Interview|宍倉聖悟&江渡大悟(マウントブラスト)嵐を支えた2人の職人ギタリスト Interview|宍倉聖悟&江渡大悟(マウントブラスト)嵐を支えた2人の職人ギタリスト

Interview|宍倉聖悟&江渡大悟(マウントブラスト)
嵐を支えた2人の職人ギタリスト

2020年12月31日に活動を休止した嵐。国民的アイドル・グループである彼らのライブを、生のサウンドで彩ったバンドが“マウントブラスト”だ。そのギタリストは宍倉聖悟(上写真右)と江渡大悟(上写真左)。また、宍倉はマウントブラストのバンマスでもある。今回はInfiniteの動画撮影時に行なった、2人の対談をお届けしよう。

なお、Infiniteの試奏動画は、嵐のステージで使用した機材セッティングに可能な限り近づけて弾いてもらった。ぜひ本記事を読んで改めて動画を見直してみてほしい。

取材=福崎敬太 撮影=星野俊

うまいこと芸風が違って、得意なポイントをお互いに補完しあえた
──宍倉聖悟

宍倉聖悟。手にしているのはInfiniteで宍倉がオーダーしたTrad Full Size ST。

今回はマウントブラスト対談ということで、まずは嵐のライブ・サポートをやるようになった経緯から教えてもらえますか?

宍倉 ジャニーズで最初にサポート・ギターをやったのはV6なんですよ。V6のブラス・セクションをやっていた先輩ミュージシャンと知り合って。ギターが空いたということで誘ってもらって、V6のライブでギターを弾くようになったんです。

 その経験があったから、嵐のバックをやることになって。最初は芳賀義彦と僕とのツイン・ギターだったんですけど、4年くらい経った時に芳賀君のスケジュールがバッティングすることがあったんですよ。で、じゃあそっちに専念してもらって、代わりをこっちで探そうと。それで、別のサポートの仕事でライブをやった時に、大悟が遊びに来ていたんです。僕が“ギターを探さなきゃなぁ”って思っているタイミングで会ったので、“大悟、スケジュールどう?”っていうことで頼んだんですよ。

運命的(笑)。

宍倉 僕は11年間、嵐のバックをやっていたんですけど、後半の6年が大悟とのツイン・ギターでしたね。

宍倉さんと江渡さんのコンビネーションはどういうものでしたか?

宍倉 うまいこと芸風が違って、得意なポイントをお互いに補完しあえる関係でしたね。嵐には色んなタイプの楽曲があるから、それはいつも感じていました。その前の芳賀君は、お互いブルース・ロックが好きだったり、僕とスタイルや好みがわりと似ているんですよ。大悟は僕とは違うタイプで、特に嵐の曲では助かりましたね。

でも誘う時はそこまで考えてなかったんですよね?

宍倉 そう、全然考えてなかったです。

江渡 僕はロックで“ギャーン!”っていうよりも、普通の歌モノが好きだったので、アコギとか、ほかのギタリストがやりたがらないようなことも普通にやるんですよ。でもそれが僕としては当たり前だったので、逆にそうじゃない“ギタリストらしいこと”をやってくれる人がいるのは、僕としても助かりましたね。あとはギターの情報交換もできるし。

宍倉 あー! 情報交換はあるね。それこそ、得意分野が違うから、視点も違うというか。楽器や機材に関しても、“そういう使い方もあるか!”、“そういう視点?”みたいな、教えてもらうがめちゃめちゃありましたね。

江渡 良い現場でしたね。

具体的に教えてもらったことや影響されたことは?

宍倉 僕は、前よりも音の設定がちょっとロー寄りになりましたね。というのも、大悟の音をイヤモニで聴いたら“あ、これくらいあっても嫌じゃないんだな”っていうことに気がつけたり。あとは、大悟が使っている機材とかも“あ、これ良いな”って思って。そのまま買っちゃうと真似になっちゃうから買わなかったけど、今まで魅力を感じなかったものも良いと思えたりして。好みもだいぶ広くなったと思いますね。大悟はけっこう俺に影響されて買ったのあるよね(笑)?

江渡 僕はもう、宍倉さんのギタリストらしいところからの影響というか。僕にはギタリストらしいところがなかったので(笑)。とにかくクリーンが気持ちよく弾ければ良いって思ってやっていたところ、やっぱり“歪みがカッコ良く聴こえるのがギタリスト!”っていうのを見せつけられたので、宍倉さんが使って良かった機材を僕は買いました(笑)。だから、歪みの作り方とかはだいぶ変わりましたね。

かなり影響を及ぼしあっていますね(笑)。

宍倉 そう。で、大悟はアコギが上手なんですよ。だから、アコギのプリアンプやコンプの使い方とかの情報を、大悟から仕入れたりもしましたね。

あれくらい大きい規模になると、信頼しあってやっていくしかないんですよね
──江渡大悟

江渡大悟が弾いているのは、嵐のライブ・サポート時にも使用したInfiniteのTrad Full Size T。

ドームや国立競技場のような大きい会場って、なかなか経験できる場所ではないと思うんですが、普段の現場との違いはありますか?

宍倉 やっぱり、ライブハウスとかと違って、アンプの生音は客席まで届かないんですよ。そうなると、“マイクにどういう音が拾われているか”が凄く重要になっていくので、それを優先していましたね。自分の立ち位置でアンプからどういう音が出ているか、じゃなくて、マイクにどういう音が入っているか。僕はそこを考えすぎて、PAにどういう音が送られているかを完全にコントロールするためにラインになりましたけど。そういう意味では考え方の根本が違う感じはしますね。

江渡さんはアンプを鳴らしていますよね?

江渡 はい、僕はアンプですね。リハーサルの時は広いスタジオなので、気持ちよくバーンって鳴らすんですけど、バンドピット(ステージ上に設置されたバンドが演奏する場所)は前が閉まったり空いたりもするので、アンプで大きい音を鳴らすとそういう環境の変化に左右されちゃうんですよ。だから、キャビネットがちゃんと鳴っているところの限界くらいまで下げていましたね。音作りの違いで気にするのはそれくらいです。あと、やっぱりあれくらい大きい規模になると、テックの方が試しに外で聴いてくれたりするのを、みんなで信頼しあってやっていくしかないんですよね。

今日撮影したInfiniteの試奏動画は“現場に近いシステムで弾いてほしい”とお願いしましたが、持ってきてもらったペダルボード(記事末尾に写真を掲載)は基本的に嵐の現場と同じですか?

Infiniteのデモ演奏は、嵐のライブと近いセッティングで弾いてもらった。使用機材はInfiniteの試奏記事および本記事末尾をチェック!

宍倉 何個か入れ替わってますけど、だいたい同じですね。ポイントはT-REXのDR. SWAMPで、これは適度にローを削ってくれるのと、2チャンネルでクランチと歪みをパッと切り替えられるんですよ。

嵐の楽曲だと、ギターはギターらしい使われ方が多いですよね。音響的な使い方はあまりないと思うんですが、歪み量の使い分けという程度ですか?

宍倉 そうですね。あとはピックアップのセレクトくらいでけっこう成り立ちます。

ラインの出力はどのように?

宍倉 嵐の時は、ヒュース&ケトナーのヘッドにつないで、RED BOX(キャビネット・シミュレーター付き出力)からラインに送っていました。Black Spirit 200っていう小さいやつです。で、一応自分のキャビネットも確認用には鳴らしていて、マイクも立っているんですよね。なので外音はもしかしたら混ぜているかもしれないです。

江渡さんのペダルボードも嵐の現場とあまり変わらないですか?

江渡 いくつか変わっていますけど、基本的には同じです。今、黒子首っていうバンドのライブでサポートをよくやっていて、ファズを踏む曲がいくつかあるのでJHSペダルズのMuffulettaを入れていますけど、嵐の時は入れていなかったですね。ちなみに写真を見ればわかるとおり、宍倉さんのボードにはワウがないので、“今回はワウの曲があったな”っていう時は、そっちのパートは僕っていうふうに勝手に決まるんです(笑)。

宍倉 僕はね、とにかく足下をとにかくコンパクトにしたくて。“ワウは大悟が持ってくるだろう”ってことで、持っていかないことにしてます(笑)。

江渡 (笑)。

自然とパートが決まるって言われましたけど、パートがスイッチすることもあるんですか?

宍倉 そんなにはないですけど、曲順などによって“アコギのまま次の曲にいかなくちゃいけない”みたいなことがあるんですよね。嵐の場合は曲間がほとんどないというか、メドレー的な感じになっていることが多くて。前の曲でアコギを僕が持っていたら、エレキに持ち替えずにそのままアコギでいったほうが良いかな、みたいな。

“プロとはなんぞや”ということを毎回思い知らされる
──宍倉聖悟

弾いていて楽しい嵐の楽曲は?

宍倉 僕は「ワイルド アット ハート」。ジャカジャカやかましい感じが、単純に弾いていて楽しいんですよ(笑)。

江渡 あの曲はツイン・ギターとしてうまく成り立っていますよね。

宍倉 そうだね。パートが凄く入り組んでうまく組み合わさっている曲なので、ツイン・ギターならではの感じもありますね。あと、「サクラ咲ケ」はビート・ロックみたいな感じの8ビートなので、あれは弾いていてアガります。8ビートを刻んでいるだけで嬉しくなる感じ。

江渡さんは?

江渡 僕は「抱擁」っていう曲。ちょっとアダルトなカッティングが凄く楽しく弾ける曲ですね。

宍倉 あれは? 「A・RA・SHI」の入りは緊張するの? 最初の入りがちょっとトリッキーなんですよ。

江渡 16分の裏裏からっていう感じで。

宍倉 あれ、俺は弾ける気がしないもん。

江渡 それよりも、そのあとのラップの裏とかのほうが難しいですね。

基本的にアレンジはCDどおりなんですよね?

江渡 そうですね。途中の間奏で好き勝手やると、ストップがかかります(笑)。

宍倉 “原曲どおりやって下さい!”って言われているわけじゃないんですけど、バンドメンバー内でも“原曲どおりやったほうがお客さんは嬉しいよね”っていう共通認識があるんですよね。もちろんギターもそうで。で、強制ではないけど、原曲どおりにやることが当たり前になってきた時に、新しい曲で難しいアレンジが出てきた時に燃えるっていう(笑)。

課題を出されているような(笑)。

宍倉 自分なりにやっても成立させることはできるんですけど、もう“これは絶対にやってやる!”と。

一番燃えた曲は?

宍倉 それこそ「ワイルド アット ハート」も細かいところまで再現しているし、あとは「BRAVE」。この曲は僕がリードをやったんですけど、燃えましたね。原曲を弾いているのが福原(将宜)さんっていう北海道の先輩なので、本人に“福原さん、僕、完コピしましたよ”って報告したくらい(笑)。

ライブでやる時、一番難しい曲って何ですか?

江渡 演奏していると曲のタイトルどおり迷宮に迷い込んじゃう「迷宮ラブソング」ですね。コードの展開が凄く難しくて、“いったい今、どこ弾いてるんだっけ”ってなるんですよ。

宍倉 あれは難しいね。シンコペーションの連続なんですよ。譜面がないと無理だよね。

江渡 なかなか覚えられないですね。

では最後に、嵐ってエンターテインメントのトップ・オブ・トップだと思うんですが、プロ・ギタリストとして嵐の現場で学んだことは?

宍倉 例えば照明さんや特効(特殊効果)さん、舞台美術の人とか、各セクションがたぶん日本で一番のチームなんですよ。そういう人たちが集まっている現場にいるだけでも、“エンターテインメントに関わるプロとはなんぞや”みたいなことを毎回思い知らされるというか。みんなキリキリしながらやっているわけじゃないし、空気感は凄く良いんだけど、妥協を許さない感じがあって。いるだけで勉強になりましたね。

江渡さんはいかがですか?

江渡 もう、今センパイがおっしゃったとおり(笑)。

宍倉 模範解答だよね(笑)。

江渡 (笑)。でも、バンド・セクションで言うと、宍倉さんがバンマスでトップだったので、僕ら下っ端が気にしなくても良いことを増やしてくれていたというか。色々と勉強になったことはありますけど、こんなに大きな現場でも気楽にやらせてもらえたので、こういうセンパイの空気作りを勉強したという感じですね。

Shishikura’s Gear

Pedalboard

【Pedal List】
①KORG/Pitchblack Advance(チューナー)
②One Control/Pale Blue Compressor(コンプレッサー)
③T-REX/Dr.Swamp(ディストーション)
④BOSS/MT-2w(ディストーション)
⑤Z.Vex/Box Of Rock(ディストーション)
⑥Vox/Valvenergy Copperhead Drive(オーバードライブ)
⑦Zoom/G3n(マルチ・エフェクター)
⑧VITOOS/DC8(パワー・サプライ)

宍倉が嵐のサポート時に使っていたものとほぼ同様のペダルボード。

ギターから①〜⑦まで番号順に直列で接続され、嵐のライブではヒュース&ケトナーのアンプ、Black Spirit 200のRed Boxアウトからライン出力していた。

コンプレッサー②はクリーン・サウンド用に薄くかけており、歪ませる際にはオフにする。サウンド・チェンジのタイミングによってはオフにできないため、“ドライブ・サウンドになった時にかかっていても気にならないくらいの設定”とのこと。

歪み量のコントロールがポイントで、長年使用する2チャンネル仕様の③が特に功労者。ローのあるふくよかなクリーン・サウンドでアンプ側を設定している宍倉にとって、歪ませた際に低音を適度に削ってくれるのがお気に入り。右チャンネルがオンになっている際に左側のフットスイッチを押すと、右側が自動でオフになって切り替わるため、目まぐるしいステージ上の音色操作に一役買っている。

④は“激歪み用”で、⑤はクリーン・ブースターとゲイン・ブースターとして使用。⑥はプリアンプとして常時オン。空間系やモジュレーション系はマルチ⑦でかける。

Eto’s Gear

Pedalboard

【Pedal List】
①Shin’s Music製ジャンクション・ボックス
②Shin’s Music/Delicious Vintage Wah(ワウ・ペダル)
③Bogner/Harlow(コンプレッサー)
④JHS Pedals/Muffuletta(ファズ)
⑤Aki’s Guitar Shop製AB+Cボックス
⑥CULT/TS808 1980 #1 Cloning mod./FRUSrite(オーバードライブ)
⑦JHS Pedals Morning Glory(オーバードライブ)
⑧BOSS/JB-2(オーバードライブ)
⑨Suhr/Koko Boost(ブースター)
⑩Shin’s Music/Perfect Volume Standard(ボリューム・ペダル)
⑪strymon/Mobius(マルチ・モジュレーション)
⑫strymon/Timeline(マルチ・ディレイ)
⑬JHS Pedals/Red Remote(フット・スイッチ)
⑭BOSS/FS-5L(フット・スイッチ)
⑮Sonic Research/ST-200
⑯MXR/iso-brick(パワー・サプライ)
⑰FREE THE TONE/PT-3D(パワー・サプライ)

江渡が現在使用しているこのペダルボードは、④を除いてほとんどが嵐サポート時に使っていた状態だ。

接続順はジャンクション・ボックス①から入り、②〜③を経由してAB+Cボックス⑤へと入る。Aki’s Guitar Shopが制作した⑤、は一般的なABボックスの後段に入るループを、Cチャンネルとしてオン/オフが操作できるもので、Aで⑥〜⑦を、Bで⑧を、Cで⑨をコントロールしている。⑤のあとは⑪、⑫、⑬をとおって①へと戻りアウトプットされる。

⑤で4台のドライブ・ペダルを一気にコントロールできるのがポイントで、基本はAチャンネルで薄いクランチとして⑦がオンになっており、リードなどでゲインを足したい際に⑥を踏む。⑦のゲイン・ブースト機能はフット・スイッチ⑬で操作可能だが、基本的に踏むことはないそう。

さらに深い歪みがBチャンネルの⑧で、JHSとBOSSが並列でかかるPARALLELモードにしているが、フット・スイッチ⑭で切り替えられるようにしてあるだけで、基本的にはJHSモードで使っている。

Cチャンネルのクリーン・ブースト&ミッド・ブーストを備える⑨は、適宜踏み分け。ちなみに、嵐のサポート時には入っていなかったというファズ④を踏むのは、“自暴自棄になった時”とのことだ(笑)。

⑪はかかり具合の異なるコラースとトレモロ、⑫は薄くかかるショート・ディレイと付点8分が嵐のライブで使っていた音色。

なお、ワウ②はVOXの筐体だが、中身はShin’s Music製Delicious Vintage Wahとなっている。

VOX AC30/6TB & Lexicon LXP-1

江渡が愛用しているアンプが、VOXのAC30/6TB。ブルー・アルニコ搭載機を探して購入したそうだ。

最大のポイントは、レキシコンのリバーブ=LXP-1を経由して信号を2系統に分け、NORMALチャンネルとBRILLIANTチャンネルへと入力させている点(下写真)。チャンネル・リンクさせるよりもノイズが少なく、かつ両チャンネルの良さを引き出せる秘伝の術だ。