マーク・ケンドリック & Rei|特別対談〜フェンダーDNAを受け継いだメイド・イン・ジャパンの正統派シリーズ マーク・ケンドリック & Rei|特別対談〜フェンダーDNAを受け継いだメイド・イン・ジャパンの正統派シリーズ

マーク・ケンドリック & Rei|特別対談〜フェンダーDNAを受け継いだメイド・イン・ジャパンの正統派シリーズ

“フェンダーの伝統的なスペックを、日本のクラフトマンシップで蘇らせる”というコンセプトのもと、2017年に誕生したMade In Japan Traditionalシリーズ。時代を超えて愛されるフェンダーの名器たちを、現代の技術と日本の職人技によって新たな次元へと昇華させた同シリーズに、このたび新たなカラーがラインナップに追加された。ここでは、同シリーズのカラーやサウンド面の監修を手掛けた元マスタービルダーのマーク・ケンドリックと、今年2月にフェンダーから自身初のシグネチャー・モデル“Rei Stratocaster® R246”を発売したSSWのReiとの特別対談を敢行。かねてからフェンダーのものづくりに関心を持っていたReiによる核心に迫る質問と共に、同シリーズが切り拓く新たな可能性について詳しく聞いていこう。

*この記事はギター・マガジン2025年7月号へ掲載予定の記事から一部を抜粋したものです。
本対談のフル・バージョンは6月発売のギター・マガジン2025年7月号に掲載!

Made In Japan Traditionalシリーズが
成功していくのは目に見えている──マーク・ケンドリック

初めに、マークさんの経歴を教えて下さい。

マーク・ケンドリック(以下マーク) 僕はフラートンのすぐ隣のアナハイムに育ち、プロのギター製作の世界に入る前はディズニーランド近辺で自転車に乗って新聞配達をしていた。母の働くレストランでハンバーガーを作ったりなんてこともしていたね。そして76年6月に高校を卒業後にミュージックマンに就職して、レオ・フェンダーの下で働くことになったんだ。

Rei ではマークさんはミュージックマンからフェンダーに移られたのですね。

マーク 現在のFMIC(フェンダー・ミュージカル・インストゥルメンツ・コーポレーション)で働き始めたのは、レオが亡くなった1991年からだね。

あなたはレオと一緒に仕事をする中でどんなことを学びましたか?

マーク ギターの製造に関して話すと、彼は私が出会った中で最も実践的でコスト意識の高い人だった。レオのことをケチだったと言う人がたくさんいるけどそうじゃなくて、彼は倹約家だったんだ。常にコストの維持に気を配っていたよ。レオが工場内を歩き回り、床に落ちているネジやバネなどを拾っているのをよく見かけた。“どうしてそんなことをするんだ?”と尋ねると、“これらの部品を集めることで十分に節約できれば、抵抗やコンデンサを袋ごと買うことができる”と言っていた。彼は缶詰の冷えたスパゲッティを食べていて、ランチに出掛けることはあまりなかった。むしろ彼は従業員と一緒に座って、私たちとお喋りをするような人だったんだ。

Rei 彼がそういう人柄で地に足が着いた人だったと聞けたのはとても嬉しいです。現在のフェンダーの雰囲気に繋がっているような気もします。ハイエンドなギター・ブランドはたくさんあるし、もちろん私は様々なブランドのものを弾くのが好きですが、フェンダーのあり方が好きです。フェンダーは常にプレイヤーに寄り添ってきましたし、先ほどのエピソードを聞いているとレオと共に働いてきた人たちは、彼の楽器作りに対する考え方をたくさん吸収しているのかも知れませんね。

マークさんはMade In Japan Traditional(以下MIJ Trad)シリーズの新色のラインナップを監修したそうですね。どのような点に着目して進めていったのでしょうか?

マーク チームはまさにDNAに合致したことを実現し、僕は満足だったよ。ビンテージ・カーの話にあったけど、導入された当時はビンテージじゃなくて単にカラー・チャートに載っていただけのものだった。

レオは毎年新車のキャデラックを買っていたので、その多くはキャデラックの色だったんだ。フォレスト・ホワイトは白いオールズモビルを、ジョージ・フラートンはフィエスタ・レッドの1956年型シボレー・ベルエアを所有していた。僕たちは今もデュポン社のオリジナルのカラー・チャートを持っていて、その忠実に再現を多くの人たちに評価してもらえている。特にアメリカン・ビンテージⅡともなると、どれだけビンテージであるかが求められてくる。

今日同僚がこの写真をメールで送ってくれたのだけど、日本のチームが今回無意識に作ったカラーの1つが実は完全にヴィンテージのものだったんだ。(スマホで写真を見せながら)このブルー・スパークル・バースト・フィニッシュの1962年製のジャズマスターはオリジナルのカラーだったんだ。Traditional 2025 Collectionの新色の中に、これを真似たものがあったけど偶然だったんだ。

Rei とても偶然ですね!こんな色があるなんて知りもしなかったです。

マーク 本当に偶然としか言いようがないさ。このギターはワンオフのもので、ギター・ショウや特定のアーティストのリクエストとかで作られたんだろうね。

Rei 個人的な感覚ですが、私は木をより近くに感じていたいのですが、塗装によって木が数ミリ離れていくように感じます。そういった理由で私はポリ塗装よりもニトロ塗装を好みます。実際フィニッシュの種類によって音に技術的な違いみたいなものはあるのでしょうか?

マーク 音で重要なのはフィニッシュをどれだけ薄くできるかで、Reiさんの指摘は正しい。ポリエステルやポリウレタンに厚みがあるのと同様に、新しいラッカーのギターにも厚みがある。

ポリウレタンとポリエステルはどうかというと、そもそもポリという言葉は2つの成分を混ぜて重合させたものという意味だ。だからポリエステルとポリウレタンは固まって乾かない。ラッカーについてはアクリルもしくはニトロセルロースの選択肢がある。ニトロセルロースは神格化されているようなところがある。

デュポン社が製造していた車用のカラーの多くはアクリル・ラッカーだった。オリンピック・ホワイトはアクリル・ラッカーだけど、フィエスタ・レッドはニトロセルロース・ラッカーだ。その色を作るために化学的に何が必要だったかによって異なるってことだ。

ただ、ラッカーは溶剤と揮発し易い有機化学物質のため、ずっと揮発して薄くなり続ける。だから“薄いラッカーのフィニッシュが欲しい”と言う人は、時として経年劣化したものを指していることがある。そして木材の膨張と収縮はラッカーとは異なる速度で動くため、木材が動いてラッカーにウェザーチェックが入っていく。ポリエステルやポリウレタンではそういうことはあり得ず、かといってサウンド的にはそれほど違いはないといえるよ。

Rei 本当ですか?

マーク ジミ・ヘンドリックスはポリエステルのフィニッシュのギターを使っていたよ。厳密にいうとトップコートはラッカーだったけど、下地はポリエステルだった。だからトーンを殺してしまうという仮説に関しては賛同しないかな。

Rei トップコートの前、カラーリングする場合にはどちらがお好みですか?

マーク サウンドに対して差を感じないものも幾らかあったよ。オリンピック・ホワイトは黄色だと言う人がいたけど、私は“違う”と言った。

オリンピック・ホワイトと呼ばれるのには理由があって、オリンポス山のモニュメントはグレーが薄っすらと加わった大理石でできている。もともとそういったカラーの上にラッカー塗装を施し、紫外線が当たって黄色くなったんだ。これらの色は年月を重ねるにつれて変化していくものなんだ。

僕が作ってきたギターのカラーを見て欲しい。決して同じものにはなっていない。僕はどんな色も好きで、花であれ何であれ生身のものの色に魅了されるんだ。“こんなのできるか?”と雲と夕焼けの写真が送られてきても、僕はいつもベストを尽くす。これといって好きな色はないけど、どれも好きな色なんだ。

音やピックアップも監修されたとのことですが、特に今回のMIJ Tradシリーズでこだわった点を教えてください。

マーク すべてではないにしろ、多くのものにこだわったよ。MIJ Tradシリーズの大部分は、Heritageシリーズでの経験から生まれている。しかし日本のチームはそれをさらに推し進め、より環境に優しく適した材料を使い、生産に適したものにするという素晴らしい仕事をしてくれた。しかもDNAをちゃんと維持したままにね。

MIJ Tradシリーズは9.5インチで、僕は7.25インチのラジアス指板のギターも持っているけど、どのギターを弾くかは、そのギターから何を得たいかによるものだ。そしてそれはテイストであり、すべての人にとっての選択肢でもある。

日本のチームはMIJ Tradシリーズをより手頃な価格にしたかった。より環境に優しくすることを彼らが意図していたかはわからないが結果的にそうなり、そしてより効率的に生産可能となったため、リーズナブルなコストで生産できるようになったんだ。

ギターの良さや楽しさを伝えることが私の役割だと思う。──Rei

左からマーク・ケンドリック、Rei。
左からマーク・ケンドリック、Rei。

MIJ Tradシリーズのように、Fenderの伝統を守りながら、時代に適応した新しいギターを作る際に重要だと考える点はなんでしょうか?

マーク 作る人々だね。正確にカットできる機械があって、綺麗に組み上げられるし仕上がりも素晴らしい。コロナ工場でも、一部のカスタムショップ・ギターを除いて、ほとんど同じことをやっている。もしCNC技術をレオ・フェンダーが所有していたら、それを使っていただろう。

ただMIJ Tradシリーズでさえも、カットされた木材は形成やサンディングをする人々に手渡され彼らの愛情や喜びが込められていく。だからフェンダーのギターはどれも微妙に違うんだ。機械化、デジタル化、AIでもなく、人間の要素が必要だからね。そこは僕が好きなところでもあり、最終的には素晴らしいサウンドにしかなり得ないんだ。

Reiさんは日本製のフェンダー・ギターを何本かお持ちだと思います。その中で、日本製ならではだと思うポイントなどはありますか?

Rei フェンダーのDNAという点では、作り方や作り手の教え方について本国と遜色ないものがあると思います。ただ、日本人が持つ職人気質や細部まで考え抜かれた日本の製品には常に信頼性があって、具体的な特徴ではないかもしれないけれど日本製を使うことには安心感がありますね。また日本製のフェンダーよりもUSA製を好む人がいるのも事実ですが、Made In Japanが新しい時代や歴史を作るのにある程度貢献していると思います。

マーク 同感だね。アメリカでもそうだけど特にこのSNSの時代には、ギターはトロフィーのように自慢したくなるものだ。日本製のフェンダーを所有するアメリカ人で“日本製は最高だ”と言う人たちもいる。その一方で“USA製が最高だ”と言う人もいれば、メキシコ製を買う人もいる。それに僕は完全に賛同するわけじゃないけど、ビンテージのほうが遥かに優れていると信じる人もいる。

でも僕が彼らに問いたいのは“君はそのギターで何をするつもりなのか?ギターから何を得ようとしているのか?プレイするのか?それで音楽を作るのか、それともトロフィーをもらったから自慢するのか?”ってことだね。

世界的にも評価が高いMade In Japanシリーズの未来について、今後の期待やビジョンなどがありましたら教えて下さい。

マーク ここに来るのは2020年以来でパンデミックが発生した時、実は私は中国にいた。アジアの国々を巡っていて、帰国できるかどうかハラハラしていたあの時が最後だった。それから5年経ち、今週あの時行った施設に足を運んだのだけど、その生産体制や工場自体の進歩が信じられなかった。僕は“問題ないか?”とか、“改善し続けなければダメだ!”と従業員に強要するようなタイプじゃないけど、驚かされてしまったよ。

彼らはとてつもない進歩を遂げてさらに良くなり、MIJ Tradシリーズが成功していくのは目に見えている。伝統のその先について考える際にDNAは守るべきだが、常にそれを押し進める必要がある。特にここ日本ではそのチャンスは無限だと思う。

だから10年、20年後、もし僕がまだギター製作の世界にいるとしたらそれを現場で目にできると思う。それがこの3日間で見てきたことに基づく僕の見解だ。Reiさんはこの国の文化の中にいて、Made In Japanシリーズとその可能性についてどう思う?

Rei 日本人のミュージシャンとして、またギターという楽器を深く愛する者として、クラフトマンシップと楽器そのものに敬意を払っています。より多くの人にこの楽器の素晴らしさを知ってもらいたいと思いますし、ギターの良さや楽しさを伝えることが私の役割だと思うので、リスナーの皆さんにそれを伝えていきたいです。

そしてマークさんが工場に行ったというエピソードをうかがいましたが、実は私はまだ日本の工場に行ったことがないんです。だから実際に自分の目で見てMade In Japanのクラフトマンシップをもっと理解したいですし、それを自分の音楽に表現して融合させることで私がプレイしているギターを欲しがってもらえるようにしたいと思います。