雪国の京英一が語る、繊細なアルペジオが映えるEP『claras』でのギター・アプローチ 雪国の京英一が語る、繊細なアルペジオが映えるEP『claras』でのギター・アプローチ

雪国の京英一が語る、繊細なアルペジオが映えるEP『claras』でのギター・アプローチ

2023年に結成された3ピース・バンド雪国が、2026年8月5日(水)に2nd EP『claras』をリリースした。雪国は京英一(vo,g)が学生時代から培ってきたジャズの感覚をもとに1音1音を丁寧に紡いだ楽曲が注目されていたが、今作ではバンド音楽としての原点へと立ち返ることで、さらに深化させた1枚に仕上がっている。今回ギター・マガジン初登場となる京に、EPの制作過程や、現在のサウンドにたどり着くまでの背景について詳しく語ってもらった。

取材・文=森部真衣

京英一(vo,g)

すべての音に理由があって、
そこに存在させている。

ギタマガ初登場となるので、まずは京さんがギターを始めたキッカケから教えてください。

中学生の時にMr.Childrenが好きで、お兄ちゃんが持っていたアコギを勝手に弾いて練習し始めたのがキッカケです。YouTubeにアップされていた弾いてみた動画を観て簡単なフレーズを真似して弾いたり、歌ったりするようになりました。エレキ・ギターも中学生の時に始めたんです。Mr.Childrenの田原健一さんが青いテレキャスターを使っていたので、安いモデルですけど僕も青いテレキャスターを買ってもらいました。

中学生の頃からずっとテレキャスターがお好きなんですね。

そうですね。音も好きですし、“丸くてかわいくて、良い感じ!”みたいな。

現在の音楽性に大きな影響を与えているアーティストを挙げるとしたら?

僕たちより前に活躍していた、いわゆる下北系のオルタナのバンドが好きで、きのこ帝国や羊文学、宇宙ネコ子さんから音楽性的に影響を受けています。あとは、スロウコアのバンドの音の使い方とか、ジャズのボイシングを多用しているので、それが雪国の音の選び方の特徴になっていると思いますね。

では、精神性で影響を受けたアーティストはいますか?

音楽を作る時、必要な音だけを並べて無駄なものは排除するのが雪国のこだわりなので、そういう面だと坂本龍一さんかな。僕は普段、アンビエントやエレクトロニカみたいな音楽しか聴いてないんですけど、そういうアーティストの曲は基本的にすべての音に意味があるんですよ。“すべての音に理由があって、そこに存在させている”という精神性へのリスペクトがあります。

憧れのギタリストはいるのでしょうか?

実はあんまりいないんです。 音楽の一部としてギターという楽器がある気がするので、ギター自体に強い執着はないんですよね。なのでプレイ面で言うと、特定のギタリストというよりジャンルからの影響を受けています。例えば、ミッドウェスト・エモのバンドのアルペジオだったり、雪国を始める前の1年くらいは別のバンドでマス・ロックやポスト・ロック系のギターを弾いていたので、リフをくり返す要素はその頃に自分の中へ入ってきたものだと思います。

京英一(vo,g)

僕は5度の音を
使わないようにしているんですよ。

学生時代はジャズ研に所属していたそうですが、楽曲制作でジャズの要素が生きていると感じる部分は?

まずはボイシングですね。サークルではピアノを弾いていたんですけど、“このコードを使う時、この音は何度の音だから良い”という感覚の積み重ねはその時に培われた部分が多いです。1つのコードに対していろんな押さえ方があって、コードを構成する音をどの音にするか選ぶ時に、僕は5度の音を使わないようにしているんですよ。結果的にそうなっただけではあるんですけど、それはジャズのボイシングと同じなんです。

1度、3度、7度みたいな感じでしょうか?

なるべくテンション・コードを使うようにしていて、開放弦がテンション・ノートになるように考えて音を選んでいます。開放弦を使うと倍音が多くなって、ギターの一番おいしい部分のサステインを鳴らせるんですよ。

京さんはソロでも活動していて、2025年にはソロ・アルバムを2枚、バンドとしては1枚をリリースしており、制作のスピードが非常に速いと思います。ジャズの土壌があることも、その理由の1つなのでしょうか?

そうですね。音楽に対する理解が深ければ深いほど、自分が思ったことをそのまま音に出しやすいんですよ。ジャズでは即興演奏をするので、自分の頭の中に流れてきたものをそのまま音にできるようになるという点でラグがなくなって、作品のリリースが速くなっていると思います。

頭に浮かんだものを忘れる前に録音できるのは便利ですよね。

便利です。本当に良いことしかないので、“みんな音楽理論を学んだほうが良いよ”って思います。ただ、それだけを考えて曲を作っているわけでもなくて。音楽理論は言語だから、言語を並べただけだと良い音楽はできないと思っています。音楽理論を学ぶのは目的ではなく、手段ですね。

京さんの制作意欲はどこから生まれているのでしょうか?

僕の特徴だと思うんですけど、音楽を聴いている時や映画を観ている時、頭が空っぽになっている時にスッと音楽が流れてくるので、アドリブを残すイメージで漏れなく記録しているんですよ。それをちゃんと絞って洗練させた曲だけをリリースしています。

楽曲制作はギターで行なっていますか?

ギターで作っています。クラシック・ギターを使って作った曲はソロの曲にして、エレキ・ギターで作った曲はバンドの曲にしています。

ソロでクラシック・ギターを使用している理由は?

フォーク・ギターの高くてギンギンした音があんまり好きじゃないんですよ。クラシック・ギターは丸くて低い音が出ますし、指で弾くほうが好きなのでクラシック・ギターを使っています。

バンドとソロでのスタンスの違いはありますか?

楽曲のメロディやコードの雰囲気によって“これはエレキ・ギターの曲だな”“これはクラシック・ギターの曲だな”というのが直感的に分かれていて、それによってどっちのギターで制作するかを決めているんですよ。どちらも同じ感性で音楽を作っているんですけど、発露する方法が違いますね。同じ延長線上にはあるんですけど、ダイナミクスが大きい曲はバンドの曲にして、小さいほうが良さそうなコードや音を使っていたらソロの曲にしています。

京英一(vo,g)

温泉に行ったり、朝ラーメンを食べたり、
合宿みたいな感じです。

EP『claras』のコンセプトや楽曲の方向性はあらかじめ決めていたのでしょうか?

決めてはないですね。“僕たちは最近こうだよね”というのを、自分たち自身に聞いた感じです。『shion』(2025年)の時はすごく複雑で、幾何学的に計算していたんですけど、今回はそれの反動でもっと肉体的になって、“もともとやりたかったことを素直にやろう”みたいなコンセプトになりました。だけど、『shion』が複雑で難しかったから、“じゃあ次は簡単にしよう”と決めていたわけではなく、作っていくうちに自然とそうなっていきましたね。

レコーディングは、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さんが中心になって静岡県藤枝市に設立されたスタジオ、“MUSIC inn Fujieda”で行なわれたそうですね。どのように進めていったのでしょうか?

レコーディングは、まずベースとドラムを一緒に録って、それを聴きながらギターを録って、そのあとに歌を乗せるという普通のやり方です。ベースとドラムだけをMUSIC inn Fujiedaで録って、ギターとボーカルは『pothos』(2024年)の時から使っている“スタジオ・クルーソー”で録りました。

MUSIC inn Fujiedaは滞在型スタジオなんですよね。

そうです。1泊2日でレコーディングしました。温泉に行ったり、藤枝の文化らしいんですけど朝ラーメンを食べたり、合宿みたいな感じです。

ギターとボーカルだけスタジオ・クルーソーで録った理由は?

MUSIC inn Fujiedaは空間の響きが良いんですけど、ギターと歌は日常の延長でレコーディングできるスタジオ・クルーソーがいいなと思って。コンパクトなスタジオなので基本はエンジニアのKensei Ogataさんと2人で、ドラムとベースの呼吸を聴きながら進めました。

今作のレコーディング時のこだわりはありましたか?

ギターで言うと、Diamond PedalsのCOMP/EQをあんまり使わなくなったので、そこが一番変わったところだと思います。前までは全編通してオンにしていたんですけど、今回はアルペジオの時だけ踏むことで柔らかいナチュラルな音になっていて、アンサンブルとしてのまとまりが出ています。それが今回のEPのすごく気に入っている部分です。

今回マスタリングを行なったのは、クレイロの『Charm』(2024年)を手がけたことでも知られるアレックス・デタークだったそうですね。

音像の部分に関してはドラムの木幡(徹己)とOgataさんが決めているんですけど、“今回はEPだからマスタリングを変えてみよう”という話になって、木幡が英語で長い文章を送って依頼しました。マスタリングによる効果って言葉で説明できるような違いはないんですけど、より自然というか、ライブっぽい肉体的な音のままマスタリングできたと思います。

京英一(vo,g)

アルペジオは
倍音が一番際立つ弾き方。

ここからは各楽曲についても詳しく聞かせてください。「クララ」のギターはロー・コードのアルペジオと、ハイ・フレットのリフで構成されていますよね。フレーズの組み立て方を教えてください。

曲によってパターンが違うんですけど、「クララ」の場合は“トゥルトゥルトゥルトゥル”というイントロのリフを最初に作って、DAW上でループさせたところにギターの音を重ねていきました。それでデモ作りの80%くらいは終わるんですよ。そこにベースとドラムのループを作って貼り付けることによって曲を展開させていきます。

ミニマルなフレーズをくり返すアプローチは、やはりスロウコアやアンビエントの影響でしょうか?

彼らの音楽に影響を受けているというよりかは、彼らと同じ気持ちでそこにたどり着いたという感じです。最小限の役割を果たす音や反復の美学もあるし、音が変わるんだとしたら、そこにちゃんと理由があるようにしています。

「カゲロウ」は2本のアルペジオを組み合わせていて、「クララ」とはアプローチが違いますよね。こちらはどのように制作を進めましたか?

雪国の曲は、ライブで僕が弾いているパートが土台になっていて、リード・ギターのパートはあとから作っているんです。あとから重ねるフレーズは頭では考えずに、指板の上で自分の感性をもとに探していくと、“あ、この音だ”って1音に決まるんですよ。それを合わせてフレーズにしていくんですけど、結果的に“この音とこの音は音楽理論的にも合っているな”と、あとからわかるんですよね。それがどんどん自分の中に積み重なってきています。

最近は自分で自然に音を見つけられるんですけど、迷った時は“今までこの音の時はこうだったから、この音を重ねれば良いんだ”って、理論から逆算して見つけることもありますね。

アルペジオ主体で楽曲を構築していると思うのですが、それはなぜでしょうか?

アルペジオは、ギターのサステインの良さが一番活きる弾き方だと思うんです。“ジャーン”って弾くのも良いんですけど、それだと音が全部重なるじゃないですか。アルペジオは1音1音のサステインがそれぞれ違うので、倍音が一番際立つ弾き方だと思います。

「カゲロウ」と「月台」は6/8拍子であることで独特の流れが生まれていますよね。前作までと比べても、今作はこういったリズムの要素が目立っていると感じました。

6/8拍子は流線型というか、“トーン、トーン”と円を描くようなイメージになるのが良いなと思っています。拍子が変わることによって、曲の印象や選ぶ音も変わってくるんですよね。どういう風にリズムを感じるかによって作るメロディも変わるし、選ぶギターのフレーズも変わるんですよ。

もともと6/8拍子が好きでソロの曲ではけっこう使っているので、今回はソロで使っている要素をバンドに逆輸入した感じがあります。例えば、きのこ帝国も6/8拍子の曲が多いじゃないですか? 僕たちがきのこ帝国のコピー・バンドをやっていた時から6/8拍子の魅力は知っていたので、今回はその良さを活かせた気がします。

「放課後」はシューゲイザー的な要素が強いですが、どういったイメージで作ったのでしょうか?

僕たちはもともとオルタナティブ・ロックが好きだったんですよね。それに対して素直になろうという気持ちがあって、オルタナの良さを今の自分たちで再現するならこんな感じかな、というイメージです。

この曲は今回のEPの中でも特に起伏のある展開が魅力ですが、ポスト・ロック的な要素を反映した結果なのかなとも感じました。

toe、シガー・ロス、トータスみたいな有名どころのポスト・ロック・バンドが僕のルーツなんですけど、どれもバンド・サウンドで情景描写をしているんですよ。音楽ってもともとそういうものだと思うんですけど、音楽には“表現をするための音楽”と、“歌のための音楽”の2種類があると思うんですね。その中でポスト・ロックは、“音楽だけで何かを表現するための音楽”だと思うので、僕たちもそれをやりたいと思っています。

静かになったところでは、開放弦を含んだコードが絶妙なニュアンスを生み出していますよね。

ジャズのコード・バッキングだと、基本的に1度、3度、7度の3つの音が使われるんですけど、その3つの音以外は開放弦にするというのが僕のギターの特徴で、1、2弦の開放弦との相性がすごく良いんです。それが「放課後」で基本的に使っているコードの押さえ方ですね。

5度の音を省くことで、厚みを出すよりも響きの良さを重視しているということですよね。

そうですね。1度、3度、7度の音に小指や開放弦を使って、さらに上のテンションを加えたコードを鳴らしています。例えばピアノだと、ド、ミ、ソみたいなクローズド・ボイシングと、より音程を広く配置する転回形があるんですけど、僕が使っているコードは転回形のほうですね。そっちのほうが倍音が多くなって響きが豊かになるんですよ。

京英一(vo,g)

“m△7を使うのが乙”
みたいな雰囲気があるんですよ。

コード・ボイシングに関して、例えば「金星」(『Lemuria』収録/2025年)の冒頭のコードも、音をあえてぶつけている印象でした。

あそこはたしかに不協和音ですね。m△7(マイナー・メジャー・セブンス)というコードがあって、それを使うのが「金星」のコンセプトでした。ジャズの人の中では“m△7を使うのが乙”みたいな雰囲気があるんですよ。単体で使うとただの不協和音なんですけど、曲の流れで上手く使うとすごく良い味を出すコードで、「金星」ではそれをめっちゃキレイに使えたので、自分的にも名作だと思います。

「東京」(『pothos』収録/2024年)のギター・ソロでは、高い音から降りてくるところで良い違和感が出てますよね。

あれもかなりジャズを意識しています。ジャズで使うホール・トーン・スケールというのがあるんですけど、これも“ホール・トーン・スケールを使うとジャズをやっている人みたいで乙かな”と思って。そういうチャラい時期もあったんですけど、今はもうギター・ソロ自体弾かなくなってきました。

「羽化」(『shion』収録/2025年)の冒頭で、3連符から付点音符のアルペジオに徐々に変化していく展開も見事ですよね。

それを聴いてくれる人がいて、ありがとうございますという感じです。それを狙ってやっています。「羽化」では最初から最後にかけて羽化していくというのを音で表現しました。

「おやすみ」も付点音符のアルペジオだと思うんですけど、かっちり弾きすぎていないですよね。弾く時に意識しているところはありますか?

「おやすみ」はゆるい曲だから許されているところもあると思いますね。上手い人が弾いたら全然違う曲に聴こえると思うんですけど、僕のギターはヘボさが良いというのもあって、その拙さはあえて削らず、かっちりしすぎないようにしています。歌のピッチもあんまり直してないですね。生演奏であることによる肉体性を残すという点を意識しています。

今回のEPのギター的な聴きどころを教えてください。

「冬眠」のリフがめっちゃ好きで、乙だなという感じです。この曲の一番最後にギター・ソロがあるんですけど、そこが聴きどころです。レコーディングでは僕がギター・ソロも弾いているんですけど、ライブではもう弾かないので、結局2回くらいしか弾いていないんですよね。でも、音はちゃんと選んで作っています。

最後に、今後の活動について聞かせてください。

このまま変わらずやっていきます。リリースのペースも変わらないと思いますね。支えてくれる人も多くなってきて、敏腕マネージャーもいるので、トラブルも少なくなって自分がやらなくていいことも増えました。その分、音楽に集中できるので、これからはより一層やりやすくなっていくと思います。

作品データ

『claras』
雪国

Pothos Records
PCCI000000039
2026年8月5日リリース

―Track List―

1. クララ
2. 月台
3. カゲロウ
4. 放課後
5. 冬眠
6. おやすみ

―Guitarist―

京英一

Live Information
雪国 One Man Tour 2026 “claras”

  • 9月5日(土) 札幌・SOUND CRUE
  • 9月17日(木) 京都・磔磔
  • 9月19日(土) 福岡・LiveHouse 秘密
  • 10月11日(日) 仙台・enn 2nd
  • 10月24日(土) 愛知・今池 CLUB 3STAR
  • 11月14日(土) 東京・WWW

<チケット>
一般……4,400円(税込)+1D

■国内 イープラス:https://eplus.jp/yukiguni/
■海外 イープラス:https://eplus.tickets/yukiguni/