ロンバケで使われたエレキ・ギターについて。 ロンバケで使われたエレキ・ギターについて。

ロンバケで使われたエレキ・ギターについて。

“ロンバケ”のエレキ・ギター・パートで大きな役割を果たした鈴木茂と村松邦男。そのふたりの特別対談に入る前に、彼らが作品で使用したギターを紹介しよう。誰もが耳にしたことのある、あのギター・サウンドを生み出した名器についてのお話。

文=編集部 写真=山川哲矢

鈴木茂の1965年製ギブソン・ファイアーバードV

日本の音楽史を彩る歴史的1本

鈴木茂は『A LONG VACATION』のレコーディングに数本のギターを持っていった。確かに当時の写真ではフィエスタレッドのストラトキャスターを弾く姿も見られるが、アルバムをとおしてメインとして使われたのは、この1965年製ギブソン・ファイアーバードVであったという。岡林信康のツアー・バックを務めた時のギャラで1970年に購入したもので、今日までほぼオリジナルの状態を保った逸品だ。

まずは本個体の基本的な仕様をおさらいしておこう。ファイアーバードは1弦側ホーンが大きいリバース・シェイプだったが、1965年5月頃に本器のようなノン・リバース・シェイプに変更される。また、ファイアーバード・シリーズにはグレードごとに“I”、“III”、“V”、“VII”が存在するが、本器はミニ・ハムバッカーを2基搭載、ロング・ヴァイブローラを有する“V”モデルである。ボディ&ネックはマホガニーで、指板はローズウッドという材構成。ピックアップ・セレクターがトグル・スイッチではなくスライド・スイッチなのは1966年中頃までの特徴だ。

本誌2020年4月号の取材時には、“はっぴいえんどが解散してからは、大滝さんのレコーディングはほぼこのギターを使ったね。オールディーズ的な音を出したい時にこのファイアーバードはすごくハマるの。大滝さんの音には適してたんだ”と語っていた。前述のとおり“ロンバケ”でもメイン器として活躍、特にトレモロを使用するフレーズの際には重宝したようで、「さらばシベリア鉄道」の印象的なメロディは本器が奏でているとのこと。それに加え、はっぴいえんど『風街ろまん』(1971年)でのプレイもほぼすべて本器によるものという、日本の音楽史における最重要の1本だ。

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村松邦男のフェンダー・テレキャスター

“ロンバケ”以降の大滝サウンドを支えた名器

シュガーベイブ時代はストラトキャスターがメインだった村松だが、その後テレキャスターを愛用するように。当初、ブルー・フローラル・フィニッシュが剥がされた1969年製の個体を青くリフィニッシュして使っていたが、それは盗難にあってしまった。そして、このテレキャスターを山下達郎から譲り受け、『A LONG VACATION』以降のメイン器として今日まで愛用している。

これはネックやボディも別の年代のものを組み合わせた1本で、正確な製造年は不明。山下がニューヨークで購入した時点でそのような仕様であり、1970年代後半に村松の手もとに渡った時にはオリジナル・パーツはほぼ残っていなかった。おそらくボディは1960年代初期で、ストリングス・ガイドやかすかに残ったロゴ・デカールの位置から推測するに、ネックは1950年代前半のものと思われる。

現在はピックガードが3プライのホワイトガードに交換されているが、“ロンバケ”録音時の写真を見ると5点留めのブラックガードなのが確認できる。現在も5点留めで実装しているところにその名残が見えるだろう。ブリッジ・プレートも交換されており、サドルは6ウェイに。また、20年ほど前、故障したリア・ピックアップを交換しており、本人の記憶によると現在搭載しているのは“セイモア・ダンカンのビンテージ・モデル”とのこと。

当時のスタジオには本器と冒頭に記したストラトキャスターの2本を持っていくことが多かったようだが、鈴木茂との兼ね合いもあり本器を選択することがほとんどだった。“ロンバケ”で聴けるブライトなエレキによるカッティングは、このテレキャスターによるものと考えて良いだろう。

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作品データ

『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』

ソニー/SRCL-12010~12011/2021年3月21日リリース

―Track List―

【CD1】
01.君は天然色
02.Velvet Motel
03.カナリア諸島にて
04.Pap-pi-doo-bi-doo-ba物語
05.我が心のピンボール
06.雨のウェンズデイ
07.スピーチ・バルーン
08.恋するカレン
09.FUN×4
10.さらばシベリア鉄道
【CD2】
『Road to A LONG VACATION』

―Guitarists―

安田“同年代”裕美、三畑卓次、笛吹利明、福山享夫、川村栄二、松下誠、松宮幹彦、吉川“二日酔ドンマイ”忠英、徳武弘文、村松“カワイ・ギター教師”邦男、鈴木“Hoseam-O”茂