エリック・クラプトンを語るうえではずせない、クリーム時代の不朽の名曲「Sunshine Of Your Love」。ジャック・ブルースがジミ・ヘンドリックスのステージからインスピレーションを受け、その原型となるリフを書き上げたこの1曲は、やがてジミも自身のレパートリーとして加えるようになった。今回は、ジミ・ヘンドリックスと「Sunshine Of Your Love」の関係性を考えていこう。
文=fuzzface66 Photo by Don Klein/Authentic Hendrix LLC
1969年4月26日、米ロサンゼルスのザ・フォーラムにて行なわれた、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのステージ。その模様を完全版として収録した新作『Live At The LA Forum』が、2022年11月にリリースされた。
ジミ、ミッチ、ノエルの3人による熱演はどの曲も必聴だが、中でもハイライトと言えるのが、ラストにプレイされたメドレー形式の「Voodoo Child (Slight Return)」だろう。そこにはクリームの「Sunshine Of Your Love」も内包されており、まさにラストを飾るに相応しいスペシャル・メドレーとなっている。
ジミはこれまでも数々のステージで「Sunshine Of Your Love」を演奏しており、クリームによるオリジナル・バージョンが持つ“夜明けを待つようなダークな魅力”とはまた一味違った、エクスペリエンスならではの“スピード感溢れるスリリングな展開”も、昔からリスナーの間で定評がある。
今回は、そんなジミによる「Sunshine Of Your Love」のカバー史を辿ってみよう。
ジミ・ヘンドリックスからの影響で生まれた1曲
そもそもジミとクリームとの出会いは、ジミが渡英してまだ一週間しか経っていない1966年10月1日、ロンドンのポリテクニックで行なわれたクリームのステージに、ジミが飛び入り参加した時に遡る。クリームとも面識のあった元アニマルズのベーシスト、チャス・チャンドラーがアメリカから連れてきたという“得体の知れない男”と、ハウリン・ウルフの「Killing Floor」をセッションし、イギリスで“ギターの神様”と讃えられていたエリック・クラプトンに衝撃を与えたあの夜のことだ。
それからクラプトンたちは、エクスペリエンスを結成してロンドン中の“ヒップな人々”の注目の的となっていくジミのステージを追いかけ始めた。そして1967年1月29日、ロンドンのサヴィル・シアターで行なわれたジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのステージを、ジョン・レノンやポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンらとともに観賞し、帰宅後にジャック・ブルース(b)が書き上げたのが「Sunshine Of Your Love」の骨組みとなるリフだった。
ジャックとクラプトン、そして彼らの作詞面での共同クリエイターだったピート・ブラウンらの手によって完成した「Sunshine Of Your Love」は、1967年11月発表のクリームの2ndアルバム『Disraeli Gears (カラフル・クリーム)』に収録された。そののち、同年12月にアメリカでシングル・カットされ、翌1968年8月には最高5位を記録するヒットとなる。
アタマの片隅にあった「Sunshine Of Your Love」
そんな「Sunshine Of Your Love」がシングル・チャートを駆け上っていた頃、ジミはニューヨークのシーン・クラブで1968年3月13日に行なわれた(酔っ払ったドアーズのジム・モリソンが乱入してくるセッションとして有名な)ジャム・セッションに参加する。そこで突如、「Sunshine Of Your Love」のリフを弾き始めた。非公式なステージながら、ジミが人前でこのフレーズを弾いたのは、記録に残る限りおそらくこれが最初だろう。
全音下げチューニングのEポジション(キー=D)で展開されるジャムの中、もう1人のギタリスト(おそらくマッコイズのリック・デリンジャー)がクリーム「Outside Woman Blues」のフレーズをリフとして提示し、しばらくジミがファズ・ギターで弾きまくる。その流れからおもむろに、今度はジミから「Sunshine Of Your Love」のリフを提示。一応、コード進行の最後の部分まで一通り演奏している。
そして同年5月10日には、ニューヨークのフィルモア・イーストで行なわれたエクスペリエンスのステージでも、「Hear My Train A Commin’」をプレイする直前に「Sunshine Of Your Love」のリフを披露した。しかしこの日は、ミッチとノエルが合わせ始めてコード・チェンジをしたあたりで止めてしまう。ちなみにキーはまだ半音下げのAポジション/キー=A♭だった。また余談だが、この日ステージでは客席から“あんたってエリック・クラプトンよりうまいの?”というヤジがあり、それに対してジミは“君こそ俺の女よりうまいのかい?”と返したという。
この曲がクリームのメンバーからジミに捧げられたということを、当の本人が知っていたのかどうかはよくわからない。ただこれらのエピソードを踏まえると、少なくともアメリカでチャート・インした時から、ジミのアンテナにビンビンと引っ掛かっていたことは間違いなさそうだ。
本家クリームへ捧げる演奏
ジミが「Sunshine Of Your Love」を本格的にカバーし始めたのは、1968年7月末から9月中頃まで行なわれたアメリカ・ツアーの中盤からで、クリームのシングル盤が米チャート5位を記録した直後である。前年6月にビートルズの「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」をリリース直後にカバーした時と似た状況だが、こういった自身のアンテナに強く引っ掛かったものに対して、敬意を払って積極的に取り入れていくという姿勢が、ジミの柔軟性とアレンジ能力の高さを示している。
なお、少し時期はずれるが、この頃の音源としては10月10日から12日の3日間行なわれたサンフランシスコのウィンターランド公演のものが有名だろう(お馴染みの半音下げBポジション/キー=B♭で、中盤に「Outside Woman Blues」のリフを挟み込むスタイルも確立されている)。
そして、1968年11月に本家のクリームが解散したあとも、「Sunshine Of Your Love」はステージで演奏され続けた。翌1969年1月のストックホルム公演を含むヨーロッパ・ツアーや、伝説となっている2月のロイヤル・アルバート・ホール公演でも取り上げられているが(同公演に関しては事前にオリンピック・スタジオで行なわれたリハーサル・セッションによるスタジオ・バージョンも残されている)、中でも1月4日に出演した英BBCの生放送番組『ハプニング・フォー・ルル』での“予定なく披露された”バージョンは、“ロック史に残る事件”として記憶している人も多いことだろう。
1曲目「Voodoo Child (Slight Return)」のあとに番組司会者のルルと「Hey Joe」をデュエットする予定だったが、ルルに入る隙を与えずにアレンジ・バージョンで「Hey Joe」を開始。そのまま強引にソロまでプレイしたところで突如演奏を切り上げ、“こんなつまらない曲はやめて、ここでクリームに1曲捧げたいと思う。今後、彼らがどんなグループで演奏することになっても、エリック・クラプトン、ジンジャー・ベイカー、そしてジャック・ブルースにこの曲を捧げる”と言うと、間髪を入れずに「Sunshine Of Your Love」をプレイし始めたあの事件だ。
秒刻みで進行する生放送は完全に予定が狂い、ジミたちが演奏し終わったところでちょうど枠が終了した。この事件に関しては、前年にジミたちが出演した英ITVの『イット・マスト・ビー・ダスティ』で、番組司会者のダスティ・スプリングフィールドとジミが「Mockingbird」をデュエットした企画をBBC側が強く意識し、強引にルルとのデュエット企画を押し進めた事への反発だったのでは?と考える向きもあるが、単にデュエット自体がもう懲り懲りだったのかもしれない。しかし理由はどうあれ、結果的にはその“つまらない企画”を蹴って、“同士”とも呼べるクリームの解散に生放送で餞を贈ることをジミは選んだ(しかも自らに捧げられた曲で)。
大切なフレーズとしてジミの中に息づいていく
冒頭に挙げたLAフォーラムを含む、1969年4月から始まったアメリカ・ツアーでは、「Voodoo Child (Slight Return)」や「Spanish Castle Magic」などにメドレー形式で内包されるスペシャル・スタイルでも披露されるようになる。しかし、6月にエクスペリエンスを解散して以降は、フル尺で演奏されることはパッタリとなくなった。
ただ、年末のバンド・オブ・ジプシーズ公演や、翌1970年7月30日のレインボー・ブリッジ公演などでは、「Stone Free」や「Fire」などのジャム形式のソロにちょこっとリフを織り交ぜたりもしているので、もしかしたら「Sunshine Of Your Love」のリフは、ジミの脳内のお気に入りフレーズ・フォルダの中に“クリームからの贈り物”として、ずっと大切に保管されていたのかもしれない。
作品データ
『ライヴ・アット・ザ・LAフォーラム』
ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス
ソニー/SICP-6490/2022年11月18日リリース
―Track List―
- イントロダクション
- タックス・フリー
- フォクシー・レディ
- レッド・ハウス
- スパニッシュ・キャッスル・マジック
- 星条旗
- 紫のけむり
- 今日を生きられない
メドレー - ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)
- サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ
- ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)
―Guitarist―
ジミ・ヘンドリックス