三宅洋平と三根星太郎が語る、犬式のアルバム『新夷の風』制作エピソード 三宅洋平と三根星太郎が語る、犬式のアルバム『新夷の風』制作エピソード

三宅洋平と三根星太郎が語る、犬式のアルバム『新夷の風』制作エピソード

2024年3月にリリースされた犬式のアルバム、『新夷の風』(あらえびすのかぜ)。その制作秘話やレコーディング使用機材について、三宅洋平(vo,g)と三根星太郎(g)にインタビュー!

取材/文=編集部

自分の血肉になったものを
素直に出してみたっていう感じです。
──三宅洋平

三宅洋平
三宅洋平

前作『動物宣言』(2022年)は13年振りのアルバム・リリースだったのに対して、今作の『新夷の風』はそこからわずか2年というスパンで発表されました。これはかなり早いペースですよね?

三宅洋平 『動物宣言』の前は9年間活動を停止していたから比較しにくいけど、本当ならもっと早く出したかったんですよ。アナログ12インチのA面/B面でスパッと聴き切れるサイズというか、往年のロック・アルバムみたいな感覚で1枚6〜7曲くらいのものを、1年置きくらいに出したいと思っていたんですけどね。

犬式の初期の頃、メジャー・デビューをする前に「犬式」と「飛魚」っていう2枚のマキシ・シングルを立て続けに出したんですが、何となくあれを踏襲するイメージというか。今の自分らの“名刺がわり”となる音を早めに届けたかったんです。だから焦っていたわけではないけど、できるだけ早いペースで音源を出したいなっていうのがありました。

三根星太郎 あとは今回の制作時期にレッチリが2枚連続でアルバムを出したじゃん。オレたちレッチリが好きだったし、特に洋平君はだいぶ刺激されてたと記憶してます。

三宅 忘れてたけど、そうだね。

三根 “レッチリがこんなにやれるなら、オレたちだってまだ……”みたいなね。

それこそレッチリのアルバムは1枚に15~16曲入っていましたからね。

三宅 凄いクリエイティビティだよね。昨今、ヒップホップなんかだと1曲単位で勝負をかけてくるところがあるから、“アルバムって何なんだ?”っていう感覚もあるかもしれないけど。

僕の中では前作の『動物宣言』と今回の『新夷の風』が、ある意味ひと続きの1枚のアルバムとしても楽しめるようにっていう意識もちょっとあって。犬式は1曲の密度が濃いから、6曲40分くらいのアルバムでけっこうお腹いっぱいになるところもあると思いますしね。

オレの中では
犬式ってやっぱロック・バンドなんですよ。
──三根星太郎

三根星太郎
三根星太郎

『動物宣言』は往年の犬式らしいソウル/ファンクやヒップホップのグルーヴ感でしたが、今作『新夷の風』はぐっとロックなサウンドですよね?

三根 それは曲の作り方が影響してると思います。今回改めて思ったのは、洋平君の弾き語りから曲作りをすると、“このバンドは100%ロック・バンドになるんだな”っていうことで。ジャムったりして作るとヒップホップとかファンクっぽい要素が入ってくるんだけど、“洋平君の根底にあるのがロック・サウンドなんだな”っていう風にはオレも思いましたね。

三宅 犬式って初期の頃はレゲエ・バンドとして見られていたけど、それが窮屈だった時もあったりして。僕らの根底はロックなんだけど、自分にとってのロックって雑食性なんですよね。自分が聴いてきたもの、影響されたものを全部パッケージングすることがロックというか。

ピーター・トッシュの言葉を借りれば、“レゲエに聴こえるものはすべてレゲエだ”っていうのと同じで。特に今回に関しては、もう自分の血肉になったものを、素直に出してみたっていう感じです。

三根 やっぱオレらは編成がロック・バンドなんだよね。ギター2本にベース、ドラムで。レゲエ・バンドはたいてい鍵盤やパーカッションもいますから。そう考えると、オレの中では犬式ってやっぱロック・バンドなんですよ。

犬式。左から三根星太郎(g)、石黒祥司(b)、三宅洋平(vo,g)、柿沼和成(d)。
犬式。左から三根星太郎(g)、石黒祥司(b)、三宅洋平(vo,g)、柿沼和成(d)。

今作はアフリカ色もけっこう強いですけど、これは三根さんのカラーですか?

三根 それは僕のせいですね(笑)。

三宅 アフリカン・サイケデリック・シーンみたいなところは僕もめちゃめちゃ好きだし、特に4曲目の「√Groove兎」はデザート・ロックの感じだよね。結果そうなったのはバンドのケミストリーだし、面白いなと思う。

三根 デザート・ロックだったり、ちょっと三味線弾いてるような感覚もあるかな。あと「Nu Land」はレコーディングの寸前までギターのアレンジが固まってなかったんですよ。最終的に、夜のホテルで洋平君にガヴァメント・ミュールの動画を見せてもらって、なるほどと。“じゃあクイーンとか70年代のサザン・ロックが好きなアフリカの黒人ギタリストっていうコンセプトで弾く”、みたいなことを言って(笑)。

三宅 わかりやすいな(笑)。

三根 全体的にそういう感じです(笑)。

三宅 曲調は全然違うんだけど、オレの気持ちはフレディ・マーキュリーだったかな。

三根 だからイントロのギターはブライアン・メイを相当意識してる(笑)。

ワウは本当に
自分にとっては重要なギア。
──三宅洋平

ギター的には、この「√Groove兎」と「Nu Land」が今作のトピックだと思っているんですよ。作曲の流れとしては、どのようにして今の形になっていったんでしょう?

三宅 実は2曲ともオープンDの弾き語りで作ったんですよ。犬式で初めてオープン・チューニングでの作曲にトライして。

三根 凄くギタマガっぽい話(笑)。

三宅 ソロ活動の弾き語りではやってたんだけど、全弦開放でも成立するし、ギター1本でも鍵盤に近いような響きが出るんですよね。

では、この2曲とも三宅さんのバッキング・ギターはオープンDなんですか?

三宅 そうそう。SGをオープンD用として使いました。

このバッキングはSGだったんですね! たしかに、これまで三宅さんのジャズマスターと三根さんのストラトで構成されていた、いわゆる犬式サウンドよりも、全体的に少し音が太くなった印象があったんですよ。

三根 わかります。ちょっとボトムが太くなった感じはSGが出しているのかもしれません。

三宅 そこがロック感につながってるのかもね。

三宅洋平
三宅洋平がオープンD用として使ったギブソンSG

アコギのオープンDをエレキで再現するならSGのほうが適していると思ったんですか?

三宅 そうですね。アコギがギブソンのハミングバードというのもあるかもしれません。以前から家で作曲する時はギブソンのアコギなのに、バンドだとフェンダーのジャズマスターになるっていうことに、ある種の矛盾を感じていて。叩いたような弾き方でも“ドゥン”って鳴るギブソン特有の感じはフェンダーだと出せないから、今までは弾き方を変えたりしてたんだけど、SGならハミングバードに近い感覚で弾けるってのはありましたね。

三宅洋平
三宅洋平が作曲で使用するギブソン・ハミングバード

ほかの曲ではジャズマスターも使ってるんですよね?

三宅 オープンDの2曲以外はジャズマスターで、「青い月青い町」だけホセ・ラミレスのガット・ギターですね。

歪みはアンプだけですか?

三宅 本当にズンズンいきたい時だけはVOXのオーバードライブを使っていて、あとはアンプがメインですね。

「新夷の風」のイントロのギターはけっこう歪んでますよね。

三宅 ああいうのはVOXの歪みを使ってます。

三根 でも、レコーディングで使ったフェンダーのBassmanも、アタックが強いとちょっとドライブがかかるような音だったよね?

三宅 たしかに、いわゆるTwin Reverbとかの“ジャキッ”ていう音ではないかも。

三根 レコーディングの時、ちょっと煙が出て焦げた匂いしてたしね(笑)。だから本来はあそこまで音がつぶれないのかもしれないけど……。

三宅 前はずっとTwin Reverbだったけど、Bassmanのほうがちょっと太くて、ワウとの相性がより良いのかな? 痛い音が減るっていうか。

三根 Twin Reverbと洋平君のジャズマスターだと、ちょっとそうなる時があるかも。ワウをかけっぱなしで、どっかのポジションにステイしたまま弾いたりしてるし。

三宅さんはワウを踏みっぱなしにしているんですか?

三根 少しトーンがこもってレンジがキュッとしている音はワウを踏みっぱなしにしていると思います。

三宅 ワウってちょっとこもらせて歌を前に出したり、踏み込んでジャキッとさせたり、歌いながら感覚的に調整しやすいんですよ。だから、ある種のトーン・コントロールでもあるっていうか。『意識の新大陸 FRESH』(2008年)くらいからワウは踏みっぱですね。

ギターの少しイナたい質感は何だろうと思っていたんですけど、謎が解けました。

三宅 “コーン”とした音色が、自分の歌や星太郎のギターとの噛み合わせのバランス的に良くて、結果そうなりました。だからクリーン・トーンに戻れなくなっちゃって(笑)、もうワウありきで良い音が出るようにセッティングしてるから。

ライブもずっとその状態ですか?

三宅 そうですね。これからもっと究極のワウを探したいと思っているので、ギター・マガジンでワウの特集をしてくれたら、もう絶対に買いますよ。

その時はお送りします(笑)。

三宅 ワウは同じCry Babyでも個体差が凄くあるし、ある意味で不安定な楽器だから奥が深いです。自分は足だけ左利きだから、ワウは左に置いているんですけど、そのほうが歌いながら操作しやすくて。ワウは自分にとってはかなり重要なギアですね。

僕的には、
2人ともリズム・ギターみたいなバンドなんです。
──三根星太郎

三根さんの機材はこれまでと変わらずですか?

三根 エフェクター類は変わらず、以前に取材して頂いた時のままです(下写真)。歪みはBOSSのSD-1と、CatalinbreadのTeaser Stallionで。あと、レコーディングは徳島のスタジオでやったんですけど、アンプを持って行かずに手ぶらで行ったんですよ。そしたら、マーシャルのキャビネットに、小さいOrangeのヘッドが乗っかっていて……。


写真右から接続順に、Jim DunlopのGCB95 Cry Baby(ワウ)、CatalinbreadのTeaser Stallion(ディストーション)、BOSSのSD-1(オーバードライブ)、One ControlのGranith Grey Booster(ブースター)、Electro-HarmonixのIron Lung Vocoder(ボコーダー)、strymonのTIMELINE(ディレイ)。ボード左側に置かれているのは未接続のBOSSのOC-3(オクターバー)とPS-6(ピッチ・シフター)。

三宅 凄い絵面でしたよ。マーシャルのデカいキャビネットに、小さいオレンジのヘッドが置いてあるだけ。

あの小型のヘッドですよね。

三根 “これしかないんだ!”って(笑)。でも、“オッケー、大丈夫だよ、良い感じ”って、それで録りました。

三宅 そうね。問題なかったね。

三根 それこそ「Evolution is now」は足下のペダルじゃなくて、アンプ・ヘッドで歪ませましたね。

あのヘッド、小さくても音は良いですからね。

三根 そうそう。だから問題はなかったです。絵面がちょっと面白かっただけでね。“ヘッド、小っちゃ!”みたいな(笑)。

三宅 ライブであれだったら凄く見ちゃうよね(笑)。

ギターはいつもの1971年製ストラトですか?

三根 そうですね。僕は1本だけしか使ってないです。

三根星太郎
三根星太郎が愛用するのは長年の相棒、1971年製ストラトキャスター。
三根星太郎のストラトキャスターのヘッド
三根星太郎のフェンダー・ストラトキャスター(71年製)のヘッド。

ギター・ソロでは何かエフェクターを踏んでいるんですか?

三根 「Evolution is now」みたいにがっつり歪ませるソロは、SD-1とTeaser Stallionを両方踏んでますね。「新夷の風」とか、ちょっとクランチ気味のやつはSD-1だけで、「Nu Land」はTeaser Stallionだけかな。ちなみに「Evolution is now」以外は、アンプはほぼクリーン・トーンで使いました。

One Controlのブースター、Granith Grey Boosterはレコーディングで使いましたか?

三根 あれも使いますよ。歪ませたい時と音量を上げたい時と、どっちの用途でも踏みます。歪みを2つとも踏んで、さらに音量を上げたければ、あのブースターをオンにしたりっていう感じですね。

SD-1もそこまで歪ませないブースター的なセッティングでしたよね。

三根 そうですね。DRIVEが7~8時で、ほんのちょびっと歪ませる感じです。SD-1はDRIVEをフルにしても凄くまろやかなのが良いんですよね。10年くらい前はボードにBOSSのエフェクターが1個もなくて、変わったエフェクターを色々と使いたがってたんですけど、頑丈だし重くないし、最近はBOSSが好きですね。PS-6も愛用していて、今作でも「青い月青い町」のスライド・ギターでかけてますよ。

スライド・ギターにハーモナイザーをかけてるんですか。

三根 そうです。1音弾いたら2和音が出るようにセッティングしています。

あの曲も70年代ロック的な印象を受けました。

三根 そうですね。あれは今回のアルバムの中でも良い曲だなというか、変な話、“売れるとしたらこの曲かな”と思って。“それだったらビートルズっしょ”っていうことで、ジョージ・ハリスンのスライドをイメージしたら、ああいう感じになりました(笑)。

犬式
2023年12月30日吉祥寺WARPにて。

ほかにギター的なトピックスはありますか?

三宅 前のアルバムから木製のピックを使ってるんですよ。PICKBOYのローズとかマホガニーのピックです。純粋に石油製品じゃないもので弦を鳴らしてみたかったんですけど、最初はめっちゃ弾きにくくて……。

硬くて弾きづらそうですよね……。

三宅 ジャズとかのめっちゃ上手い人が撫でるように使うピックなのかなって。

三根 柔らかい“しなり”がないから、カッティングに向かないだろうね。指で弾くような感じに近いんじゃない?

三宅 そうそう。今は家だとほとんどガットを指で弾いてるから、感覚が近くなってきたかもしれない。

三根 それもトーンに関係してるかもしれないですよね。

三宅 それは間違いなくあるね。ウッド・ピックを使ってる人ってロック・フィールドでは少ないんじゃないかな。そのうち、その辺に落ちてる木とかを自分で削って使ったりしようかなと思ってますけどね。

三根 ブライアン・メイも“手で弾くことが増えてる”って言ってたよ。ジェフ・ベックもブライアン・メイも、おじいちゃんになると、みんな手で弾きたがるからね。

三宅 そう。最終的には手なのかもしれないな。

今回の『新夷の風』で、犬式のツイン・ギターのあり方がさらに進化したように感じましたが、2人としてはいかがですか?

三根 昔は4人組バンドの編成でレゲエやファンク、アフリカ音楽なんかを表現しようとしてたんだけど、今はそうじゃなくて、自分たちのフォーマットの中で自然にやるっていうことを凄く意識してるんですよ。そうすると、要素と要素を混ぜようと思ってできるものとは違った、勝手に混ざっちゃっているようなものになるのかなと。今までと違うと感じるなら、もしかしたらそういう部分かもしれませんね。

あと、犬式はツイン・ギターだけど、お互いの役割もそんなに分けてなくて。どっちがリードで、どっちがバッキングっていう意識もそんなにないんですよ。僕的には2人ともリズム・ギターみたいなバンドなんです。

三宅 組んず解れつ、どっちがどっちを弾いたのかがわかんないようなところが犬式らしさの1つとして定着してると思いますね。

作品データ

『新夷の風』
犬式

INSK-012
2024年3月17日リリース

―Track List―

1.新夷の風
2.Dear Joe
3.Evolution is now
4.生ける宇宙
5.√Groove兎
6.Nu Land
7.青い月青い町

―Guitarists―

三宅洋平、三根星太郎