日本のロック・シーンを牽引し続けているTHE COLLECTORSが、通算26枚目となるオリジナル・アルバム『ハートのキングは口髭がない』を完成させた。骨太なギター・リフを軸に展開するロック・ナンバーを筆頭に、THE COLLECTORSにしか描き出せない魅力あふれる音世界をギュッと凝縮した快作に仕上がっている。質実剛健なギター・ワークでバンド・アンサンブルを支える古市コータローに、アルバム制作について話を聞くとともに、還暦を迎えたアニバーサリー・イヤーである2024年をふり返ってもらった。
取材=尾藤雅哉(BITTERS) 人物撮影=後藤倫人
自分の好きな音でギターを鳴らすことが
大事なことだと思う。
ニュー・アルバム『ハートのキングは口髭がない』の楽曲制作は、どのように進められていったんですか?
今回もいつもどおりですね。まず加藤(ひさし/vo)さんが“なんとなくこんな感じ”っていうデモをスタジオに持ち込んで、メンバー全員でセッションをしながら仕上げていきました。そういう“昔ながらの手法”でしたね。
アルバム制作において、何かテーマはありましたか?
特にそういう話はしないんですけど……“元気なロック・アルバムを作ろう”っていうことは、曲作りの段階から意識していたように思います。これは僕の中で“加藤さんがそうしたいんじゃないかな?”って勝手に予測していたことですけど。
「スティーヴン・キングは殺人鬼じゃない」や「ヴァニティフィクション」など、耳に残るロック・リフが数多く収録されている作品だと感じました。
1曲目の「スティーヴン・キングは殺人鬼じゃない」ですが、実は一番最後に完成した曲なんですよ。制作も終盤に差し掛かったタイミングで、加藤さんが“もう1曲できた”って言うから、“じゃあやってみようか”っていう感じで、その場の勢いのまま作り上げました。なので、そういった雰囲気が曲の中に閉じ込められているのかもしれないですね。
つまり、最新のTHE COLLECTORSがアルバムの1曲目に鳴り響いているんですね。
そうですね。レコーディングの最後にパッとやってみた感じだから、そういう意味では、バンド・マジック的な要素が少し入っているような曲になったのかもしれないです。
この曲が完成した時の手応えは?
新しいアルバムを象徴するような、カッコいい曲に仕上がったって感じだったよ。長いことロック・バンドをやっていると、時としてそういう瞬間が起こるんだよね。
心地よく歪んだ絶品のギター・サウンドも耳に残りました。THE COLLECTORSにとって歪んだギター・サウンドの重要性とは?
結局のところ……今も自分が若くて多感な頃に聴いたサウンドの影響下にあると思うんだよ。特に俺たちみたいなバンドは、昔気質の頑固一徹な感じでやっているようなところがあるしね。あと……ロック・バンドのギターはある程度歪んでいてほしいじゃない(笑)? やっぱり自分がイメージするロック・サウンドって歪んでいるからさ。もちろん60’sのロックンロールのようなペラペラなクリーンでかき鳴らす音も凄く好きではあるんだけど。
ただ、今の時代にTHE COLLECTORSがライブを見据えてスタジオ・アルバムを作るのであれば、いわゆるオーセンティックなロック・サウンドが良いなってことは考えているかもね。まぁ今の時代、ロック・バンドはカッコいい存在ではないかもしれないけど……。
だからこそ、自分が好きだというものを信じてやるしかないと思うんだ。自分の好きな音で、自分の好きなギターを鳴らすっていうことが大事なことだと思う。だって俺たちは、それがやりたくてバンドを始めたわけだから。
ちなみにコータローさんが60歳を迎えた2024年は、通算6枚目となるソロ・アルバム(『Dance Dance Dance』)やソロ・ツアーも行ないましたが、THE COLLECTORSの作品となると、また違うモードに切り替わるのでしょうか?
もちろん。THE COLLECTORSの時は、バンドのギタリストに徹するということを昔から決めているので、自然とそういうモードになりますね。特に今回は、ソロ活動の直後にレコーディングした作品というのが関係しているのかわからないけど……よりギタリストの在り方っていうのにこだわったかもしれない。鳴らす音やフレーズはもちろん、バンド内での立ち位置やスタンスに関しては意識していたところかもね。
今の話に出た“バンドのギタリストとしての立ち位置”について、どのように考えているのですか?
やっぱり俺の理想とするバンドのギタリストってさ、どこか一歩“引いて”いるカッコよさがあるんだよね。“俺が俺が”って前に出て行かないんだけど存在感があってさ。例えばCHABOさん(仲井戸麗市)やキース・リチャーズ、スティーヴ・ジョーンズみたいな、ああいうカッコよさだよね。だからTHE COLLECTORSでは、自然とそういう感じになるんだよ。
ES-335が今の“THE COLLECTORSの音”を
決定づけているんじゃないかな。
「ワンコインT」は、サイケデリックなディレイのイントロから骨太なカッティング・リフになだれ込むナンバーです。
すでにTHE COLLECTORSのライブで演奏しているんですけど、早くも成長して“化け始めた”曲ですね。やればやるほど新しい顔が見えてくるので、演奏していて面白いです。
ガレージ・サーフなアプローチのソロも耳に残りました。どのように作り込んでいったのですか?
たしかこの曲のソロを録る時に、加藤さんと“こんな音階はどう?”みたいな話し合いをしながら作っていきましたね。とはいえ、そんなに時間はかかりませんでしたよ。
そうなんですね。ちなみに今回のアルバム制作で悩んだ場面はありましたか?
ないね。強いて挙げるなら……一番気を使うところは、ベーシックとなるスリー・リズムを録る時の音色かな。ドラムとベースと一緒に録る時のサウンドをビシッと決めるのが大切なんだよね。ただ、ここさえキマッてしまえば残りのダビングなんてちょろいもんだよ(笑)。やっぱり中学生でギターを始めた頃から、“ギター=リズム”みたいな考え方でやってきたからね。
そういう考えになったきっかけは?
最初に弾きたいと思ったのがパンク・ロックでさ。とにかくギターで刻む“リズム”がカッコよかったんだ。そこがギタリストとしての原点なので、それからはずっとギターはリズム楽器だと思っているよ。
「スローリー」は、歌が入るまでの約25秒間に表情が変化するイントロや、アダルトな雰囲気の艶っぽいソロも耳に残りました。
この曲のイントロは、加藤さんから“ちょっと不気味にしたい”というイメージから、フレーズを作り込んでいった感じかな。ギター・ソロはダビングでサクッとやっちゃった感じだね。事前に構築したメロディ・ラインに聴こえるかもしれないけど、実はアドリブで弾いたパートなんですよ。その場でパッと弾いたフレーズが良い感じだったから、それをキレイに録り直したんじゃないかな。
ちなみに今回の作品制作で、コータローさんがギター・プレイ面で手応えを感じた曲は?
「シルバーヘッドフォン」は、薄っすらとMaxonのコーラスがかかっているところが気に入っていますね。非常に地味なことかもしれないけど、こういうアップテンポな曲で全編コーラスを踏みっぱなしにして弾くのは、THE COLLECTORS史上初めての試みだったりするんじゃないかな。本当にマニアックな部分ではあるけど、そういうところが面白かったね。
レコーディングで使用した機材について教えて下さい。
ベーシックとなるリズム・パートは、いつものマーシャル(1975 Marshall Lead & Bass 50 Combo)とES-335の組み合わせだね。ちょっと歪ませたいなって時はIbanezのTS9で、それでも少し歪みが足りないなって時はBOSSのBD-2を使っています。ダビングで違うギターを持って行ったけど……使った記憶がないから、ひょっとしたら全部のギター・パートを335だけで録ったかもしれない。ダビング・パートは、もう100%(Line 6の)PODです。使っているのは一番最初期の豆型のモデルなんだけど、ギターのダビングにおいては一番オケに合ったサウンドを作りやすいんだよね。
では、今作におけるギターの音作りにおいてキモになった機材は?
そうだね……やっぱり俺のES-335の音が、今の“THE COLLECTORSの音”を決定づけているんじゃないかな。おそらく加藤さんが曲を作る時にも、少なからず頭の中でES-335の音が鳴っていると思う。
1999年にES-335を手に入れてから2024年で四半世紀=25年になりますが、今のコータローさんにとってどのような存在ですか?
この335を持つと、なんかホッとするんだよね(笑)。今となっては、このギターで表現できないことはないなって感じています。もう鮎川誠さんのレス・ポール・カスタムばりに年季が入った見た目になってきちゃったから、これ以上ボロボロになるのも嫌だなって気持ちはあるんですよ(笑)。ただ全然不具合はないし、むしろ調子は凄く良いんだけどね。今、個人的に気になっているのがES-345で、良いモデルがないか探しているんだけど……まだ出会えてないんですよ。バリトン・スイッチ付きのモデルがいいんだけど、なかなかなくて。
なるほど。もしも335を引退させるとするならば、345という感じですか?
THE COLLECTORSで使うんだったら、やっぱり335の系統の音がいいかなって思っているけどね。最近だと自宅でUSA Collectionのエピフォン・カジノを使っているんだけど、これもめちゃくちゃいいギターだね。
ロックやギターのことが好きだという情熱は
ずっとなくならなかった。
2024年の活動をふり返ってみると、9月に開催された『オハラ☆ブレイク』では、チバユウスケさんのトリビュート・セッションでバンマスも担当されていましたね。
自分がバンマスって言っても、ほかのメンツ(ウエノコウジ、ヒライハルキ、クハラカズユキ)はみんな当事者だからね。このライブも335とマーシャルでやったんだけど、THE COLLECTORSの時よりも少し歪ませて弾きました。チバもアベ(フトシ)君もフジケン(フジイケンジ)もイマイ(アキノブ)君も、全部を俺の中に混ぜて弾くみたいな感じでステージに臨みましたね。
印象に残ってる場面は?
どの曲も良かったけど……ライブの1曲目にやった「CISCO」は、俺が提案したんだ。もともと「ドロップ」から始める予定だったんだけど、ウエノ(コウジ)とキュウ(クハラカズユキ)に“こういうライブ・バージョンがあるよ”ってことを教えてもらって、急遽、演奏する曲に「CISCO」を増やしたんですよ。キュウとウエノに関しては、もはや家族みたいな関係だからさ。演奏を含めて色んな面でバッチリだしね。けっこう良い感じでやれたんじゃないかな。
そうだったんですね。そういえばコータローさんの還暦のタイミングで、チバさん、ウエノさん、キュウさんとコータローさんで一緒にライブをやろうかという話も出ていたんですよね。
そうそう。そういう計画もあったね。
トリビュート・セッションに甲本ヒロトさんが参加したのも驚きました。一緒にやってみた感想は?
ヒロト君とステージに上がるのは……ひょっとしたら初めてなんじゃないかな? 面白いもので、昔から知っている間柄だからかもしれないけど……なんか懐かしかったんだよね。楽しかったよ。
貴重なお話ありがとうございます。改めて、今回のニュー・アルバム作り終えたことで見えたTHE COLLECTORSの可能性は?
そうだね……まだやれるなって思った。そう感じたのにはちゃんと理由があって。やっぱり良い曲ができているってところに尽きるかな。作品のクオリティが落ちていたら嫌だけど、そんなことは全然なかったからね。アルバムの曲は、すでにライブで8曲ほどやっているけど、どれもライブ映えして良いなと思ってる。ステージで演奏していて楽しいね。そういった新しい曲がこれからのライブでどういう風に変化していくかっていうのは、我々も凄く楽しみにしています。
作品制作をふり返って一言お願いします。
僕たちがずっと好きで、愛して、聴いていた“ロックなサウンド”で作ることでできたアルバムです。自分たちの好きなことを2024年にやっただけなんですけど、それが一番良かったかな。今を生きている昔気質なバンドってことですね。
ここまで長くキャリアを続けてこれた理由は?
変な言い方になっちゃうけど……“仕事”だと思ってたからじゃないかな。なんか夢がないように聞こえるかもしれないけど、自分たちとしては“プロ”になりたかったわけだし、“ギターで飯を食っていく”という夢が叶ったということは、もちろんバンドが仕事になったわけで。そんな考え方で活動をしていると、辞めるっていうことをあまり考えなかったんだよね。例えば何かトラブルがあったとしても、“まぁ仕事なんだから面倒くさいこと起きたとしてもしょうがないよね”って感じでさ(笑)。
そういう考え方でやってこれたところが、ある意味で自分のことを助けたんじゃないかなって思う。ここまで長く続けてこれたのは運もあるだろうけど。それに加えて自分自身がロックや音楽、ギターのことが好きだって情熱がなくならなかったことも大きいよね。やっぱり情熱がなくなったらやる気しないからさ。
作品データ
『ハートのキングは口髭がない』
THE COLLECTORS
日本コロムビア
COCP-42384
2024年11月06日リリース
―Track List―
1.スティーヴン・キングは殺人鬼じゃない
2.タイムトリッパー
3.シルバーヘッドフォン
4.ガベル
5.This is a True Story
6.キミに歌う愛のうた
7.ヴァニティフィクション
8.ワンコインT
9.Hold Me Baby
10.スローリー
11.ランドホー!
―Guitarist―
古市コータロー