現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回のアルバムは、サンタナの『ウェルカム』。マークがこのコーナーで紹介してきたアーティストでギタリストの作品は初。美しいレイヤー感を感じさせるサウンドや、独自のコード・ワークが炸裂している一枚だ。
文=マーク・スピアー、七年書店(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2021年9月号より転載したものです。
音が減衰して、消えていく瞬間の音がサンタナは美しい。
僕のこの連載にしては珍しく、今回はギタリストの作品だ。たぶん初めてじゃないかな(笑)?
このアルバムは、ファラオ・サンダース(sax)にハマっていった頃に知った。アメリカのジャズ・サックス奏者で、クラブ・ミュージック界でも愛されている人さ。特に彼が69年に出したソロ作『Karma』には深くハマった。何層にも重なったサウンドやコードが素晴らしいんだ。リズムも一般的な音楽の取り方と違っていて、タイム感が独特でね。とにかくブッ飛んでしまったよ。そんな『Karma』で歌っていたレオン・トーマスが、このサンタナの『Welcome』でもボーカルを取っていると知った。それがきっかけで手に取ったんだ。
カルロス・サンタナが本作でプレイするコードは、美しくて幻想的でありつつ、どことなく混沌としていてグシャグシャなんだ。当時の僕はそれに、ファラオ・サンダースのアプローチに近いものを感じていたよ。
あと、サンタナといえばサステインが豊かなギターが浮かぶと思うけど、もちろんそのプレイも素晴らしい。まるでオルガンや管楽器のようなサウンドだよね。やがて僕も「どうやったら自分でもこんなことができるだろう?」と考えるようになり、大きく影響を与えられたよ。つまり、「ギターを使って歌うようなトーンを作る」ことを探るようになっていったんだ。
音というのは、当然減衰していくものだろう? どれだけサステインが豊かなサウンドでもいずれは減衰して音が消えていくけど、サンタナの音はその瞬間が美しい。消えていくと同時に、やっと音として認識できる感じがあるんだ。それが歌のような魅力を持っていつつ、どこかモーグ・シンセのそれと近いものを感じたりもするよ。だからとても未来的な雰囲気もある。僕はそういう、「単一的な魅力」に限定されない複雑な表現に惹かれるんだ。ひとくくりにはできない魅力、というのかな。この作品を聴くと、自分が目指しているものを再認識させられるよ。