崎山蒼志の未知との遭遇 第16回:胸打たれる、ミックス・サウンド 崎山蒼志の未知との遭遇 第16回:胸打たれる、ミックス・サウンド

崎山蒼志の未知との遭遇
第16回:胸打たれる、ミックス・サウンド

新世代のシンガー・ソングライター/ギタリスト、崎山蒼志の連載コラム。1人のミュージシャンとして、人間として、日々遭遇する未知を自由に綴っていきます。 月一更新です。

デザイン=MdN

“二重構造的な音色”が、私の想像力を掻き立てます。

 以前から思っていることなのですが、ピッキングがマイク録音されている、エレキ・ギターの音が好きです。

 NPR MusicのTiny Desk Concertの動画を観ていると、歌のマイクが低く位置されている際、エレキ・ギターのピッキングの音が拾われていることが多く(アンプやアンサンブル全体の音量感もさほど大きくないので、よりはっきりと聴こえるのでしょう)、それが意図的かはわかりませんが、とても心地良く感じられます。エレキ・ギターの生鳴りでのピッキング音が、アンプからの音をなぞっているような、もしくは逆に意志を持って舵を切っているような。下書きと、色塗りのような関係にも思えます。どちらもが同時に進行している、その面白さを感じます。

 エレキ・ギターが箱物であれば、生鳴りのピッキングの音量が上がり、アンプからの出音はふくよかなので、まるでゆるやかな大河の上でオールを漕いでいるかのような気持ち良さが、頭の上を駆けて行きます。Tiny Desk Concertによる、S.G. グッドマンのギルド・スターファイアーかと思われるギターでのサウンドは本当にそういった面で理想のサウンドで素晴らしく、寝ぼけ眼で観た際は目が覚めました。同じくTiny Deskにて、マディソン・カニンガムのジャズマスター、ハーモニー・ジュノを使い分けたギター・サウンドも素晴らしいです。生鳴りのピッキング・ニュアンスがよく聴こえてきます。

 レディオヘッドの「Optimistic」を初めて聴いた時、そのリフから感じる風景の雄大さ、かっこよさもそうですが、音作りに妙に心奪われました。心地良い歪み。プラスでこちらも、もしかしたら、エレキ・ギターの生鳴りでのピッキングがマイク録音されているのでは、というサウンドです。自分もそういった録音方法を試したい近頃です。

 一貫して、自分は少しざらついている音とクリアな音がミックスされたような、ギターの音色が好きなんだと思います。アンディ・シャウフの 「Wendell Walker」のライブ映像があるのですが、ハーモニーのビンテージ・ギターを使っています。それがなんとも不思議な音色です。深く、ざらついたサウンドの上にクリアな帯域がある感じ。スロウな曲の内容、弾き方も含め何か湛えている印象を受けます。深い井戸の奥底、水の煌めきが見えるような。そうしたある種、二重構造的に聴こえる音色は、私の想像力を掻き立てます。直感的に「好き」なサウンドなのですが、その「好き」をより深く読み解けば、想像力を掻き立ててくれること、その先で風景を見せてくれることが、「好き」の理由となっている気がしました。キング・クルールのギター・サウンドも、どこか歪みとコーラスがかった音が違う層で鳴っているような印象を受ける時があります。異なった2つの音がぶつかり合う様子に、私は岩石と水流を想起しました。

 自分が演奏しているエレアコの音作りは、ラインとアンプ、2つの音がミックスされています。おもにアンプで低域を、ラインでミッドからハイを出しているイメージです。よって、時に暴力的で攻撃的なサウンドを作り出しています。エレキ・ギターはアンプの1つのチャンネルから、のみです。ライブなどエレキでいかにして二重構造的な好きなサウンドを出そうか、楽器も含め研究中です。

 テスコのEP-2Lというギターが気になっています。以前弾いた際に、エフェクターを通して乗る歪みと楽器自体のクリアな音色が微かに分離しているように聴こえました。箱物ですし、ノイズ系、ジャズなど、やりたい音楽ともマッチしていそうです。分離しているように聴こえてしまうのはマイナスと捉える方も多いかもしれませんが、自分は大歓迎です。

JPTR FX/Super Weirdo
JPTR FXのSuper Weirdo(グリッチ・ファズ)。最近のお気に入りです。

著者プロフィール

崎山蒼志

さきやま・そうし。2002年生まれ、静岡県浜松市出身のシンガー・ソングライター。2018年、15歳の時にネット番組で弾き語りを披露、一躍話題に。独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。

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