椎名和夫にしか弾けないジェット・フェイザーのソロ 椎名和夫にしか弾けないジェット・フェイザーのソロ

椎名和夫にしか弾けない
ジェット・フェイザーのソロ

椎名和夫のジェット・サウンドでのソロや単音カッティングが山下達郎楽曲に与えたものはなんだったのか。爽快感、推進力、グルーヴ……彼の職人的プレイには、それでしか得ることができない“味”があるのだ。今回はその中でも珠玉の名演を厳選してご紹介。特に「BOMBER」のソロは参考譜例も用意したので、実際に弾いてみてその“味”を堪能してほしい。

文=小川真一 譜例作成/解説=石沢功治


山下達郎が求めたのは
空高く突き抜けるジェット・サウンド!

「BOMBER」

シティ・ポップのアンセムとも言える名曲中の名曲「BOMBER」(78年作『GO AHEAD!』に収録)の最大の魅力は、なんといっても左右のチャンネルから鳴り響く小気味のいいカッティング・ギターだ。2本のギターが競い合うようにグルーヴを発散しているのを聴くと心が躍りだす。

この時期の椎名和夫の存在は大きく、「BOMBER」も彼なくしては生まれなかったかもしれないほど。椎名は大胆さとデリケートさを持ち備えたギタリストで、リズムを刻んでいる時もコードの進行によって的確にパターンを変えたり、ボーカルに被らないようなサウンド・メイクをしたり、その歌に寄り添う心がバッキングの基本となっている。

そして、間奏がまた素晴らしいのだ。田中章弘のファンキーなベースのかけ上がりから始まるギターは、最初のフレーズのサステインで空の高みにまで連れていかれる。そこからの8小節のソロは至福の時と言っていいだろう。

心を震わすジェット・フェイザーの音色、絶妙過ぎるチョーキング・コントロール、最後の最後の余韻まで、達郎サウンドを凝縮したような名ギター・ソロだ。

ジェット・フェイザーでチョーキング!

3rd作『GO AHEAD!』から「BOMBER」での椎名和夫のソロを素材にシミュレートした(参考CDタイム1’44″〜2’01″)。ヘヴィなファンク・グルーヴのうえで、歪んだ音色によるアグレッシブなプレイが炸裂。Dマイナー・ペンタトニックが基本だが、そこに4小節目、それに7小節目の1拍目裏で、9thのE音=1弦12fによる音使いがちょっとしたアクセントになっている。5〜6小節目でのタメの効いたポルタメント・チョーキング・ダウンも見逃せない。

「BOMBER」収録作品

『GO AHEAD!』 山下達郎

RCA/BVCR-17014

まだまだ語りたい
椎名和夫の名プレイ

「SILENT SCREAMER」

80年の名作『RIDE ON TIME』の“Out Door Side”(アナログ盤のA面)に収められていた「SILENT SCREAMER」。この曲も「BOMBER」と同じように複合リズムのファンクがサウンドの基調になっている。左右に振り分けられたギターが織りなすカッティングの絡み具合が聴きどころだ。ちなみに、右が山下達郎で左が椎名和夫。まずはその椎名の雄叫びのようなギター・ソロで曲がスタートしていく。

冒頭からオーバードライブとフランジャーを組み合わせた独特のジェット・サウンドが登場。当時の椎名和夫のシグネイチャー・サウンドで、見事な滑空感を作り出している。ペンタトニック・スケールを主体とするフレージングなのだが、チョーキングの組み込み方や、豪快なサステインから戻るタイミングなど、実にきめ細かに計算されているプレイだ。

間奏も見せ場が多い。難波弘之のピアノ・フレーズを少しだけ聞かせたあとに、斉藤ノブがラテン・パーカッションを盛大に打ち鳴らす。そうして場を温めたところで、満を持して椎名のギター・ソロに突入。こういった演出も実に憎らしい限りだ。

「SILENT SCREAMER」収録作品

『RIDE ON TIME』 山下達郎

AIR/BVCR-17017

「FUNKY FLUSHIN’」

ミュートしたギター・リフで始まるこのくり返し……たまらなくセクシーだ。ダンサブルな音楽の中にメロディックな要素を注入していくというのが山下達郎の流儀だとすれば、79年作『Moonglow』に収録されたこの「FUNKY FLUSHIN’」は、最も成功した曲のひとつになるだろう。

間奏のギター・ソロは椎名和夫。深めにモジュレーションをかけたサウンドで、狂おしいまでに弾きまくっていく。このような瞬発力が必要なソロを弾かせると、本当に巧い。がしかし、感情のおもむくままに弾いているわけではなく、綿密な計算がそこにはある。ソロの後半で歌と被ってくるところで、ロング・トーンのチョーキングを弾くなど、ボーカルとのバランスもしっかりと考えられているのだ。

なおこの「FUNKY FLUSHIN’」は、79年当時、録音の状態や声のコンディションが最善ではなかったとして、82年にベスト盤『GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA』をリリースする際に再レコーディングされた。もちろんここでも椎名和夫のギターが起用。椎名への絶大なる信頼が明確に証明されている。

「FUNKY FLUSHIN’」収録作品

『Moonglow』 山下達郎

AIR/BVCR-17016