トム・ミッシュが語る、ギタリストとしての再出発(前編)新曲「Insecure」とギブソンES-335 トム・ミッシュが語る、ギタリストとしての再出発(前編)新曲「Insecure」とギブソンES-335

トム・ミッシュが語る、ギタリストとしての再出発(前編)
新曲「Insecure」とギブソンES-335

この数年は全編打ち込みのダンス・ミュージック・プロジェクト、SUPERSHYでの活動が目立っていたトム・ミッシュが、ついにソロ名義でカムバック! この5月、6月と連続リリースされた配信シングルでは、あの繊細でエモーショナルなギター・プレイがしっかりと散りばめられていた。まさしくギタリスト、トム・ミッシュの再出発である。というわけで、全3回にわたるトム・ミッシュの最新インタビュー特集をお届けしよう。まずは5月の配信シングル「Insecure」について!

インタビュー/翻訳=トミー・モリー Photo by Jim Dyson/Getty Images

実は今回の配信シングルは、5年前に作った曲なんだ。

トム・ミッシュ
Photo by Olivia McDowell

ギター・マガジンでの取材は約3年ぶりとなりますが、前回は“ギターから少し距離を置くよ”と、話していましたよね。そういう意味で、この一連の配信シングルは“ギタリストとしてのトム・ミッシュ”がカムバックした、という認識でいいのでしょうか?

そうとも言えるかな。面白いことに、実は「Insecure」と「Cinnamon Curls」は5年前に作った曲なんだ。2曲とも色々と理由があって、リリースすべきタイミングに恵まれなくてね。当時、僕はユセフ・デイズ(d)とのコラボレーションを含むいくつかのプロジェクトに参加していたし、コロナのロックダウンもあった。そういった余波でリリースが先送りになっていったんだよ。僕自身、決心するまでにけっこう時間がかかってしまったしね。

今取りかかっている音楽は、さらにギターにフォーカスしたもので、トラディショナルなプレイをしている。だから、次の作品は少しフォーキーでアコースティックなものになると思うよ。5年前に作った「Insecure」と「Cinnamon Curls」は今の僕のギター・プレイを反映しているわけではないから、ちょっと変な感じがするけどね。

まるでタイムカプセルを開けているような感覚でしょうか?

そう、まさにタイムカプセルみたいなものだけど、この2曲は僕の新たな音楽の方向性の一部としてリリースする必要があったんだ。今、僕が取りかかっている音楽と、かつての自分をつなげてくれるような存在としてね。

5年前のあなたは活動主体をソーシャル・メディアに置いて、積極的な発信をしていましたよね。ただ、ここ1年はInstagramの過去の投稿をアーカイブするなど、活動をセーブしていたように思います。何かソーシャル・メディアを通した音楽活動に対する心境の変化があったのですか?

キャリアを重ね、アーティストとして成長していくうえで、“これは本当にやりたいことだったのか?”と考えるようになったんだ。僕は音楽が好きだけど、“こうやって注目を集めることが楽しいのか? これは自分に合っていることなのか?”と、常に自問自答していたよ。Instagramの投稿をアーカイブしたのは、一度すべてをリセットしてみることで、どうなるのかを見てみたかったんだよね。インターネット上のあちこちに自分の顔が張り付けられている状態を避けたくて、そういった意味で切り換えのタイミングだったんだ。

そして僕は過去に作った曲を、あまりにも長い間プレイし続けてきた感覚になっていた。僕はアルバム『Geography』で世の中に知られることになったけど、あれはもう6年くらい前に作ったアルバムで、自分の頭の中はそこから離れた場所にあったからね。

そんな中でも、バンド・セットで来日した2022年のフジロックでのパフォーマンスは圧巻でした。あなたとチャーリー・アレン(g)とのかけ合いが美しすぎて、いまだに忘れらません。あのライブを少し振り返ってもらえませんか?

まずは、かなり暑かったね。あと大きな虫がたくさんステージ上を飛んでいた(笑)。ステージ上に強い照明が当たっていたこともあって、僕の顔をめがけて虫がたくさん寄ってきたのが印象深いよ。

フジロックは信じられないくらい美しいフェスティバルで、そこで演奏できるというだけでかなり興奮した。いつも“日本でライブをしてみたい!”と思っていたからね。オーディエンスもかなり集中して聴き入ってくれていて、とても感動的だったな。

あの時のバンドでの演奏も凄く覚えているよ。そもそもチャーリー・アレンがバンドに加わった最初の頃のステージだったんだ。彼は本当に特別で、アメイジングなギタリストだよ! 僕たちがかけ合うようにジャムった瞬間は本当に楽しかったし、「Disco Yes」のイントロに入る前に、僕らのギター2本だけでプレイしていた時間も忘れられないね!

さて、5月にリリースした「Insecure」について詳しく話を聞かせて下さい。トム・ミッシュ名義で活動を再始動させた1曲目ですが、どういった過程でできた曲なんですか?

『Geography』の頃はJ・ディラのようなプロデューサー兼アーティストにかなり影響を受けていて、プロデューサーとして重点的な役割を担っていたんだよね。でも「Insecure」では僕がもっとストレートにギターとボーカルをプレイするような、プロダクションを削ぎ落したものにしたかったんだ。僕が歌えば僕らしくなるし、ギターにおいても同じことが言えると思う。だからもし、歌とギターを剥き出しの状態で組み合わせたら面白いものになるんじゃないかと考えたのさ。

この曲はデプトフォード(ロンドン)にあるUnwound Studiosでレコーディングしたんだけど、最初にメロディとギターのラインが自分の頭の中にあって、ジミー・ネイプスというソング・ライターとセッションしながら一緒に曲を作ったね。ギターはあえてサクッと録ったものを採用した。これが一連のプロセスだったかな。

それから5年間、この曲のドラムを差し替えたり、新たなアイディアをトライしてみたり、常に何かしらを変えていった。ただ、あまりにもクレイジーにやりすぎてしまって、途中で曲の目指すところを見失っていたような気がしてね。でも去年、ついに“もう十分だ、この曲を完成させよう”と思ったんだ。そうやって現在の形に落ち着いたという感じだね。

そもそも配信シングルを連続リリースするというアイディアはどこから生まれたものですか?

どうやってキャリアを再開させ、どんな形で制作とリリースをするべきか、それをずっと考えていた。ただ、突然アルバムをリリースして、プロモーションやツアーをみっちりと行なう、といったようなことは想定していなかったけどね。

だから1曲ごとにリリースして、その手応えを確かめ、自分のペースで急がずにやりたかったんだ。

今のところは2曲のシングルをリリースしたばかりだから、3曲目をどうするのかはまだ決めかねているよ。こうやって昔からあった2曲をリリースしている間に新しい曲を作り、それらを次に出していければいいかな。

「Insecure」はキャッチーなリフが印象的です。ギター・リフやメロディを中心に発展させていったのですか?

えーっと……「Insecure」や「Cinnamon Curls」を作っていた5年前の頭に戻してみよう(笑)。

まずメインのフックとなるギター・リフがあって、その上にボーカルのメロディが乗っている感じだよね。多くの人たちが2本のギターが鳴っていると思っているみたいだけど、実際は1本のギターでプレイしているんだ。メロディから始まり、ベース・ラインが続き、そこにコードが加わっていく。それがクールだと思っていたよ。

ちなみに、僕のInstagramのストーリーでアコースティック・ギターをプレイしている動画をアップしたら、“えっ? 全部を1本のギターでプレイしているとは思わなかった!”というコメントをもらったよ。2つのパートに聴こえるようなところがあったから、無理もないかなという感じだね。

この曲のレコーディングでは、何のアコースティック・ギター使ったんですか?

実はアコースティック・ギターではなくて、ギブソンのES-335で弾いているんだ。マイクをサウンドホールに向けて、アコースティック・ギターのようにして録ったんだよ。フレットに弦が当たる時の音や、ちょっとしたタッチのノイズも入ってしまっているけど、そこも含めて気に入っているね。

全然気がつきませんでした! そのES-335のスペックは?

60年代のものだよ。Instagramで僕がプレイしている動画を見たことがある人も多いかもね。2018年にロンドンのデンマーク・ストリートで手に入れて……しかもMoogerfoogerと同じ日に買ったんだ! それ以来、この2つの機材にずっと影響を受け続けているから、あの日はかなり重要だったね。

特にMoogerfoogerはTiny Desk Concertや色んな場所で使ってきたし、どれだけ大きな存在なのか言葉では説明しきれない。ES-335はロー・エンドがかなりあるから、Moogerfoogerを通すとかなり面白いサウンドになるんだよ。

では、最新の機材に関してはまた後ほど聞かせてください!

(後編へ続く)

作品データ

「Insecure」
トム・ミッシュ

「Insecure」
トム・ミッシュ

配信/2024年5月2日リリース

―Track List―

01.Insecure

―Guitarist―

トム・ミッシュ