2024年4月3日にメジャー1stフル・アルバム『AVEANTIN』をリリースしたミクスチャー・ファンク・バンド、BREIMEN。今回はギタリストのサトウカツシロにインタビューを行ない、制作をふり返ってもらった。前作『FICTION』(2022年)から進化したというアプローチの考え方や、“発想の自由度が上がった”という自身の心境の変化など、たっぷりと語ってくれた。
取材・文=伊藤雅景
自分が持っているアイディアや発想の自由度が上がったと思います。
ギター・マガジンでは2年ぶりのインタビューです。その間ギター・プレイに対して感触が変わっていった部分はありますか?
前のアルバム(『FICTION』/2022年)を作ってた時は、表現とか音楽的なアプローチとかに“自分である必然性”みたいなものを、必要以上に求めてたなって思うんですよね。“俺でしか思いつかないもの”みたいなところにこだわってたっていうか。そういう気持ちが強くて苦労しました。
前作で苦労したからか、今作『AVEANTIN』では、そこの必然性みたいなものに固執することなく、出てきたものをそのまま音に起こしていけたんですよ。でも、出てくるものの“普通じゃない感じ”とか、アイディアの新しさはしっかり出すことができました。
そういうアイディアが苦労せずに出てくるっていうことは、発想の自由度が上がったんだと思うんですよね。それに、BREIMENは音楽性的に、いわゆるギターとしておいしい感じのフレーズや音色があんまりハマらないんですよ。
確かに、ギター・フレーズの音数が少なくなって、力も抜けて軽やかに聴こえる気がします。
そうですね。だから、フレーズ作りとかは良い意味で適当。めっちゃ適当でした。友達との日常会話で、思い浮かんだ冗談を言うくらいの感覚で作ってましたね。
制作のスケジュール的には大変で。体力的にもキツくて、納期も超ギリギリでしたけど、表現者として追い込まれた感じはなかったっていうか。
では、ギター的なテーマは設けずに、曲が求めるままに弾いたというニュアンスが近いですか?
そうですね。アルバムのコンセプトとしては、 “踊れて、どこかにイナたさがある”っていうくらいのざっくりとしたテーマだったので、感覚的に弾きました。
音数が減って、ギター単体で言うとリズム感が前に出てきたように感じました。
俺は特に意識していないですね。でも、シンプルにギターが上手くなったんだと思います。メンバーもみんな上手くなりましたし。
メンバー全員で“グルーヴ感”について意識していることがあれば聞かせて下さい。
まず、周りの音は全部しっかり聴いていますね。もちろんボーカルのメロディに意識を向けることもあります。音楽のジャンルって、アンサンブルのビートで決まったりするとも思うので、そのビートを感じるのは超大事ですよね。俺たちがやってるのは“ビート・ミュージック”だとも思いますし。
あとは音価も大事ですね。右手のニュアンスとかも……考えてみるといっぱいありますね。
右手のニュアンスで意識している部分はありますか?
多分、俺はピッキングのスピードが速いと思うんです。音が速い。パッて弾いた時に、一瞬で“パッ”と返ってくるような。それは弱いタッチでも同じで、1本の弦に当たるインパクトで、最大公約数のスピードを出すようにしてるっていうか。
もちろん、弱く弾いてくぐもらせる時もありますよ。でも、タッチが弱くてもちゃんと人に届かなきゃいけないじゃないですか。だから弦の弾き方は、ピックでも指でも、“ちゃんと鳴らす”っていうところを気をつけてます。音量や音の強弱はまた別の話ですね。
「寿限無」のようなタイトでハイスピードな楽曲では、右手のコントロールが難しそうです。
めっちゃ練習しましたね。特にキメが難しかったです。メンバーみんなでいっぱい練習しました(笑)。
どういった練習をしていたんですか?
バンドでの練習は、とにかくみんなでいっぱい合わせること。その中で、ちゃんと課題を見つけて理解していきました。それが一番大事だと思いますね。家で1人で弾く時は、意外とフル・ピッキングの練習とかをしてます(笑)。俺、ギターでできないことがあるのが嫌なんですよね。だからたくさん弾いて練習します。
カツシロさんの今の課題はフル・ピッキング?
フル・ピッキングは一生できないんですよね。マジで。一生懸命やってるけど、メカニズムがまだ解明できてないというか。今はそこに興味があって、ずっと……もちろんそれ以外も練習しますけどね(笑)。
あとは、“コード進行に対してどういうフレーズを弾いたらいいのかな?”みたいな部分も勉強していますね。まだまだ知らないことだらけなので。
今回のレコーディングでそのトレーニングが生きた曲はありますか?
特に練習に火が点いたのはアルバムを作り終わったあとなんです。制作中は練習する暇がなかったので。でも、ある意味アルバムを作るのが一番練習になるなって思いました。練習というか本番だけど(笑)。
極端に言えば、こだわりがないんですよ。
それでは今作の話に戻ります。全体的に、前作よりもギターのトラック数が増えましたよね。
前作の時はあんまりダビングしたくなかったんですけど、今回は別に“どうでもいいや”と思って(笑)。この身から出たものを、偽りもなく録ろうという気持ちのほうが強かったです。極端に言えば、こだわりがないんですよ。
前作からの変化という点で言うと、「ブレイクスルー」のCメロでギターのストロークとボーカルが残るストレートなアレンジがありますが、今までのBREIMENにはこういったロック的なテイストはなかったですよね。
そこ、面白いですよね。BREIMENでは初めてくらいのストレートなアレンジで。最初はギターじゃなかったんですけど、俺が“普通にギターでやったら良くね?”みたいな感じで言った気がします(笑)。それに、俺にはそういうロックなDNAも確実に入っているので。
レコーディングの手法やこだわりについても聞かせて下さい。ギターはどのような環境で録りましたか?
アンプはマーシャルとRoccaforteを使い分けていますね。あとは、どの曲でもアンプのインプットの前で信号をセパレートして、アンプをマイクで拾った音とラインの信号を同時に録るようにしていました。
ラインの音色を採用したのはどの曲ですか?
入り乱れているので正確には覚えていないんですけど、「魔法がとけるまで」のエレキは両方混ざっていて、「yonaki」とかは全部ラインかも。どうだっけな……。でも、ラインはけっこう使いました。音の距離感の選択肢として使うって感じですね。
今作で気に入っているギターの音色を挙げるとするなら?
「魔法がとけるまで」のサビで流れてるサイレンみたいな音ですね。これ、ギターの音なんですよ。ジェフ・ベックが亡くなった次の日に、“ジェフっぽい訛りのあるフレーズを弾きたいな”と考えて作ったんです。
ディレイとリバーブとオクターブ・ファズをかけて、そこにサイド・チェインもかけたらEDMのサイレンみたいな感じになって……ここは超気に入ってますね。でも、絶対にギターだと思われないだろうなと。そんな感じの、人に伝わらないことを一生懸命やっています(笑)。
そこはシンセサイザーだと思っていました……。個人的には「LUCKY STRIKE」のソロの不安定なピッチ感もとても印象に残ってます。
あれはジャズマスターをアーミングしながら弾きました。実は、そこのギター・ソロは全部で102テイクも録ったんですよ。色々悩んで今のテイクにしたんですけど、別にこれじゃなくてよかったなとも思ってます(笑)。今だったらもっと良いソロが弾けるなとも思いますし。
今作はギターのトラック数が多いので、ライブでの再現方法も気にります。
再現は超大変ですね……。一生懸命ペダルを切り替えながら弾いています。マジで大変。ただ、色々新しい音色も導入していますし、ギタリストとしても進化しているので、ぜひライブを観てほしいです。
作品データ
『AVEANTIN』
BREIMEN
ソニー
BVCL-1372
2024年4月3日リリース
―Track List―
- a veantin
- ブレイクスルー
- 乱痴気
- ラブコメディ
- 眼差し
- LUCKY STRIKE
- T・P・P feat.Pecori
- 寿限無
- 魔法がとけるまで
- yonaki
- L・G・O
―Guitarist―
サトウカツシロ