがギタリストで、そのミックスが凄く良かったんです。ギターの扱い方や音の出し方をわかっているというか。

それは具体的に言うと?

 一番そう思ったのが、2サビのラストのほうで“ショックを吸収 バッドな気分もマットに沈めろ”からのところで、リフの音の質感が元よりもめっちゃカッコ良いんですよ。ここを始め、“板井さん、ありがとう!”って思ってます。

「噂のキャンディ」は4拍目の裏を意識したルーズなノリが印象的です。ギターのリズム面でこだわりはありますか?

 めちゃくちゃありますね。基準はシンプルで“踊れるかどうか”。ギターに関しても“チャラッチャラ”って弾いたのを聴いて、やっぱ“チャラッチャ”で良かったな、最後の“ラ”は不要だったな、みたいな細かな調整をたくさんして、踊れるようにしています。

 小川翔さんに初めてそういうディレクションをした時に“すげぇ細かいな……。でも、マハラージャンの音楽になるね”みたいなことを言われました。

「噂のキャンディ」だとギター・ソロがありますが、凄く印象に残るメロディ・ラインですね。これはどう作っていったんですか?

 これは凄く考えて、本当に“誰か弾いてくれー! 助けてくれー!”って思いながらやっていました(笑)。

 ギター・ソロは色んなことが可能な中で、“こういうのがあったほうが切ない”、“切なさを表現するにはどうしたらいいんだろう”って考えて作ったのが「噂のキャンディ」のソロですね。

 あ、1つ言い忘れていたんですが、高校の頃に一瞬ジャズ・ギター習っていたんですよ。宮之上(貴昭)さんのところに通っていて。そこで学んだ、フレーズがカッコ良いかカッコ悪いかの判断とか、ジャズのコードの弾き方などは今に活きています。

マハラージャンと小川翔
マハラージャン(左)と小川翔(右)

やっぱりギターが好きなんだと思います

今作に参加したギタリストについても聞かせて下さい。小川翔さんは「波際のハチ公」でブチあがるソロを弾いていますが、ここはどう作り上げていきましたか?

 「波際のハチ公」は犬つながりで、MR. BIGの「コロラド・ブルドッグ」のイントロみたいな“どぅるるる~”っていう速弾きをやってほしいって言って。そのあとの伸びた音からはもう任せますっていう感じでした。

今作で、マハラージャンさんが特に気に入っている小川さんのプレイは?

 「I’m just looking」ですかね。翔さんに一番合っている曲だと思うんです。この曲自体が好きなんですけど、特に翔さんのグルーヴの出し方とかが凄くハマっている。

「4061」は西田修大さんが参加しています。間奏のキメだけ少しエフェクティブな程度で、わりとストレートなカッティングだなという印象ですが、西田さんの印象は?

 凄くアーティスティックなギタリストだと思うんです。だけど、そういう人にやってもらうカッティングは、それはそれで凄く面白い。それに引き算がうまい人だなって思いますね。シンプルなプレイであるからこそ、彼の個性が出ていると思ってます。

「くらえ!テレパシー」が菰口雄矢さんです。菰口さんは以前からサポートで弾いたりもしていますが、マハラージャンさんにとってどんなギタリストですか?

 もう天才。王者みたいな。“俺は菰口だ!”みたいな。そういうオーラがあります。やっぱりセンスが光っているというか、ミュージシャンとしてギターのアレンジを作るのも凄く上手なんですよね。

 「君の歯ブラシ」(『正気じゃいられない』収録/2022年)も菰口さんに弾いてもらったんです。菰口さんが弾きそうな曲じゃないって言ったら変なんですけど、凄くファンキーなんです。でも、その中に自分のオリジナリティをいっぱい入れてくれて。“面白いことを考えられる人だなぁ”って思ったんですよね。本当に発想が豊かなんです。

今作のレコーディングで使用したギターは?

 ギターは……何を使ったか覚えていません(笑)。鈴木Daichi秀行さんのスタジオでほとんど録らせてもらっていて、そこにめっちゃいい音がギターがいっぱいあるんですよ。でも、アディクトーンのギターはよく使ったと思います。

カッティングする時のギター側の音作りはどういう風に考えてますか?

 フロントとセンターのハーフトーンにすることが多いですね。

アンプやエフェクターで活躍したものは?

 VOXのアンプは使いましたね。歪みはアンプで歪ませた気がします。エフェクターはレコーディングでそんなに使わないんですけど、BOSSの技シリーズのコーラスは使いました。

ギターがないダンス・ミュージックは珍しくないですが、マハラージャンさんの楽曲はギターが必ずと言っていいほど入っていますよね。マハラージャンさんの音楽にとってギターはどういう存在なんですか?

 やっぱりギターが好きなんだと思います。カッティングとか好きですし。弾き語りライブの時も、いわゆるシンガー・ソングライターみたいな感じじゃなく、キザイア・ジョーンズみたいにカッコ良いカッティングで弾き語りする人を目指していたり。そういうギターの在り方っていうのが凄く好きなんです。

 そもそも曲の中には“好きなものを入れている”っていう感覚が強いので、これからも入れるんだと思います。

マハラージャンさんが考える、ギターの魅力とは?

 ギターを入れると立体感が出るんですよね。それに、チャッチャッていうコードの鋭さでリズムが立つところは、ピアノとかほかの楽器とは全然ニュアンスが違う。それに手のニュアンス感は人によるものなので、そういうのは凄く面白くて好きですね。

マハラージャン

作品データ

マハラージャン『ミーンミーンミーン☆ゾーンゾーンゾーン』

『ミーンミーンミーン☆ゾーンゾーンゾーン』
マハラージャン

ソニー/SECL-2936/2024年2月7日リリース

―Track List―

  1. 蝉ダンスフロア
  2. ラジオネーム オフトゥン大好き(feat.ケンモチヒデフミ)
  3. I’m just looking
  4. repaint
  5. 波際のハチ公
  6. 噂のキャンディ
  7. ゾーンに入ってます。
  8. 雑菌フィーバー
  9. 4061
  10. DREAM
  11. くらえ!テレパシー
  12. タイミング ※Bonus Track

―Guitarists―

マハラージャン、小川翔、西田修大、菰口雄矢