Interview | マーク・レッティエリ【Part.1】グラミー受賞作『Live At The Royal Albert Hall』の思い出 Interview | マーク・レッティエリ【Part.1】グラミー受賞作『Live At The Royal Albert Hall』の思い出

Interview | マーク・レッティエリ【Part.1】
グラミー受賞作『Live At The Royal Albert Hall』の思い出

マーク・レッティエリの最新作『Deep: The Baritone Sessions Vol.2』の話に入る前に、やっぱり“アノ話”は聞いておかないと! ということで、インタビューPart.1は、グラミー賞コンテンポラリー・ジャズ部門を見事獲得した、スナーキー・パピーの『Live At The Royal Albert Hall』について話を聞いていこう。

インタビュー/翻訳=トミー・モリー 質問作成/文=福崎敬太 Photo by Kevin Nixon/Future Publishing via Getty Images

1曲目の最初の数音をプレイする時、
僕はかなり緊張していたんだ。

お久しぶりです! 本誌2020年4月号の企画“もしも、ペダル3台だけでボードを組むなら?”以来の登場です。この1年はどのように過ごしていましたか?

 もともと僕のプロジェクトやほかのサポート仕事、スナーキー・パピーやザ・フィアレス・フライヤーズでたくさんのツアーをする予定だったのだけど、それらが全部ブッ飛んでしまった(笑)。でも、“今はそういう時なんだ”と割り切ってクリエイティブなモードに入って、アルバム用の曲を書き始めたんだ。この『Deep: The Baritone Sessions Vol. 2』はもっと早くに仕上げるつもりだったけど、僕はクリエイティブなことになると捻り出すっていうのが得意じゃなくてね。短期間でインスピレーションを得て自信のあるものを作ることができなかった。それでようやく去年の秋ぐらいにまとまってきて、10月くらいから形にし始めた。本当は2020年のうちにリリースしたかったんだけど、さすがにそうはならなかった。

アメリカでの音楽を取り巻く状況は変わってきましたか?

 今は社会がちょっとずつ動き始めていて、小さい規模ながらもライブ・パフォーマンスができるようになってきているよ。ライブができない時に新作をリリースするっていうのはいろんな面で難しいことだから、結果的に良いタイミングで発表できたと思っている。

さて、最新作の話に入る前にまずは、スナーキー・パピー『Live At The Royal Albert Hall』のグラミー受賞おめでとうございます! 2013年のLalah Hathawayとの「Something」、2015年の『Sylva』、2016年の『Culcha Vulcha』に続いて4回目ですね。今回の受賞について、率直な感想を聞かせてもらえますか?

 毎回がスペシャルなもので、いつもサプライズだよ。僕らは賞を取るために音楽を作っているわけじゃないけど、レベルの高い音楽賞をもらえるのは嬉しいし、いくつ貰っても飽きることはないよね(笑)。あと、個人的にも今回受賞したアルバムには特別な思い入れがあるんだ。というのも、これはライブ作品だし、たくさんのオーディエンスを特別な会場で迎えたライブだ。それにこの時はいつものスナーキー・パピーの編成とは違って、ギタリストは僕だけだった。それでいて、いつも僕らがライブでやっていることをしっかりとキャプチャーできていて、素晴らしい作品として仕上がっている。僕らはライブ・バンドとして知られているし、それが持ち味だとも思っている。もちろんスタジオ・アルバムもグレイトなものを作ってきたけど、基本的にはライブ・バンドとして知られているわけで。そういう僕らが持っているユニークなエネルギーを、こういった形で知ってもらえる機会ができて本当に嬉しく思っているよ。

『Live At Royal Albert Hall』(2020)
Snarky Puppy

2021年のグラミー賞“コンテンポラリー・ジャズ”部門を獲得したスナーキー・パピーのライブ・アルバム。本作は2019年11月14日に行なわれたロイヤル・アルバート・ホールでの演奏をパッケージしたもの。マークのギターのみのイントロから始まる「Even US」で幕を開け、スライドでテーマを弾く「While We’re Young」やグルーヴィなコード・カッティングが聴ける「Bad Kids to the Back」、「Shofukan」でのジミヘン・オマージュのロックなアウトロと、最初から最後までギター的な聴きどころが満載だ。「Intelligent Design」のプログレッシブな展開をメロディアスに弾ききったマークのソロは必聴!!

この時のライブでは、あなたはステージの中心に位置していました。あの満員の観客を正面から見た景色を覚えていますか?

 あのステージは、照明の演出もあってけっこう暗かったんだよ(笑)。ダークでミステリアスだったんだけど、正直言うと、ステージから見た客席は前の数列くらいしか人がいないようだった。僕はいつもライブに来てくれた人たちを楽しませようと心から思っているけど、ステージ上でプレイすると自分のプレイに集中してしまうこともあって、あの日は5000人ものオーディエンスが集まっているようにはまったく感じていなかったかな(笑)。

(笑)。あなた個人としては、あの日の演奏はどういうものでしたか?

 1曲目の最初の数音をプレイする時、僕はかなり緊張していたんだ。でも2、3曲をプレイした辺りから落ち着いてきて、いつものライブと同じ感じになってきた。ライブ・レコーディングをしているっていうプレッシャーからも解放されてきて、純粋に楽しめるようになっていったね。僕は、ライブは必ずしも完璧なパフォーマンスである必要はないと思っているし、生身の人間がステージに上がるわけだから、むしろ多少のミスはあって然るべきだ。けど、あの日はどうだったかな……。まぁそれはさておき、ライブの終盤になって「Shofukan」をプレイした時に観客のみんなも歌っているのが見えたんだ。そこでやっと自分は“たくさんの人々を前にエンターテイメントをしているんだ”って感じられて、クールなフィーリングで満たされたよ。こうやって思い返すと、やっぱり特別楽しい夜だったね。

ケイタが大々的に報道されたっていうのは、
やっぱり仲間として嬉しいね!

ロイヤル・アルバート・ホールはイギリスを代表する伝説的な会場です。例えるならニューヨーク市のマジソン・スクエア・ガーデンや日本ではビートルズが初めてライブを行った武道館のようなものです。会場が発表された時、あなたは“ここはクリームが解散コンサートをしたところか!”みたいに感慨深く感じましたか?

 もちろんかなり興奮したよね。ギター・プレイヤーとして純粋に思ったのは、“いったい何人の偉大なギタリストたちがこの会場でプレイしてきたのか?”ってことだった。ジェフ・ベックやエリック・クラプトンといったレジェンドたちがプレイしてきた場所だからね。彼らと同じ舞台に自分が立つということは、やっぱり特別だったよ。だけど、そのことがむしろ自分にプレッシャーを課してしまったところもあったね(笑)。

ちなみに、これはアメリカでは起こり得なかったであろう日本独特な現象だったのですが、グラミー賞発表の翌日にほぼすべてのニュース番組で“日本人パーカッショニスト小川慶太がグラミー賞を受賞!”と報道されていました。

 それってとてもクールじゃないか(笑)。彼はそのことを知っていたのかな?

当日私は夜10時のニュースを見ていたのですが、彼はスカイプで生中継で参加して喜びと感謝を伝えていましたよ。日本ではスナーキー・パピーが見出しに入ることはほとんどなくて、あくまでも……。

 ミュージシャンのケイタが受賞したってことなんだろう(笑)。それってすごいことだな(笑)。

報道で使われていた、小川さんが写ったスナーキー・パピーの写真を見て、私は心の中で“あそこにいるギタリストは我々の知り合いなんだぞ!”と嬉しくなりました(笑)。

 “コイツだぞ!”って感じだろ(笑)。でも、ケイタが大々的に報道されたっていうのは、やっぱり仲間として嬉しいね!

2016年の受賞の時もほぼ同じような報道でしたので、日本では“スナーキー・パピーは小川慶太さんのバンド”なんです。

 それはパーフェクトだ! 彼のバンドに参加できて嬉しいね(笑)。彼はロック・スターなんだよ!

作品データ

『Deep: The Baritone Sessions Vol.2』
Mark Lettieri

Leopard/2021年4月16日リリース

―Track List―

01. RED DWARF feat. Daric Bennett & Justin Stanton
02. MAGNETAR feat. Adam Deitch & Shaun Martin
03. PULSAR feat. Robert “Sput” Searight
04. TIDAL TAIL
05. VOYAGER ONE feat. Nate Smith & Bobby Sparks
06. STAR CATCHERS feat. Steve Lukather, Jason “JT” Thomas, Wes Stephenson, and Philip Lassiter & The Philthy Hornz
07. BLUE STRAGGLER feat. Travis Toy
08. NEBULAE feat. TaRon Lockett, Frédéric Yonnet & Braylon Lacy
09. SUPERNOVA feat. Keith Anderson
10. SUBLIGHT

―Guitarists―

マーク・レッティエリ、スティーヴ・ルカサー