『Daddy’s Home』では、エレクトリック・シタールやアコギも含めると多様なスタイルのギター・アプローチが聴ける。その中でから、本作の雰囲気を感じることのできる、かつ弾きごたえのあるプレイをチョイスして、それらを参考に譜例を作成した。セイント・ヴィンセントならではのアプローチを弾いて実感してほしい。
譜例作成/解説=安東滋 浄書=Seventh
「Live In The Dream」風ソロ
粘着感が充満する“ダル”なフレージング


「Live In The Dream」のソロ・パート導入部をモデリングした模擬譜例(参考CDtime=4’27″~4’50″)。音を“ネバ~っ”と引きずるようなポルタメント・チョーキングの粘着感をキーワードに、どこか妙な変則感を漂わせる、ベンドを効かせたメロディ・ラインを弾き出していく場面です。このサンプルにも発色するダルな演奏感(?)は、セイント・ヴィンセントのギター・プレイを際立たせる特徴的な要素のひとつでしょう。
なお使用チューニングは、彼女のプレイ・スタイルを睨んで“全弦1音下げチューニング”で採譜しました。右手側は愛用の“生指のフィンガーピッキング”であろうと推測されます。
「Somebody Like Me」風アルペジオ
3フィンガーで紡ぎ出すフォーキーな音像、だけど……

前トラックから一転、“爽やかフォーク”的なイメージでスタートする楽曲……なのですが、ところがどっこい(笑)、半音ステップで順に下降していくベース・ラインを軸にした、これまたヘソ曲がり的なコード展開が連なっていきます(参考CDtime=0’00″~0’18″)。
各和音の響きは一見シンプルに聴こえるのですが、出音を確認したところ、ギター的にはかなり難度の高い音使いで進行していく場面も点在しています。なので、なかなか適切なポジショニングが見つけ難いのですが、その出音を精査した結果として“全弦半音下げチューニング”で模倣してみたのがこの参考譜例です。
原曲の音を聴きながら、黒点で記入した基本フォームに△印で補記した音を部分的に組み込みながら弾いてみて下さい。ほぼCDの出音に沿ったアルペジオが再現できると思います(とはいえ、2小節目や3小節目のフォームは押さえるのがかなり大変~:泣)。ピッキングはおそらく“生指の3フィンガー・スタイル”。冒頭のAコードを例にあげると、右手親指と人差指&中指のコンビネーションで「1&6弦を同時に鳴らす→4弦→3弦→6弦→2弦→4弦の順に分散させる」という手順が基本パターン。