作曲家としても歌手としても、
稀有な人だったと思う。(鈴木茂)
茂さんは昨年、“鈴木茂☆大滝詠一を唄う!!”と題したライブをやりましたよね。その時に大滝さんの楽曲に関して何か感じたことは?
茂 大変でしたね。「君は天然色」って、1番と2番で全然譜割が違うんだよ。歌詞が先にあったせいなのかな? とにかく、あの人は言葉に合わせてメロディを微妙に変えていくんです。それをバッてステージでやろうとすると、それはそれは大変で。あとは、“あの似たようなコード進行で、よくあれだけたくさん曲を作れたな”っていうのは思ったな。
村松 そうそう。けっこう同じようなコード進行を使う。だから、仮歌がないと何の曲をやってるんだかよくわからない(笑)。
大滝さんが似たようなコード進行で曲を作る話は、井上鑑(p)さんも以前の取材で言っていましたね。特にC-Em-Am-Emが多いと。
茂 そうだね。でも、そこでちゃんと世界が組み立てられるかどうかっていうのは、結局その人に色んなメロディとサウンドの引き出しがないと成立しないよね。簡単なコード進行で作品として仕上げるのは、さすがですよ。
作曲家=大滝詠一を尊敬する部分はありますか?
茂 うん。ひょっとしたら、今後もう出てこないんじゃないかっていうくらい凄いよね。
村松 特に80年代以降、キョンキョンの曲(「怪盗ルビイ」)とか、薬師丸ひろ子さんの「探偵物語」、「熱き心に」(小林旭)とか、色々な人に曲を書いてるじゃないですか。あの時代の曲ってすごいよね。みんな。簡単なコードの中で、メロディなんてもう何十万通りも付けられると思うんだけど、その中から良いものをピックアップして……“へ〜、こういう風にするんだ”って驚きは、聴いていてありましたね。
ギターの話とそれちゃいますが、大滝さんのシンガーとしての魅力についてもぜひ聴かせて下さい。
茂 歌って難しいよね。僕は玉置浩二さんと一緒にライブしたことがあるけど、本当にうっとりするくらい上手でしょ? もう聴き惚れちゃうぐらい。あと、小坂忠さんも素晴らしいよね。その中で大滝さんの声ってさ、彼らとはまた違うんだけど、なんかホロリと来るわけ。テクニックだけじゃなくて、背景というか……大滝さんが今まで培ってきた色んな音楽が、あの声の中に出て、表現されてるというかね。ある時、音楽に詳しくない人が大滝さんの歌を聴いて“何か懐かしい感じがする”っていう風に言ったことがあって。それって素晴らしいことだよね。だから、歌手としても稀有な人だったんじゃないかなって気がするな。
村松 大滝さんって、はっぴいえんどの頃はわりと声を潰して歌ってたでしょ? ブルース・ロックっぽいというか。で、『ロンバケ』になってからそこを封印して、いわゆる50年代の男性ボーカリスト的な歌い方に変化した。フランク・シナトラとか、ペリー・コモみたいなね。そういう歌い分けも面白いですよね。スタンダード・ナンバーの「My Blue Heaven」を、「私の天竺」ってタイトルにして大滝さん、歌ってるじゃないですか(『DEBUT AGAIN』/2016年)。あれを聴いた時に僕、なんか鳥肌が立ったもん。
茂 大滝さんの歌い方ってさ、声を張る感じを出さずに、かなりセーブして歌ってるように聴こえるのね。「君は天然色」にしても、かなりキーが高くて張るんだけれども、そんなにシャウトしてる印象はなくて。あの感じは大滝さんならではじゃないかな。