ストリング・ガイドがナット近くに取り付けられた、ジェフ・ベックのサンバースト・ストラト ストリング・ガイドがナット近くに取り付けられた、ジェフ・ベックのサンバースト・ストラト

ストリング・ガイドがナット近くに取り付けられた、ジェフ・ベックのサンバースト・ストラト

ジェフ・ベックが1978年の来日時に使用した、1954年製(と思われる)サンバースト・フィニッシュのストラトキャスターを深掘り。時期によって違うストリング・ガイドの位置はジェフの好みに合わせたものなのか、はたまたネックごと交換していたものなのか。様々な角度から考察してみた。

文=細川真平 Photo by Paul Natkin/Getty Images

奇妙な位置に取り付けられた羽根型のストリング・ガイド

今回は、ジェフ・ベックが1978年のスタンリー・クラークとの来日ツアーの一部で使い、1980年の“There And Backツアー”ではメイン・ギターとした、1954年製(と思われる)サンバースト・フィニッシュのストラトキャスターをご紹介しよう。

ジェフ・ベック
1980年12月の日本武道館公演での写真。(Photo by Koh Hasebe/Shinko Music/Getty Images)

これには、1952年に作られた試作器だという説もある。しかし、ストラト開発史を紐解いてみると、発売前年である1953年末になって、当初開発したビグスビーに近い構造のトレモロ・ユニットの失敗が発覚し(サステインがまったくなかったという)、その後の数ヵ月で大至急、設計をやり直したという話があるぐらいだから、1952年に完成形に近いストラトの試作器が存在したとは考えにくい。だからこれはやはり、1954年製が正しいと思われる。

ただし、このストラトには謎な部分がある。1954年〜56年途中までストリング・ガイドは円型のはずだが、このストラトのものはそれ以降の羽根型。そのためネックだけ1956年後期から、ローズウッド指板貼りに変更になる1959年前期までのものに替えられていると見る向きもある。だが、1980年の日本ツアーの写真を見ると、そのストリング・ガイドがやたらとナット寄りに付いている。平行して見てみると6弦ペグ位置よりもナットに近いほどなので(通常はほぼ5弦の位置で、円型時代には5弦位置からややナット寄り)、1、2弦のテンションはかなりきつくなっていたはずだ。いずれにしても、ネックごと交換されていたのか、ネックはオリジナルでストリング・ガイドを羽根型にして、位置も変更したのか、どちらとも言えない。

ジェフ・ベック
1983年11月27日にテキサス州ダラスで開催された“ARMSコンサート”での一幕。(Photo by Paul Natkin/Getty Images)

このストラトは1983年にジェフがエリック・クラプトン、ジミー・ペイジらと共演した“ARMSコンサート”でも使用されたが、その時にはストリング・ガイドが4弦と5弦の間ぐらいの位置に変わっていた。だから今度は、1、2弦のテンションを通常よりゆるくしているわけで、ジェフの好みの振れ幅の大きさには驚かされる。また、この時の指板を見ると汚れがまったくないので、ネックごと交換していたようだ(ただし、ボディも含めて別個体だった可能性もなくはない)。

2011年にリリースされた映像作品、『Beck,Jeff Rock’n’Roll Party-Honouring Les Paul』のボーナス・ディスクに収録されたジェフ本人によるギター紹介映像に、このストラトも出てくる。この時には1980年時と同じと思われるネックで、羽根型のストリング・ガイド。ただし、その位置は1956年後期以降の通常仕様である、ほぼ5弦位置(若干ヘッド寄りにも見えるが誤差の範囲だろうか?)に変わっている(戻っている)。

ジェフはこれを、1954年製と紹介しているが、ネックについての言及はないので、入手した時にすでに替えられていたとしてもジェフ本人は気づいていない、もしくは気にしていなかったのだろう。またこれは、“ある人からもらったもの”と語っている。それはハンブル・パイのスティーヴ・マリオットだったというのが通説だが、ジェフがあえて名前を出していないことには、何か理由があるのかもしれない。

それにしても、このギターを手にして、“バディ・ホリーが持っていたストラトに近い”と嬉しそうに語るジェフは素敵だ。