イカサマイマサ『最強! オコチャマ耳』 イカサマイマサ『最強! オコチャマ耳』

イカサマイマサ
『最強! オコチャマ耳』

“このコらは聴きたくない音を無視する機能が装備されてるのかも?”と、猫を飼ってた頃に思った。ギターを弾こうとすると膝に跳び乗ってきたり、キーボードを弾こうとするタイミングで鍵盤の上に寝そべったりの「猫あるある」を自分もたっぷり経験したっけ。「撃退策だ!」とばかりに濁ったトーンで#9thを鳴らしてみたり、空いてる鍵盤全押しとかで気持ち悪い音を出しても、「フンッ」と寝返りひとつで無視される。何かが動く微かな音でガバッと起き上がる“敏感さ”をオフってる?

犬を飼ってた時は、ちょっと違った。好きな音とそうでない音があるみたいで、自分がギターを触ると「頼むよ」という表情でジッとこちらを見て、お気に召さないと「やれやれ」って感じでどこか違う場所へ移動する。気に入ったコード進行だったりすると、ウォーンと遠吠え始めたりして、それがまたキーに合ってたりするものだから、一時“このコが遠吠え始める曲はきっとグッドなんだ”とバロメーター代わりにしたことも。

「Shy Moon Shine」という曲のキーは、必ずここだと遠吠えを始めるから、という理由で決めた。得意げにそのことを話した友人から「遠吠えはな、もういいかげんにしてくれぇって嘆きの意味もあるらしいな」と言われ凹んだけれど。

森の中のスタジオ(今はもうない)で宿泊レコーディングしていた時のこと、一人早起きして外庭でアコギをかき鳴らしながら曲を作っていると、(たぶん)ツグミがキーとリズムまで合わせてさえずり始めた。ちょっと感激して、寝ていたエンジニアを起こして、外までマイクを引いてもらって「今からここで弾くから、さえずりが入るようにギターも録って」と大騒ぎで出来たての曲を弾いたことが。

なんとか録れたものの、自分の耳で聴こえていたほどにはさえずりも記録されていなかったし、朝霧でアコギとマイクはえらいことになり、あとで呆れられるやら、叱られるやら。人間の耳にも聴きたい音を選別してフォーカスする機能が備わっているのかも。

子どもの耳もなんか素直そうだ。アニメのテーマ曲やボカロもので、“そのメロディどこで息継ぎするの? なんでそんな早口なの?”みたいなやつを歌詞も含め楽勝で口ずさみながら登校する集団とすれ違ったりするたびに驚く。「キミらアカペラでキーまで揃ってんじゃん」。

情報と知識と経験が増すことで良いこともあるけれど、進行を予測するような癖もついてしまうから、予想から外れた動きや譜割りに遭遇すると軽くパニックになって、「聴く」のを脳や耳が諦めてしまうこともある。「一回じゃ覚えられないよぉ」みたいな。

きっと素直な耳だと、蓄積情報からの勝手な予測とかに惑わされず、それなりのフックを見つけて、すぐ覚えてしまうのかも。キャッチーな曲、って、やはり時代、世代ごとに変わってくのかな。たとえそうだとしても、自分はなるべく、猫や犬や子どもみたいに先入観なしに、その瞬間瞬間の自身の感覚に忠実に好きだ嫌いだを選べる耳でありたいな。「キャッチー」や「気持ちいい」に敏感でいたい。

そういえば、クラシックやジャズを突き詰めている年配のヒトから「キミの耳もセンスもまだまだオコチャマだねぇ」と諭されたことがあった。

いいんだ。「オコチャマ耳」のこちらには、犬、猫、子どもという超強力な味方がついているんだから、なんてね。ではまた!

いまみちともたか

ソロ・アルバムに先がけ、先行2曲が配信中!

「うまくやれ -Reboot-」
いまみちともたか、そして浜崎貴司
「ブリキのギターに愛を込めて」
いまみちともたか

Profile

いまみちともたか

いまみちともたか◎1959年生まれ。BARBEE BOYSのギタリストとして1984年にデビュー後、佐野元春や井上陽水のレコーディングに参加するなど、多方面で活躍。ほかにも、椎名純平らとのヒトサライ、自身がホストとなってゲストを迎えるスタジオ・ライブ・シリーズ=“カメを止めるな”を主催するなど、精力的に活動中。

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