2026年5月にCOTTON CLUBで行なわれたラーゲ・ルンドの来日公演。そのタイミングで、ラーゲ本人に現在のプレイ・スタイルにいたるまでの練習法や音楽理論の捉え方についてインタビューを敢行した。コンテンポラリー・ジャズ・ギタリストから、これからジャズを始めようとするプレイヤーまで、あらゆるレベルのギタリストに向けた内容となっている。
取材=三木深/今井悠介 通訳=トミー・モリー 人物撮影=Tsuneo Koga(写真提供=COTTON CLUB)

実は最近、
改めてウェスにハマっている。
今回の日本でのライブはいかがでしたか?
素晴らしくて本当に言うことがなかったよ。COTTON CLUBで演奏できるのはもちろん最高だし、このバンドはもう20年一緒にプレイしてきたメンバーだから、非常に良い時間だった。みんな少し時差ボケ気味だったとは思うけど、それでも間違いなく楽しめたね。
マーク・ターナー(sax)、ヴィセンテ・アーチャー(b)、ジョナサン・ブレイク (d)とのカルテット編成で、演奏の相乗効果を生む秘訣はなんだと思いますか?
やっぱり相性だと思う。さっきも言ったけど、ヴィセンテとジョナサンとは本当に長い間一緒にプレイしてきたし、知り合ってからもすごく長い。だからとても快適だし、昔からの友達と話しているみたいな感覚だね。そこにはたくさんの歴史があるし、言葉にしなくても通じ合える感覚というか、共通の絆や1本の糸みたいなものがあるんだ。
それにマークは僕がずっとファンだったんだよね。今では同じミュージシャン仲間で、ずっとツアーも周ることができて、本当に幸運だと思ってる。だから僕にとっては、こういった近しいメンバーとマークとの共演が本当に嬉しいんだ。実は前回このメンバーで集まったのは昨年12月にニューヨークでレコーディングをした時でね。その時にマーク名義になるアルバムを作ったんだ。だからこれはある意味マークのバンドで、僕が彼のバンドを盗んじゃったようなものなんだよ(笑)。
あなたのプレイ・スタイルを確立するうえで影響を受けたギタリストについて教えてください。
本当にたくさんいるよ。何百万人っていうくらい(笑)。どこから話せばいいのかわからないくらいだよ。
多くのジャズ・ギタリストがウェス・モンゴメリー、バーニー・ケッセル、ケニー・バレル、タル・ファーロウなどを挙げますよね。
ウェス・モンゴメリーははずせないよね。実は最近、改めてウェスにかなりハマっている。誰もがウェスが偉大だって知っているけど、僕は長い間そこまで頻繁に聴いていなかったんだ。でも最近、『Fusion!』(1963年)っていうアルバムだったと思うんだけど、それを聴き返したんだよね。
そうなんですか! 意外です。
前にも聴いたことはあったけど、ちゃんと掘り下げていなかった作品の1つで、そこに入っていた1曲を聴いた瞬間に“なんてすごいギタリストなんだ!”となってさ(笑)。改めて、ウェスは絶対的に偉大だって思い知らされたよ。そういう風に何度も立ち返る存在っているんだよね。
ジム・ホールもその1人で、僕の初期の大きな影響でいうとパット・メセニーもはずせない。それからカート・ローゼンウィンケル、ピーター・バーンスタインもね。でも同時にチャーリー・クリスチャンやジャンゴ・ラインハルトみたいな存在もいる。だから本当に大好きなギタリストがたくさんいて、本気で挙げたら50人くらいはすぐリスト・アップできると思うよ(笑)。
バークリー音楽大学、ジュリアード音楽院の在学中にはどんなことを学びましたか?
僕が学んだ最も肝心なことは、“人と演奏することの大切さ”だったと思う。有名な学校だから授業もたくさんあるし、素晴らしい先生もいて、すごく良い授業もあった。でも正直、そこまででもない先生や授業もあったんだよね(笑)。
僕にとって一番大事だったのは、あの環境の中にいられたことなんだ。今夜一緒にライブをする仲間たちともあそこで出会ったし。こういうプレイができるようになったのは、学校の外でセッションに参加して曲を演奏していた経験が大きいよ。僕が本当に演奏を覚えたのはそういう場所だったと思う。
日々の練習の中で、自身のスタイルを確立するために特に役立ったと感じるエクササイズなどを教えてください。
特に意識しているのはタイム感と拍感で、つまり音楽のリズムの部分なんだ。そこがしっかり安定していると、ほかのすべてが自然にまとまっていく感覚がある。だからそこにはかなり時間を費やしてきたね。
リズムの練習ですか。
自分でタイム感を保たなきゃいけない中で練習をするんだ。ドラムもメトロノームも鳴っていないような状況だね。
例えばメトロノームを使うなら、ずっと“1、2、3、4……”と鳴らすのではなく、たまにだけクリックが入るようにする。(指を鳴らしながら)つまり、“1(、2、3、4、1、2、3、4、1、2、3、4、)1!”みたいな感じで、ところどころだけクリックが鳴るようにするんだ。そうすると自分の中でタイム感をキープしなきゃいけなくなるからね。
これなら誰でも実践できそうですね! あともう1つ選ぶとしたら?
もう1つはボイス・リーディングだ。ハーモニーをどう動かしていくか、コード進行をどう扱うかなど、ただなぞるのではなく、別の動き方や選択肢を見つけていくということもよくやる。
今はまとまった時間があるわけじゃなくて、いつ練習できるかもけっこう不規則なんだよね。例えば“次の生徒が来なかったから1時間空いてしまった!”みたいな感じで、その空いた時間にタイム感や拍感を意識した練習、ボイス・リーディングをやったりして、自分のプレイ・スタイル……つまり自由にインプロヴィゼーションできる状態を作っていくんだ。

C△7という木があって、
それをどんな光で照らすか。
自由自在なインプロヴィゼーションを軸としたプレイをするために、コードやスケールなどはどのように理解していますか? 効果的な勉強法などがあれば教えてください。
スケールから離れてみることは大事だと思うんだ。もちろんスケールを覚えること自体は取っかかりとして良い。アルファベットみたいなもので、文字を覚えるのと同じことだよね。でも文字を知っているだけで面白い文章が書けるわけじゃない。それと同じで、スケールをある程度身に付けることで、もっと自由に考えられるようになる。
例えばC△7でプレイする時に、“これはリニアなスケールだ”とか“メジャー・スケールだ”とか“ハーモニック・メジャーだ”みたいなことは、あまり考えないんだ。
そうなんですね。
C、E、G、Bの4つの音があって、その周りにはいくらでもほかの音を置ける。それがメロディとして意味を持つかどうか次第で、B♭だって入れられるよ。コード自体は変わらないけど、その上にいろんなカラーを置くことができるんだ。
具体的にはナチュラル9th(D)と♯11th(F♯)を選べば明るいサウンドになるし、♯5th(G♯)と#9th(D♯)を選べば少し不気味な感じになる。だから“このコードにはこのスケールだ!”と当てはめるんじゃなくて、“C△7という木があって、それをどんな光で照らすか”という具合に、曲や出したいサウンドにアプローチしていくんだ。
あなたはコードに対して別のトライアドや4和音を想定して弾くことが多いと思います。どのような考え方でトライアドを使っていますか?
グレイトな質問だね。トライアドも、僕にとってはそれぞれカラーを持ったものなんだよ。例えばC△7の話に戻ると、それ自体は無色みたいなものだ。でもそこにいろんなトライアドを重ねることができる。一例としてBmは少し明るくてキレイな感じになるし、G♯mはもう少し緊張感が伝わってくる。プレイしている時に“よし、G♯mを使おう”と考えているわけじゃなくて、“ちょっと暗い感じが欲しいな”みたいな感覚なんだ。
単にオープンなサウンドが欲しいだけっていうこともある。トライアドはそれぞれがハッキリしたサウンドを持っているから、かなりグッドなアプローチ方法だと思うよ。例えばC△7の上でGメジャーのトライアドをプレイすると、かなりオープンで空気感のあるサウンドになる。一方でBメジャーだったら、もっと情報量が多くて明確なものになるんだ。
あなたのコード・ワークは、1〜2音の小さいボイシングから開放弦を用いた豊かな響きまで、シームレスにプレイしています。コードのボイシングは、ピアニストの演奏などを参考にしているのでしょうか?
ピアノからきているというよりは、むしろ逆なんだ。僕はギターでやっていることをピアノに持っていこうとしている感覚のほうが強いね。ただ、コードの分解の仕方みたいなものは、ジミー・ワイブル(Jimmy Wyble)からかなり影響を受けている。彼は僕が20代後半くらいの時に知った人だけど、最近YouTubeの動画やエチュードを通して学んだんだ。同じコードでもそれをいくつかのパートに分けて演奏することで、まるでオーケストラみたいに聴かせたり、アレンジされた音楽のように演奏しているんだよね。
それと開放弦に関して話すと、僕にとってはそれがギターの最高なところだと思うんだ。例えば同じボイシングをピアノで弾いても、1、2本開放弦が入っているだけで全然違う響きになる。そのマジックみたいなところが好きなんだけど、システマチックにやっているわけではない。むしろキーからはずれた音で開放弦を使うのが好きでね。例えばE♭とかA♭のキーの曲だと開放弦は3rdや5thにはならず、♯9thや♭13thみたいな音になる。そういう音がすごく好きなんだ。ジム・ホールも少しそういうことをやっていたし、ラッセル・マローンからも学んだ部分があるね。

メシュガーみたいなバンドや
ヒップホップを聴くこともある。
ギター・マガジンの読者層にはロック・ギタリストが多くいます。ジャズはハードルが高かったり、敬遠してしまうような印象を持つ人もいますが、これからジャズを始めようとするプレイヤーにアドバイスをお願いできますか?
僕も最初はロックから入ったんだ。ギターを弾き始めた頃は、パンクやスケート・ボードのビデオの音楽が中心だったよ。その後メタルの時期があって、パンテラみたいなバンドをよく聴いていたね。
そうなんですか!?
それが次第にスティーヴ・ヴァイみたいなギタリストにつながっていった。僕だって自分がプレイしている音楽とは遠い音楽を聴くことがあって、ホテルに戻れば20世紀のクラシック音楽を聴くこともあるし、メシュガーみたいなバンドやヒップホップを聴くこともある。でも結局のところ、全部“音楽”なんだよね。
僕は音楽が好きで、自分が弾いている音楽だけが好きなわけじゃない。もちろん全部の音楽が好きなわけでもないけど、いろいろな面白いことをやっている人たちの音楽が好きなんだ。だから本当に音楽に興味があるなら、“このジャンルだけを聴くんだ”みたいに決めつけないほうがいいと思う。いろんなものにオープンでいることで、自分の演奏からかなり遠いような音楽にも出会えるかもしれないよ。

