2025年3月、モグワイが約3年ぶりの来日公演を行なった。3月12日(水)Zepp Shinjuku公演の本番前、スチュアート・ブレイスウェイト(g)に最新使用機材についてインタビュー。本記事では、スチュアートが本公演で使用したペダルボードを本人の解説付きでご紹介する。
取材・文=小林弘昂 通訳=トミー・モーリー 機材撮影=小原啓樹
Stuart Braithwaite’s Pedalboard


拡大を続ける直列ボード
【Pedal List】
①BOSS / TU-3(チューナー)
②Keeley Electronics / Mini Katana Clean Boost(ブースター)
③Gamechanger Audio / PLASMA COIL(ディストーション)
④Electro-Harmonix / OP-AMP Big Muff(ファズ)
⑤MXR / Carbon Copy(ディレイ)
⑥Black Bay Studio / Prawn(オクターブ・ファズ)
⑦Electro-Harmonix / Superego(シンセ・エンジン)
⑧Jim Dunlop / 535Q Cry Baby Multi-Wah(ワウ)
⑨Eventide / H9(マルチ・エフェクター)
⑩BOSS / DD-20(ディレイ)
⑪Jim Dunlop / JHMS3(ヴァイブ)
⑫BOSS / TR-2(トレモロ)
⑬MXR / Phase 90(フェイザー)
⑭MXR / Crybaby QZone(フィックスド・ワウ)
⑮BOSS / RV-5(リバーブ)
⑯EarthQuaker Devices / Astral Destiny(リバーブ)
⑰MXR / Dyna Comp(コンプレッサー)
⑱Bixonic / Expandora Vintage Reissue(ファズ)
⑲Walrus Audio / Fable Granular Soundscape Generator(グラニュラー・ディレイ)
⑳BOSS / LS-2(ライン・セレクター)
㉑Palmer / PGA03(スプリッター)
㉒Barn3 / OX9(H9用拡張フット・スイッチ)
ギターからの接続順は、まず①〜⑳まで直列でつながれている。⑳LS-2のSEND A端子からはアンプの裏に置かれた㉑PGA03にインプットし、アウトを2つに分岐。ここからフェンダー’65 Twin ReverbとマーシャルJCM900 2100という2台のアンプに接続されている。
②Mini Katana Clean Boostは、ベーシストのドミニク・アイチソンがスチュアートのギターを弾く際にオンにするもの。ドミニクのピッキングは出音が小さいそうで、本機をオンにして音量を上げるのだという。
スチュアートのメインの歪みペダルは④OP-AMP Big Muff。以前はDanelectroのFab Toneや自身のシグネチャー・ペダル(Reuss Musical InstrumentsのPlasmatron)を使用していたが、最近はBig Muffがお気に入りとのこと。SUSTAINノブはもちろんMAXにセッティング。

③PLASMA COILもVOLTAGEノブとVOLUMEノブがMAXになっていた。本機は変な音が欲しい際に踏むそうで、「God Gets You Back」後半の単音フレーズや「What Kind Of Mix Is This?」のパワー・コードで④OP-AMP Big Muffと一緒にオンにしていたのが確認できた。
⑥Prawnはイギリスのレコーディング・スタジオ、Black Bay Studioが製作したペダルで、Shin-eiのオクターブ・ファズのコピー・モデル。おそらく「My Father, My King」の後半のチョーキング・フレーズで④OP-AMP Big Muffと組み合わせていたと思われる。
⑱Expandora Vintage ReissueもLEVELとGAINがMAXになっており、「Ithica 27 Φ 9」、「We’re No Here」、「Lion Rumpus」の爆音パートでオンにしていた。

⑦Superegoは「Every Country’s Sun」などで、スチュアートが弾いたサウンドをホールドするペダル。
⑧535Q Cry Babyは歪みペダルの後段に置くことで、ワウがよりエグくかかるようにしているとのこと。「We’re No Here」や「Mogwai Fear Satan」の後半の爆音パートではファズと組み合わせて強烈なフィルター効果を演出した。
⑨H9は、2オクターブ上のサウンドを重ねるピッチ・シフターや、Blackholeリバーブをプリセット。「Drive The Nail」や「Coolverine」で使用しているとのこと。。
メインのディレイは⑩DD-20のANALOGモードで、ディレイ・タイムは332msで固定。「Hi Chaos」と「Hunted By A Freak」のトレモロ・ピッキング・フレーズや「Auto Rock」のラストがわかりやすいが、ウェット音が原音よりも大きくなるように設定されている。さらに大きいディレイ音を出したい時は⑤Carbon Copyも重ねているとのこと。⑤Carbon CopyのMIXノブとDELAYノブもMAXにセッティングされていた。
⑪JHMS3はプラシーボのブライアン・モルコに教えてもらい導入したもの。「Fanzine Made Of Flesh」の後半で④OP-AMP Big Muffと一緒に踏み、サイケデリックなサウンドを鳴らしている。同曲のラストでは⑧535Q Cry Babyも同時にオンにしていた。
⑫TR-2は「How To Be A Werewolf」のクリーン・トーンでのアルペジオでオンにしている。
⑭QZoneは「My Father, My King」のラストでオン/オフをくり返し、断末魔のようなサウンドを生み出していた。
⑮RV-5は「My Father, My King」の中間のクリーン・パートでGATEリバーブをオンに。「Pale Vegan Hip Pain」の揺らいでいるクリーン・サウンドは、⑯Astral Destinyと⑰Dyna Compの2台で作っている。⑯Astral DestinyはShimmerモードでMixノブがMAXになっており、⑰Dyna Compはブースター的に使用するためOUTPUTノブをMAXにセッティング。
⑲Fable Granular Soundscape GeneratorはmixノブがMAXにセッティングされており、オンにするとウェット音しか出力されない。「Hunted By A Freak」のラストや「Mogwai Fear Satan」のクリーン・パートでの幽玄なディレイは本機によるものだ。
Interview
プラシーボのブライアン・モルコに
“あのペダルは何?”とメールしたんだ。
最新アルバム『The Bad Fire』(2025年)のレコーディングでは、このペダルボードを使ったんですか?
オレはスタジオでペダルボードを使わないんだ。レコーディングでは手あたり次第ペダルを持ってきてつなぐから、時には何百台というペダルがスタジオにあったよ(笑)。このペダルボードの中のものだと、Expandora(⑱)、OP-AMP Big Muff(④)、Astral Destiny(⑯)、Cry Baby(⑧)、DD-20(⑩)は絶対に使ったね。
シグナルの最初にMini Katana Clean Boost(②)を置いている理由は?
ドミニク(・アイチソン/b)がオレのギターを弾く曲があるんだけど、彼はとても静かにプレイするから、音が聴こえないくらいなんだ。だからこれでブーストさせて音量を上げている。ドミニクのためのペダルだね。

歪みペダルの使い分けについて教えて下さい。
Gamechanger AudioのPLASMA COIL(③)はけっこう前から持っているけど、いつも持って行っているわけじゃなくて、今回のツアーで使っていくうちにレギュラー入りしたんだ。オクターブっぽいクールなサウンドが出せるから、変な音を出したい時に使っているよ。
OP-AMP Big Muff(④)はメインの歪みで、ほぼすべての曲で使っている。以前はDanelectroのFab Toneとか、オレのシグネチャー・ペダルであるReuss Musical InstrumentsのPlasmatronを使っていたんだけど、今回のツアーには持ってきていないんだ。Big Muffを使いまくっているからね。
Expandora(⑱)は?
モグワイのアルバムをプロデュースしてくれたジョン・コングルトンに勧められて導入したんだ。ZZトップも使っていたんじゃなかったっけ? これはグレイトなファズ・ディストーションだよ。設定次第ではファズにも、ディストーションにも、オーバードライブにもなるけど、オレはいつもファズとして使っている。
Carbon Copy(⑤)はかなり長い間使い続けていますよね。
ビッグなディレイとして使っているよ。メインのディレイはBOSSのDD-20(⑩)なんだけど、かなりビッグな音を出したい時は2台同時にオンにするんだ。
その隣にあるPrawn(⑥)は友人がハンドメイドで作ってくれたもので、Shin-eiのファズ・ペダルのコピーだね。
DD-20はどのディレイ・モードを使っているんですか?
たしかANALOGだったと思う。ディレイ・タイムは332msで、モグワイのサウンドにピッタリだよ。発振させるためにタイムを操作することもあるね。タップ・テンポや複雑な機能を使うことはないかな。

ということは、小さいアナログ・ディレイでも代用できるわけですね。
そうだね。実は以前、ほぼ同じディレイ・タイムに設定したラック・タイプのディレイを使っていたんだ。
Superego(⑦)はどういう使い方を?
「Every Country’s Sun」を始め何曲かで使っているんだけど、単音やコードを永遠にホールドするためのエフェクトなんだ。Cry Baby(⑧)も色んな曲で使っているよ。QZone(⑭)はかなり荒々しいサウンドを出したい時に踏むんだ。
ワウがディストーション・ペダルのうしろに配置されています。
この接続順だと一般的なワウのサウンドとはかなり違ってくるよね。スタジオではディストーションの前に置くこともあるけど、うしろに置くことでワウのかかり具合が強くなって、ノイズっぽい音が出せるんだ。オレはファンキーなワウ・サウンドを使うことはないから、この順番がシックリくるよ。
J・マスキスと同じ考え方ですね。
そうなの? Jもそうしているとは知らなかったけど、クールだね!
H9(⑨)にはどんなエフェクトをプリセットしているんですか?
おもに2オクターブ上のサウンドを重ねるピッチ・シフターだね。あとはビッグなリバーブ用にBlackholeもプリセットしているよ。H9は「Drive The Nail」や「Coolverine」で使っているんだ。
JHMS3(⑪)は最近導入したものですよね。なぜUni-Vibe系を使ってみようと思ったんですか?
オレはジミ・ヘンドリックスがフェイバリット・ギタリストなんだけど、今までUni-Vibeを使ったことがなかったんだ。でもプラシーボのライブを観に行った時、ブライアン・モルコ(vo,g)がUni-Vibeを使っていて、“スゲェぞ、クールだ!”と思ってね。それで彼に“変な質問なんだけど、あのペダルは何?”とメールしたんだ。そしたら“あれはUni-Vibeのコピーだよ”と教えてくれて、同じものを買ったというわけだね。

そんな裏話が(笑)。
みんなはオレのことをペダル・オタクだと思っているだろう? だからブライアンはオレがUni-Vibeについて知らなかったことを笑っていたよ(笑)。このペダルはライブだと「Fanzine Made Of Flesh」で必ず使っているんだ。
その隣のTR-2(⑫)は「Yes! I Am A Long Way From Home」や「How To Be A Werewolf」で使っている。Phase 90(⑬)は、トリッピーなサウンドにしたい時に踏むね。

Phase 90はノブがゼロに設定されています。スティーヴ・ジョーンズも同じような使い方をしていましたよね。
そうだったの? でもオレもほぼそんな感じ……もしくはスマッシング・パンプキンズやレッド・ツェッペリンみたいなサウンドを求めているんだ。
リバーブはどのように使っていますか?
BOSSのリバーブ(⑮)はかなりクールだ。Astral Destiny(⑯)はグレイトで、グラグラしたサウンドを作り出すために使っているよ。Dyna Comp(⑰)は「Pale Vegan Hip Pain」でリバーブと一緒に使っている。

あなたのボードにコンプレッサーが入っているのが不思議です。
新しく導入したもので、使い始めたばかりでね。クリーン・トーンを持ち上げるためにOUTPUTノブをMAXにしていて、リバーブのうしろにつないでいるんだけど、こうすることでちょっと変な音……深く潜るようなサウンドが生まれるんだ。
Fable Granular Soundscape Generator(⑲)は変なノイズを出したい時に使う。弦を擦り合わせた時のスクラッチ音にエフェクトを加えたりね。とても静かな曲で使っているよ。

スケートボードの靴が必要なんだ。
今日はVANSを履いてるんだぜ(笑)。
特定の曲で、なくてはならないペダルはありますか?
モグワイのおもなサウンドはディレイとディストーションだ。「Hi Chaos」や「Here We, Here We, Here We Go Forever」だと両方使っていて、「Hunted By A Freak」は両方、もしくはディストーションだけをオンにするという使い方だね。
もし3台のペダルだけでライブをするとしたら、何を選びますか?
このボードから選抜するとなると、Big Muff、DD-20、そしてCry Babyかな。この3つがあればライブができるよ。
これだけのペダルを直列でつないでいると、音が出なくなるなどのトラブルも多そうですが……?
そんなの日常茶飯事だよ(笑)。いつも起こるトラブルは、ワウをオンにしたつもりだったのにオフになっていることだ。“ワウにLEDが付いていればいいのに”って思うよ。
ワウをスイッチャーのループに入れて、スイッチャー側でワウのオン/オフを操作する人もいますね。
そのやり方は知らなかったよ(笑)!
ヨ・ラ・テンゴのアイラ・カプランはそのアイデアでトラブルを防いでいます(笑)。
彼は賢いんだよね(笑)。
アイドルズの2人もそうですが、エド・オブライエンやジョニー・マーなど、イギリスのギタリストは最近The GigRigのスイッチャーを使う人が多いです。しかし、あなたが直列にこだわる理由とは?
そういったシステムだと、もっとスイッチが増えるだろう? それだとさらに混乱してしまうんだ。どんなサウンドが出てくるのか、しっかり自分の目で見ないと忘れてしまいそうだからね(笑)。
隣接する2つのペダルを1回の踏み込みでオン/オフ操作することも?
頻繁ではないけど時々やるし、足を横向きに捻ってペダルを踏むこともある。だからスケートボード用の靴がないとライブができないんだ。家ではDr.Martensのブーツみたいなものを履くこともあるけど、ライブでは無理だね。だからスケートボードの靴が必要なんだ。今日はVANSを履いてるんだぜ(笑)。
もし3つのペダルでライブをやるとしても、実は靴がキーポイントになるということですね?
そのとおり(笑)!
最近注目しているペダルはありますか?
オレたちはリバース・リバーブを使うのが好きでね。Hologram ElectronicaのChroma Consoleを持っていて、クールなライトを備えていて本当に気に入っている。アレックス(・マッケイ/g,key)はstrymonのBigSkyを使っているよ。
ロウのアラン・スパーホーク(vo,g)のインタビューを読んだんだけど、彼はいつもペダルをチェックしているらしいんだ。彼が使っているという情報だけでトライしたペダルがいつくかあるよ。アランは本当にグレイトなギター・プレイヤーで、いつも面白いアイデアを持っているからね。
2025年3月12日(水)Zepp Shinjuku
【Setlist】
01. God Gets You Back
02. Hi Chaos
03. Ithica 27 Φ 9
04. What Kind Of Mix Is This?
05. How To Be A Werewolf
06. Ritchie Sacramento
07. Pale Vegan Hip Pain
08. Fanzine Made Of Flesh
09. Auto Rock
10. Hunted By A Freak
11. Mogwai Fear Satan
12. We’re No Here
13. Lion Rumpus
-Encore-
14. My Father, My King