5年ぶりの新作『ATOMIC CHIHUAHUA』を引っ提げ、2025年3月に全国ツアーを行なったINABA/SALAS。ミック・ジャガーやスティーヴン・タイラーとも共演しているギタリストのスティーヴィー・サラスは、稲葉浩志がチャレンジできる曲作りを心がけているという。アルバム制作についてのインタビュー後半をお届けしよう。
取材/文=鈴木伸明

「YOUNG STAR」のリフは
40年ぶりに日の目を見たことになるね。
今作『ATOMIC CHIHUAHUA』に収録された「YOUNG STAR」、「Burning Love」、「LIGHTNING」などは、シンプルで秀逸なリフが曲の骨格になっています。リフのアイディアは普段からストックしているのですか?
スマートフォンのボイスメモに溜めているよ。リフを思いついたら色んな人用に分けて録音しておくんだ。「浩志パンク・ロック」、「浩志ファンキー・ビート」とか、仮タイトルを付けてね。コロナ・パンデミックの時はやることがなかったから、昔のテープを掘り起こしてアイディアの断片を整理していたよ。
実は「YOUNG STAR」のリフは、1985年に4トラックのカセットに録音していたアイディアがもとになっている。友達の家のキッチンで、トム・ショルツが開発したRockmanのエフェクターからダイレクトにレコーダーにつないで録音したものだ。その音源を浩志が気に入ってくれてね。デモのプレイを再現しようとしたんだけども、上手くできなかった。だからデモ音源をサンプリングして、そこにアイディアを付け足してレコーディングした。これはウォズ(ノット・ウォズ)でも使った手法だね。曲作りのために昔のアイディアを掘り起こすことはよくやっているよ。
そのボイスメモは宝の山ですね。
クソみたいなアイディアもたくさん入っているけどね(笑)。「Tell Your Story Walkin’」も、実は4年くらい寝かした曲だった。時間を経て掘り起こされる曲もある。だから今回の「YOUNG STAR」のリフのアイディアは、40年ぶりに日の目を見たことになるんだ(笑)。
「ONLY HELLO part2」はジョン・レノンの「Happy Christmas (War Is Over)」を彷彿させるようなアレンジが見事ですね。
あのアレンジは、どちらかというと浩志のディレクションで進んでいった。「ONLY HELLO」は最初に曲の方向性について2人で話し合って、自分が作ったアイディアが「part1」になったんだ。同時に浩志も同じテーマで曲を作っていて、それが「part2」になった。つまり、お互いに同じテーマで曲を作って、それが全然違っていて、それぞれが良かったんだよ。“それならば、昔のビートルズのように「part1」と「part2」で分けるのが面白いんじゃないか?”っていう話になってね。「A Day In The Life」の前半と後半パートみたいにさ。
というわけで、「part2」は浩志の主導で作っていった。最初の段階から「Hey Jude」のように大きく盛り上がる感じがあったし、「Happy Christmas (War Is Over)」っぽいアレンジの雰囲気は浩志のアイディアから進んでいった。ピアノに凄くコンプレッションをかけて、昔のジョン・レノンのソロっぽい感じも出しているし、デヴィッド・ボウイの『Hunky Dory』(1971年)みたいにメロトロンやストリングスを入れたりもしたよ。

稲葉浩志というボーカリストが
ワクワクしてくれるアイディアを見つけ出したい。
「DRIFT」はあなたがプログラミングも担当していて、アコースティック・ギターとピアノの絡みが美しいアレンジになっています。この曲はどのようなイメージで仕上げたのでしょうか?
「DRIFT」は実験的な曲だった。もともとは女性ボーカル向けに考えていて、ホイットニー・ヒューストンが歌ってもおかしくないようなR&Bのイメージだったんだ。シールやトレヴァー・ホーンの作品っぽいイメージというかね。
実は1stアルバムに収録した「AISHI-AISARE」も2000年頃に女性ボーカリストのために作った曲だったんだけど、まわりから“奇妙すぎる”と言われてね。お蔵入りにしていたんだ。それをあえて浩志に聴かせてみたらすぐに歌詞を書いてくれて、今ではカラオケでも人気のある曲だと聞いたよ。浩志がこういうタイプの曲をやりたいのかは疑問だったけど、結果的に仕上がりは素晴らしいものになった。浩志自身は、チャレンジが好きなんだと思う。
とにかく、浩志がリードシンガーとして新たな道を開けるような曲を一緒に作りたいと思っている。だから、浩志が興味を持ってくれそうなアイディアを持っていくようにしているよ。彼はこれまでに様々なスタイルの曲をたくさんやってきているから、ワクワクしてくれるアイディアをなんとか見つけ出したいんだ。
スティーヴン・タイラーやミック・ジャガーと一緒にやる時も同じだけど、まずは稲葉浩志というボーカリストが楽しんでくれることを優先して曲を作る。ギターのアレンジはそのあとに考えるよ。曲そのものが良ければ、結果的にアルバムも売れるし、アリーナ・クラスのライブができるからね!
作品データ

『ATOMIC CHIHUAHUA』
INABA/SALAS
VERMILLION RECORDS
BMCV-8074
2025年2月26日リリース
―Track List―
- YOUNG STAR
- EVERYWHERE
- Burning Love
- DRIFT
- LIGHTNING
- ONLY HELLO part1
- ONLY HELLO part2
―Guitarist―
スティーヴィー・サラス