2024年8月7日(水)に3年ぶりとなる11枚目のアルバム『ultimate confirmation』をリリースした、THE BOHEMIANS。ビートりょう(g)のインタビュー後編では、オマージュたっぷりなアルバムの楽曲を詳しく解説してもらった。
取材・文=小林弘昂 人物撮影=星野俊
12弦でコードをガシガシ弾いたのは
今回が初めてです。
「ロックンロールジェントルメン」は、スピード感のあるリズムの上に浮遊感のあるコードとメロディが乗っています。これはりょうさんが作った曲ですか?
じゃないんですよ。平田君です。これは「Horrorshow」(2002年)かな。何回「Horrorshow」とリバティーンズを擦るんだっていうくらい僕らは擦り続けていますけど、平田君は一生擦り続けるね。僕もその気はあります。リバティーンズは擦り続けるでしょうね。
やっぱり(笑)。
リフとかスピード感はリバティーンズです。それに対して朗々と歌う感じが平田君に凄く合ってると思いましたね。たぶん本人の理想形のロックンロールじゃないのかな? この曲のコード進行はちょっとサザンオールスターズっぽいし、日本人が非常に好きそうなポップなメロディですよね。
ギター・ソロはコードに合わせたカラフルなフレーズを弾いています。
実は直前で今の形に変わったんですよ。もともとは単純なアルペジオみたいなフレーズだったんです。直前になって“ちょっと変えたほうがいいんじゃない?”みたいな流れがあって、試しにガシガシ弾いたフレーズに変えてみたら、みんな“絶対そっちのほうがいい!“となりましたね。曲のキーはCなんですけど、ソロはDmから始まっていて、このアプローチは面白いなと思いました。平田君ぱんだのくせに、この洒落た展開! まぁ、このコード進行も平田君の指示だから、何かモデルがあるのかもしれないですけどね。
平田さんが作る曲の癖みたいなものはありますか?
それはちょっとありますね。というか、癖が出てきたなと思ってる。偉そうですけど、平田君が一段階変わってきたなという印象がありますよ。
4曲目「unlimited debaser」にもワウを使ったソロがありますし、アルバムの1〜4曲目まで全曲ギター・ソロが入っています。これはそういう意図があったんですか?
もともとギター・ソロはあんまり弾きたくない人なんですけど、自分の中で“これ!”っていうことを一度決めると、それをすぐにやめたくなっちゃう癖があって、それが出たんじゃないかな(笑)。“ギター・ソロを頑張ってみるのもアリなんじゃないか?”みたいなモードがあったのかもしれない。あとさっきも言いましたけど、平田君はソロを弾かせたがる癖があって。ボーカリストだからライブ中に休みたくなるのか知らないけど(笑)。今回は平田君の曲が多いから、それもあるかもしれないですね。
「かけひき」は12弦ギターを使った曲です。どのようなイメージで作ったんですか?
去年、ライドの来日公演を観に行ったんですよ。メンバーがリッケンバッカーの12弦を持って、ステージにVOXのAC30が置いてあって、音よりもその印象が強かったんですよね。ただ、そのあとのギタマガ(2023年6月号)を読んだら、客席に向けてあったAC30はダミーだったという(笑)。
マーク・ガードナーが実際に鳴らしていたアンプもAC30でしたよ(笑)!
爆音だから、本当に使ってたアンプはうしろを向けて置いてたんだよね(笑)? それで“ライドっぽい曲を作るのもアリかな”と思って作り始めたんですよ。「Vapour Trail」(1990年)っぽいのを作ろうと思ったのかな。あくまでも雰囲気だけですけどね。今まで12弦はアルペジオっぽい使い方しかしてこなかったけど、コードをガシガシ弾いたのは今回が初めてです。
3年前のインタビューでも“12弦でコードを弾く曲を作りたい”と話していましたもんね。
そうそう。そしてギター・ソロは初期プライマル・スクリームのジム・ビーティ(1988年まで在籍)っぽいフレーズを弾こうと思っていて。だから12弦ギターを贅沢に使おうとした曲ですね。歌詞に関しては特に意味はないんですよ。さわおさんとほかのメンバーが勘ぐって、“これは千葉君に対して歌ってるの?”みたいに言われたんですけど、全然違う(笑)。もしかしたら自分の潜在意識が出ているのかもしれないですけど。ここでハッキリと、特定の誰かに対する曲ではないと言っておきますね。
了解です(笑)。12弦ギターを使うコツってあったりしますか?
それはこっちが聞きたいくらいですけど、ライブではショート・ディレイを踏むんですよ。そうすると12弦の“ハッキリ感”がなくなって弾きやすくなりますね。お客さんの聴こえ方はわからないけど、中音的には凄くちょうど良くなります。レコーディングではディレイは使ってないですね。
そのままVOX AC30 6TBに挿してレコーディングすると。
何かしら歪みペダルは使いますけどね。でも録り終わってからエンジニアのタッキーさんに、“可能な限りライドっぽくして下さい”とお願いしました(笑)。録ってからエンジニアさんに近づけさせるというね。それとタンバリンも僕が叩いたんですけど、その音色もライドに近づけようとしました。
ハロプロのライブを観ると、
ロックや音楽に対して持っていたこだわりがゼロになる。
「黄昏のマジックメロディー」もそうですが、今回のアルバムは鍵盤がマッチする曲が多いなと思ったんです。
そうですね。本間君はバンドの中で控えめなフレーズを弾くんですけど、歌と鍵盤だけを聴かせたいと前々から考えていたんですよ。それと、もともとこの曲はクイーンっぽい感じにしたいと思っていて。
クイーンですか。
ブライアン・メイみたいな音にしたくて、シングルコイルのギターが必要だったんですよ。それで真鍋さんからSago New Material GuitarsのTLタイプを借りて使いました。ちなみにメルティースマイルっていうバンドのSEKAI君(g)からKz Guitar Worksのトレブル・ブースターを借りて、6ペンス・コインを使って弾いています。たしかブライアン・メイって、ライブではAC30のNORMAL Chにインプットして、アンプのボリュームをMAXにして、トレブル・ブースターもオンにしてるんですよね。そこまでこだわりました(笑)。実際、この曲は別にブライアンっぽさはないんですけど、さっきのライドの件もそうで、あくまで気分的にやったという。ブライアンはレコーディングの時にDeacy Ampを使うので、違うっちゃあ違うんですよ。でも楽しかったです。
たしかに、歌と鍵盤だけのAメロとか、鍵盤だけになるアウトロとか、クイーンの「Don’t Stop Me Now」っぽさがありますね。
そうそう。でも、アウトロはさわおさんのアイディアなんですよ。
こういう鍵盤をフィーチャーした曲において、ギターの置き位置はどう意識しますか?
基本的には何も考えてないですけど、やっぱりキーボードがいるとギターの音作りは難しいですよ。僕の中ではTHE HIGH-LOWSがモデルにあるんです。マーシーさんはマーシャルをガンガン歪ませてるけど、白井(幹夫)さんのキーボードはライブでも音源でもギターに負けてない音をしている。白井さんの音が相当デカかったのか、ちゃんとした棲み分けをしていたのか……。あれがロックンロールのピアノの理想の音で、たぶん本間君もそう思ってるんじゃないかな。
本間さんともそういう会話はするんですか?
あんまりしないですけど、ここ2〜3年は渋谷すばるさんのサポートをやってるので、バンドに持ち帰ってくるものは多いというか。偉そうに言うと、凄く成長したなと思う部分はけっこうありますね。
「still I love you oh yeah!yeah!yeah!」はコード・リフ中心で、しかもサビが超キャッチーで、パルプの「Disco 2000」(1995年)っぽさを物凄く感じました(笑)。
はい、まさにそれです。それ以外に言うことはないってくらい「Disco 2000」(笑)。これは平田君の曲で、やっぱりライブの盛り上がりを想定している感じかな。お客さんが“yeah yeah yeah”って言ったら楽しいんだろうな、みたいなことだと思います。
りょうさんは曲を作る時、そういうところも考えたりしますか?
あんまし考えない(笑)。でも話が戻るんですけど、「黄昏のマジックメロディー」のBメロにクラップが入っていて、あれはハロプロを好きになったから入れたんです。たぶん10年前だったら絶対に入れてないと思う。
出ましたね。
あのクラップを入れるとなった時、メンバーの中でも意見が分かれたんですけど、ハロプロの曲だったら絶対に入っているはずなんですよ。
話は戻りまして(笑)、「still I love you oh yeah!yeah!yeah!」の2番のAメロ(2:07〜)にはL Chに低音弦のフレーズが入ってきます。
あれはオクターブで弾いています。平田君が作ってきたAメロのコードの展開(D→Daug→D6→Daug)が好きなので、そこをアピールしたいなと思って入れたかな。
そしてこの曲のソロは、Aのメジャーとマイナーのペンタを織り交ぜたフレーズですね。
デモの段階ではフェードアウトで終わっていたんですけど、例によって、さわおさんの“最後はサビの展開のまま続けてソロを弾けば?”という指示でしたね。急遽弾くことになったから、自分のスキルの中でできる最大限のものをやりました。結局あれしかできないんですよ。僕の中で“ロン・ウッド・スケール”って呼んでいるんですけど、要するにメジャーとマイナーを横移動で交互に弾いていくんです。もう一生これでいくんだと思いますね。
最後の曲「あいのロックンロールよりはやく」はファストなパンク・ナンバーですが、どういったイメージで作ったんですか?
ザ・クロマニヨンズが「あいのロックンロール」(2023年)っていうシングルを出して、それが凄く良くて、とっさに“これを超える曲を作らなきゃ”と思ったんですね。せめてBPMだけでも超えようと思って、「あいのロックンロールよりはやく」という曲を作りました。それだけです(笑)。実際にクロマニヨンズの「あいのロックンロール」より速いかどうかはわからないけど、気持ち的にはね。
やっぱりそういうことでしたか(笑)。
他人の曲を聴いて、とっさに自分も曲を作るパターンがけっこうあって、それが楽しいんですよ。“やらなきゃ!”みたいな気持ちで、そういう時の曲作りって一瞬なんです。これはアルバムの置き場所に困る曲で、僕はなんならボーナス・トラックでもいんじゃないかとは思ってたんですけどね。ライブでもどうするんだろうみたいな感じもありますけど。
改めてアルバムを振り返って、どのような作品になったと思いますか?
4人になってから1発目の作品だから、ここからまたスタートみたいな気持ちもあるし、聴く人もそう思うんじゃないかな。ただ、特別感はそんなにないんですよね。でも、茂木君のドラムが凄く良いから自然と僕たちと馴染んでくれて、ライブではゴエさんもサポートしてくれていて、本当にTHE BOHEMIANSを続けさせてくれていることに感謝しています。感謝のアルバムですね。
そうですよね。
そもそもDELICIOUS LABELで、さわおさんや事務所にお世話になっている時点で色んな人の力で成り立っているバンドなのは間違いないから、周りの人たちに感謝しつつ、目の前のことをただやっていくだけです。凄くつまんない答えになったと思うけど(笑)。そしてこれは無理やり話したいわけではないんですけど、ハロプロのライブを観ると、自分がロックや音楽に対して持っていたこだわりがゼロになるんですよ。目の前のお客さんを楽しませるために100%の力でダンスをしたり歌っている姿を観ると、“自分は何をやってたんだろう”と思うくらいのショックがあるんです。それで自分の意識が変わったじゃないですけど、そういう心境の変化はありましたね。頑張らなきゃな。
作品データ
『ultimate confirmation』
THE BOHEMIANS
DELICIOUS LABEL
QECD-10014
2024年8月7日リリース
―Track List―
01.the earnest
02.火薬!火薬!火薬!
03.ロックンロールジェントルメン
04.ultimate debaser
05.マシンガン
06.かけひき
07.黄昏のマジックメロディー
08.真夏の宝
09.Wray
10.still I love you oh yeah!yeah!yeah!
11.あいのロックンロールよりはやく
―Guitarist―
ビートりょう