今回は、コード名に“omit”、“add”、“sus”という少し変わった文字が入ったコードについて説明します。
文・図版作成=ギター・マガジン編集部
まず第6回目に示した「コードの構成音一覧表」から、「その他」に分類した部分を再掲載します。
どれもこれまで紹介してきたコードと比べると、少し風変わりなところがあるコードです。
▼その他
コード名 | 構成音 | 読み方 | ||||
ルート | 3度 4度 | 5度 | 7度 6度 | テンション | ||
□omit3 | 1 | 5 | オミット・サード | |||
□add9 | 1 | 3 | 5 | 9 | アド・ナインス | |
□m add9 | 1 | ♭3 | 5 | 9 | マイナー・アド・ナインス | |
□sus4 | 1 | 4 | 5 | サス・フォー | ||
□7(sus4) | 1 | 4 | 5 | ♭7 | セブンス(サス・フォー) |
ではomit3、add9、sus4のそれぞれについて解説します。これらのコードは、ある特徴的な使われ方をすることが多いので、そのコード進行例も紹介しましょう。
omit3とは?
omit3の「omit」とは「省略する」という意味です。□omit3は、□(メジャー・トライアド)の構成音である1・3・5から3を省略したものとなります。つまり構成音は1と5の2つだけになります。
コード名 | 構成音 | 読み方 | ||||
ルート | 3度 4度 | 5度 | 7度 6度 | テンション | ||
□omit3 | 1 | 5 | オミット・サード |
C(ド)をルートとした場合の構成音はこのとおりです。比較のためにCコードも示しています。またComit3の下に「C5」と書いていますが、「5」は「omit3」の別表記です。詳しいことはあとで説明します。
Comit3の代表的なフォームを4つ示しましょう。いずれも低音弦のうちの2本または3本だけを鳴らすものです。
omit3はメジャーかマイナーかを決定する3度の音を持たないため、これ自体はメジャーでもマイナーでもありませんが、エレクトリック・ギターによるバッキングでは、これらのフォームをメジャー系のコードとマイナー系のコードの両方に使うことが多いです。
次のコード進行例を見て下さい。五線譜の上に書かれたコード名は曲自体のコード進行で、C-Am-F-G7となっています。これらのコードに対し、ギターは常にomit3を弾いています。
3度のないomit3は、ディストーションやオーバードライブで歪ませたエレクトリック・ギターでもあまりつぶれた響きにはならず、パワフルなサウンドを生みます。ロックとは非常に相性の良いコードといえるでしょう。こうした理由から、omit3を「パワー・コード」と呼ぶこともあります。
add9とは?
add9の「add」とは「追加する」という意味です。□add9は、□(メジャー・トライアド)に9を追加したもの、□m add9は□m(マイナー・トライアド)に同じく9を追加したものとなります。
コード名 | 構成音 | 読み方 | ||||
ルート | 3度 4度 | 5度 | 7度 6度 | テンション | ||
□add9 | 1 | 3 | 5 | 9 | アド・ナインス | |
□m add9 | 1 | ♭3 | 5 | 9 | マイナー・アド・ナインス |
なお、第9回で見たテンション・コードのうち、C7(9)はC7の構成音に9を追加したものでしたが、こうしたものを「C7 add9」と書くことはありません。また、9(長9度)は1オクターブ下げれば2(長2度)ですので、□add9を□add2と書く人もいます。
では、C(ド)をルートとした場合の構成音を示しておきましょう。
代表的なフォームを4つ示します。このうち左上のCadd9のフォームは3も♭3もないため、コード名を厳密に書くとしたら「Cadd9(omit3)」になります。この響き、とれもきれいなので、好きな人が多いようです。
add9は、シンプルなコード進行をちょっと味つけしておしゃれな感じにしたい時などに重宝します。コード進行の例を1つ挙げましょう。
このコード進行は、基本的にはG-C-D-Cなのですが、GをGomit3にし、CをCadd9にし、DをDsus4にすることで、1弦と2弦の3フレットの音を、コード進行全体を通じて鳴らし続けるようにしています。単なるG-C-D-Cとは、空気感が違うと思います。またこの例が、今回のテーマであるomit3、add9、sus4の組み合わせで出来ていることにも、一応注目してみて下さい。
sus4とは?
sus4は「suspended fourth」の略で、「suspended」には「吊るした」、「漂っている」、「一時停止した」、「
さて、sus4とはメジャー・トライアドの3(長3度)やマイナー・トライアドの♭3(短3度)の代わりに、4(完全4度)が使われたコードです。また7sus4は、sus4に♭7(短7度)が加わったものです。
コード名 | 構成音 | 読み方 | ||||
ルート | 3度 4度 | 5度 | 7度 6度 | テンション | ||
□sus4 | 1 | 4 | 5 | サス・フォー | ||
□7(sus4) | 1 | 4 | 5 | ♭7 | セブンス(サス・フォー) |
C(ド)をルートとすると、構成音は次のとおりです。
Csus4とC7sus4の代表的なフォームは次のとおりです。なお3度の音がないので、Cm sus4のフォームはCsus4と同じ、Cm7sus4のフォームはC7sus4と同じになります。コード名にmを付けるかどうかは、その曲のキーや直後のコードがメジャーかマイナーかで判断します。
コード進行においては、□sus4は同じルートを持つ□に進むことが多いです。同様に、□7sus4は□7に進むことが多いです。例を2つ挙げます。上の例ではCsus4からCに進みます。下の例はG7sus4からG7に進みます。
sus4は、それ単体ではやや落ち着きが悪いというか、このままでは終われないような響きを持っています。そこで□sus4の中の4の音を3に変化させて□に進むと、落ち着く感じになるわけです。コード理論においてはこれを「解決」と呼びます。
補足1:sus4のsus(suspended)の意味について
先ほど、“sus4は「suspended fourth」の略で、「suspended」には「吊るした」、「漂っている」、「一時停止した」、「繋留音の」など、色んな訳語があります”と書きました。どれが一番適切な訳語なのかを知るために、手元にある教則本やWEBサイトをいくつか見てみたところ、大まかに言って「吊るした」派と、「繋留音の」派の2つがあることがわかりました。
「吊るした」派の場合は、おおよそのところ「sus4は3度の音を”吊るして”4度にしたコード」といった説明の仕方になっています。こちらは、「吊るした4を離すと3に落ちる」つまりコード進行において□sus4は□に進みやすい、ということと感覚的にも一致するので、わかりやすいですね。
一方「繋留音の」派は、「sus4の4度の音は、その手前のコードの構成音から一時的に繋留された(つなぎとめられた)もの」といったような説明の仕方になっています。
ここで気になるのが「
繋留【suspention】
コードが変化する部分で、前のコードのコード・トーンの一部が後続するコード内にノン・コード・トーンとしてそのまま引き継がれることをいう。
繋留音【suspended note】
繋留によって延長された音。後続するコード内で非和声音となるが、その同じコードの中でコード・トーンに解決することを原則とする。
繋留和音【suspended chord】
繋留によって一時的に構成されるコード。特に4度の音を含むサスペンデッド4thコード(4度繋留和音)は、ポピュラー・ミュージックでも多用される。
この解説文に出てくる「4度の音を含むサスペンデッド4thコード(4度繋留和音)」が、まさに今回のテーマとなっているsus4のことですね。
これらの用語を使って、先に示したコード進行例の譜面にメモを書き入れてみました。解説の中の「繋留」、「繋留音」、「繋留和音」とった用語がどれに当たるか、わかっていただけるかと思います。
なお、現代のポピュラー音楽においてsus4は、繋留もなし、解決もなし、という使われ方をすることもけっこう多いです。練習している曲の中にsus4が出てきたら、繋留しているか、解決しているか、それらのどちらとも無関係か、を調べてみると面白いかと思います。
補足2:「□5」というコード名について
先に触れたとおり、□omit3は□5と表記することもあります。筆者が初めてE5やA5などのコード名を見たのは、たしか1990年頃のアメリカのギター雑誌、しかもハードロック/ヘヴィメタル系のギター雑誌でした。
□omit3がなぜ□5と表現されるのか、最初は疑問でした。なぜならば□5という表記法は、□6や□7と「見た目は仲間」ですが、その構成音は明らかに違う規則によっているからです。ためしに表にしてみましょう。
コード名 | 構成音 | ||||
ルート | 3度 4度 | 5度 | 7度 6度 | テンション | |
□5 | 1 | 5 | |||
□6 | 1 | 3 | 5 | 6 | |
□7 | 1 | 3 | 5 | ♭7 |
□6や□7の構成音は、メジャー・トライアドの構成音である1・3・5に、もう1つ音を加えたものである一方、□5はメジャー・トライアドから3を抜いたものなので……やっぱり変です。
ただ、「ルートと完全5度だけのコードを□5と書く」というのは、感覚的には納得できました。というのも、omit3という言い方には、どうしても「元々はメジャーまたはマイナーであったコードから3度を抜いたもの」というニュアンスがあります。
しかし、ハードロックやヘヴィメタルの楽曲においては、omit3は多用されるものの、それはあくまでも1と5だけで出来たコードのことであり、メジャー由来でもマイナー由来でもない(または判別し難い)場合も多いわけです。たぶんそうした理由により、市販の楽譜でもハードロックやヘヴィメタル・バンドの譜面には□5の表記が多く見られるのだと思います。
今日はここまで。次回は「分数コード」(「オン・コード」と呼ばれることもある)について説明します。
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【CONTENTS】
◎コードとは?コード進行とは?
◎Cの構成音と、いろいろな押さえ方
◎C6、C7、C△7の構成音と、いろいろな押さえ方
◎Cメジャー・スケールを覚えよう
◎ルートとは?度とは?
◎コードの構成音一覧
◎三和音とは?
◎四和音とは?
◎テンション・コードとは?
◎omit3とは?add9とは?sus4とは?
◎分数コードとは?
◎続・分数コードとは?
◎コードは平行移動で覚えよう
◎続・コードは平行移動で覚えよう
◎フレット数の書かれていないコード・ブック
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