ブライアン・ジョーンズを夢中にさせたグレッチ・ダブル・アニバーサリー|ローリング・ストーンズにまつわるギターのハナシ ブライアン・ジョーンズを夢中にさせたグレッチ・ダブル・アニバーサリー|ローリング・ストーンズにまつわるギターのハナシ

ブライアン・ジョーンズを夢中にさせたグレッチ・ダブル・アニバーサリー|ローリング・ストーンズにまつわるギターのハナシ

ロック界のリビングレジェンド、ザ・ローリング・ストーンズのギターにまつわるストーリー。前回に続き、スタイリッシュなブライアン・ジョーンズにとても似合っていたグレッチ・#6118・ダブル・アニバサーリーのエピソードを紹介していこう。

文=鈴木伸明 Photo by Michael Ochs Archives/Getty Images

購入後すぐにレコーディングで使用されたダブル・アニバーサリー

ブライアンは手に入れたグレッチのダブル・アニバーサリーを、さっそく1963年リリースの2ndシングル「I Wanna Be Your Man」(邦題:彼氏になりたい)のレコーディングで使用した。説明するまでもないが、これはジョン・レノンとポール・マッカートニーが作った楽曲で、のちにビートルズもセルフ・カバーしている。

レコーディングは1963年の10月7日。ブライアンは、グレッチを使って得意のスライド・ギターを披露。間奏のギター・ソロ、バッキングのリフも図太いトーンのスライド・プレイがバッチリ決まっている。モノクロで撮影された当時の演奏シーンでも、グレッチを手にしたブライアンが映っており、左手の小指に金属製のスライドをはめて骨太で豪快なスライド・トーンを響かせている。

ブライアン・ジョーンズが所有していたグレッチのダブル・アニバーサリーは、エボニー台座にローラー・ブリッジ、グレッチの頭文字が刻まれたGテイルピースが採用されていた。

デビュー以前からブライアンのスライドプレイは高く評価されていた。ローリング・ストーンズ結成前、エルモア・ジェームズ好きが高じて“エルモルイス”という名前でライブハウスに出て、スライド・プレイを駆使してエルモア・ジェームズのカバーを演奏していたのは有名な話だ。

グレッチのダブル・アニバーサリーは、1958年にグレッチ創立75周年の“アニバーサリー”を記念して発表されたモデル。つまりグレッチの創立は1883年で、ギブソンやフェンダーよりも断然長い歴史を持っている会社である。アニバーサリー=記念日という名前ながらも、好評だったために翌年以降も製造が続けられ、ブライアンが所有していたスモーク・グリーンの#6118は1972年に一旦カタログから姿を消すまで発売されていた。

モデル名の“ダブル”は、“ピックアップが2つ”という意味だ。フロント1発のモデルは単に“アニバーサリー”として発売されていた(こちらもカタログから消えるのは1972年)。初期はピックアップにハムバッキング構造のフィルタートロンが搭載されていたが、60年からはシングルコイル構造のハイロートロンが採用された。ブライアン所有器もハイロートロン搭載である。

カラーは、2トーン・スモーク・グリーンと呼ばれている。2トーンとは、ボディトップの薄いグリーンとサイド&バックの濃いめのグリーンの2色が使われているため。同じ仕様でサンバーストのカラーもあったが、モデル名は#6117となる。

コントロールは、ピックアップ・セレクター(ボディ上の前方)、トーン・スイッチ(後方)、マスター・ボリューム(カッタウェイ部)、フロント・ボリューム、リア・ボリュームというレイアウト。グレッチの代表機種である#6120と同様の16インチ幅、2 1/2インチ厚という大きなボディは、まさしくグレッチの王道をいくサウンドを生み出せた。

その後のローリング・ストーンズにおけるグレッチの出番

ブライアンはグレッチをかなり気に入っていたようで、VOXのティアドロップ・ギターとともに、2大メイン・ギターとしてよく使っていた。最初期にキース・リチャーズがハーモニーのフルアコをプレイしていた頃は、フルアコ2本でバンド・サウンドのバランスが取りやすかったのかもしれない。


65年以降、アメリカに渡ってからブライアンは、ファイアーバードⅦ、同ノン・リバースのⅦ、ゴールドトップのレス・ポールなどのギブソン・ギターをプレイすることが多くなり、グレッチを手にする姿はほぼ見られなくなってしまう。

なぜかわからないが、キース・リチャーズがグレッチのギターを持っている姿はほとんど残っていない。ローリング・ストーンズの歴史の中でブライアン以降にグレッチが登場するのは、ロン・ウッドが57年製のホワイト・ファルコンを81年のツアーで数曲使用したくらいである。

グレッチといえば、ブライアン・セッツァーを筆頭にロカビリーで愛される#6120、もしくは豪華絢爛なホワイト・ファルコン、浅井健一や故チバユウスケが持っているテネシアン(テネシーローズ)などのイメージが強いと思うが、ブライアン・ジョーンズが好んだ渋いグリーンのダブル・アニバーサリーは、圧倒的人気はないにしろ、渋い魅力を讃えた個性的なモデルである。特に独特なカラーリングは、ほかのギターとは一線を画すもので、今見てもクールでモダンな雰囲気があり、ファッショナブルなブライアンにはとてもお似合いだった。