ダンブル・アンプをシミュレートし、大きな話題を呼んでいるUAFX Enigmatic ’82 Overdrive Special Amp。その開発者であるUniversal Audioのプロダクト・デザイナー、ジェームス・サンチャゴ(James Santiago)氏にインタビューを実施。伝説と呼ばれるダンブル・アンプをどのようにシミュレートしたのか、最もダンブルたらしめる重要な部分はどこだったのか、開発の話を聞いた。
質問作成=小林弘昂 翻訳=トミー・モリー
※本記事は、ギター・マガジン2024年12月号に掲載した特集の一部を抜粋し、再編集を施したものです。
回路の画期的な特徴の1つは、
オーバードライブ・チャンネル専用の“HRM EQ”。
これまでUAFXではフェンダー系、VOX系、マーシャル系といったクラシックなアンプのシミュレーターをリリースしてきましたが、今回なぜダンブル・アンプをシミュレートしたペダルをリリースしようと思ったのでしょう?
80年代から90年代にかけて、当時の私はビンテージのフェンダーTwin ReverbとマーシャルSuper Tremoloを使っていました。それらは素晴らしかったのですが、より自分の好きな音が出せるように改造してしまったんですよ。でもダンブル・アンプを弾いた時、私が使っていたビンテージ・アンプではできなかったことが可能だと、すぐに感じました。今回、UAFXでどんなアンプをシミュレートするべきか話し合っているうちにダンブルが最大のチャレンジになるとわかり、プロジェクトが始まるのが待ち遠しかったです!
Enigmaticの開発にあたり、参考にしたダンブル・アンプの個体はどのようなスペックのものでしたか? モデル名のとおりOverdrive Specialのみを参考にしたのでしょうか?
素晴らしいクリーン・サウンドを持っていたので、Overdrive Specialにこだわりました。でもOverdrive Specialは、実はユニークなオーバードライブ回路も備えているんですよ。全体的なデザインは何度も変更されているので、70年代後半から90年代半ばまでのハードウェアや回路図を調べました。そしてアンプをオーダーした各プレイヤーに合わせてダンブル氏が施した微調整の様子を確認していったのですが、すべての人のタッチに合うダンブル・アンプは存在しないと思いましたね。共通する基本的な構成部分はありますが、プレイヤーのスタイルに合わせたユニークな微調整を加えることでマジックが生まれていたのです。
ダンブル・アンプはハワード・ダンブル氏が1台1台ハンドメイドで製作していたため数が少なく、そのサウンドもオーダーしたギタリストの好みによってそれぞれ違います。まずはどのようなところから作業を進めていったのでしょう?
最初に行なったのは、Overdrive Specialのグレイトな回路がいつ頃作られたのかを定義することでした。最初期のものはサンタ・クルーズで製造され、Bright、Jazz/Rock(Guitar/Micのものもありました)、Deepといったスイッチが搭載されていたり、全体的なプレゼンスのオン/オフのように作用するAccentスイッチも付いていたんです。まだマスター・ボリュームが搭載されていない個体も何台かありましたね。
80年代に入るとダンブル氏はロサンゼルスに拠点を移し、彼のアンプを使用する新しいプレイヤーに合わせて改良されたものが登場しますが、その過渡期にBrightスイッチ、マスター・ボリューム、そして最終的にはプレゼンスのノブが追加されたんです。サンタ・クルーズ時代の個体を“Classic”、それ以降の個体を“Skyliner”と呼んでおり、その仕様の変遷をお話ししました。
シミュレートしてみて、ダンブル・アンプの大きな特徴はどのようなものだとわかりましたか?
ダンブル氏の回路の画期的な特徴の1つは、アンプ内部にオーバードライブ・チャンネル専用のベース、ミドル、トレブルのトーン・コントロールを追加したことだと思います。彼はこれを“HRM”と呼んでいました。オーバードライブのあとに作用するこのEQは、オープンで歌うようなミッド・レンジを維持しながらも、アンプの歪み方を変えることなくロー・エンドやハイを心地よいところに調整できるんです。アンプの前面に付いているベース、ミドル、トレブルはオーバードライブの前に作用するので、クリーン・サウンドでハイを強調すると、そのままではオーバードライブをかけた時に細くなりすぎる可能性がありますよね? HRMはパワー・セクションにつながるフェイズ・インバーターの前に位置しているため、マーシャルのような重みを与えてくれるんです。
今回、EnigmaticのすべてのDSPを担当したロス・ダンケルはHRM EQについて、“フェンダーのブラック・フェイスに大きく影響された回路にマーシャルのフレーバーを加えるものだ”と考えていました。それこそがOverdrive Specialをプレイヤーが望む仕様へとカスタマイズできるものにしているのです。
どのような部分の再現が難しかったですか?
一番難しかったのは、ダンブル氏が約30年間作り続けたすべての特別な回路を盛り込むことでした。初期Classicのロー・プレートのアンプには、HRM EQを搭載したSkylinerとは違った魅力があります。どちらもダンブル・アンプですが、サウンドとフィーリングの両者が大きく異なっていました。でも私たちは、プレイヤー自身に何がよりシックリくるのかを決めてもらいたかったのです。
ちなみに、あなたが“ダンブル・アンプ”と聞いて思い浮かべるギタリストは?
私が初めてダンブル・トーンを耳にしたのは、1986年にベイクド・ポテトでラリー・カールトンが『Last Nite』をプレイした時と、エリック・ジョンソンの「Zap」(『Tones』収録)を聴いた時でした。2人共まったく異なるリード・サウンドですが、どちらも大好きです! もちろんロベン・フォードのアルバム『Robben Ford & The Blue Line』(92年)も私にとっての基準でした。デヴィッド・リンドレーが弾いたジャクソン・ブラウンの「Running On Empty」(77年)のソロもアメイジングで、初期のダンブル・アンプが持っていた美しくてオープンで歌うようなミッド・レンジが聴けますよ。
アプリを用い、CUSTOMチャンネルで独自のD-Styleアンプを構築できる点が画期的だと思いました。まずトランスの出力の違いを変えられる“Amps”というセクションが面白いのですが、これも実機をもとにシミュレートしていった部分なのでしょうか?
例えば、“100W, low plate”は70年代後半のスウェード期の回路とパワー・セクションをベースにしていて、“100W, high plate”は80年代の明るい茶色のトーレックスの仕様なんです。ぜひ全4つのバリエーションを好みのセッティングで試してもらいたいですね。クリーン用とリード用では好みのセッティングが異なるかもしれませんが、これはもはや感覚的なものでもあります。コンプレッションの少ないオーバードライブが好きなプレイヤーもいれば、その逆で“グシャッ”とつぶれたようなトーンが好きなプレイヤーもいますからね。自身のプレイに合わせてアンプ・トーンを微調整してサウンドを作ることができるのは、ダンブルの伝統とスピリットだと思います。
OD Trimが搭載されているダンブル・アンプは珍しいと思います。この機能を搭載しようと思った理由は?
インプット・ボリュームはクリーン・サウンドのゲインであるだけでなく、オーバードライブをオンにした際に同じレベルのゲインがオーバードライブ回路に入ってしまうのですが、それが問題でした。つまり、エッジの効いたクリーン・サウンドを作るためにインプット・ボリュームを大きくすると、オーバードライブを強くプッシュしすぎてローが破綻してしまいます。OD Trimはクリーン・サウンドにピッタリのインプット・ボリュームに設定させることができ、必要であればオーバードライブ回路に入る前にボリュームを上下させることもできます。このトリマーが存在していたら、通常はアンプ内部に埋め込まれているものなんですよ。
Enigmaticはどのようなプレイヤーにオススメしたいですか?
あなたにとって完璧なトーンを見つけるには時間がかかるかもしれませんが、クリスタルのようにクリアなクリーン、歪む直前ギリギリのサウンド、歌うようなリード・サウンド、複雑でジャングリーなオーバードライブなど、Enigmaticならほとんどすべて作れます。7弦ギターを使ったモダンでチャギーなメタル・トーンを求める人には向いていないかもしれません。しかし、ダンブルを所有している人の中には有名なハードロックやメタルのプレイヤーもいます。なので結局は、個々のプレイヤー次第と言えるでしょう。
Universal Audio
UAFX Enigmatic ’82 Overdrive Special Amp
【スペック】
●コントロール:【前面】VOLUME(ROOM)、OVERDRIVE(RATIO)、OUTPUT、BASS(DEEP/MID)、MIDDLE(PRESENCE)、TREBLE(BRIGHT)、CABスイッチ(GB25/D65/EV12)、ALTスイッチ(ALT/AMP/STORE)、TONEスイッチ(ROCK/JAZZ/CUSTOM)
【背面】Bluetooth PAIRスイッチ
●入出力端子:インプット×2、アウトプット×2、USB Type-C端子
●外形寸法:92(W)× 141(D)× 65(H)mm
●重量:605g
●電源:センター・マイナス9Vアダプター(400mA以上)
【参考価格】
希望小売価格:63,800円
【問い合わせ】
フックアップ https://hookup.co.jp/products/universal-audio/uafx-enigmatic-82-overdrive-special-amp
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2024年11月13日(水)発売