Interview | 山内総一郎(フジファブリック) 『I Love You』を彩ったファンク・ギター・サウンド Interview | 山内総一郎(フジファブリック) 『I Love You』を彩ったファンク・ギター・サウンド

Interview | 山内総一郎(フジファブリック)
『I Love You』を彩ったファンク・ギター・サウンド

“愛”をテーマにした11枚目のアルバム『I Love You』をリリースしたフジファブリック。JUJU、幾田りら、秦 基博といった豪華なゲスト・ボーカルを鮮やかに彩るバンドのポップ・センスが光る一方、ハネまくるカッティング・ギターやメロウなソロを取り入れた楽曲が並んでおり、ギタリスト・山内総一郎のファンク・プレイを存分に堪能できるバラエティ豊かな1枚となっている。今回は山内の使用機材やサウンドメイクから『I Love You』に込められたこだわりを深堀りすべく、インタビューを行なった。

取材・文=小林弘昂 人物写真=nishinaga “saicho” isao


今回はあえて悪い音にするために
ペダルで音をこもらせたんです(笑)。

今作『I Love You』は、山内さんのブラック・ミュージック愛が感じられるファンキーなギター・プレイが炸裂しています。制作の段階で、どのような音像をイメージしていましたか?

 今回はあんまり和音で埋めていくようなプレイじゃないんです。というのも、今の音楽シーンのレンジ感というのは上と下が伸びてきていて、それをサブスクリプションのストリーミングやCDで再生するとなると、ギターのパワー・コードは歌を殺しちゃうところもあるんですよ。だから今回は“カッティングが中心になるんだろうな”と思っていましたね。その中でも、いわゆるギター・ボーカル的な感じではなく、ほかの楽器を聴かせるギター・プレイを心がけるようにしました。フジファブリックがデビューした頃の自分の立ち位置に近いような。

今作の楽曲はストリングスを導入したものも多くて、ギターの立ち位置を今までよりも気にしたのかなと思うんですよ。

 そうですね。曲を作る時っていうのは、あらかじめ全部のパートを入れた状態で作るんです。で、ウワモノを整理していく中でギターの位置をすごくシンプルにしないといけなくて。あとは『I Love You』というタイトルなので、言葉が伝わるようなギターが良いかなと思っていました。

ギター・サウンドは歪みが少なくて、楽器の生の質感をそのまま生かしているのも特徴だなと感じたんです。

 あんまり歪ませてないかもしれないですね。今おっしゃったように、ストラトの良いところとか、ほかの楽器の音を素直に出すほうが良いかなと思ってアンプをチョイスしたんですよ。

なるほど。アンプは何を?

 65年製のSuper Reverbだけです。フェンダー特有のハリがある、良い音のアンプなんですよ。でも、今回はあえてそれを悪い音にするために、KlonのCentaurやコンプレッサーなんかをつないで音をこもらせたんです(笑)。ギター側のトーンを絞ると抜けが悪くなっちゃうので、ペダル側でトーンを絞って。

そうだったんですね(笑)。それと先日のリハーサルで、Universal AudioのOX Amp Top BoxをブラックフェイスのDeluxe Reverbにつないでいましたよね。単純にアッテネーターとして使用していたのでしょうか?

 実はDeluxe ReverbとOXっていうのは、家で使っているセットなんですよ。それを1回リハで試してみようとしたのが、あの日だったという。OXをうまく使ってる人の意見を聞いてみたいですね。ジョン・スコフィールドとかジュリアン・ラージとかはクリーン・サウンドで使ってたりもするし。あとはフェスみたいなところでOXを使ってる人を見たことあるんですよ。“ライブで使ってる人いる!”と思って。

デジタル機材も色々と試しているんですね。

 そうですね。フジファブリックのバンド・サウンドも、今回はいわゆるプログレッシブ・ロックみたいな感じじゃなくてファンキーなものになったので、“ちょっとスッキリさせたらどうだろう?”という試みの中でラインの音でやったりしていて。色々試して、6月のツアーまでに答えを出したいと思っています。

左から、金澤ダイスケ(k)、山内総一郎(vo,g)、サポート・ドラマーの玉田豊夢(d)、加藤慎一(b)

」の歪みはオルタナっぽい荒々しさが出ていて、Sola SoundのTone Bender MKⅢを使ったのかなと思ったのですが。

 そうです。Tone Benderです。最初はああいうギターは入ってなかったんですけど、家で録ったやつを聴いてたら、“ちょっと若さが足りんな……”と思って追加しました(笑)。そういう時にゲルマニウム・トランジスタのファズっていうのは、本当に良い引き立て役になるというかね。手元のボリュームをちょこちょこいじりながら弾きました。

それとBinsonのEchorec 2°を新たに手に入れたんですよね?

 2台目です。ディレイはやっぱりEchorecが一番好きですね。でも、Echorecは鉄粉がディスクに溜まっちゃうので、今はライブ中ずっとは回さないようにしているんですよ。修理に出すと、手間や、時間や、お金もかかってくるのでね。本当は僕がメインテナンスをできたらいいんですけど。

今の時代、なかなか実機のEchorecをライブで使う人はいないですよね(笑)。

 僕も見たことないです(笑)。もちろん昔はピンク・フロイドとかが使ってましたけどね。デヴィッド・ギルモアもそうだし、リック・ライトが鍵盤にかけてるやつがめちゃくちゃカッコ良かったりして。

Echorecはライブでどんな使い方を?

 もうね、かけっぱなしでもいいくらいの音なんですよ。例えばリバーブとして奥に引っ込める使い方もできますし。僕が一番使うのはフィードバックですね。ツマミを回して“ホワホワホワホワ……”と。Echorecってカオスなフィードバックを作っても、その上にギター・サウンドを足せるんですよ。

サウンド・オン・サウンド的な!

 そうです。音が飽和しない。僕、Echorecのコピー・モデルのディレイを4〜5台持ってるんですけど、あれができるペダルはまだ見たことないですね。

今作は「たりないすくない feat. 幾田りら」や「光あれ」などでワウの登場回数が多かったですが、使用したのはVOX?

 VOXですね。

もしかして、Clyde McCoyですか?

 そうです。60年代後半の顔がプリントされてないやつですよ。実は前にFREE THE TONEの林(幸宏)さんのスタジオで、L’Arc〜en〜Cielのkenさんと3人でCentaurとワウをめっちゃ試したんです。その中でも“楽器っぽい音”がしたのがVOXのその年代のワウで、そのあとReverbやeBayで探しましたね。めっちゃキレイな個体はとんでもない値段がしましたけど、僕のは使用感があったので、日本の相場ほど高くなく買えました。

以前までワウはRMC10を使っていましたよね?

 あれも良いんですよ〜。RMC10とかRMC5とか、RMCのワウはほとんど持ってるかな。今、RMC5は鍵盤の大ちゃん(金澤ダイスケ)が使ってますね。見たら使ってて、“ま、いいや”と(笑)。RMCは現行モデルの中では一番好きです。

そして、しれっとCentaurもシルバーの絵ナシから、いつの間にかゴールドのロング・テールになっていますが……。

 あれは……高かったです(笑)。いわゆるオーバードライブとして使えるんですよ。前に使っていたシルバーのほうは、もうちょっと音が固くて、ゲインを上げていくとダマになっていたんですけど、こっちのほうが音に柔らかさ、弾力があったんです。自分でも“さすがに2台もいらんやろ!”と思ってたんですが、製造時期の違いでこんなにも音が変わるのかと知れて、おもしろかったですね。

では、ライブではメインの歪み的な?

 基本はアンプの音なんですけど、歪ませる時はCentaurで。ゲインは12時くらいですね。

楽器として人格があるようなものというか
癖があるほうが好きですね。

LOVE YOU」のブリッとしたカッティングがとても良い音でした。使ったギターは?

 あれはストラトですね。Super Reverbとストラトだけです。ピックアップはフロントとセンターのハーフ・トーンですね。言い方が難しいですけど、ポコポコするというか、ハーフ・トーンにはアンニュイな感じがあるんです。センターとリアのハーフ・トーンも良かったんですけど、僕はけっこう弦を殴るように弾いてたりするので……。

と言いますと?

 殴るっていうのは、6弦のチューニングが少し上がるくらいピックをななめに当てて弾いているということで。そうすると、フロント・ピックアップの“バイーン”っていうところが出るんです。だからピックアップ・ポジションはフロントとセンターのハーフ・トーンになったような(笑)。

SHINY DAYS」は逆にパキッとしたサウンドですね。

 たぶんストラトのセンターかな。

同じギターでもガラッと印象が変わりますね。印象としては「LOVE YOU」がプリンス的で、「SHINY DAYS」がトーキング・ヘッズ的なカッティングだと感じました。

 ありがとうございます。両方大好きです。デヴィッド・バーン良いですよねぇ……。ストラトは、カッティングで嫌な音になりにくいという感じがします。ほど良くまとまってくれるんですよ。

今回のレコーディングでは54年製のテレキャスターを一番使ったんですよね?

 54年製と、自分のシグネチャーのMaroonという2本のテレキャスでほとんどのベーシックを作っています。今回、54年製は「LOVE YOU」以外では何かしらで使っていますね。ハムバッカーみたいな太い音が欲しい時にもテレキャスターを使ったりします。

テレキャスターは万能ですよね。

 万能です。でも、フロント・ピックアップって全然使わないなと(笑)。

リアばっかり(笑)?

 リアとセンターばっかりですね。「手」は7カポで、センター・ポジションでアルペジオを指弾きしています。

では、Maroonはどのように?

 クリーン・トーンにしてセンター・ポジションで使うとコロコロした音になるので、ミニマルなフレーズで使っていますね。今回は「Dear」や「たりないすくない feat. 幾田りら」で弾きました。

赤い果実 feat. JUJU」のソロもすごく良い音ですよね。普通はES-335のような箱モノをチョイスしたくなると思うのですが、どんなギターを使ったんですか?

 実は335も試したんです。一度はそのテイクをOKにしたんですけど、良い音すぎて、よくある感じになっちゃって(笑)。翌日になっても悔いが残っていたので、TeiscoのSS-4Lで録り直しました。“良い音で録れたな〜!”って、うれしかったのを覚えています。

ビザール・ギターから、ああいうふくよかな音が出るということにビックリしました。

 右手の弾く強さによって歪み量って変わってくるじゃないですか? だからこの曲は、ちょっとでも歪みが多かったらやり直して、何テイクも弾きました。“ギターって難しいな”って思いながらやりましたね……。

今作ではJUJUさん、幾田りらさんという女性ボーカリストが参加していますが、女性の歌声に対してのギター・アプローチで気をつけたポイントはありますか?

 たぶん、女性の声に対してギターって邪魔しやすいんですよ。やっぱりある程度の隙間があるところに声が入ってるのが良いと思ったんで、隙間がある曲ばっかりになっています。幾田さんの曲も、JUJUさんの曲も、ギターは和音を6弦から1弦まで振り下ろしているプレイじゃなく、単音のバッキングだったり、オブリだったりがメインですよね。

Jelly Jonesのエレクトリック・シタールも使ったんですよね?

 実はいつもサブリミナル的にけっこう使ってるんですよ。今作で一番聴こえるのは「楽園」かもしれないですね。歌のうしろとか、リフのシンセのうしろで弾いています。エレクトリック・シタールって音が遅く出てくるじゃないですか? その分ズレが出て奥行きができるので、特にリフで使います。「若者のすべて」(『TEENAGER』収録)のサビの前も入っていますしね。

このように素晴らしい機材をたくさんお持ちの山内さんが、機材を選ぶ時に大事にしているポイントとは?

 昔から変わらず、“持った感じ”ですね。だからまず、楽器屋さんで持たせてもらいます。“弾いていいですか?”の前に、“すみません、持たせてもらっていいですか?”って(笑)。見た目と、持った瞬間に良い感じかどうか。音で言えば、アンプもギターもペダル類も、やっぱりそれ自体に楽器として人格があるようなものというか、癖があるほうが好きですね。“こういう風に鳴らしてほしいんだろうな”とか、“こういう風に鳴るように作られたんだな”っていうのがわかるものが良いです。結局そういうものばかりが手元に残っていますね。

製作者の意図というか。

 そう。作った人の癖というかね。だから古い/新しいは関係なく、自分が思う楽器というものは骨董品ではないし、資産だとも思ってないし、鳴らしてナンボだと思っています。作った人の気持ちが絶対に入っていると思うから、そういう音がするもの……言葉にするのは難しいですけど、魂が入ったものが好きだなぁと。

山内さんも魂を込めて『I Love You』に命を吹き込んだと思います。最後に、今作の聴どころを教えて下さい。

 ギミックなしで録ってるところもあるので、その素直さがギターとしての聴きどころだと思います。アルバムとしては、こういったご時世、希望がわくようなサウンドにできたらなと思って作りました。バンド一丸となってこういう作品ができたので、全体としてのオーラというか、そういったものを感じてもらえたら良いなと思います。

あとは6月のツアーで最新の機材のサウンドも楽しんでほしいですね。

 そうですね。また色々と企んでいますので、楽しみにしていて下さい。

作品データ

『I Love You』
フジファブリック

ソニー/AICL-4025/2021年3月10日リリース

―Track List―

01.LOVE YOU
02.SHINY DAYS
03.赤い果実 feat. JUJU
04.たりないすくない feat. 幾田りら
05.楽園
06.Dear
07.あなたの知らない僕がいる feat. 秦 基博
08.手
09.光あれ

―Guitarist―

山内総一郎