出すアルバムがすべてグラミー受賞という怪傑ブルースマン、ファンタスティック・ネグリートことイグザヴィア・ディーフレッパレーズ。彼が最新作『White Jesus Black Problems』のプロモーションも兼ねて来日するということで、すべての作品にギターで参加する盟友=マサ小浜との対談インタビューが実現した。7世代上の祖先の物語=スコットランド人女性とアフリカ系アメリカ人男性の純愛からインスピレーションを受けたという最新アルバムの制作について、じっくりと話を聞いていこう。待望の来日公演情報と合わせてチェックだ!!
インタビュー/翻訳=トミー・モリー 質問作成=福崎敬太 撮影=小原啓樹

「Gypsy(Demo Version)」は何年も前に録音したものなんですよ。──マサ小浜
久しぶりの日本はいかがですか?
ファンタスティック・ネグリート(以下FN) 日本の文化や人たちは本当にグレイトだから戻って来られて嬉しいし、特に食事は世界最高だと思っている。今日は池袋の一栄という蕎麦屋で、今までで最高の天ぷらうどんを食べたんだ。47年も続いている外観も古いお店で、年配のご夫婦が営んでいる場所でね。僕は日本で年配の方々が長年やられている店が良いところが多いのも知っているのさ。
ツウですね(笑)。さて、前作『Have You Lost Your Mind Yet?』から今までの間に、2人の共演としてはマサさんの『MASA’S FIRST TAKE』があります。最新作の話に入る前にこの共演曲「Gypsy(Demo Version)」について聞かせて下さい。
マサ小浜(以下MK) 当初はアルバムを全部手伝ってもらおうという話だったんです。ただ、彼自身忙しくて僕も締め切りがあったので、1曲だけの参加ということになって。この曲は何年も前に録音したものなんですよ。
FN ベーシック・トラックを録音したのは15〜6年前になるんじゃないかな? マサがリズムをプレイし直すのは知っていたけど、もうすでに出せる状態だったんだ。
MK 最初この曲は、彼によるリード・ボーカルが入っていたんです。でも、僕のソロ・アルバムなのでそれを取り除いて(笑)、メロディをギターで弾いてたんですよ。彼のバックグラウンド・ボーカルは残していますけどね。
ジェフリー・ルイス(d)やブランドン・コールマン(k)も参加してくれましたし、スティーヴィー・ワンダーのアルバム『Songs in the Key of Life』の「Another Star」でもプレイしているコンガ奏者、ネーサン・オールフォードにも、偶然この時会うことができて手伝ってもらえたんです。
90年代に彼を初めて君のスタジオに連れて行った時のことを覚えているかい?
FN もちろん覚えているよ。僕はこういった昔のセッションの音源を今でもたくさん持っているんだ。新しい曲がかなり昔のセッションから生まれたりすることもあるよ。
あなたも参加した、盟友であるマサさんの1stソロ・アルバムはどういう作品だと感じましたか?
FN もちろん彼のアルバムは素晴らしいものだよ。彼が大きなプロジェクトを成し遂げて、僕としては嬉しく思っている。次は、すべてを高いレベルでプレイできるグレイトなプレイヤーである彼の、もっと“安全じゃない”作品も聴いてみたいね。
MK ハハハハ(笑)!
音の近くに潜んでいる経験や魂が、音楽の重要なポイントだよ。──ファンタスティック・ネグリート
それでは最新アルバム『White Jesus Black Problem』について聞かせて下さい。
FN これは完全に安全じゃないアルバムだね(笑)。
MK 君のアルバムは全部安全じゃないよ(笑)。曲のタイトルからしてクレイジーで、“セックス”や“デッド”、“クラック”や“シュガー”(ともに麻薬の隠語)って言葉も普通に使っていますからね。
FN 僕が安全なアルバムを作っていたら、グラミーを3回連続で受賞なんてできないよ。ただ、もし今作でまた受賞となったら攻撃されるかもしれない(笑)。でもね、クリエイティヴでいるためにはインスピレーションが大切なんだ。
ギターは基本的にマサさんの演奏と考えて間違いないですか?
FN 基本的に僕とマサでやっているね。マサはどんなスタイルの曲だって彼なりのプレイができてしまうから、すべてのリードを任せているよ。
今作も遠距離での制作だと思いますが、どういう流れでしたか?
FN まず僕がプレイしたリズムをマサに送って、彼はそれに対してすべてのリードとともにリズムも合わせて弾いて送ってくれたんだ。で、自分でも“クソだな”って思うようなリズムがプレイできた時って実はそれってイケていて(笑)、そういう曲はマサのリードだけを使うことが多かったかな。
MK 君はピックを使わない独特な弾き方をするけど、そういうのはかなり残っていったよね。ピックも持たないし、弦を叩いたりつかんだりっていう感じでさ。
FN そう、僕は人とは違う手の使い方をしていてこれは指がうまく動かないからなんだ。でも、これがオリジナルなトーンにつながっていて、エンジニアも“なんてひどいトーンなんだ。でもフィーリングがあるね!”と言ってくれるよ。
「You Better Have A Gun」のアコギやスティール・リックなど、カントリー・フレーバーを感じる場面もありました。カントリー音楽はスコットランド民謡などがベースにあったりもしますが、今作のテーマでもある先祖のルーツ=スコットランドについて、ギターで表現しようとした部分はありましたか?
MK このアルバムにはカントリーのヴァイブがけっこうあるよね。
FN けっこう多くの人にそう言われるけど、“ロック・アルバムを作ろう”とか“ブルース・アルバムを作ろう”なんて考えたことがないんだ。常に思っていたのはストーリーを伝えられるような音楽を作ろうということだったからね。そういった解釈は聴き手の想像に任せておくかな。僕はもっと全体的なことに焦点を置いてオーガニックにアプローチしているし、曲が導くものに従うまでだ。
僕はただ、降りてきた音楽をカントリーやブルースと決めつけずにガイドさせていくんだよ。音の近くに潜んでいる経験や魂が音楽の重要なポイントであって、そういったものを秘めたアーティストに僕は惹かれるんだ。
マサは何でもプレイできて、サウスカロライナで流れていそうなヒルビリーをプレイしてくれた。──ファンタスティック・ネグリート

今作全体をとおしてのギターは、張りのあるクリーン・サウンドが印象的です。
FN なんでもかんでも歪ませるのではなくて、クリーンなサウンドでも意思があったりストーリーを反映させたものにさせたかったんだ。スタジオでも“どうやったらストーリーを語らせることができるかな?”みたいな話をしていたよ。
カントリーっぽさにスコットランドからの流れを感じるという君の指摘は面白くて、僕らは一切そういうことを考えていなかったのにそういうものができあがったってことだ。それこそまさしくこのアルバムのサウンドの美しいところでもあるよ。恐れ知らずで作ったし、予測のつかないようなところがあって、それ自体がストーリーの展開のようにも感じるね。
サウンドメイクで考えていたことはありますか?
FN リアンプしたかったから、マサにはダイレクトで録音したものを送ってもらったんだ。彼のプレイがアメイジングなのはわかっていたけど、様々なサウンドでやってみたかった。パンデミックのお陰で、時間をかけてじっくりとサウンドを作り込むことができたね。
「Trudoo」のブリッジ後に聴けるエレキ・ギターのオブリガートもカントリー・ギターっぽいトゥワンギーな雰囲気があります。
FN “ヒルビリーなヴァイブでやろう”ってなったヤツだね。あれは本当にアメイジングだったよ。マサは何でもプレイできて、サウスカロライナで流れていそうなヒルビリーをプレイしてくれた。どこかふざけたところがあって、“イエス! これは必要だ!”となったよ。これにエレクトロニックなビートを組み合わせているのがまたポイントだね。
MK これはプリンスも使っていたH.S.アンダーソンのMad Catを使いましたね。ユニバーサル・オーディオのApollo(オーディオ・インターフェース)につないで、フェンダー・アンプのサウンドで音を作りました。彼にはダイレクトのサウンドと一緒に送りましたね。
FN このアルバムではリアンプをけっこうしていて、前作に引き続きオレンジのトレムロードだけをメインのアンプとして使い、古いNeveのマイク・プリアンプに入っていったんだ。
MK 君は気づかなかっただろうけど、実はかなりうっすらとトレモロも加えていたんだ。君はその上にさらにトレモロを加えただろう?
FN そうだったのかい(笑)?
(笑)。リアンプはどのようにして行なうんですか?
FN これはアンプから20フィートくらい離れた廊下に立てたマイクで拾ったんだ。アルバムを作っていて楽しかったプロセスはこのリアンプとマイキングの作業だったかもしれないね。
「Virginia Soil」もカントリーやブルーグラスのようなエッセンスを感じます。途中でバンジョーも入って、弦楽器がこれまでにない雰囲気ですよね。
FN あれはカロライナ・チョコレート・ドロップスというバンドのバンジョー奏者のドム・フレモンズがプレイしてくれたんだ。「Highest Bidder」でも少しだけ聴こえていて、トラックをまとめるような役割を果たしてくれているよ。ギターも含めて、これらの楽器同士でダンスを踊り合うような感じにさせたかったんだ。トラディショナルなものとそうでないものを奇抜な形でミックスさせたところがけっこうあったよね。実験的でエキサイティングな気がするし、色々なものが混在するアメリカという社会性を反映させたかったんだ。
フィーリングを得ながら、B.B.キングを思い浮かべるんです(笑)。──マサ小浜

「They Go Low」はアコースティック・スライドがブルースの手触りを与えていますね。アコースティックとエレクトリックのスライドはそれぞれどのような役割だと感じますか?
FN それはマサの答えを聞かせてもらおうかな。
MK 曲が何を必要としているのか、そして彼が何を必要としているのかによって様々ですよね。でも多くの場合、エレクトリックよりもアコースティックでのスライドを彼は好んでいるような気がします。両方でプレイしたものを送って、彼のほうでそれぞれをミックスしている時もありますよ。
FN まるで子供みたいに混ぜて遊んでいるね。でも、アコースティックのスライドのほうが“土”に戻してくるような感覚はあるかな。まるでヴァージニアの土に戻るような感覚だよ。
子供の頃の記憶だと、ヴァージニアの土は赤くてね。駆け巡って目に入ってきたあの赤い土にはマジックが潜んでいて、ブッカ・ホワイトやロバート・ジョンソン、スキップ・ジェームズ、ミシシッピ・フレッド・マックダウェルといったヒーローたちにつながれる気がするんだ。
「They Go Low」は今作で最もストレートな曲で、それに最も合うのがこのアコースティックのスライドだったんだよ。
「Oh Betty」のオブリはほとんどペンタトニックですが、表情豊かです。マサさんに聞きたいのですが、ペンタトニックでのアプローチで考えていることやコツなどはありますか?
MK それは難しい質問ですね……。
FN やっぱりインスピレーションってことになるんじゃないかな?
MK そうだね。コツというと……フィーリングを得ながら、B.B.キングを思い浮かべるんです(笑)。つまり、目を閉じて、可能な限り少ない音でプレイすることを目指すんですよ。ベンドもタメを作ってゆっくりやってみたり、ピッキングの強弱も意識してコントロールし、なるべくシンプルなソロをプレイしますね。
FN この曲のギターをマサが送ってくれた時、一発で凄いモノがきたと思ったね。この曲のメインのリックがあるけど、彼はそれに合わせるような形でプレイしてくれている。このアルバムの中でもベストなプレイの1つだよ。彼のこのプレイはかなり良くて気に入っているね。
最高のギター・プレイを収めているのは「Trudoo」だね。──ファンタスティック・ネグリート

今作で使用したギターやペダル、アンプなどについて教えて下さい。まずはマサさんはどのようなものが活躍しましたか?
MK Mad Catをかなり使いましたね。あとはギブソンのES-335とシェクターの僕のモデルもいくつかの曲で使いました。で、アコースティックはマーティンですね。ペダルはディメーターのTremulatorをかなり薄くですが、多くの曲で使っています。エフェクトに関しては、あとはワウくらいですね。
FN 僕はこのアルバムに関してエフェクトといった類のものは一切使うなって常に言ってきたから、ひょっとしたらマサはハッピーじゃなかったのかもしれないね。
MK もちろんベーシックなサウンドでも十分問題なくやれていたよ(笑)。
イグザヴィアさんはどうですか?
FN アースクエイカーデバイセスのファズペダルも使っているけど、このアルバムでのパンチの効いたディストーションの多くはコンソール上でオーバーロードさせて作っているよ。で、ギターは前作と同じで、ギブソンのセミホロウ・タイプのレス・ポール(ES-Les Paul)、そしてチャップマン・ギターズのモデル(ML3 Proをベースにしたオリジナル)も使ったね。あとESPのTLタイプと、アコースティック・ギターではギブソンのHummingbirdも使ったかな。
レコーディングの環境は?
FN ApolloやPro Toolsといったものを使っていたけど、とりわけ僕はサウンドトイズ(Soundtoys)のプラグインが気に入っていてね。スペイシーなエコーチャンバーなんか最高だったよ。1つの部屋で鳴っているようなサウンドを目指していたから、プラグインを使って色々な工夫をしているんだ。以前までのようなオールドスクールなやり方とは異なっているのが本作のポイントだろうね。
そしてMoogのSub 37が実は隠し味のように活躍していて、ギターと一緒にレイヤーを重ねている。ほかにもチューニングの怪しいピアノなんかも使ったけど、これはパンデミックによって時間ができたこともあって、“Pro Toolsがやってくる以前の方法で音作りをしてみよう”って考えたのがきっかけだったね。
それでは最後に、この作品でのギタリストに特にオススメしたいポイントを教えて下さい。
FN 最高のギター・プレイを収めているのは「Trudoo」だね。エレクトロ音楽にMoogのシンセ、パンチの効いたギター・リフ、ブルーグラスやヒルビリーっぽい感じでプレイしていたりと、大胆なことをたくさんやりつくした曲なんだ。
「Virginia Soil」だってピュアな曲で、ナチュラルなサウンドが楽しめるよ。オープニングのリックは僕がプレイしていて、そこにマサの強烈なリックが入ってくる。レコード会社の人たちに送ってもあんまりレスポンスが良くなくて、“頼むから黙って入れせてくれ!”って感じだったけどね(笑)。あと、「You Better Have A Gun」は自分でも真に曲と呼べるものが書けたと誇りに思えたね。ファットなスネアにマサのギターが組み合わせる感じがイケてるよ!
MK これもMad Catでプレイしたね。
FN この曲はギター的にも色々なことが行なわれていて、みんなが言うようにカントリーぽいヴァイブもある。ただ歌詞的には今のアメリカからすると煙たがられそうな曲だから、ラスベガスで歌ったら誰も拍手してくれないだろうね(笑)。

待望の来日公演が決定!!
【日程】
10月6日(木)/東京 恵比寿リキッドルーム
10月7日(金)/大阪 シャングリラ
【チケット】
オフィシャル先行/5月31日(火)17:00〜6月6日(月)23:59
受付URL/https://w.pia.jp/t/fantastic-negrito-t/
一般発売日/6月18日(土)10:00
【問い合わせ】
東京公演/SMASH:☎︎03-3444-6751
大阪公演/SMASH WEST:☎︎06-6535-5569