【サブスク会員限定】牛尾健太(おとぎ話)とビートりょう(THE BOHEMIANS)による、人生に影響を与えたUKロック談義 【サブスク会員限定】牛尾健太(おとぎ話)とビートりょう(THE BOHEMIANS)による、人生に影響を与えたUKロック談義

【サブスク会員限定】牛尾健太(おとぎ話)とビートりょう(THE BOHEMIANS)による、人生に影響を与えたUKロック談義

2024年11月29日(金)に新代田FEVERで開催される、ギター・マガジン主催のライブ・イベント『TIME TO FUZZ』。イベントに出演するおとぎ話の牛尾健太、そしてTHE BOHEMIANSのビートりょうの対談記事を8月に公開したが、ここでは対談のアウトテイクを掲載しよう。2人がUKロックから受けてきた大きな影響を語る。

取材・文=小林弘昂

この世の中で「Sympathy For The Devil」と
「Tomorrow Never Knows」しか好きじゃないんです。
──ビートりょう

りょうさんはこの機会に牛尾さんに聞いてみたいことはありますか?

りょう 牛尾さんはドレスコーズやカジヒデキさんのバックに参加していて、セッション・ミュージシャン的なこともやってるじゃないですか? おとぎ話っていう自分たちの世界観があるバンドをやりつつも、サポートに呼ばれるのが凄いと思う。

牛尾 個人的には、自分は中途半端な立ち位置だと思ってるんだけどね。例えばキース・リチャーズは絶対にセッション・ミュージシャンになれないじゃん?

りょう そうですね。つぶしが効かない感じ。

牛尾 あの人は完全にバンドの人でしょ? そういうのにも憧れる。でも、色んなところで弾けるのはありがたいし、楽しい。

りょう 牛尾さんはバーリー・カドガンのような立ち位置にいるなと思っていて。バーリーはテクもあるけど、リアム・ギャラガーとかプライマル・スクリームに呼ばれるっていうことは、センスがあるんですよね。ファッションも含めて。リアムとジョン・スクワイアのユニットがあるじゃないですか? バーリーはそこだとベースを弾いていたんですよ(※レコーディングではグレッグ・カースティンがベースを担当)。

牛尾 あ、そうなの!?

りょう “画”としてバンドにいてほしいから、バーリーは呼ばれてるんじゃないかと思っていますね。牛尾さんはバーリーの立ち位置と凄く近いなと思う。

牛尾 そんなに器用じゃないけどね(笑)。

りょう いやいや、引き出しの多さは凄いと思いますよ。このまま全然使われない話を広げていいですか?

どうぞ(笑)。

りょう リアムとジョン・スクワイアが最初に出した「Just Another Rainbow」って、いかにもあの2人が好きそうな世界なんですよ。僕、この世の中でストーンズの「Sympathy For The Devil」(1968年)とビートルズの「Tomorrow Never Knows」(1966年)しか好きじゃないんです。もっと言うと、“イギリスのロックはそれしか発明していない”って思っているくらい。

牛尾 (爆笑)!

りょう その2つを組み合わせれば最高の曲になるっていうのが僕の説なんですよ。リアムとジョン・スクワイアの「Just Another Rainbow」は、ちょうどそうなっている。ノエル・ギャラガーとケミカル・ブラザーズのコラボ(「Setting Sun」/1996年)は、「Tomorrow Never Knows」というか、66年のビートルズをただなぞってるだけ。

牛尾 あの曲は「Tomorrow Never Knows」の再現だもんね。

りょう それと90年代のプライマル・スクリームが、68年のストーンズっぽく、悪魔を永遠に憐れんでる感じの曲を出してたじゃないですか? だから世の中にはその2つしかないんじゃないのかっていう説があるんですけど。

牛尾 そんなことないよ(笑)!

りょう そんなことないか(笑)。つまり「Just Another Rainbow」は、そのどっちのグルーヴもあるんですよ。いかにもリアムが歌いそうな66年の『Revolver』感。それとギター・ソロからは「Sympathy For The Devil」を感じて、“やってんな”と。僕、基本的に60年代のイギリス原理主義みたいなところがあるからそう感じるんですけど(笑)。

牛尾 僕が持っているTHE BOHEMIANSのイメージは、まさに今りょう君が言っていた感じ。“やっぱりそうなんだな”って思った。

りょう わかりやすいんですよ(笑)。牛尾さんの中で何か原理主義はあるんですか?

牛尾 原理主義はないよ(笑)! でも、あえて原理って言うならビートルズかな。

りょう そこはそうなんですね。

牛尾 僕は誰かの影響でギターを始めたわけじゃないけど、“これを聴いて人生が変わった”っていうのはビートルズかな。ビートルズを聴いてなかったら今の人生とは違ってたと思う。中学生の時、最初に『Help!』(1965年)を買ったんだけど、『Help!』ってビートルズのアルバムの中であんまり人気がないじゃない?

りょう 下から数えたほうが早いですよね。

牛尾 でも『Help!』を聴いて感動して、そこから色々掘っていったの。

りょう そこからヘルプで呼ばれるギタリスト人生が始まったんですね。今日はこういうくだらない話をしにきたんですけど。

牛尾 そんなことしてたら編集が大変でしょ(笑)。

頑張るので好き勝手に話して下さい(笑)。

牛尾 そもそも僕は音楽の歴史が好きなんですよ。“ビートルズはどういう過程でああいうバンドになっていったのか?”とかね。ビートルズの何が凄いって、自分たちが書いた曲だけでアルバムを作ったのが革新的だった。そのビートルズが聴いていた音楽は何だったのかというと、チャック・ベリーとかのアメリカのリズム&ブルースで。

そうですね。

牛尾 で、ブルースはなぜできたのかというと、アメリカ大陸に連れてこられたアフリカ系の黒人たちが歌い始めたのがキッカケだった。そのブルースを取り入れたのがジャズだったりするんですよ。それをもっとわかりやすくしたのが50年代のロックンロールで、そのトップがチャック・ベリーやエルヴィス・プレスリー。そしてロックンロールをリアルタイムで聴いた若者がビートルズになっていく。……これ何の話だっけ?

りょう 牛尾さんが教えるロックの歴史。原理主義がないのがおとぎ話なんですかね?

牛尾 っていうか原理主義がある人はそんなにいないでしょ(笑)! THE BOHEMIANSはみんなそうなの?

りょう う〜ん……。僕は平田(ぱんだ)君の影響かもしれないですけどね。僕、大学であの人と会うまでロックっていう言葉をそこまで意識していなかったというか。音楽の入口はスピッツとかのJ-POPで、そこからビートルズやクイーンとかの洋楽を聴き出したんですけど、別に分けて考えてなかったんですよ。でも平田君と会ってから、日本語でも英語でも、何年代だろうと、“お前が好きなのはロックだ!”っていうことがハッキリしたというか。

牛尾 僕は分けて考えてるかもしれないな。おとぎ話のほかのメンバーはわりとフラットなんだよね。有馬は色々聴いてるけど。

りょう 洋楽の話が一番通じるのは有馬さん?

牛尾 一番話せるのは有馬。僕が洋楽を聴き始めた中学生の頃は90年代後半だから、いわゆるブリット・ポップがまだ流行っていて、アメリカのミュージシャンだとベックとかペイヴメントとかも聴いてた。逆に日本の音楽は熱心に追ってなかったな。ほかのメンバーはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTとかも聴いてたんだけど。

りょう 世代ですよね。牛尾さんはJ-POPを聴いてなかったんですか?

牛尾 最初は聴いてたよ。原点はKANさんの「愛は勝つ」(1990年)。

りょう ええー!

牛尾 たぶん6歳? 小1か幼稚園の年長くらいの時に、“この曲を歌いたい”って思ったの。当時は家にCDプレイヤーがなくて、テレビで流れてた。『邦ちゃんのやまだかつてないテレビ』(1989〜1992年)で。

りょう はいはい(笑)。ありましたね!

牛尾 母親に歌詞を書いてもらって、それを見ながら歌ってた。あれが初めての原体験。意識してないけど、子供心に刷り込まれてる音楽ってあるじゃん? それがKANさんの「愛は勝つ」。で、初めて買ったCDは篠原涼子さんの「恋しさと せつなさと 心強さと」(1995年)。

りょう 8cmシングルだ(笑)。

牛尾 だから小学生の頃は普通にJ-POPを聴いてたよ。オリコンTOP20とかに入ってるような流行ってる曲。それと布袋さんが凄く好きだった。でもBOØWYはそんなに通ってなくて、BOØWYは友達のお兄ちゃん世代が好きだったな。

りょう 僕らが音楽を聴き出した頃にはBOØWYはもう解散してたでしょ?

牛尾 そう。布袋さんが好きなアーティストにデヴィッド・ボウイを挙げてたの。中学に入ったら洋楽に興味を持ち出して、中1の時にデヴィッド・ボウイが新譜を出すっていうことで『Earthling』(1997年)っていうアルバムを買ったんだよね。だから洋楽で初めて買ったアルバムはデヴィッド・ボウイの『Earthling』。でも中身がドラムン・ベースで(笑)。

りょう そうですよね(笑)。あれがリアルタイムか〜(笑)。

牛尾 頑張って聴こうと思ったけど全然わかんなくて! ギター入ってないし(笑)。

アメリカにはギター・ヒーローっぽい人って少ないんだよね。
基本はバンドでトゥゲザーする感じ(笑)。
──牛尾健太

牛尾 話は戻るけど、「Sympathy For The Devil」と「Tomorrow Never Knows」の2曲はロックンロールがロックになった感じだよね。

りょう リアムとジョン・スクワイアがライブでストーンズの「Jumpin’ Jack Flash」をカバーしたんですけど、その動画観ました?

牛尾 あっ! それ、堀江博久さんからURLが送られてきた。堀江さんはストーンズが大好きなんだけどブリット・ポップを知らなくて、“ジョン・スクワイアってこんなにギター上手いんだ!?”って言ってたよ。あれ、スタジオ・バージョンを完コピしてるんだよね?

りょう そうそう! ライブ版のキースのフレーズじゃなくて、開放弦使いまくりで完全にスタジオ・バージョンなんですよ!

牛尾 だから“めっちゃ上手いな!”と思って。

りょう ストーンズの「Jumpin’ Jack Flash」って、ブライアン・ジョーンズがいた頃、スウィンギン・ロンドンの一番ヤバいロックンロールで、それを2人がやろうとしているのを感じたんですよ。ジョン・スクワイアとリアムはやっぱりそうなんだなって。

牛尾 1つ付け加えると、それはジョン・スクワイアが思ってるだけで、リアムはそんなことどうでもいいと思ってるよ。でもあれ凄かったよね!?

りょう 凄かった! スタジオ版の「Jumpin’ Jack Flash」ってギター・ソロがソロっぽくないじゃないですか?

牛尾 むしろベースがソロっぽい(笑)。

りょう そう(笑)。ジョン・スクワイアはあの開放弦を完コピしていて。

牛尾 あれは僕もビックリした。

今日一番の盛り上がりですね(笑)。

りょう あの動画を観てた人がいてよかった(笑)!  それと牛尾さんにこの話をしたかったんですけど、僕、おとぎ話のインタビューをよく目にするんですよ。1回バンドを辞めようとした時期がありましたよね?

牛尾 ああ、いわゆる失踪時期ね。

りょう 僕、英国の脱退系ギタリストを信用してるんですよ。グレアム・コクソン、バーナード・バトラー、ジョン・スクワイア、ジョニー・マー、みんな辞めてるんです。古くはエリック・クラプトンもジェフ・ベックも脱退系なんですけど(笑)。牛尾さんはその流れなんだなと思って。

牛尾 あのね、りょう君はロックが好きすぎ(笑)。

りょう アメリカ人だけど、エアロスミスのジョー・ペリーも脱退してるから好きなんですよ(笑)! あの人はジェフ・ベック系だからね。でも僕は脱退できてない!

脱退しないで下さい(笑)。

りょう 牛尾さんは脱退してないし、これからも脱退してほしくないんですけどね。

牛尾 今で言うところのジョン・フルシアンテだよね。ジョン・フルシアンテは脱退系の最高峰でしょ!

りょう そうですよね(笑)。

牛尾 ジョン・フルシアンテはどうなの?

りょう レッチリは友達が聴いてたから自分も聴いていたくらいです。

牛尾 りょう君はイギリス色が強いイメージがあるから、アメリカのバンドとかギタリストはどうなんだろうと思って。

りょう もちろん嫌いではないですよ。牛尾さんは好きなんですか?

牛尾 最初に好きになったのはビートルズとかレッド・ツェッペリンだったけど、いっぱいいるよ。やっぱりバンドで弾いている人が好きだから。

りょう そこは共通するところですよね。バンドのギタリストが好きっていう。

牛尾 ザ・バンドのロビー・ロバートソンとか、テレヴィジョンのトム・ヴァーレインとリチャード・ロイドとか。でも、アメリカにはギター・ヒーローっぽい人って少ないんだよね。少し前はジョン・メイヤー、デレク・トラックス、ジョン・フルシアンテみたいに言われたけど、基本はバンドでトゥゲザーする感じ(笑)。

りょう なるほど。僕はアメリカだとエアロスミスくらいですかね。

牛尾 逆に僕はエアロスミスをそんなに聴いてないんだよね。KISSもあんまり知らない。エアロスミスで一番好きなのは「Walk This Way」(1975年)と「Jaded」(2001年)かな(笑)。だから全盛期は全然知らない!

りょう どこを全盛期とするかはあるんですけど、「Jaded」ら辺が全盛期なのかも。だってMステに出てたからね! それとこれも聞きたかったんですけど、おとぎ話のライブの最後に有馬さんと牛尾さんがギターのネックを擦り合わせるじゃないですか?

牛尾 「COSMOS」っていう曲の最後でね。

りょう あれはリバティーンズと関係あるんですか?

牛尾 ソニック・ユースなんだよね。ソニック・ユースのライブを観に行った時にサーストン・ムーアとリー・ラナルドが同じことをやっていて、試しに1回やってみたら、ずっとやらなきゃいけなくなった(笑)。

りょう リバティーンズがライブで「Can’t Stand Me Now」(2004年)を演奏する時に、ピート・ドハーティとカール・バラーが同じことをやってるんですよ。4年前に対バンした時、楽屋で有馬さんとリバティーンズの話をしてたから、“やっぱり好きなんだな”と思って。

牛尾 リバティーンズがあれをやってたのは知らなかった。

りょう 僕、好きなギタリストを聞かれたら普通にキースとか入れちゃうんですよ。そこには入らないけど、ピートとカールも凄く好きなんです。2人共スタイルが個性的で、弾き語りのギターみたいだし、それでいてカールはジャンゴ・ラインハルトの影響もあったりして、その組み合わせがスカスカなんだけど奇妙な音になってる。レコーディング・マジックもあるのかもしれないですけどね。そういうツイン・ギターのバンドって、やろうと思ってもできないんですよ。おとぎ話は人間性も含め、2人のギターが絡み合っている感じがある。直前にリバティーンズの話をしていたからかもしれないけど、ライブを観てそれが凄くしっくりきたんです。

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