江ノ島で結成された3ピース・バンド、maya ongakuが、2026年8月12日(水)に2ndアルバム『Nothing Space Music』をリリースした。サイケデリックと評された1stアルバム『Approach to Anima』(2023年)以降の作品ではテクノ・ポップの要素を取り入れるなど、多彩なアプローチを重ねてきた彼らだが、今作ではよりアンビエント色の濃い音像へとその表現を広げている。今回ギタマガWEB初登場となる園田努(vo,g)に、バンドのルーツや独自のギター観、そしてアルバムの制作背景まで、じっくりと話を聞いた。
取材・文=森部真衣 人物撮影=Mikito Hyakuno

バンドを始めた頃は音階もわからなかったので、
ハチャメチャだったんですよ。
ギタマガ初登場となりますので、まずは園田さんがギターを始めたキッカケから教えてください。
“ビートルズの「Blackbird」を練習したい!”と思って、ポール・マッカートニーが使っていたエピフォンのTexanというアコギを買ったんですけど、すぐに断念しました(笑)。それは中3くらいの頃に、貯めていたお年玉で買った気がします。「Blackbird」は最近15年越しに習得しました(笑)。
エレキ・ギターを始めたのはいつ頃ですか?
エレキは大学生になってからですね。大学に入る時に今のバンドを始めたので、楽器をちゃんと弾き始めたのはその頃です。それまでは練習も大してしていなかったし、“Fコードの壁は超えたかな?”ぐらいだったんですよ。スタジオで弾くならエレキが欲しいということで、ヤフオクでテレキャスターとTwin Reverbを一緒に買って、ギターからアンプ直挿しでずっと弾いていました。
園田さんがデモを作る時は、アコギとドローンを使用するそうですね。アコギでコード進行を作っていくイメージでしょうか?
コード進行と旋律ですね。今回の『Nothing Space Music』の曲は展開も決めてからメンバーに渡しました。サックスのソロやベースに関しては特に指定はしないんですけど、“ここでこの音が入っていてほしい”という共通認識は持っていてほしいので、そこは説明しています。でも2人が意思を持って弾いているフレーズがあったら、わりとそれを受け入れていますね。
maya ongakuは楽曲によって使用する楽器が違うので、アレンジの方法も変わってきますよね。楽器の選択はデモを作る段階であらかじめ決めているのでしょうか?
デモの段階で決めていますね。“この曲にサックスは合わないよな、フルートだよな”とか、“ローズの音がいてほしいな”とか、その音域ごとに欲しい楽器を決めています。例えば「Flowing」では浮いている雰囲気が欲しかったので、低音域はめっちゃ低い音だけにして、その上に中音域を置きたかったんですよ。低音をベースで弾くと中域も出ちゃうから、Moogのシンセ・ベースの中で一番低い音域で“トォー、トォー”と鳴らしています。
現在は園田さんのデモから楽曲を広げていくスタイルですが、maya ongakuはもともとジャム・バンドだったんですよね?
そうです。ずっとジャム・バンドだったので、メンバーが7人まで増えたりもしました。ピンク・フロイドの曲の中で“この部分良いよね”というところを1時間ぐらい引き延ばしてジャムったり(笑)。
楽しそうですね(笑)。
それでどんどんおかしくなっていって(笑)。バンドを始めた頃は音階もわからなかったので、ハチャメチャだったんですよ。『maya experimental』というシリーズで、その頃の音源をSoundCloudに載せてます。僕が気に入っているのは一番ハチャメチャな『#3』なんですけど、覚悟して聴いてください(笑)。
これを13分聴いていたらキマりそうですよね(笑)。
僕らもキマりながらずっと弾いてました(笑)。現代音楽が好きなので、最初はこういうバンドだったんですよね。GURUGURU BRAIN(※音楽レーベル)は、このSoundCloudのジャム音源を聴いて、“これを音源で出したい”っていう意味のわからないオファーを送ってきたんですよ(笑)。でも、これをGURUGURU BRAINから出すのはもったいないと思って、ちょうどアイディアもあったので、ちゃんと1stアルバム(『Approach to Anima』)を作りました。
インド音楽が明確に好きというわけではなく、
どちらかというとドローンが好きなんです。
そのような経緯があって、maya ongakuとして一番最初にリリースしたのが、サイケデリックな要素が強い1stアルバム『Approach to Anima』なんですね。
僕らはサイケだと思ってやってなかったんですよ。一度もサイケなんて自称したこともないし。周りがサイケって言い出して、“サイケ?”みたいな(笑)。
そうなんですね。インド音楽や、そういった要素を取り入れたバンドから影響を受けているのかと思っていました。
ビートルズは好きですね。でもサイケデリック・ロックって、もともとはサイケデリック・ドラッグを摂取して作っていた音楽だったので、それとはやっぱり違うと思います。インド音楽が明確に好きというわけではなく、どちらかというとドローンが好きなんですよね。
『Approach to Anima』の楽曲のフレーズはラーガ(インド古典音楽における音楽理論)のスケールを取り入れているように感じましたが、そこを意識したりは?
意識してないですね。1stアルバムの頃はメンバー全員がコードを知らなかったので、ほぼ全曲1コードか2コードだし、音楽的な知識が全然ない状態だったので全部感覚で作りました。
では、感覚をもとに良いフレーズを作ってみたら、インド音楽のような音階になったんですね。
そうですね。聴いてきた音楽を脳の中でぐちゃっと混ぜて取り出す時に、いろんなものがついてきたみたいな感じです。例えばすごく抽象的に“ピンク・フロイドのこういう要素を取り出そう”と思ってグッと1つを掴んだと思ったら、ほかのいろんな要素も一緒についてきちゃって、しかも取り出したピンク・フロイドの要素もちょっと違う、みたいなことが起きるのが作曲じゃないですかね。
なるほど(笑)。
メンバーと同じレコードを聴いていても、全員からまったく同じものは出てこないから面白いですよね。思い出す時の残像みたいなものが一緒についてきてるんだと思います。だから、“ピンク・フロイドでこういう空気のところあったよね”と言ってジャムるけど、そんな空気は本当はなかったりするんですよ(笑)。
でも、園田さんが“あるよね?”と言ったら、ほかの2人は共通認識で“あるある”となるんですか?
“あるある”と言ってジャムもできるんだけど、共通の変な勘違いがあったりします。例えば、ピカチュウの尻尾の先端を思い浮かべた時、多くの人は茶色の尻尾が出てくる、みたいな感じです。
茶色じゃないんでしたっけ?
ピカチュウの尻尾は根元だけ茶色でほかは黄色なんですけど、それを集団で違う記憶をしているっていう現象があって(笑)。“マンデラ効果”っていうらしいんですよ。あとは宮崎駿さんが“こういう街並みを描きたい”と思って街を視察に行く時、写真を撮らないで本気で記憶するらしいんです。その記憶をもとに描いてみると実際とはズレて、それがジブリに出てくる新しい都市になるそうで、そうやって記憶の錯誤を利用して作るという方法があるんですよ。
音楽でも“あのフレーズ何だっけ?”と思ってリファレンスしてしまうと、リファレンスした音楽そのままになってしまうんですけど、思い出してみると全然違うフレーズになります。マンデラ効果音楽ですね(笑)。でも音楽の創作って、全部そういうものだと思います。
僕らには縛りがないから、
プリプロという概念がないんです。
EP『Electronic Phantoms』(2024年)はテクノ・ポップ色が強かった印象なのですが、1stアルバムからどういった変化があったのでしょうか?
1960年代〜70年代のロックの中で、カンやクラフトワーク、ノイ!のようなジャーマン・ロックが一番最高だと思っているので、そのリスペクトを込めて作りました。ダモ鈴木さんが亡くなっちゃったのもデカくて、追悼盤を出したかったんですよ。『Electronic Phantoms』のレコードの裏には、“ダモ鈴木に捧ぐ”と書いてあります。
そして最新アルバム『Nothing Space Music』では、アルバム全体を通して温かみのあるアンビエント的な楽曲が多くなったと思います。どんなコンセプトで制作したのでしょうか?
自然とできた部分が大きいんですけど、アコギを主体にしたいとはずっと思っていました。フォークとエレクトロニックが合体しているバンドってあんまりいないじゃないですか? そういう音像は僕らの得意技だし、『Approach to Anima』の時からアコギとシンセが美しく共存している音楽を作りたいと思ってたんですよ。
レコーディングやミックスもプライベート・スタジオで自分たちで行なっているんですよね?
そうですね。アコギと歌だけのバージョンの音源がデモ音源で、そこにどんどん楽器を追加していく感じです。多くのバンドは時間がない中、レコーディング・スタジオでレコーディングするために、ある程度の構成を決めておくじゃないですか? 僕らにはその縛りがないから、プリプロという概念がないんですよ。
『Nothing Space Music』は、どのくらい時間をかけてレコーディングしたのでしょうか?
1ヵ月丸々です。3人が集まるのは週3回、13時から19時までと決めていました。僕は次のレコーディングまでにデモを作ったり、スケジュールを組んだり、週7で準備していましたね。
ハードですね(笑)。
レコーディングの時はメリハリがつかなくなるとヤバいから時間を決めるんですよ。アルバム制作の時は午前中にお散歩して、本を読んで、瞑想したりしていたので、会社員と比べたら全然ハードじゃないです。
瞑想というと坐禅みたいな感じでしょうか?
瞑想って方法論がいろいろありますけど、僕はただ外の風に当たって座るだけです。アルバムを作っていた時は春だったから、窓を開けられる時期だったんですよ。庭の葉っぱや花が芽吹き始めていて、“うわ〜、気持ちいい”となってました。アルバム制作の時期になると、制作について考えて“あ、調べなきゃ”と携帯を触ってしまうので、“今は何もしなくていい”と自分に言い聞かせる時間を30分くらい作るんですよ。そうすることで自然とアルバムのことを考えなくなってくるので、めっちゃ大事な時間でした。
“ギターは木に弦を張ったもの”という観点を
忘れてしまいがちなんですよ。
ここからは各楽曲についても詳しく聞かせてください。「Thinkingscape」や「Hisoku Blue」、「Flowing」はアコギのアルペジオがミニマルにくり返されていて、ベースラインで楽曲を展開しています。こうしたアプローチにしたのはなぜでしょうか?
アコギの一番良い音は開放弦なので、開放弦の音をすごく大事にしたいんですよ。それと謙遜とかではなく僕はギターが上手くなくて、難しいフレーズを作ると弾き語りができないんです。なので曲を作る時に、開放弦の美しい倍音が出ていて、極力指を動かさないフレーズを探して完成させました。例えば「Flowing」は、常にドローン弦があって、2つのベース音だけが変わるフレーズがあるんですけど、ずっとドローン弦があることで曲の空気感が移動しないままコードが変わるんですよね。アシッド・フォークだとよくあるんですよ。
「Vanishing Waves」や「You are Silence」のアコギは重ね録りされていますよね。
2回録ってパンを振っています。イヤー・キャンディー効果が生まれて、耳に気持ちいいんですよね。
なるほど。ボーカルもダブル・トラックになっていますよね。
ほぼダブルですね。1つの声になるとすごく個性が出ちゃうんですけど、無人格、無国籍、無宗教な感じのボーカルにしたかったので、“園田努が歌っています”というのをできるだけ消す方法を考えてダブルにしました。
「Flowing」ではアコギのアルペジオのほかに、トレモロのかかったエレキが効果音的に入っています。今回のアルバムにおいて、アコギとエレキの使い分けはどのように?
アコギは和音主体で、エレキは基本単音使いです。なので、欲しい音がポリフォニック・シンセサイザーなのか、モノフォニック・シンセサイザーなのか、みたいな感じで考えているかもしれないですね。
ギターは弦の質感を持つシンセサイザーだと考えているのでしょうか?
本当にそうです。SequentialのProphet-6っていうシンセも、6音しか出ないじゃないですか? Prophet-6って実はギターと同じだと思うんですよ(笑)。シンセはギターを目指している楽器だと思うんですけど、やっぱりギターみたいにキレイな和音は鳴らないんですよね。ギターは弦楽器だから、和音が本当にキレイなんですよ。……なんか一番最初に弦楽器を見つけた人みたいになってますけど(笑)。
弦楽器の和音って、たしかに不思議ですよね。
小杉武久さんの『音楽のピクニック』(1991年)が、僕の人生の中で最高の音楽本だと思っているんですけど、その中に“弦楽器はおそらく武器の弓からスタートしたんじゃないか”っていう説が書いてあるんですよね。小杉さんはタージ・マハル旅行団を結成する前の芸大時代に“グループ・音楽”というバンドをやっていた人で、maya ongakuの“ongaku”はそのグループ・音楽から取ってるんですけど、この本で僕の音楽観が変わったんですよ。これはもう絶版なんで古本で買うしかないですけど。
『音楽のピクニック』はどんな内容なのでしょうか?
エッセイだからなんでも書いてあるんですよ。“かつてひとりの狩人が、鉄砲ではなく(昔風の?)弓に矢をつがえ「ビューン」と射たとする。彼はその「ビューン」に感じ、矢の代りに、自身の指でそれを聴こうとする”とか、弦楽器が生まれてギターになったりバイオリンになったりする過程が、小杉さんの想像で書かれてあります。僕はこれを読んで、“ギターにはエレキ・ギターやアコースティック・ギターがあって、コードの押さえ方がある”みたいな固定観念を捨てて、弦楽器を考えるようになりました。ジミ・ヘンドリックスやエリック・クラプトンが人間としてかっこよすぎて、ロマンが強すぎちゃうから、“ギターは木に弦を張ったもの”という観点を忘れてしまいがちなんですよ。
それによって演奏面に変化はありましたか?
ギターを弦楽器扱いすることによってエフェクターに頼らなくなるし、弾き方も変わってくるし、フレットを押さえて“これがCコードだ”とも思わなくなってきましたね。なので、最近は普通のコードも使わなくなりました。

南米に行ってみたいし、アフリカにも行きたいですね。
大陸を制覇したいです。
改めて、園田さんが思う今作の聴きどころを教えてください。
本当にお客さんがいない頃から無理やり海外ツアーに行って、どんどんお客さんを獲得していって、自分たちのお金でプライベート・スタジオをゲットして、3人だけでレコーディングからミックスまで全部終わらせたので、それがどういう風にアルバムに結実しているのか、という聴き方をすると、けっこう面白いと思います。
誰かにお金を出してもらうことで自分たちの思想が希釈されるような方法ではなくて、自分たちの思想を守るためにお金のこともちゃんと考えて作ったアルバムなので、そこに注目して聴いてくれたらいいかな。
maya ongakuはヨーロッパ・ツアーを何度も行なっていますが、今後やってみたい取り組みはありますか?
ツアーで行きたい場所はいっぱいあります。南米のツアーというのはあんまり聞かないので、行ってみたいですね。
南米でツアーをしたら、どんな音楽ファンが観に来てくれるんでしょうね。
(池田)抄英(key,sax)がブラジルに1ヵ月行っていた時に“リサーチしてきてよ”と言ったんですけど、“無理”と言われました(笑)。というのも、南米は音楽がすごく身近だから、バンドにお金を出さないらしいんです。どこでも音楽をやっているからヨーロッパやアメリカみたいなバンド文化がないと。だからこそ、抄英もそこにパッと入ってすぐにセッションできたらしいんですよ。まったく文化は違うけど南米に行ってみたいし、アフリカにも行きたいですね。大陸を制覇したいです。
作品データ

『Nothing Space Music』
maya ongaku
BAYON PRODUCION
ROMAN-036
2026年8月12日リリース
―Track List―
1. Vanishing Waves
2. Astral Echoes
3. Thinkingscape
4. Flowing
5. Hisoku Blue
6. In Nothing Space
7. You are Silence
8. Permanent Waves
―Guitarist―
園田努



